法制審少年部会における強行採決に関する声明

日弁連側の委員は、昨日の法制審議会少年法部会の審議にあたり、基本的な重要事項について、いくつかの問題提起をし、これらの重要問題の審議が未だ行なわれていないので、これについての慎重審議が望ましい旨意見を述べた。


それにもかかわらず部会は、慎重審議を求める意見を押し切り、改正の必要性やそのもたらす影響など最も基本的な問題につき審議を尽さぬまま、いわゆる植松部会長試案の第1、2項を強行採決した。


しかも、採決された右第1、2項には、少年審判手続への検察官の関与と年長少年に対する厳罰を指向する特別な取扱いとが含まれており、いずれも少年の未来を左右し国民の権利に重大な影響をおよぼすものである。


植松部会長試案は、その具体化を、あげて法務省事務当局の手にゆだねるという抽象的な形式で提案され、事実、部会においては最初から具体的論議を許さず決議を目指すというまことに審議会らしからぬ状況で終始した。


昨日の採決も第1、2項を他の項目と切り離して、この段階で採決すべき何らの緊急性も論理的必然性もなく、全体の関連性からしても全項についての十分な審議を経た後になされ、且つ各方面への重大な影響をみきわめた上でなされるべきであった。それにもかかわらず、こうした点を指摘して採決についての慎重な審議を求める日弁連側委員の提案を無視して、一切の論議を否定して敢えて採決が強行されたものである。


そもそも試案は、少年の健全育成をすすめる視点からなされたものではなく、部会の審議に決着をつけ乃至は官庁間の妥協を求めるという視点のみから提案されており、従って、その審議も問題を解明するという態度ではなく早急に意見を出すということにのみきゆうきゆうとせざるを得なかったのである。


かかる部会の進行は各方面の意見を十分に反映するという審議会の民主的性格に反する極めて不当なものである。


このような事態に対して、当連合会は重大なる決意をもって対処せざるを得ない。


1975年(昭和50年)12月17日


日本弁護士連合会
会長 辻誠