日弁連新聞 第590号

霊感商法等の被害の救済・防止に関する活動報告

arrow_blue_1.gif霊感商法等に関する対応


2022年以降、いわゆる「旧統一教会」問題に対する社会的関心が高まるとともに、霊感商法等の悪質商法による被害の深刻さや宗教二世などの問題が改めて顕在化している。
日弁連では、霊感商法等の被害の救済・防止に関するワーキンググループを設置し、被害実態の把握と分析、被害を救済、防止するための政策や提言の検討などを行っている。


法律相談事例収集第2次集計報告

日弁連は、政府の「旧統一教会」問題合同電話相談窓口や日本司法支援センター(法テラス)の「霊感商法等対応ダイヤル」と連携して、2022年9月5日から霊感商法等の被害に関する無料法律相談を実施した。そして、受付を終了した2023年2月28日までに、全国の弁護士会の協力を得て、約1500件の相談を受け付けた。


そのうち、2月14日時点で相談結果報告を受けたものを集約し、3月29日付けで「霊感商法等の被害に関する法律相談事例収集(第2次集計報告)」を公表した(第1次集計報告は2022年11月に公表している。)。相談内容としては、「旧統一教会」に関するものが約7割を占め、その約8割が財産的被害に関する相談を含むものであり、1000万円以上の被害額を申告するものも4割あった。集計報告の詳細はウェブサイトに掲載している。


会員向け研修

2022年12月に法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律(以下「新法」)などが成立したことを受け、会員向け研修を実施した。研修動画は、日弁連総合研修サイトに掲載している。


今後の活動

新法の2年後見直しに向け、「宗教二世」を含む子どもに関する問題や個人の宗教選択の自由の尊重、解散命令前の財産保全、解散命令後の存続団体の責任という観点から、カルト宗教問題などについての検討も行っていきたい。


日弁連は、関係機関・関係団体などとの連携を緊密に図りながら、実効的な被害の救済および防止に向けた提言と活動を引き続き行っていく。


(霊感商法等の被害の救済・防止に関するワーキンググループ座長 釜井英法)



2023日弁連再審法改正全国キャラバン
東京三弁護士会    再審法改正実現シンポジウム
再審法改正の実現に向けて
3月18日 オンライン開催

刑事訴訟法第4編再審の規定(以下「再審法」)は、70年以上改正されていない。日弁連は、2019年の人権擁護大会で速やかな改正を求める決議を採択し、2022年には再審法改正実現本部(以下「実現本部」)を設置して、各地で意見交換会(キャラバン)を開催するなど法改正に向けた取り組みを行っている。日野町事件と袴田事件の再審開始を認める決定が続き、えん罪被害者の救済に向けて社会的関心が高まる中、本シンポジウムには150名以上が参加した。


冒頭挨拶

東京弁護士会の伊井和彦会長(当時)は、日弁連の取り組みを概説し、再審はえん罪被害者を救済するための最後の手段であると強調した。日弁連の小林元治会長は、えん罪は国家による最大の人権侵害の一つであり、えん罪被害者の救済のために再審法改正実現を前進させたいとの決意を示した。


基調講演

実現本部の鴨志田祐美本部長代行(京都)は、再審事件の現状や諸外国の再審法制を報告した。その上で、日本の再審制度の大きな問題として、手続規定がなく、裁判体ごとに証拠開示の状況に違いが生じていること(再審格差)、再審開始決定に対して検察官による不服申し立てが繰り返され、再審開始までにあまりに時間がかかることを挙げ、現行法ではえん罪被害者を救えないと訴え、再審法改正を強く求めた。


パネルディスカッション〜再審法改正に向けて〜

実現本部の水野智幸委員(第一東京)は、裁判官であった自身の経験を踏まえ、再審における証拠開示の法制化は裁判官にとっても望ましいと語った。


裁判官として大崎事件の第3次再審請求即時抗告審を担当し、地裁の再審開始決定を維持し、検察官による即時抗告を棄却した根本渉会員(第一東京)は、証拠開示について、真実の発見、えん罪被害者の救済、ひいては裁判を受ける権利の保障という観点から、適切なルールを明文で設ける必要があると述べた。


ビデオメッセージを寄せた袴田ひで子氏

同じく裁判官として袴田事件の第2次再審請求審を担当し、再審開始決定と死刑・拘置の執行停止を認めた村山浩昭会員(東京)は、再審法の理念の下では、検察官による不服申し立てがえん罪被害者の早期救済より優先されるべきではないと語った。


