日弁連新聞 第570号
少年院・少年鑑別所の視察委員会及び在院者等の処遇の改善に関する意見書
少年院・少年鑑別所の視察委員会及び在院者等の処遇の改善に関する意見書
日弁連は、7月16日、「少年院・少年鑑別所の視察委員会及び在院者等の処遇の改善に関する意見書」を取りまとめ、7月20日付けで法務大臣に提出した。
意見書の背景
2015年6月の改正少年院法と少年鑑別所法の施行により、少年院・少年鑑別所に視察委員会が設置された。視察委員会は、少年院等の運営の透明性を確保し、在院者等の人権を尊重するための第三者機関であり、すべての視察委員会で弁護士が視察委員に選任されている。
視察委員会の設置後、日弁連は、視察委員による全国連絡会議を年2回程度開催して、情報交換やその実情の共有に努めてきた。これらを踏まえて浮き彫りになった視察委員会の活動の在り方および在院者等の処遇の改善点をまとめたものが本意見書である。
意見書の内容
視察委員会の在り方については、活動の実効性を確保するため、視察委員の選任数・会議実施回数の増加、視察委員会が設置されていない分院・分所への視察委員会の設置などを提言している。
在院者等の処遇の改善については、地域の気候に応じた冷暖房器具のさらなる設置や適切な医療を受ける機会の確保など、在院者等の生命、心身の健康に大きな影響を与える冷暖房、入浴、食事、医療の点に絞って改善策を提言している。
今後の取り組み
これまで視察委員会が出した意見を受けて、冷暖房設備の新設や入浴回数の増加等の処遇改善が実現した例もあり、視察委員会の活動の重要性は高い。
日弁連は、今後、法務省との協議等を通じて、本意見書の内容の実現を目指すとともに、視察委員会の活動のさらなる実効性の確保、在院者等の処遇改善に向けて尽力していきたい。
(子どもの権利委員会少年法に関する小委員会 幹事 木下裕一)
*意見書は日弁連ウェブサイトでご覧いただけます。
シンポジウム
2021年改正プロバイダ責任制限法の総合的検討
7月12日 オンライン開催
シンポジウム「2021年改正プロバイダ責任制限法の総合的検討」
インターネット上での誹謗中傷が深刻な社会問題となっている中、改正プロバイダ責任制限法(以下「改正法」)が成立し、改正法の施行によって発信者情報の円滑な開示が期待されている。本シンポジウムでは、インターネット上の誹謗中傷の実情を共有した上で、改正法の概要を説明し、弁護士の立場からの実務的評価を踏まえ、改正法について検討した。
インターネット上の誹謗中傷の実情
出演したリアリティ番組での言動をきっかけにインターネット上で誹謗中傷を受け自死した、プロレスラーの木村花さんの母親である木村響子氏(NPO法人Remember HANA(設立準備中)代表理事)が、問題点を指摘した。法改正前の発信者情報開示請求では加害者特定までに時間がかかり弁護士費用も高額となること、精神的苦痛に対する慰謝料の相場が低いことに加え、現行刑法の侮辱罪の法定刑では犯罪抑止力がないと訴えた。
改正法の概要
小川久仁子氏(総務省総合通信基盤局電気通信事業部消費者行政第二課長)が、改正の経緯や改正法の概要を説明した。発信者の特定には、従来仮処分と訴訟の2段階の手続が必要であったが、新設された非訟手続では開示命令、提供命令および消去禁止命令の申し立てを一体的な手続として取り扱い、事案の柔軟かつ迅速な解決を図ることができると解説した。また、開示請求を行うことができる範囲の見直しなどについて説明した。
改正法の実務的問題点
消費者問題対策委員会の壇俊光幹事(大阪)は、法改正までの日弁連の取り組みを紹介した。また、改正法の実務的な問題点として、発信者情報開示請求の対象が「特定電気通信」であり、不特定の者によって受信されることを目的とする送信のみが対象となる点について、1対1の電子メールや直接のメッセージによる誹謗中傷の事案では適用できないことや、「権利が侵害されたことが明らか」という要件が開示請求の範囲を過度に制限するなどと指摘した。
パネルディスカッション
木村氏は新制度により、発信者情報開示から損害賠償請求までの時間を短縮し、被害者が苦しむ時間が短くなればとの期待を述べた。適正な慰謝料額にも話題が及び、齋藤隆会員(第二東京/元判事)は、一律に金額を示すことは難しく、事案の集積が待たれると述べた。その他、新たな裁判手続が今後どのように運用されるのか、加害者へのカウンセリングの必要性なども議論された。
ひまわりほっと法律相談会
中小企業を弁護士が応援します!
