最高裁判所機構改革の実現と裁判官の任命に関する声明

1.

最高裁判所の現状は、民・刑ともにおびただしい未済事件をかかえ、特に近時においては破棄判決を受けた被告人の最高裁判所における勾留日数が3・4年の長きに及ぶという事例を見るに至った。かかる事態は、最高裁判所が正常な機能を失いつつあることを証明するゆゆしき問題である。


日本弁護士連合会は、つとにこの事態を憂慮し、慎重なる議を経て裁判官を30名に増員し、6法廷を構成して裁判の能率を高め、裁判官の任命に当っては諮問審査会の議を経てその民主化を図ると共に、刑事上告の範囲を拡大して人権の擁護を図ることを骨子とした改革案を発表した。


しかるに現に政府が国会に提出している裁判所法改正案によれば、最高裁判所の裁判官数を減員し、いわゆる最高裁判所小法廷なる下級裁判所を新設して、上告事件の処理に当らせようとしている。このような改革案は、結局4審制度を認めるものであって、いたずらに裁判制度を混乱せしめ、ますます訴訟遅廷を招来するものであると断ぜざるを得ない。


2.

最高裁判所の裁判官は民主主義を基幹とする新憲法の趣旨に則り、単なる職業裁判官のみでなく、広く人格識見の卓越した人材を以て、これに充てることは最高裁判所発足当初からの一大原則であり、既に慣行の確立されているところである。


しかるに近時最高裁判所裁判官の任命については、在野法曹からの任命を回避しようとする傾向がある。かくの如きは、官僚独善を示すものであって、民主主義に反し最高裁判所の使命と職責を没却するものと言わざるを得ない。


3.


われわれは、最高裁判所の権威のため、われらの主張する機構改革の速やかなる実現と、裁判官の任命についての慣行の維持とを要望する。


右声明する。


1958年(昭和33年)3月22日
日本弁護士連合会


昭33・3・22臨時総会
衆・参両院議長、法務委員、法務大臣、内閣総理大臣宛要望