加藤新一老の国賠事件棄却判決について

  1. 本日、広島地方裁判所が加藤新一老の国家賠償事件について、棄却の判決を言渡したことは遺憾であり、同判決は再審において最も問題とし、無罪のきめ手の一つとなった共犯者と目された者の供述の一貫性ないし信憑性を前提とするかの如き理由をもって誤判をした裁判官の過失を否定しているが、これは、本再審事件の本質を見失ったものと言わざるを得ない。
  2. 当連合会は、無期懲役の刑が確定し、長い間無辜の罪で呻吟していた加藤老が、たび重なる再審申立を通じ無罪を勝ち取り晴れて自由の身となったが、その間の精神的、肉体的苦痛が、刑事補償法に基づく補償額のみで償えるとすれば、あまりにも悲惨と言わざるを得まい。
  3. かかる再審事件によって、無罪を勝ち取った犠牲者に対しては、国家賠償法による十分な補償が得られるよう配慮さるべきものであり、そのため法の適用解釈について、被害者に有利に運用されるのが至当と思料する。
  4. もし、かかる犠牲者に対し、運用上配慮されないとすれば、本判決を契機として今後権力の過誤による無辜の犠牲者の損害回復を別途立法等を通じ、早急に救済策を確立する要請が国民の間から湧き出ること必然である。
  5. 加藤老のご遺族、広島弁護士会等と連絡をとりつつ今後、日弁連としてなすべきことに努力を傾けていく所存である。

1980年(昭和55年)7月15日


日本弁護士連合会
会長 谷川八郎