ひまわりほっと法律相談会-中小企業を弁護士が応援します!-
日弁連は、中小企業の弁護士へのアクセス障害を解消するため、弁護士会との共催により、また、中小企業庁をはじめとする中小企業支援機関や商工団体等の後援を得て、中小企業に関する全国一斉無料法律相談会およびセミナー等を毎年開催している。
中小企業庁が中小企業基本法の公布・施行日である7月20日を「中小企業の日」としたことを受け、昨年に続き本年も同日を中心として全国各地の弁護士会で無料法律相談会やセミナー等が開催された。
新型コロナウイルス感染症対策として、電話相談だけでなくオンラインによる相談も複数の地域で実施された。また、セミナー等もオンラインの併用など工夫を凝らしつつ、全国各地で開催された。
札幌弁護士会のシンポジウムでは、日本政策金融公庫職員や中小企業診断士が講師となり、公的融資の現状や限界、コロナ禍で使える補助金などについて解説した。仙台弁護士会の講演会では、ITコンサルタント・クリエイティブデザイナーがデジタル・ITツールを活用したウィズコロナ・アフターコロナの事業活動について解説したほか、各地でコロナ禍で役立つ法務の知識や雇用の維持、民法改正後の契約書作成の実務や働き方改革に関する対応等がテーマとして取り上げられた。
日弁連は今後も、中小企業分野での弁護士業務の一層の拡充を図るとともに、中小企業関係者の暮らしと権利が守られる社会の実現を目指し、法律相談会やシンポジウムなどを開催していく予定である。
(日弁連中小企業法律支援センター 副本部長 酒井俊皓)
日弁連短信
法律事務所の情報セキュリティ
ITの進化は極めて速く、便利なITツールやサービス等が次々と生み出され普及し、多くの弁護士も便利に利用している。しかし、ITの利用には情報セキュリティ上のリスクが必然的に伴うものであり、法律事務所や弁護士も対応が求められる。そして、ITの進化や環境の変化に応じて、求められる情報セキュリティの内容や水準も変化していく。
日弁連では、2013年12月に弁護士情報セキュリティガイドライン(以下「ガイドライン」)を制定し、2019年1月にこれを改訂した。現在は、本年4月に設置された弁護士業務における情報セキュリティに関するワーキンググループ(以下「情報セキュリティWG」)が、ガイドラインの見直し等を行っている。
ITを巡る進化・変化は、大きく三つに整理できる。一つ目は新しいIT技術・機器やサービスの登場、普及である。最近では、スマホの普及、外出先でのインターネット接続環境の整備(スマホのテザリングやフリーWi―Fi等)、オンラインストレージ、チャットツール、ウェブ会議システム、さまざまなクラウドサービスなどが挙げられる。リーガルテックも進化していくだろう。二つ目は社会の変化である。例えば、コロナ禍によりウェブ会議の利用が急速に普及し、法律事務所も対応を求められるようになった。三つ目は制度の変化である。個人情報保護法など一般的な制度、法律の制定・改正もあるが、特に私たち弁護士にとっては、司法制度(裁判手続等)のIT化が大きな影響を及ぼす。
こうした進化・変化に対応し、法律事務所や弁護士は、常に情報セキュリティに気を配る必要がある。特に司法制度のIT化は、単にIT化に対応すればよいものではなく、法律事務所・弁護士全体の情報セキュリティ水準により、制度そのものに影響を及ぼす可能性がある。十分なセキュリティを前提とすればここまでできるが、不十分なのでこの程度までしかできない、となりかねないのである。
このような状況を背景に、情報セキュリティWGではガイドラインの見直し等を進め、情報セキュリティの取り組みに役立つ情報の提供も検討している。ただし、具体的な情報セキュリティは、各法律事務所・弁護士がそれぞれの状況に応じて取り組むべきものであることは言うまでもない。
