日弁連新聞 第561号

自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン
新型コロナウイルス感染症の影響を受けた個人債務者への適用開始

arrow_blue_1.gif新型コロナウイルス感染症の影響を受けた個人債務者への「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」の適用開始に当たっての会長声明


10月30日、一般社団法人東日本大震災・自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関が「『自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン』を新型コロナウイルス感染症に適用する場合の特則」(以下「特則」)を公表したことを受け、日弁連は会長声明を公表した。


特則は、新型コロナウイルス感染症の影響による失業や収入・売上の減少等によって、事業性ローンや住宅ローン等の対象債務の返済が困難となった個人事業主を含む個人(以下「個人債務者」)が法的倒産手続によらず、特定調停手続を活用した債務整理を円滑に進めるための準則であり、12月1日から適用されている。


特則の公表を受けて、日弁連は10月30日、「新型コロナウイルス感染症の影響を受けた個人債務者への『自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン』の適用開始に当たっての会長声明」を公表した。


「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」)は、自然災害の被災者が二重ローン等の過重となった債務を円滑に整理し、生活や事業を再建するために金融機関等の関係団体が自主的自律的に策定した準則であり、特則は、これを新型コロナウイルス感染症の影響による場合に応用するものである。


ガイドラインにより債務整理を行う場合には、①登録支援専門家による手続支援を無料で受けられる、②財産の一部を手元に残せる、③債務整理をしたことが個人信用情報として登録されないなどのメリットがあるため、個人債務者の債務整理を行う際には、法的倒産手続を検討する前に、ガイドライン適用の可否を検討することが望まれる。


ガイドラインに基づいて個人債務者を支援する「登録支援専門家」には、弁護士が就任することが予定されており、新型コロナウイルス感染症の影響が全国に及んでいることからすれば、あらゆる地域で登録支援専門家となる弁護士の確保が必要となる。


日弁連は、弁護士会をはじめとする関係諸機関と連携しながら、登録支援専門家となる弁護士の確保や研修の実施、制度の周知・広報等により、ガイドラインの運用に全面的に協力し、個人債務者の生活や事業の再建が着実に果たされるよう取り組む所存である。


(自然災害債務整理ガイドラインに関するワーキンググループ座長 奥 国範)



大韓弁護士協会とのオンライン会議
新型コロナ感染症対策について議論
10月14日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif大韓弁護士協会 (KBA) とオンライン会議(2020年10月14日)を開催し、新型コロナ対策に関する両会の取り組みを議論しました


日弁連と大韓弁護士協会(大韓弁協)は2011年から定期的に「日韓バーリーダーズ会議」を開催しているが、本年は規模を縮小し、新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ感染症」)に関する両会の取り組みについて情報交換するオンライン会議を開催した。


561_1.jpg冒頭挨拶で、大韓弁協のイ・チャニ協会長は、これまでも両会はさまざまな課題について情報を交換してきたが、新型コロナ感染症の問題についても互いのノウハウを交換し協力して解決していきたいと述べた。荒中会長は、本年4月の執行部発足から新型コロナ感染症の問題を最優先課題として取り組んできたと述べ、大韓弁協との情報交換は必要不可欠であるとして会議の開催に感謝の意を表した。


続いて、大韓弁協の新型コロナ感染症対策についてキム・ジュネ副協会長が報告した。大韓弁協では、新型コロナ感染症に関する法律相談Q&Aを作成し、会員へのデータ配布やウェブサイトへの掲載を行った。また、大法院に特別休廷措置勧告を要請し、裁判所の感染防止措置が実現したこと、各種行事や会議を延期・中止・オンライン化したこと、医療現場へのマスク支援や募金活動を行ったことが報告された。


上田英友副会長は、日弁連の取り組みとして、COVID-19対策本部の設置、新型コロナ感染症対策に関する会員向け情報提供、全国統一ダイヤルによる法律相談の実施、会長声明の公表などを報告した。


質疑応答では、大韓弁協の法律相談Q&A作成について、3月初旬にタスクフォースを立ち上げて分野ごとのチームで事例を検討したほか、全国の会員からも今後予想される法律問題を募集し、4月に公表したことなどの説明があった。



シンポジウム
職場における各種ハラスメントと実務対応
10月19日 オンライン開催

arrow_blue_1.gifシンポジウム「職場における各種ハラスメントと実務対応」の開催について


2019年に改正された労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法等により、職場における各種ハラスメント対策の実施・強化が義務付けられた(2020年6月から施行。中小企業は2022年4月までは努力義務)。
法改正を踏まえた職場の体制づくりや相談対応について検討すべくシンポジウムを開催した。