袴田事件の再審請求人である袴田ひで子氏は、ビデオメッセージで、再審法改正をぜひ実現してほしいと訴えた。神山啓史会員(第二東京)は、無実の人を有罪にしてはいけないと心に刻み声を上げてほしい、と力強く呼びかけた。



犯罪被害者等補償法制定を求める意見書

arrow_blue_1.gif犯罪被害者等補償法制定を求める意見書


日弁連は、3月16日付けで「犯罪被害者等補償法制定を求める意見書」を取りまとめ、内閣総理大臣等に提出した。


意見書の概要

本意見書は、国に対し、犯罪被害者等に対する経済的支援を拡充するため、①加害者に対する損害賠償請求により債務名義を取得した犯罪被害者等への国による損害賠償金の立替払制度、②加害者に対する債務名義を取得することができない犯罪被害者等への補償制度、の2つを柱とした新たな犯罪被害者等補償法の制定を求めるものである。


背景・経緯

犯罪被害者等の経済的被害に対する第一義的責任は加害者にある。しかし、加害者に対する債務名義の取得に時間と費用をかけても、加害者に資力がない等の理由から多くの事案で損害賠償金の支払いを受けられていないことが、2018年に日弁連が行ったアンケートでも明らかになっている。さらに、加害者が死亡した場合など、損害賠償請求ができない事案もある。


犯罪被害者等基本法3条および4条では、犯罪被害者等への支援は国の責務であると定めている。しかし、犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律(以下「犯給法」)による給付金は、あくまで社会の連帯共助の精神に基づくものであり、支給額は賠償されるべき額より著しく低い。


日弁連は、2005年に「犯罪被害者等基本計画案(骨子)に対する意見書」を公表するなど、犯罪被害者補償制度の制定が必要であることを訴え続けてきた。しかし、現在に至るまで、国による具体的な動きは見られない。社会の連帯共助の精神を超える国の責務を果たすには、現行の犯給法の枠組を拡充させることでは足りず、新たな犯罪被害者等補償法の制定が必要である。


(犯罪被害者支援委員会事務局委員 今枝隆久)



ひまわり

この春の大卒新社会人には、21世紀生まれの人たちが含まれる。21世紀も、もう23年目である▼アメリカ同時多発テロに始まり、イラク戦争、ウクライナ侵攻などの紛争・戦争、経済ではリーマンショックや日本の失われた30年、SARSや新型コロナといった感染症、東日本大震災やさまざまな自然災害など、暗い出来事が頭に浮かびがちである▼一方、IT化の劇的なまでの進展、遺伝子医療の発展など、科学技術の発展が、私たちの生活を大きく変化させた。まさに激動の時代を過ごしてきたと感じる▼最近は、AI技術の発展が目覚ましい。中でもAIチャットボットは、いよいよ私たち弁護士の業務にも影響してきそうである▼私は将棋は素人だが、現在のトップ棋士はみなAIを研究に取り入れており、藤井聡太さん(21世紀生まれ!)はその筆頭格という。その藤井さんに、私と同世代の昭和生まれ・羽生善治さんが王将戦で挑戦した。タイトル奪取には至らなかったものの、一時は力を落としたかに見えた羽生さんが、AI研究時代に対応して見事に復活した姿には同世代としてとても勇気づけられた。幸か不幸か(?)、法曹界では50代はバリバリに働く(働かされる)年代である。新しい時代に対応しながら、もうひと頑張りしたい。(K・I)



2023年度会務執行方針(要約)

arrow_blue_1.gif2023年度会務執行方針


はじめに

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を強く非難し、自由・民主主義・人権の尊重・法の支配という普遍的価値が世界に共有されることを求めます。


国内においては社会の法的ニーズに的確に応えるための改革・改善を継続していきます。



第1 立憲主義・平和主義と基本的人権の擁護〜コロナ禍での市民社会の期待に応える

安全保障法制の廃止・改正を求める取組を進め、憲法改正に関する議論についても、立憲主義・平和主義という憲法の基本的価値を堅持すべく、毅然たる態度で臨みます。


平時から災害対応体制を強化し情報の収集・共有に努めます。新型コロナウイルス感染症の蔓延も災害と位置付け、社会的に脆弱な立場にある人々に寄り添う施策を実施します。


持続可能な社会の実現を目指し、環境問題、SDGs、ESGに関する取組を進めます。


生活保護法改正などセーフティネットの改善・再構築に向けた活動を継続し、貧困の再生産に歯止めをかけることを目指します。労働条件の適正な確保、ハラスメントの予防・対処等の労働問題に取り組みます。


