加藤翁再審開始決定に関する談話

広島高等裁判所(第4部)が、本日、60年無実を訴える加藤翁再審申立事件に再審開始決定をしたとの連絡を受けた。


裁判所のこの決断を日弁連は支持し、高く評価するものである。この報に接して、何よりも加藤翁が屈することなく訴え続けてきたことが、今日の結果をもたらした原動力であることを改めて思う。これを助けた弁護人各位の献身的努力がこの裁判を支えていることは言うまでもないことである。


日弁連人権擁護委員会は、昨年6月加藤翁より救援の要請を受けて、第2次の特別委員会を設け、この弁護に参加し、一定の役割を荷ってきた。加藤氏が大正4年の裁判で強く訴えた人血痕か否かの再鑑定について当時の大審院は耳をかさずしりぞけてしまった。日弁連の担当委員は、有罪判決の血痕、凶器に関する非科学的事実認定に現代科学の力で再検討を加える問題を分担してきた。


本日の開始決定は、審理の中で明らかにされた科学的真実をもとにして組み立てられているだけにゆるぎない重みをもつものであり、検察庁は開始決定に異を唱えず、これらの手続に協力すべきである。


加藤翁が85歳の高齢であるので、裁判所が直ちに必要最小限度の公判を開き、一日も早く無罪を宣告されるよう要望する。


日弁連は、この再審裁判に引き続き必要且つ可能な協力と支援を継続していく。


日弁連は、これまで誤判の是正を求める再審の訴を数多くとり上げて支援してきたが、吉田がんくつ王事件のほかは目的を達せられないままになっている。国民の目には再審は制度としてあっても実際は開かずの門ではないかと映っている。


日弁連は、この現状に立って再審制度の運用の実態と法制の検討を全般的に進めてきている。きたる10月8、9日の仙台での人権大会では再審を主体にしたジンポジウム、大会を開催し、これまでの検討の成果をまとめて社会に広く訴えることにしているが、本日の決定は日弁連の人権大会をより実のあるものとするであろう。また、今なお、ねばり強く続けられている多くの再審事件の関係者に大きな励ましとなるものと信ずる。


1976年(昭和51年)9月18日
日本弁護士連合会会長 柏木 博