はじめに、太田肇教授(同志社大学政策学部)が「組織論における職場のハラスメント」と題する講演を行った。太田教授は、従来の日本の組織の特徴として閉鎖的、同質的、内部の未分化、組織内における個人の匿名性の高さ、役割の範囲を超えた人格的な序列や上下関係の存在を挙げ、これらの特徴を有する組織のマイナス面としてハラスメントのリスクを指摘した。ハラスメントを防止するための啓発や意識改革には限界があり、組織の制度や働く仕組みを変えることが必要であるとして、メンバーシップ型からジョブ型への仕事の分化、職場そのものの物理的な分化、職場内においてフリーエージェント制を広めていくこと、業績・貢献の「見える化」を進めることなど具体的に取り得る方策を説明した。


続いて、鈴木重也氏(経団連労働法制本部長)が、労働施策総合推進法を受けて定められたいわゆるパワハラ指針の概要を説明し、井上久美枝氏(連合総合政策推進局長)が国内外におけるハラスメントの実態、議論や対策の状況について報告した。


中井智子会員(東京)は使用者側の立場から、佐々木亮会員(東京)は労働者側の立場から、それぞれ法改正が実務に与える影響についてコメントした。



ひまわり

「今年もあっという間だった」年末に交わされるあいさつでよく聞くフレーズである。今年は、例年以上にこの言葉に実感がこもる向きも多いのではないだろうか。未知の感染症に日常生活の変化を余儀なくされ、季節を感じる間もなく、もう師走だ▼わが家には6歳と4歳の子がいるが、この春、楽しみにしていた小学校は始まらず、保育園も休園となり、いや応なく妻も私も仕事を調整し、それぞれ分担してステイホームとなった▼出かけられる場所は近くの小さな公園や買物くらいで、朝起きてから寝るまで一緒に過ごした。でもしばらくして、こんなに濃密な時間はないと思った。子どもは、すぐに親離れすると聞くし、せっかくの機会だ、楽しむことにした。楽しかった。おもちゃの整理は成長を感じられたし、家具を動かし秘密基地も作った。天気がよい日は、それらしく弁当を作って大きな公園まで足を延ばし、シートを敷いて食べた。外で食べるおにぎりは格別によく食べることも分かった。家に戻って、大きなプリンを一緒に作っておやつにした。学生時代のプリン作りのアルバイトの日々を思い出し、その話もできた▼感染症で失ったものも多いが、これまでの走り続ける生活の足を止めて発見もあった。これを来年に持っていきたい。


(D・K)



高齢者・障がい者分野における新型コロナウイルスに関する連続学習会(第1回)
ウィズコロナ時代の障害福祉サービスの現場で起きている課題
障がい者の権利擁護の視点から
10月20日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif高齢者・障がい者分野における新型コロナウイルスに関する連続学習会


新型コロナウイルス(以下「新型コロナ」)感染拡大により、高齢者・障がい者支援の現場では、サービスの提供停止や面会制限、外出制限等、支援体制に大きな影響が生じている。連続学習会の第1回となる今回は、障害福祉サービスの現場における課題に焦点を当て、障がい者の権利擁護を図るために弁護士としてできることを検討した。


又村あおい氏(一般社団法人全国手をつなぐ育成会連合会常務理事)は、新型コロナ自体への不安が感染者や濃厚接触者を非難するなどの差別を生じさせ、差別を恐れて受診や公表を躊躇することで感染が拡大するといった負のスパイラルが問題だと強調した。


山田泰頒氏(社会福祉法人同愛会・知的障害者支援施設てらん広場サービス管理責任者主任補)は、障害福祉入所施設における現状と課題について説明した。1メートル以内の至近距離でないと支援者を意識できない障がいを持つ施設利用者とはソーシャルディスタンスを取れないことや、三密(密集・密接・密閉)を避けられない施設の切実な現状を訴えた。山田氏は、施設利用者には、①公共交通機関の使用ができないといった日中活動の制限、②買い物やカラオケなどの余暇の制限、③家族との面会や交流の制限、④暑気払いや旅行などの年間行事の制限が生じていると述べた。施設の運営においては地域との交流が重要だが、さまざまな行事を中止せざるを得ず、限られた人、限られた場所、限られた機会での生活となってしまう現状について悩みを示した。