健全な共生社会の実現を目指し、外国にルーツを持つ人々に対する司法アクセスの拡充などの支援や人権救済に取り組みます。出入国管理、難民認定、在留資格に関する諸制度を、国際人権法・難民条約を遵守するものとするための活動を続けます。


ヘイトスピーチやSNS上の誹謗中傷に対し、表現の自由の保障と規制濫用の危険性に配慮しつつ適切な法整備等に尽力するとともに、被害者の迅速な救済に努めます。


性別による差別を解消するための取組を推進し、選択的夫婦別姓の早期実現に向けた啓発活動等を積極的に行います。性的指向や性自認による偏見や差別をなくすための制度改善と法整備を求めていきます。


子どもの権利主体性を実質化するため、子どもの意見表明権を保障する仕組みの構築を目指すとともに、独立した子どもの権利擁護委員会の設置を働きかけます。改正少年法が適切に運用されるよう取り組みます。


高齢者や障がい者が自分らしい生き方を選択できる社会を実現するため、成年後見制度等の見直しや運用改善、強制入院の廃止に向けた取組等を進めます。


消費者市民社会の実現、消費者被害の予防・救済に向けた取組を進め、消費者の権利の確立に尽力します。


霊感商法等の被害に関する相談事例を分析し、被害救済及び防止に向けた政策、立法提言を検討します。


犯罪被害者法律援助事業の国費・公費化に向けた取組を強化します。全ての自治体で犯罪被害者支援に関する条例が制定されるよう働きかけるとともに、支援機関との連携構築を進めます。


死刑制度の廃止を訴え続けるとともに、被害者遺族の心情に寄り添い、代替刑の制度設計について関係各所へ働きかけます。


ビジネスと人権に関する行動計画のフォローアップ等に引き続き関与するとともに、企業活動における人権課題の解決に向けた取組を進めます。


国内人権機関設置の早期実現、個人通報制度の導入に向けて取り組みます。


法教育に関する具体的な施策を国に求めていくとともに、会員による法教育授業の支援などに取り組みます。


情報社会化・デジタル化に伴う問題点の指摘や啓発活動に力を注ぎます。



第2 弁護士自治を基盤とする弁護士会の組織力と弁護士の一体感の向上

弁護士自治への会員の関心・理解を高めるため、新人研修の充実や弁護士会活動の情報発信などに取り組みます。


依頼者本人特定事項の確認・記録保存・年次報告書提出の履行徹底を会員に要請するとともに、弁護士会が監督者としての役割を果たすための支援を行います。


業際・非弁・非弁提携問題に厳正に対処するとともに、新たな形態の非弁行為やAIを活用したサービスなどの課題に関する情報収集・検討に努めます。


弁護士の預り金等の適正管理を進めるとともに、不祥事が発生した場合の依頼者見舞金制度の適切な運用、会員の倫理意識の向上に努めます。


濫用的な懲戒請求から会員を守り、弁護士会の負担を軽減するため、懲戒請求者に一定額の事務費負担等を求める取扱いの可能性等について検討します。


地域の実情を踏まえた弁護士会運営のため、財政的負担の軽減等を検討し、弁護士会への支援に取り組みます。


法曹志望者を増やすため、弁護士業務の基盤整備や弁護士の魅力の発信に取り組みます。法曹コースの設置、法科大学院在学中の司法試験受験を認める制度改革が、法科大学院の理念を損なうことなく適切に運用されていくかを注視し、未修者教育の充実にも関与していきます。


組織内弁護士の公益活動や研修の在り方、職務上の課題とその対応策について検討します。


「伝わる」広報を目指し、市民社会が必要とする情報を的確に捉えた広報を行います。会員の利益に資する広報、法曹の魅力を発信する広報にも取り組みます。


会員サービスの向上と業務の合理化・効率化のため、一層のIT化を推進し、一部事務の届出・申請や総会のオンライン化を検討します。


中長期的な財務計画を検討し、予算の適正な配分の実現に取り組みます。



第3 若手・女性弁護士等の多様な会員の活躍の推進

弁護士の活動領域を拡大し、若手・女性弁護士等の活躍の機会を広げながら、公平・公正な社会の実現を目指します。


若手チャレンジ基金制度のほか、若手弁護士の様々なニーズに対応する支援の拡充と諸施策の利用を促進するための広報活動に注力します。


貸与制世代の経済的負担の問題について、必要な施策の実施を国に求める運動を、社会全体の理解を得ながら進めます。


女性弁護士の活躍の場を広げるための施策を推進するとともに、誰もが生きやすい社会を実現するためダイバーシティ&インクルージョンの提言やその実現のための各種施策を進めます。