(事務次長 石井邦尚)
第17回日本司法支援センター
スタッフ弁護士全国経験交流会
7月9日 オンライン開催
現在、日本司法支援センター(法テラス)のスタッフ弁護士は全国各地に約200人おり、司法過疎地域等におけるさまざまな法的支援を担っている。本交流会では、地方公共団体との連携等の活動報告やスタッフ弁護士の生活や魅力を紹介した。全国のスタッフ弁護士がオンラインで参加したほか、視聴会場も設けて学生や司法修習生らも視聴した。
赴任1年半の経験共有会
1年間の新人研修を終え2020年1月に赴任した松岡孝会員(法テラス釧路)、福地紀江会員(法テラス多摩)、矢口尭之会員(法テラス指宿)、小野歩会員(法テラス須崎)が、赴任地の土地柄や相談件数・事件類型、赴任して困ったことやその相談先など新人ならではの経験を語った。
宮古島での活動報告
大城雅喜会員(法テラス宮古島)は、高齢者の相談が多い、利益相反が頻繁に起きる、刑事事件を受任する機会が多いなどの離島ならではの事情を、苦労ややりがいも交えて紹介した。また、宮古島は地価の高騰により所有権移転登記請求事件が増加しているなど、近時の事件の傾向等を報告した。
都市部の新設法律事務所での活動報告
葛西秀和会員(法テラス兵庫)が、2020年10月に新設された都市型事務所での活動を報告した。都市部のスタッフ弁護士の役割を模索し、特定援助の仕組みを地域の関係機関に紹介するなどの活動を実践していく中で、ある特定援助対象者の支援につながった経験を語った。
スタッフ弁護士パパママ奮闘中!
馬場真由子会員(法テラス埼玉)、植田高史会員(法テラス秩父)、志野大輔会員(法テラス福島)、三柴萌実会員(法テラス東京)、加藤梓会員(法テラス多摩)が、育児に奮闘するスタッフ弁護士として、日々の生活や仕事と育児を両立する苦労・工夫などを報告した。スタッフ弁護士のメリットとして産前産後休暇や育児参加休暇などの制度が充実している点を挙げる一方、ワークライフバランスの観点から赴任地の地域限定などを求める声が上がった。
スタッフ弁護士をサポートするPTの活動
出口支援PTの鈴木彩葉会員(法テラス本部)が、刑務所から出所した後に経済的困窮から再犯に至るのを防ぐため、出所者に生活保護申請の同行支援を行う活動について、具体的な事例とともに報告した。また、裁判員裁判等に用いるプレゼンテーション技術の勉強会等を行うプレゼンPT、成年後見に関する事例検討勉強会を行う後見PTが活動を報告した。
質疑応答
視聴会場で参加した学生からは、スタッフ弁護士のやりがいや活動領域について質問があり、関心の高さがうかがわれた。
核兵器禁止条約について早期の署名・批准を求めるシンポジウム
7月19日 オンライン開催
核兵器禁止条約について早期の署名・批准を求めるシンポジウム
本年1月22日、史上初めて核兵器を「非人道的で違法」であるとして、その開発・保有・使用・威嚇・援助等を禁止した核兵器禁止条約が発効した。しかし、唯一の戦争被爆国である日本は、同条約について署名も批准もしていない。条約発効の意義や、核兵器も戦争もない世界の実現に向けて必要なことを考えるべくシンポジウムを開催した。
核兵器の廃絶に向けて日本がなすべきことは
田中眞紀子氏(元外務大臣)は基調講演の中で、広島と長崎への原爆投下で推計約21万人もの命が一瞬にして奪われたことに触れ、今般50カ国の国々が条約を批准したにもかかわらず日本が核兵器禁止への態度を明確にしないことを批判した。日本は国家の統一的な外交的意思を世界に発信し続けなければならないと述べ、「一生会うこともないであろうけれど、間違いなくこの地球上に共に生きている人々に対する愛情、それから自然に対する、生態系に対する畏怖の念を持って、謙虚に愛情を持っていかなければならない」と平和への祈りを込めた力強いメッセージを送った。