日弁連高齢者・障害者権利支援センターの徳田暁委員(神奈川県)は、自らが後見人を務める成年被後見人が居酒屋へ外出したことで施設から契約を解除されそうになったが、後見人が外出だけでは解除理由にはならないと主張して契約解除を免れた事例を紹介した。又村氏は、このような事案はほかにも存在し得ると述べ、「コロナ禍では仕方がない」という硬直化した捉え方がされやすい状況にあるが、疑問を差し挟むのは弁護士の重要な役割だと述べた。徳田委員は、障がい者が行動を制限されることは、本人の意思決定の尊重の点、障がいのない人が自由にできる行動が制限される点で問題があり、どのように対応すべきか議論する必要があると問題提起した。山田氏は、コロナ禍においては権利侵害が起きやすいため、今回のような講演会を頻繁に開催して第三者による検証をしてほしいと要望した。



日弁連短信

コロナと人権

新型コロナウイルス感染症拡大により市民の生活は一変し、また企業活動も停滞を余儀なくされている。特に感染症にり患した市民とその周囲の人々への偏見・差別等に関する事例がマスコミでも多数取り上げられ、社会問題化している。日弁連が4月20日から約3か月間行った全国統一ダイヤルによる無料法律相談でも、家族のり患を理由に請負契約を解除されたとか、飲食店の店主からアルバイトがり患したという風評被害を受けたなどの相談が寄せられた。


日弁連は4月以降コロナ禍における諸問題に取り組み、先の全国統一ダイヤルやひまわりほっとダイヤルによる無料電話相談を実施したほか、会長声明等を多数公表してきた。さらに、9月4日の定期総会で「新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う法的課題や人権問題に積極的に取り組む宣言」を採択した。


他方、感染リスクを避けるため日弁連が毎年行ってきたさまざまなイベントは中止となり、鹿児島で開催予定であった人権擁護大会も中止となった。今後も10月2日に開催された民事介入暴力対策全国拡大協議会大阪のように、感染予防対策を徹底し、ウェブを利用しながら、イベントを開催していくことを想定せざるを得ない。


人権擁護大会の中止に伴い、執行部はこれに代わる人権イベントの年度内の開催が不可欠と考え、人権擁護委員会に企画を要請してきた。同委員会のご尽力により、2021年2月15日に「新型コロナウイルスと人権」と題するイベントが開催される。新型コロナウイルス感染症による偏見・差別をテーマに取り上げる。基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の団体として、今まさに取り上げるべき課題である。オンライン併用のハイブリッド方式となるが、ぜひ参加していただきたい。12月4日・5日には「新型コロナウイルスと偏見・差別・プライバシー侵害ホットライン」も実施することになっている。


また、コロナ禍で失職する市民が増えており、自殺者の数も増大している。日弁連は9月の自殺予防週間に「暮らしとこころの相談会」を、11月11日には急増した偽装ファクタリング被害の相談を受ける「全国ファクタリング被害ホットライン」を、11月12日には「全国一斉解雇・失業・生活相談ホットライン」を実施するなど、コロナ禍で困窮する人々に寄り添ってきた。年末に向けて生活困窮者がさらに増加することを考えると、支援策についてさらなる政策提言を行っていかなければならない。


(事務総長 渕上玲子)



シンポジウム
信託の担い手としての弁護士の役割
アメリカの信託実務調査から学ぶもの
11月11日 オンライン開催

日弁連信託センターが2019年に行った米国訪問調査を踏まえ、弁護士が信託の組成や運営に関わる際の有用な情報を提供するとともに、日本で信託を活用・発展させるための課題について議論した。


561_3.jpg日弁連信託センターの木原恵子幹事(大阪)は、ボストンでの調査結果を報告した。民事信託において弁護士が受託者となる場合、横領の危険の他、受益者の利益を追求することが委託者の希望にそぐわず利益相反を生じる可能性があることを指摘し、これらの対応策として、受託者の複数設置、受益者による受託者の監視や選解任、保険加入などを挙げた。


沖野眞已教授(東京大学大学院)は、信託は専門的知識が必要で組成が難しく、日本の裁判所には英米のような後見的役割もないため、高度な知見や職業倫理を有する弁護士が、受託者としてはもちろん、各当事者の代理人や助言者などさまざまな形で関与することが望まれると述べた。さらに、信託の発展のためには、専門家の団体が専門知識を発揮して制度を育てていくことが考えられるとした。


パネルディスカッションで沖野教授は、信託の内容は自由度が高い分、委託者の意図が反映されているかという視点で将来起こり得るさまざまな事象を予想しながら作り込む作業が肝要であり、弁護士が信託の組成に関わる場合には、委託者が適切に判断できるよう、リスクを含めた十分な情報提供と説明を行う必要があると説いた。


