金大中事件控訴棄却判決について

韓国戒厳高等軍法会議は、金大中氏に対し昭和55年10月24日控訴審の審理を開始し、弁護側の証人申請を却下して同年11月3日控訴棄却の判決を言渡した。


当連合会は、かねてより金大中氏事件に関し重大な関心を抱き、会長談話あるいは会長声明を以て日本政府に対し、世界人権宣言、国際人権規約の趣旨を踏まえ、基本的人権尊重の視点から韓国政府当局に同氏の裁判について手続的にも内容的にも公正な措置を取られるよう、外交ルートその他あらゆる方法を以てその実現方を要望してきた。


しかるに、最近の新聞報道によると、自民党が同党都道府県連に対し地方議会の金大中氏救出決議に消極的姿勢をとるよう通達を出し、またそれに応ずるかの如く政府も国連に対し同氏救出の請願に赴かんとしている韓民統関係者の日本への再入国を認めない方針を固めつつあるという。われわれの再三の要望にもかかわらず、金大中氏問題に関し政府の態度がより消極的姿勢に転化した印象を受けざるを得ず、かかる政府の方針はまことに遺憾である。


われわれは、公正、適正な裁判を受ける権利は国境を越え全人類に共通する普遍的原理であり、何人もこれを侵すことは許されないとの観点から、金大中氏に対するかかる裁判の現状を黙視することはできない。


よって、われわれは日本政府に対し、あらゆる機会を通じ、氏の人権回復のため積極的な働きかけをしていく所存である。


1980年(昭和55年)11月7日


日本弁護士連合会
会長 谷川八郎