弁護士のプロフェッション性(専門性・公益性・倫理性)を向上させ、市民の信頼獲得・維持につなげるべく、研修の充実に取り組みます。



第4 会員の業務・経済的基盤の拡充と民事司法改革

民事法律扶助制度を応能負担の原則給付制に移行させ、利用者負担を軽減しつつ持続可能な制度とすることを目指すほか、対象事件の拡大や弁護士費用を適正水準とするなどの制度改善に尽力します。


全ての保険会社に日弁連LAC協定への参加を働き掛けるとともに、適正な報酬の支払い等運用面の改善を進め、利用者・弁護士の双方にとって利用しやすい制度となるよう取り組みます。


民事訴訟を適正かつ実効的なものとするため、情報及び証拠収集手段としての早期開示命令制度の新設、慰謝料額の適正化や違法収益移転制度の創設を内容とする損害賠償制度の改革を目指します。


裁判手続のIT化に関する今後の運用改善や制度設計などに関与し、本人訴訟のサポート体制の構築に弁護士会とともに取り組みます。


裁判所支部の確保など、地域のニーズに応じた司法基盤の整備に取り組みます。


法改正に対応し得るADRの充実、ODR(オンライン紛争解決手続)の健全な制度構築に取り組みます。


中小企業の国際業務支援や在外邦人・在日外国人への法的支援、国際仲裁・調停の活性化、これらに携わる弁護士の育成に取り組みます。


中小企業の弁護士へのアクセス改善や事業承継・引継ぎ支援への弁護士関与の拡大に取り組みます。


国や地方公共団体との連携を一層推進し、弁護士の公益的業務について適切な予算措置を求める取組を推進します。


AI等の新技術を活用した法的サービスが、司法アクセスの拡充という観点から利用しやすく適正なものとなるよう検証等を行います。



第5 刑事司法制度の改革

取調べの全件・全過程の録音・録画、取調べへの弁護人の立会い等、えん罪を生まないための法改正に向けた活動に引き続き取り組みます。


えん罪被害者の一刻も早い救済のため、再審請求手続における全面的な証拠開示の制度化、再審開始決定に対する検察官による不服申立て禁止などを含む再審法改正の実現に取り組みます。また、全国の自治体での請願活動、国会議員への働き掛け、マスコミへの広報活動等を展開します。


被疑者・被告人の権利・利益の保護のために情報通信技術を活用すべく、ビデオリンク方式による接見交通や証拠開示のオンライン化の実現など、刑事弁護活動の拡充に取り組みます。


刑事手続の電子データ化等について、被疑者・被告人の権利が不当に制約されないよう注視し、関係機関との協議、課題の整理及び検討を行います。


国選弁護報酬基準の見直しや逮捕段階の国選弁護制度の創設等に向けて取り組みます。


罪に問われた障がい者等に対する福祉的支援への補助金支給制度の公費・国費化、関係機関と連携した再犯防止推進を目指します。



第75回市民会議
3月14日 弁護士会館

2022年度第4回の市民会議では、①罪に問われた障がい者等の支援活動への経済的助成、②民事法律扶助制度に関する改善提案について報告し、議論した。


罪に問われた障がい者等の支援活動への経済的助成

下中奈美副会長(当時)と亀井真紀事務次長は、日弁連の少年・刑事財政基金に関する規程等を改正し、罪に問われた障がい者・高齢者の福祉的支援を含む弁護活動等に対して補助金を支出する制度を創設したことを報告した。


市民会議委員からは、重要な社会的課題であり、入口支援と出口支援の両方に精通する弁護士の養成などに積極的に取り組んでほしいとの要望や、事例の蓄積と共有を行うことにより公費支出につなげるべきとの意見が出された。


民事法律扶助制度の改善提案

多川一成副会長(当時)と菊池秀事務次長は、養育費の請求を伴う離婚等関連事件で過去分の養育費等の支払いを受けた場合、一定額までの一括即時償還を不要とすることなど、ひとり親世帯支援に関する法務省・法テラス・日弁連による勉強会の取りまとめを報告した。また、3月3日開催の臨時総会で採択した「民事法律扶助における利用者負担の見直し、民事法律扶助の対象事件の拡大及び持続可能な制度のためにその担い手たる弁護士の報酬の適正化を求める決議」の内容を説明した。


