学生事件(東大事件)に関する法定秩序維持に関する談話

いわゆる学生公安事件の法廷で続発しつつある混乱に対し、われわれは訴訟関係者の良識に期待して事態の推移を見守ってきたが、益々対立の激化と紛糾の長期化の様相を深め、まことに憂慮に堪えず、まさに、刑事司法の危機を思わしめるものがある。


法的な見解の対立に対して、われわれはここでとやかくいうのではない。しかし、これを主張する手続はすべて現行のルールに従わねばならない。現行制度そのものを改革すべきであるとしても、これを法廷に求めることは筋違いである。現行法上、訴訟手続に関する不服はすべて適式な異議申立、忌避、上訴などの方法によるべきであって、かりに、裁判所の見解が違法不当であるとしても実力もしくはこれに類した事実行為によって主張を貫徹することは許されない。それが、弁護士倫理であり、法律上の義務でもある。


弁護人諸君、諸君の行動は在野法曹全体の信用にもかかわるものである。諸君は法曹の良識に従い被告人を指導して速かに訴訟正常化の途を講ずべきである。諸君の速やかなる自発的善処を切望する。


1969年(昭和44年)9月6日


日本弁護士連合会
会長 阿部 甚吉


昭和44・9・20理事会事後承認
記者発表(44・9・6)