リレー報告と意見交換
宮本ゆき教授(デュポール大学宗教学部)、和田征子氏(日本原水爆被害者団体協議会事務局次長)、川崎哲氏(ピースボート共同代表・核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)国際運営委員)が個別報告を行い、その後に田中眞紀子氏が加わり意見交換を行った。
川崎氏は、日本が将来的に条約締約国になるための具体的なシナリオとして、まずは非締約国として締約国会議にオブザーバー参加すること、核被害者の援助と核兵器の使用による環境汚染の回復に貢献すること等を提案した。和田氏は、被爆経験を語り続けることで一人でも多くの人に核の悲惨さを伝え核の廃止へとつなげたいと語り、国内での議論の活性化という課題については期せずして急速な進展を遂げたオンライン化が若者の会合への参加を後押ししていると語った。宮本教授は、今の学生は政治を自分自身の問題として考える傾向があると具体的な事例を紹介し、学生の行動力に大きな期待を寄せた。田中氏は、科学技術の発展がもたらす恩恵と表裏の問題として人々の現実の生活が脅かされる危険性を想起しなければならないと警鐘を鳴らした。
会員向け研修会
児童等に対する『協同面接』の現状と課題
7月15日 オンライン開催
近年、刑事手続において児童への「協同面接」による聴取が増え、法務省は本年4月から知的・精神障がい等がある性犯罪被害者事件の一部でもこれを試行すると発表した。その基礎知識を習得し、課題や供述の信用性への影響等を検討すべく会員向けの研修会を実施したので、その概要をお伝えする。
「協同面接」の特徴等
取調べの可視化本部(以下「本部」)の植田豊委員(大阪)は、現在実施されている協同面接(代表者聴取)の特徴について、検察・警察・児童相談所の三機関のうち代表者が聴取すること、録音・録画を行うこと、面接手法の研修を受けた者が質問者になること等を説明した。あわせて、2019年(4月~12月)における協同面接の実施事件の約74%で聴取者が検察官であると報告し、その原因は、刑事訴訟法321条1項による証拠能力付与要件の違いにあると分析した。
植田委員は、協同面接では被面接者の心理的負担に配慮しつつ正確な情報を得るという司法面接の基本的考え方が意識されるものの、実際は構成要件事実への強い関心に基づく聴取になるとの懸念を示し、弁護人は協同面接による供述でも信用性を慎重に吟味しなければならないと述べた。
発達心理学からみた問題点
脇中洋教授(大谷大学社会学部)は、司法面接法の体験記憶の想起を促し事実関係を明らかにするという目的に鑑み、聴取者が中立的立場であることが大原則となると説いた上で、検察官や警察官による協同面接では偏った聴取のおそれがあると指摘した。
供述の信用性との関係~米国の司法面接を踏まえ~
本部の飛田桂委員(神奈川県)は、米国の司法面接も定義自体は抽象的で、トレーニングプログラムも各実施団体のInterview structure(面接のための要綱のようなもの)が組み合わされて実施されているとし、聴取方式自体を供述の信用性判断の準則とすることは相当でないと述べた。
パネルディスカッション
脇中教授は、面接前の初期供述・記憶の汚染を防ぐことは困難であり、学校、家庭等での最初期の供述契機が重要であることを強調した。飛田委員は、記憶汚染への対応として面接までのプロセスの記録・検証が必要だと指摘するとともに、子どもは時間経過による記憶低下が起こりやすいと述べた。本部の小坂井久副本部長(大阪)は、協同面接の供述録取書や録音・録画記録媒体が最終的に証拠となることを想定した弁護活動が必要と語った。
第14回高校生模擬裁判選手権
8月7日 オンライン開催
第14回高校生模擬裁判選手権の参加校を募集します!