市民会議委員からは、民事法律扶助を巡る諸課題は、社会の共感を得ながら議論するための工夫も必要ではないかという意見や、「誰一人取り残さない」という視点は非常に重要であり、社会全体で課題を共有するためにも積極的な情報発信を行うべきという意見が出された。


これまでの議論を踏まえ、民事法律扶助におけるひとり親世帯支援のさらなる拡充を図るとともに、未成年者本人が利用する場合の問題など民事法律扶助制度全般の改善を図るべく、日弁連が関係諸機関と連携して引き続き検討を進めることを求める「民事法律扶助制度の改善に関する要望書」が市民会議として取りまとめられ、3月31日付けで日弁連に提出された。


市民会議委員(2023年3月現在)五十音順・敬称略

 井田香奈子 (朝日新聞論説委員)
太田 昌克 (共同通信編集委員、早稲田大学客員教授、長崎大学客員教授、博士(政策研究))
北川 正恭 (議長・早稲田大学名誉教授)
吉柳さおり (株式会社プラチナム代表取締役、株式会社ベクトル取締役副社長)
河野 康子 (一般財団法人日本消費者協会理事、NPO法人消費者スマイル基金理事長)
清水 秀行 (日本労働組合総連合会事務局長)
浜野  京 (信州大学理事(ダイバーシティ推進担当)、元日本貿易振興機構理事)
舩渡 忠男 (東北福祉大学健康科学部学部長)
村木 厚子 (副議長・元厚生労働事務次官)
湯浅  誠 (社会活動家、東京大学先端科学技術研究センター特任教授)



事業承継・引継ぎ支援センターとの連携に関する実務者懇談会
3月10日 オンライン開催

後継者のいない中小企業の事業承継が社会的な問題となる中、日弁連は、弁護士会と事業承継・引継ぎ支援センター(以下「センター」)との連携強化に取り組んできた。連携事例の紹介や課題などについて意見交換を行った。


日弁連からの報告

パンフレット「事業承継・M&Aの『どうする?』を弁護士が解決」 今井丈雄会員(千葉県)は、各地で弁護士会とセンターとの連携が進むと同時に、地域差が生じていると分析し、本懇談会や日弁連中小企業法律支援センターの委員・幹事を通じて、各地の取り組みや工夫例を共有して参考にすることが有効であると語った。


大宅達郎会員(東京)と髭野淳平会員(大阪)は、会員向け研修(eラーニング)、書籍、事業者や関係機関向けのパンフレットなどを紹介し、活用を呼びかけた。


各地での取り組み

加藤文人会員(奈良)は、奈良弁護士会とセンターとでセミナーや事例報告会を定期的に開催し、顔が見える関係の構築を図っていることを紹介した。


渡邊弘毅会員(仙台)は、宮城県のセンターで統括責任者を務めていた経験から、センターの担当者が弁護士を使いたいと思うような活動が必要であると力を込めた。


金子努会員(高知)は、高知県のセンターでは弁護士による法律相談を実施しているが、相談から事業承継の支援につながるケースは必ずしも多くないと話した。M&Aを含む事業承継を適切に進めるためには、弁護士がより早期の段階から関与し、マッチング支援、契約交渉、契約書作成、実行に至るまで、経営者と伴走しながらサポートすることの有効性・重要性を事業者や関係機関などに理解してもらう必要があると述べた。


横田秀俊会員(福井)と八木宏会員(福井)は、事業者がセンターの費用援助の範囲を超えて、自らの費用で弁護士に依頼する流れを作ることが今後の課題であると語った。


日本政策金融公庫の取り組み

殿元大介氏(日本政策金融公庫大阪南支店長兼国民生活事業統轄)、吉村英行氏(同国民生活事業本部事業承継支援室事業承継企画グループリーダー)は、事業承継を支援するための融資制度のほか、後継者不在の事業者等と事業を受け継ぐ形での創業を希望する人などをつなぐマッチング支援にも取り組んでいることを紹介した。



シンポジウム
新たな領域で活躍する弁護士〜多様化する活動場面とキャリア形成〜
3月14日 オンライン開催


司法制度改革以降、自治体、企業、国際などの分野で活躍する弁護士の数は着実に増加し、その業務分野や活動形態、キャリア形成の在り方も多様化している。
新たな領域で活躍する弁護士の業務や活動などを紹介し、日弁連が取り組むべき課題・方向性を議論した。


