刑法全面「改正」に関する声明
法務省は、昭和51年6月11日、刑法の全面「改正」について、政府案を作成するため、「現段階における一応の考え方」を公表した。
このうち、騒動予備罪と外国元首・使節に対する暴行・脅迫・侮辱罪の削除、起訴前犯罪事実の報道にかんする「みなし規定」の復活、12個の法定刑軽減の処置などは、いずれも国民的批判の成果であり、もともと当然のことであるといわなければならない。
これに対し、公務員の機密漏示罪・企業秘密漏示罪・不定期刑・保安処分の新設など、幾多の問題が昭和49年5月29日付法制審議会答申による改正刑法草案のまま残されていることはきわめて重大である。これらの問題は、すべて、人権侵害の危険を防止し、適正な処罰を実現するための、正しい刑法のあり方を根底から破壊するものとして厳しく批判されてきたのである。しかし、法務省は、依然としてこれらの「事項については、改正刑法草案の規定に実質的な修正を加える必要はない」との見解を明示している。
こうして、治安優先の国家主義的色彩が強いという非難を浴びてきた改正刑法草案の基調がすこしも変更されていないことに、私たちは改めて強い憤りを禁じえない。
国民主権の現行憲法もとで、真に国民のための刑法改正を推進するのであれば、本来、改正刑法草案そのものを白紙に返し、主権在民の立場に立って作業をなすべきものである。もし「今後における各界からの意見及び批判を十分に考慮する」というのが法務省の真意であるならば、直ちに、右のことを厳格につらぬくべきである。
私たちは、これからも、ひろく国民とともに、このような刑法全面「改正」を阻止するために全力をつくす決意である。
1976年(昭和51年)6月12日
日本弁護士連合会会長 柏木博