2020年8月に開催予定であった第14回高校生模擬裁判選手権は新型コロナウイルス感染拡大のためやむなく中止となり、同年12月に番外編をオンラインで開催したが、本年は初めて本大会をオンラインで開催した。全国各地から29校が参加し、実務家さながらの刑事模擬裁判を繰り広げた。
(共催:最高裁判所、法務省・検察庁ほか)
事案・実施方法等
今回の課題は、被告人(公務員)が、担当する公共工事の落札・受注会社より、自宅の外構工事代金の値引きを受けたという収賄事案である。被告人は、値引きは同社代表者の個人的な好意とし、争点は収賄の故意(職務対価性を含む)の有無である。
参加校は15のオンライン法廷に分かれ、午前と午後で異なる相手校と計2試合(検察官役・弁護人役各1試合)を行った。審査員は、現役の裁判官・検察官・弁護士のほか、学者やジャーナリストが務めた。
創意工夫を凝らした訴訟追行活動
模擬裁判は、実際の刑事手続に則って進行した。
証人尋問、被告人質問では、証人および被告人役の弁護士に対し、高校生たちが堂々と質問を重ねた。論告・弁論では、プレゼンテーションソフトを活用した視覚資料等も用いながら、ポイントに濃淡をつけた主張立証活動を展開した。
講評・感想等
審査員からは、準備した質問にとどまらずその場の供述に応じた質問や、論告を踏まえ咄嗟に弁論を補充するといった対応に感心の声が上がった。
生徒は、獲得目標を意識して準備した、部活動等の合間を縫ってチームで何度も事実の洗い出しや協議を重ねて本番に臨んだなどと振り返り、互いの健闘を称え合った。また、支援弁護士をはじめとする関係者への感謝の言葉とともに、コロナ禍でも開催・参加ができたことへの喜びを語った。
各校には、金銀銅の各賞が贈られた(金賞6校、銀賞10校、銅賞13校)。
金賞受賞校
●市川学園市川高等学校(千葉)
●北陸高等学校(福井)
●大阪教育大学附属高等学校天王寺校舎(大阪)
●神戸海星女子学院高等学校(兵庫)
●創志学園高等学校(岡山)
●高知県立高知追手前高等学校(高知)
シンポジウム
地方行政のデジタル化に自治体はどう取り組むのか
8月3日 オンライン開催
オンラインシンポジウム「地方行政のデジタル化に自治体はどう取り組むのか」
本年5月、個人情報保護制度の見直し等を含むデジタル改革関連6法が成立した。データの利活用を重視する今回の改正は、個人情報保護の観点から懸念があるとともに、個人情報保護ルールの一本化により条例制定の範囲が限定されるなど体制も大きく変化する。本シンポジウムでは地方行政のデジタル化に自治体がどう取り組むのかについて意見を交わした。
基調講演
人見剛教授(早稲田大学大学院法務研究科)は、個人情報保護法制の一元化は従来の分権型個人情報法制の流れに逆行すると論じた。個人情報保護法の主目的は個人の権利利益の保護であり個人情報の利活用は従たる目的にとどまること、同法が個人の人格尊重を基本理念とすることを指摘し、地域の特性に応じて個人情報保護目的に特化した条例ルールの再構築を提案した。
講演・報告
宍戸常寿教授(東京大学大学院法学政治学研究科)は、新法制定の議論に関与した立場から地方行政のデジタル化を巡る議論および関連法の整備状況について解説した。地方行政のデジタル化における課題についてはデータ基本権の確立や国と地方の役割分担が重要だと述べた。
岡田博史氏(京都市総合企画局)は、法改正により条例制定権が大きく制約されるとの解釈に対して、自治体の自主性・自律性に鑑み条例制定権の範囲は広く解釈されるべきと述べた。
情報問題対策委員会の山口宣恭委員(奈良)は、本年3月17日付け「デジタル改革関連6法案について慎重審議を求める会長声明」等に言及し、個人情報保護についての条例による自治体独自の取り組みを極力狭めようとする考え方に疑問を示した。
パネルディスカッション
パネリストとして北村喜宣教授(上智大学法学部)、佐藤信行教授(中央大学法科大学院)、情報問題対策委員会の三宅弘委員(第二東京)、法律サービス展開本部自治体等連携センターの小池知子委員(東京)、コメンテーターとして宍戸教授が登壇し、法改正によって個人情報の保護レベルが低下することへの懸念、条例制定権の範囲、「リセット後」の新たな個人情報保護条例の在り方、その他個別論点について意見を交わした。
JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.161
公証人インタビュー
弁護士出身ならではの公証人像を描く