変わる社会と弁護士のフィールド

井田香奈子氏(朝日新聞論説委員)は、マスメディアの立場から見て、弁護士が活躍するフィールドはこの20年で大きく広がったと感じると語った。そして、クラウドファンディングによって裁判費用を募り、社会課題の解決を目指す訴訟(公共訴訟)を遂行する仕組みを構築して、違憲判決を獲得している事例など、弁護士による新しい取り組みを挙げ、弁護士が市民の声を社会に反映して新しい規範を示すことが求められていると述べた。


また、司法分野にITやAIなどの新しいテクノロジーを導入することについて、市民は期待と不安を抱いているが、弁護士が社会正義に根差した活動を積極的に行うことで、これまでのように市民との信頼関係を築くことができると、弁護士の活動の重要性を指摘した。


各分野で活躍中の弁護士による報告

江戸川区で副区長を務める船崎まみ会員(東京)は、法の支配や人権感覚を自治体の組織内側から浸透させていくことが重要であると語り、自治体で勤務する弁護士のニーズは今後も高いと述べた。


シンガポール国際調停センター日本代表の新田裕子会員(栃木県)は、どこにいてもオンラインで国際業務に携わることができる時代になり、弁護士の可能性はさらに広がったと実感を込めて語った。その上で、多くの弁護士が新たな領域にチャレンジしてほしいと参加者に呼びかけた。


パネルディスカッション

大貫裕之教授(中央大学大学院)は、弁護士がさまざまな分野で活躍できるのは、紛争解決能力を有し、在野法曹として市民に近い目線を持っているからであると述べた。そして、自治体や企業においても、そうした弁護士の能力を政策の提言や組織運営に生かそうという動きが広がっており、裁判外で活動する弁護士像が社会に浸透してきていると評価した。


パネリストらは、自治体や企業などで勤務する弁護士の増加や国際的な法律業務の多様化などに伴う新たな課題、日弁連による情報発信の在り方、弁護士会と自治体・企業との連携方法などについて議論した。


動画「法曹人の新しいフィールド」

自治体、企業、国際分野で活躍している弁護士を紹介するYouTube動画をNICHIBENREN TV(日弁連公式動画チャンネル)に掲載しています。


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取調べ立会い弁護実践    研修・意見交換会
3月1日 オンライン開催

日弁連は、取調べへの弁護人立会権の確立に向け、2018年に意見書を公表し、2019年の第62回人権擁護大会では宣言を採択するなど、さまざまな取り組みを行っている。
本稿では、東京で開催された、弁護人立会いの実践方法に関する研修・意見交換(キャラバン)の模様をお伝えする。

 

(関東弁護士会連合会・東京三弁護士会共催)


弁護人立会権の必要性

取調べ立会い実現委員会の川上有委員長(札幌)は、被疑者の供述の自由を確保するためには弁護人の立会いが必要不可欠であると指摘した。弁護人が立ち会うことで、黙秘方針をとる場合は黙秘権行使を貫徹することができ、供述方針をとる場合には、取調官の描く筋道ではなく被疑者の記憶に沿った供述調書を作成させることができると述べ、弁護人立会権の確立は喫緊の課題であると力を込めた。


研修~弁護人立会いの実践方法

川﨑拓也事務局長(大阪)は、「取調べ立会い弁護実践マニュアル」の概要を紹介した。


在宅事件で立会いの申し入れをする場合、申し入れをしたことのみならず、指定の日時に被疑者と出頭したこと、弁護人の立会いを求めるなら取調べは行わないと捜査官に言われて帰宅したことなどの事実経緯や、次回の取調べも弁護人が同行するといった要望を書面で捜査機関に送付するなど、逐一状況を記録し、証拠化することが実践のポイントであると解説した。


また、取調べに応じざるを得ない場合でも、次善の策として、捜査機関と交渉し、①取調べの間、弁護人が取調室の近くで終始待機する、②一定時間が経過したら被疑者が取調室から退室して弁護人と話す機会を持つ、③取調べの終了時刻を事前に決める、などの工夫により、立会いに準じた効果を得ること(準立会い)が可能であると説いた。


意見交換会

準立会いを実施した案件で、依頼者から心強かったと非常に感謝された、検察官と事件の内容について意見を交わす契機となったといった経験談が語られた。そして、各会員がさまざまな工夫により実践を繰り返し、その経験を共有してノウハウを蓄積していくことの重要性が確認された。



JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.179

BPO(放送倫理・番組向上機構)

放送への苦情や放送倫理の問題に対応する放送倫理・番組向上機構(以下「BPO」)は、本年7月に設立20周年を迎えます。その活動や意義について、渡辺昌己専務理事、田中宏暁理事・事務局長にお話を伺いました。

(広報室嘱託 枝廣恭子)


設立の経緯と目的

左から渡辺昌己専務理事、田中宏暁理事・事務局長

BPOは、NHKと一般社団法人日本民間放送連盟(以下「民放連」)により設置された、放送事業者から独立した第三者機関です。


1960年代以降、テレビ放送が急速に普及する中、番組の内容が人権侵害に当たるのではないか、青少年の非行につながるのではないかとの指摘が視聴者から寄せられるようになりました。そこで、法的規制によらずに、放送事業者が自主的、自律的に問題と向き合うため、NHKと民放連は、1969年に放送番組向上協議会を、続いて1997年に放送と人権等権利に関する委員会機構を発足させました。そして、2003年7月、両組織を統合する形でBPOが発足しました。


BPOは、放送への苦情や放送倫理上の問題などに、放送事業者が自主的に設置した第三者機関が対応することで、放送における言論・表現の自由を確保しつつ、視聴者の基本的人権の擁護を図ることを目的としています。


組織の概要

BPOは、放送倫理検証委員会、放送と人権等権利に関する委員会、放送と青少年に関する委員会の3つの委員会と、理事会、評議員会、事務局によって構成されています。各委員会の委員には放送事業者の役職員以外の有識者が就任しています。また、委員を選任する評議員会も放送事業者の役職員以外で構成されており、放送事業者からの二重の第三者性を意識しています。


各委員会の活動

放送倫理検証委員会

虚偽の番組内容が放送されたことが社会問題化したことを受け、虚偽の放送や放送倫理上の問題を審議・審理する委員会として、2007年に設置されました。視聴者からの意見等の有無に関わらず、社会的に問題があると考えられる番組について審議・審理し、放送事業者へのヒアリングなどの調査を経て、結果を意見などとして公表します。


放送と人権等権利に関する委員会

人権侵害を受けた人からの申し立てに対応しています。人権侵害の苦情については、まずは放送事業者に話し合いによる自主的解決を促しますが、話し合いによって解決ができず同委員会に救済を求める申し立てがされると、要件を満たした案件の審理を開始します。審理の結果は、「委員会決定」として公表します。


放送と青少年に関する委員会

昨年4月に公表し、話題になった「「痛みを伴うことを笑いの対象とするバラエティー」に関する見解」を審議した委員会です。


特定の番組を審議の対象とはせず、日頃から視聴者の意見や中高生モニターのリポートを集約し、議論し、放送事業者に伝えます。それによって、より良い番組制作につなげてもらうという視聴者と放送事業者を結ぶ「回路」の役割を担っています。また、ウェブサイト上で「青少年へのおすすめ番組」の紹介も行っています。


弁護士委員の役割

各委員会は、弁護士、研究者、演出家、俳優などによって構成されています。


放送倫理上問題があるか否かは、NHKと民放連が定めた放送倫理基本綱領や各放送事業者の放送基準などに従い判断しますが、その解釈や事案への当てはめでは弁護士の委員がその知見を生かして議論を進めています。また、ヒアリングや意見書の起草でも日頃の業務で培われたノウハウを発揮するなど、大きな力となっていると感じます。


設立20周年を迎えて

BPOは放送事業者を指導・監督する機関ではなく、放送事業者がより良い番組を作ることができるように支え、助言する立場にあります。放送事業者自らが第三者機関を設置するという仕組みは、放送事業者に対する許認可・監督権限が国にあるという日本の放送制度の構造から生まれたもので、諸外国には例がありません。このような自主的な第三者機関が機能しなければ、国による規制強化の流れにつながるという緊張感もあり、定着させることは大きな挑戦でもありました。そのため、BPOの前身組織の時代も含めて、過剰演出や捏造といった番組制作や取材の在り方に関する問題が顕在化するたびに、組織の改編や機能強化を実施してきました。こうして、番組の質を向上させるための議論を重ね、20年間活動を継続してきたことには大きな意義があると考えています。