鈴木あかね氏(米ワシントン州弁護士)は、徐々に能力を喪失する場合に備えるには遺言だけでは不十分であることから、米国では生前における資産の管理・承継が重視され、そのような観点から信託が多数利用されていることを説明した。


西片和代副センター長(兵庫県)は、信託では受託者による運営の適正の担保が重要であるにもかかわらず、受託者の事務の重さや負担が理解されず、信託を組成した者も受託者業務をフォローできていない現状を指摘し、受託者に弁護士を選択できるようにするニーズは一定程度あると語った。



第33回 LAWASIA 年次大会・理事会報告
9月10日~10月8日・13日 オンライン開催

arrow_blue_1.gifLAWASIA主催のBar Leaders’ LAWASIA Roundtable(2020年9月10日)に参加し、新型コロナウイルスのパンデミックに対する各弁護士会の取り組みについて議論しました

arrow_blue_1.gifLAWASIA理事会(2020年10月13日)に参加しました


アジア・太平洋地域の法律家団体である「LAWASIA(ローエイシア)」は、本年の年次大会をモンゴルで開催する予定だったが、9月10日から10月8日にかけてオンラインで開催した。9月10日には、オープニング行事として「新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって弁護士会が直面している課題」をテーマとするバーリーダーズ・ラウンドテーブルが開催された。世界各地から18の弁護士会が参加し、日弁連の上田英友副会長は、日弁連が会員を対象として実施したアンケート結果の一部や訴訟期日の再開に関する裁判所との協議等について報告した。


また、他の弁護士会からは、訴訟の遅延をはじめ、権利擁護活動に支障が生じたときの対応、ロックダウンや接触確認アプリの導入といった感染拡大対策と人権保障とのバランス、さらには会員のメンタルヘルスの問題など、法律実務家として直面している共通の課題への取り組みが紹介された。


10月13日には理事会が開催され、日弁連からは荒中会長が出席した。1年間の活動報告やモルディブ弁護士会など4つの弁護士会の新規加盟が承認された。併せて実施された役員選出手続では、日本代表理事に就任した上柳敏郎会員(第一東京)が執行委員会メンバーに選出された。


(国際室嘱託 佐藤暁子)



憲法記念行事シンポジウム
戦争と個人の尊厳 憲法9条の根底にあるもの
11月7日 オンライン開催

arrow_blue_1.gifオンライン憲法記念行事シンポジウム「戦争と個人の尊厳~憲法9条の根底にあるもの~」


561_4.jpg日本国憲法の最も重要な価値の一つである「個人の尊厳」の観点から戦争の実相を捉え直し、恒久平和主義の今日的意義を確認するためのシンポジウムが開催された。(共催:東京三弁護士会)




基調講演

蟻川恒正教授(日本大学大学院法務研究科)は、「『個人の尊厳』という仮構」と題して講演した。第二次世界大戦後のニュルンベルク裁判では、「違法な国家命令に対しては不服従の権利と義務がある」との命題に基づき、この義務に反した個人の責任が問われたが、極限状態にある戦場でも不服従を義務付ける根拠となるのが個人の尊厳であると指摘し、人を人として扱わない戦争の経験が、全ての人を人として尊重する個人の尊厳という基本的価値を見いだしたと論じた。


パネルディスカッション

三上智恵氏(映画監督)が、10代半ばの少年がゲリラ兵として招集された護郷隊やスパイ容疑での住民虐殺など、沖縄戦で多くの民間人が犠牲となった事実を語り、戦争で国民を守れるのかと問題提起した。


山田朗教授(明治大学)は、第二次世界大戦における日本軍の本質は作戦を遂行することにあり、住民を守ることにはなかったと分析し、戦争で顕在化する社会や国家の矛盾を教訓とするため、戦争の真実を分析し語り継ぐ必要があると説いた。


これを受けて蟻川教授は、現代の日本では戦争がリアルな問題として議論されていないと危惧し、山田教授も戦争で人々は気が付かないうちに人権侵害に慣れてしまっており、意識しないと今後も同じことが起こると指摘した。三上氏は住民が巻き込まれない戦争はないと伝え続けることの必要性を訴えた。


憲法問題対策本部の川上詩朗事務局次長(東京)はコーディネーターとして、憲法9条の平和主義は個人が尊厳ある存在であり続けるための理念であり、私たちには戦争の実態を知った上で憲法9条の在り方を主体的に考える責任があると総括した。



最低賃金の全国一律化について考える市民集会
10月27日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif最低賃金の全国一律化について考える市民集会


日本の最低賃金は、世界的に見ると低い上に地域間格差が大きく、かつ、ますます拡大している。他方、最低賃金の大幅な引き上げは、特に地方の中小企業の経営に影響を与えることが予想される。最低賃金の全国一律化の意義やプロセスについて検討した。