2002年度に公証人採用が公募制となり、2020年、弁護士出身の公証人が2人誕生しました。東京法務局に所属する伊藤靖子公証人(同年2月任命・杉並公証役場)、花沢剛男公証人(同年8月任命・武蔵野公証役場)にお話を伺いました。
(広報室嘱託 田中和人)
弁護士から公証人へ
(伊藤)修習終了後裁判官になり、退官後は専業主婦として家族と共に国内外で過ごしました。その後修習同期の誘いで弁護士登録し、家事事件を中心に一般民事を取り扱いました。
弁護士として、数多くの契約トラブルや養育費不払い等に関わり、契約内容の十分な理解や履行確保の重要性を感じ、その作成過程を含め公正証書に大きな意義があると思いました。また、リビング・ウィルや同性婚契約等、多様化する価値観に法整備が対応しきれていない分野で、公正証書が担う創設的役割をとても興味深く思っていました。経験上「立ち位置を変えることは自分の成長につながる」と常に感じてきましたので、公募制度を知り、応募しました。
(花沢)弁護士登録以降30年以上にわたり、主に中小企業案件や一般民事を取り扱い、倒産事件、交通事故等も手掛けました。
還暦を過ぎ、就いていた役職や仕事も一段落して今後の法曹人生を模索する中、人生の節目を迎えた方の紛争を予防し、悩みの解決の一助となれる公証人に魅力を感じました。先に活躍する先輩や修習同期がいて、公証人の仕事を身近に感じたことも大きかったですね。
公益サービスを担う
(伊藤・花沢)公証役場は、公的機関として、公証人の常駐・平日定時の執務が必要であるため、コロナ禍でも工夫して業務を継続しています。感染防止対策も徹底しています。
(花沢)公証人は、中立性・公平性を確保し、そこに疑義が生じないよう細心の注意を払います。合意証書であれば、当事者双方が納得する合理的内容を考え、丁寧に説明して十分理解してもらうことが必要です。
(伊藤)中立・公平であること、それが利用者に分かるように振る舞うことで、初めて信頼を得られます。
弁護士経験が生きる
(花沢)公証業務では、依頼者(以下「嘱託人」)の話に耳を傾けて心情やニーズを的確に把握し、将来発生が予想される問題も最大限予防しなければなりません。そこでは弁護士経験が大いに役立ちます。おのずと嘱託人の目線に立ち、経験を生かした助言ができることが強みだと自負しています。
(伊藤)弁護士時代に悩みの背景や多様さに触れ、当事者目線で考える大切さを知ることができました。それは嘱託人のニーズの把握や認識の偏りのチェックに生かされます。新たな問題に対応すべく、常に知識をアップデートし、社会問題に関心を持つことの大切さも弁護士と同じですね。
公証人のやりがい
(花沢)弁護士と同様、嘱託人から感謝していただけることが最も大きいです。これは私の職業上の生きがいでもあります。
(伊藤)嘱託人の笑顔は本当に嬉しいですね。
思い出深い案件に、余命いくばくもない末期がん患者の方の遺言作成があります。つつましい暮らしの中コツコツと貯蓄され、身寄りはなく、先祖代々の菩提寺への寄付を希望されました。署名を終えると「ほっとした」と笑みを浮かべ、拝むようにされました。ほどなくその方が他界されたと聞き、間に合って良かったと思うと同時に、公正証書遺言が民法に規定された意味を実感できました。
公証役場を利用する弁護士へのメッセージ
(花沢)弁護士の作成した案文に曖昧さや疑義があれば、それを確認・修正し、時には細かく意見を述べることもあります。紛争予防を含めた合理的内容の案文をまとめ上げ、嘱託人に十分に説明して理解を得ることは、受任弁護士の責務ではないでしょうか。公証人もその役割に期待しています。
(伊藤)弁護士でも、事実実験公正証書は利用経験がないかもしれません。この証書は工夫次第で幅広い可能性がありますので、ぜひご活用いただければと思います。
また、弁護士に勧められて相談に来る方の中には、公証人が法律相談をする、あるいは内容を問わず公正証書化や執行力付与ができる等の誤解が散見されます。ご案内時に配慮いただければと思います。
公証人を目指す弁護士へのメッセージ
(伊藤)公証人は弁護士としての経験をフルに活用できる仕事です。公証人としてもご活躍を期待しています。
(花沢)弁護士を辞めることには決断が必要でしたが、それに見合うやりがいや価値を感じています。その経験は、公証人を退任し弁護士に戻っても必ず生きると思います。公募制に移行したのですから、さまざまな経験を持つ多くの弁護士に公証人になっていただきたいです。
続・ご異見拝聴❽
逢見 直人
日弁連市民会議委員
