沖縄米軍基地内での日本人射殺事件の裁判権について

9月20日沖縄米軍基地内で起きた日本人射殺事件は、まことに遺憾極まるものである。


右射殺事件は、基地の宿舎内で起きた公務外の事件であり、裁判権が日本国にあることは言うまでもない。


報道によると、米国側は、被疑者の身柄引渡しにつき、裁判権を有する日本側の強い要求にも拘らず、「地位協定」第17条第5項(c)をたてにとり、これを拒んでいるという。


「地位協定」は、捜査・裁判につき、日米両国が相互に援助し合うことが基本になっている。したがって、同協定第17条第5項(a)は、被疑者らの逮捕及び裁判権を行使すべき当局への引渡しについて相互に援助しなければならないと定めている。


同項(c)の「被疑者の身柄が合衆国の手中にあるときは、日本国により公訴が提起されるまでの間、合衆国が引き続き拘禁を行う」旨の規定は、特段の事由により被疑者を米合衆国の手中に置く必要性が極めて大きいときにのみ許されるものと解される。本件の場合、被疑者の引渡しを拒む理由は全く存在しない。


27年の長い間、米軍犯罪により苦しみ続けた沖縄では、復帰しても軍犯罪の減少は見られないのみか、今回のような凶悪な犯罪が発生する。


軍事基地が存在し、かつ、沖縄が戦地への発進基地になっている以上、非人間的なこの種犯罪の絶滅は望むべくもない。


日本国政府は、毅然たる態度で米国政府に対処すべく、米軍は、被疑者を速やかに、裁判権を行使する日本側へ引渡すべきである。


1972年(昭和47年)9月21日


日本弁護士連合会
会長 今井忠男


昭47・9・21理事会承認