米谷事件の再審開始決定に関する談話

本日、仙台高等裁判所(刑事第1部)が無実を訴える米谷四郎の再審請求棄却決定に対する即時抗告事件について原決定を取消すとの決定をしたとの連絡を受けた。


日弁連は、「疑わしいときは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則を当然ながら適用した仙台高等裁判所のこの決定を支持し、高く評価するものである。この連絡に接して、米谷四郎の無実の訴を信じ、努力を続けてきた日弁連人権擁護委員会並びに弁護人各位の労を多とするものである。「本件の経過は次のとおりである。青森地方検察庁は昭和27年3月23日米谷四郎を強姦致死、殺人の罪名で青森地方裁判所に起訴し、米谷四郎は、公判で終始否認のまま強姦致死罪により懲役10年の判決を受けて服役し仮出所した。


ところがその後昭和41年4月上旬頃、別件勾留中の長内芳春が真犯人として右犯行を自白し、東京地方検察庁は、長内芳春を真犯人として起訴したが、長内芳春は公判廷で否認し、東京地方裁判所は、長内の自白は虚偽であるとして無罪の判決を言渡した。東京地方検察庁は、これを不服として東京高等裁判所に控訴したが、長内芳春が勤務先の会社営業所内で自殺したため控訴棄却の決定がされた。」本件は、真犯人と称する第2の犯人が現れ、本来一体であるべき青森地方検察庁と東京地方検察庁の意見が対立し、東京地方検察庁が第2の犯人を真犯人として起訴し公判中第2の犯人が自殺した特異の事件である。本日の仙台高等裁判所の決定は、米谷四郎有罪の確定判決における血液型、犯行時刻、証人による犯人目撃の能否等、有罪無罪を決める重大な事実につき、鑑定、現場検証を重ね、科学的検討を加え、原決定を取り消した。特に有罪の確定判決を裏付けた血液型について深く検討を加えた科学的な態度に敬意を表するとともに、改めて事実認定における科学的知識の必要性を痛感するものである。


検察庁は、仙台高等裁判所の決定が、現代法医学により明らかにされた科学的真実に支えられていることを尊重し、本決定に異を唱えず、これらの手続に協力すべきである。これまで再審の制度は、開かずの門として、誤判の是正には無力であった。日弁連は従前の再審制度の運用の実態と法制の検討を進めてきた。去る10月8日、9日の仙台での人権大会では「再審と人権」についてシンポジウムと大会を開催し、これまでの検討の成果をまとめて社会に訴えた。本決定は、無実を訴え、再審による誤判の是正のために努力を続けている関係者に対して大きな励ましとなるであろう。日弁連は本決定を契機として再審の門を拡げるために更に一層の努力を続けて行く決意である。


1976年(昭和51年)10月30日


日本弁護士連合会会長
柏木博