今回は、2017年12月から日弁連市民会議の委員を務められている日本労働組合総連合会(以下「連合」)会長代行の逢見直人氏にお話を伺いました。逢見氏は、パートタイム労働者の法的保護の問題や労働組合の立場で倒産処理法制の改革に深く関わられた経験をお持ちです。
(広報室嘱託 木南麻浦)
労働運動家として
いわゆるパートタイム労働法について、議論を始めた当初は、「正社員、非正規雇用労働者を問わずに適用される労働基準法があるのになぜパートタイム労働法が必要なのか」と言われたものでした。しかし、非正規雇用労働者の場合、勤務日・勤務時間等の雇用条件が一人一人違うため、雇入通知書を交付する必要性が高いことなどを主張し、1993年の法律制定につなげました。
その後も処遇の均等・均衡をキーワードに問題提起を行い、2018年に成立した働き方改革関連法の中では、パートタイム・有期雇用労働者の均等・均衡規定や正規雇用労働者との不合理な待遇差の解消がうたわれるに至りました。時間はかかりましたが、我々の活動がようやく実を結んだという思いです。
市民会議委員として
市民会議では、さまざまな職業、経歴の方が集まり、外から見た弁護士や日弁連の活動等について議論しています。他の委員の意見に啓発されたり、立場が違う委員と共通の問題意識を持っていることを発見したりすることがあります。
最近の会議では、法曹志望者増加に向けた取り組みがテーマに取り上げられました。連合の高木剛副会長(当時)が司法制度改革審議会の委員を務めていましたので、この問題は私もずっと関心をもって見守ってきました。
多様な人材が法曹になり、社会で起きている問題を肌感覚で理解できる弁護士が増えていくことはとても大事なことだと考えています。
弁護士に期待すること
新型コロナウイルス感染症の拡大により、日本が潜在的に抱えていた経済、社会、暮らしの問題が一気に表面化しました。雇用・労働の分野でも、例えば女性、若者、外国人、フリーランス等の弱い立場の人たちに深刻な問題が起きており、セーフティーネットが必要とされています。
どこに相談したらよいか分からない人たちが頼っていける存在、それが弁護士だと思うのです。弁護士の仕事の重要性を自覚して、その役割を果たしてほしいと思います。
ブックセンターベストセラー (2021年7月・手帳は除く)
協力:弁護士会館ブックセンター
順位 | 書名 | 著者名・編集者名 | 出版社名・発行元 |
---|---|---|---|
1 |
携帯実務六法 2021年度版 |
「携帯実務六法」編集プロジェクトチーム/編 | 東京都弁護士協同組合 |
2 |
弁護士会照会制度〔第6版〕 |
東京弁護士会調査室/編 | 商事法務 |
3 |
類型別 労働関係訴訟の実務Ⅰ〔改訂版〕 |
佐々木宗啓・清水 響・吉田 徹・佐久間健吉・伊藤由紀子・遠藤東路・湯川克彦・阿部雅彦/編・著 | 青林書院 |
4 | 弁護士の周辺学〔第2版〕 | 髙中正彦・市川 充・堀川裕美・西田弥代・関 理秀/編著 | ぎょうせい |
5 |
類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ〔改訂版〕 |
佐々木宗啓・清水 響・吉田 徹・佐久間健吉・伊藤由紀子・遠藤東路・湯川克彦・阿部雅彦/編・著 | 青林書院 |
6 |
婚姻費用・養育費等計算事例集(中・上級編)新装補訂版 |
婚姻費用養育費問題研究会/編 | 婚姻費用養育費問題研究会 |
7 |
株式会社法〔第8版〕 |
江頭憲治郎/著 | 有斐閣 |
弁護士職務便覧 令和3年度版 |
東京弁護士会・第一東京弁護士会・第二東京弁護士会/編 | 日本加除出版 | |
9 |
倒産実務講義案〔改訂版〕 |
裁判所職員総合研修所/監修 | 司法協会 |
10 | Q&A 令和3年民法・不動産登記法改正の要点と実務への影響 | 荒井達也/著 | 日本加除出版 |
海外情報紹介コーナー⑪
Japan Federation of Bar Associations
弁護士の役割に関する欧州条約作成の動き
弁護士が職務遂行を理由として攻撃・干渉を受ける例が相次いでいるところ、欧州評議会では現在、弁護士の役割に関する条約の作成に向けて、基礎的な調査などの作業が行われている。
日弁連は、2020年の京都コングレスのサイドイベントで、国連「弁護士の役割に関する基本原則」を取り上げるなど、複数の国際法曹団体と共同でこの基本原則を支持する活動を行った。
法の支配のためには弁護士の役割は欠かせない。欧州条約の制定は、弁護士の役割に関する汎欧州の法的枠組みを作る試みとして注目される。
(国際室嘱託 尾家康介)