放送の価値を高めるために放送事業者が自律的に研さんを積み、それを支えるためにBPOが意見等を伝えるという関係は設立当初から変わっていません。インターネットなどの普及に伴い、テレビ・ラジオ番組の信頼性を守るという役割がより重要性を増していることを意識して、引き続き活動を続けていきます。



続・ご異見拝聴❾
河野 康子     日弁連市民会議委員

今回は、日弁連市民会議委員の河野康子氏にお話を伺いました。河野氏は、食品安全や消費者問題に取り組む団体の活動に関わり、現在はNPO法人消費者スマイル基金理事長などを務めておられます。

(広報室嘱託 花井ゆう子)


一人の消費者から消費者の代表として

 河野康子委員消費者問題との関わりは、生活者の立場から始まりました。子育て中に利用していた生活協同組合が、食品等の販売だけでなく農業・漁業や環境などについて学ぶ機会を提供していたのです。弁護士による講演では、消費者トラブルの深刻さや被害救済の重要性を学びました。これらをきっかけに、理事として生活協同組合の運営に関わるようになりました。


2012年に約50の消費者団体の連絡組織である全国消費者団体連絡会の事務局長に就くと、国会の参考人招致で消費者代表として意見を述べる機会が幾度もありました。その際、消費者問題に関わる弁護士が熱心にサポートしてくれたことは印象的でした。


2014年に消費者問題を一元的に扱う消費者庁が発足し、2016年10月には、特定適格消費者団体による集団的被害回復訴訟を可能とする消費者裁判手続特例法の制定も実現しました。被害に遭った消費者が泣き寝入りしないため、被害の救済や防止に必要な法制度を拡充させる活動が少しずつ実を結んだのです。


もっとも、適格消費者団体や特定適格消費者団体は公益的な活動を担っているにも関わらず、ほとんど手弁当で活動しています。そこで、2017年、これらの団体を財政的に支援する消費者スマイル基金を設立しました。健全で公正な市場の維持拡大のために、法律の専門家である弁護士の力や「消費者志向自主宣言」を行う事業者等の共感を得て、実効性のある活動へと活性化していきたいです。


市民会議委員として

市民会議には社会の各セクターを代表する顔ぶれがそろっており、最初はやや身構えました。しかし、市民感覚で参加することこそが求められていると考え、消費者代表であり、一人の市民でもある目線から意見を述べるようにしています。会議に参加することで、日弁連が多岐にわたる社会の不合理と対峙していることを知りました。また、意見の公表や各種活動を通じて、社会を良い方向に変えたいという強い意思を感じました。一方、その温度が市民に伝わっておらず、もったいないと感じます。日弁連の問題意識が市民にとっての自分事となるよう、さらなる活動を期待しています。



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順位 書名 著者名・編者名 出版社名
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2 ゼロから信頼を築く 弁護士の顧問先獲得術 高橋喜一/著 学陽書房
3 発信者情報開示命令の実務 大澤一雄/著 商事法務
4 紛争類型別の要件事実―民事訴訟における攻撃防御の構造〔4訂〕 司法研修所/編 法曹会
5 業界別 法律相談を解決に導く法律・条例の調べ方 第一東京弁護士会 若手会員委員会 条例研究部会/編 第一法規
6 新版 注解交通事故損害賠償算定基準 高野真人/編著 園 高明、古笛恵子、松居英二、髙木宏行、末次弘明、北澤龍也、垣内惠子/著 ぎょうせい
7 会社法 実務スケジュール〔第3版〕 橋本副孝、吾妻 望、菊池祐司、笠 浩久、中山雄太郎、高橋 均/共編 新日本法規出版
改訂 事例で考える民事事実認定 司法研修所/編 法曹会
9 養育費・婚姻費用判断の考慮要素 森 公任、森元みのり/編 新日本法規出版
10 離婚事件における家庭裁判所の判断基準と弁護士の留意点 武藤裕一、野口英一郎/共著 新日本法規出版



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順位 講座名 時間
1 戸籍・住民票等の取得(職務上請求)の基本~戸籍、住民票の写し、固定資産評価証明書、自動車の登録事項等証明書の取得について~ 34分
2 弁護士報酬の基本 29分
3 内容証明の基本 30分
戸籍の仕組み・読み方の基本 30分
5 被疑者の不必要な身体拘束からの解放に向けた弁護活動 28分
弁護士会照会の基本 32分
不動産登記の基本 31分
接見の基本 34分
9 身体拘束からの解放の基本 24分
10 公正証書の基本~概要と利用法~ 37分


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