日弁連の取り組み

貧困問題対策本部の兒玉修一委員(奈良)は、2008年の人権擁護大会シンポジウムでワーキングプア問題を取り上げて以来、日弁連が最低賃金について積極的に取り組み、2009年に引き上げを求める会長声明、2011年に制度の運用改善を求める意見書、本年2月に全国一律化を求める意見書をそれぞれ公表していることを報告した。地方では日常生活に自動車の保有が必要であることを考慮すると、労働者の生計費に地域間格差はほぼないことが判明しており、地方の最低賃金の大幅引き上げによる全国一律化が必要であると説いた。


格差と貧困―要因と解決策

岡田知弘教授(京都橘大学教授/京都大学名誉教授)は、格差と貧困が広がる要因として、グローバル競争に伴う賃金の引き下げと物価低落、社会保障給付の削減、消費増税による購買力の縮小、大企業向け法人税や富裕層に係る減税をはじめとする不公平な税制度などを挙げた。一方で、社会保険料が中小企業の大きな負担となって賃金の引き上げを困難にしていると指摘した。


これらの問題の解決策として、社会保険料の累進化と給付の引き上げ、社会保険・国民健康保険の中小企業・自治体の負担軽減、消費税の引き下げと法人税の累進課税強化に加え、企業の内部留保増加分への課税を提案し、企業が利益を内部留保ではなく非正規雇用の正規化・最低賃金全国一律1500円の実施・月額2万円の賃上げに充てることを促すべきと主張した。これらの施策で労働者の収入が増えれば国内生産や税収が増加し、人口および企業の都市部集中に伴うリスクの低減や、地方の再生と活性化につながると説いた。




刑事法廷弁護技術研修
10月16日~18日 札幌弁護士会館

徹底した実技演習の反復により法廷弁護技術の基礎を効果的に修得することを目的とするこの研修は、例年、お盆休み期間中に東京で開催されるが、本年は東京オリンピックの開催が予定されていたため、札幌開催に変更された。また、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、受講者を道内の16人に限定し、研修中の換気やマウスシールドの着用など対策を講じた。


研修は、ブレインストーミングというセッションから始まる。事前に配布された事件記録を検討し、弁護人にとって最も説得力のあるケースセオリーを構築する。ケースセオリーとは、弁護人が目指す判決を導く理由である。それは全ての証拠を合理的に説明できるものでなければならない。


その後の実演は、事実認定者にケースセオリーを受け入れさせるという目的に従って行われる。冒頭陳述や最終弁論はもちろん、反対尋問事項の選択や異議を出すか否かの判断においてもケースセオリーが基準となる。


受講者は、冒頭陳述、主尋問、反対尋問、最終弁論の各セッションで実演を繰り返す。実演が終わると、その場で2人の講師から実演した内容についての講評を受ける。さらに録画された実演を別室で見ながら、立ち居振る舞いについての講評を受ける。


今回は、より実践的な研修となるよう、最終弁論の実演の前に講師が検察官論告をしたり、反対尋問の実演の前提となる主尋問デモにあえて調書にない事実を盛り込んだりした。人数を減らした分、一人当たりの実演時間が増え、さまざまなドリルなどに取り組むこともできた。受講者にとっては、ハードながらも充実した3日間になったはずである。


(日弁連刑事弁護センター委員 林 順敬)



ビジネスと人権に関する国別行動計画発表を踏まえて
ステークホルダー報告会
11月9日 オンライン開催

arrow_blue_1.gifビジネスと人権に関する国別行動計画発表を踏まえて~ステークホルダー報告会


日本政府は10月16日、企業活動における人権尊重の促進を図るため、「ビジネスと人権」に関する行動計画(以下「NAP」)を公表した。NAP策定に当たっては、日弁連を含む多くのステークホルダーの構成員が作業部会・諮問委員会に参加し意見交換を行ってきた。NAPの意義や課題を周知し、多くの関係者がNAPの実施や改善に向けたプロセスに関与することを目的として報告会を開催した。(共催:5団体)


根本かおる氏(国際連合広報センター所長)は、企業のSDGs達成への貢献には①企業活動・投資・イノベーションを通じた貢献、②ILOの国際労働基準など国際的な取り決めの下での労働者の権利等の遵守、という切り口があるが、日本では前者に議論が集中しがちであったとして、今回のNAP策定は非常に画期的であると述べた。


富山未来仁氏(外務省総合外交政策局人権人道課長)は、2016年末のNAP策定の決定から公表に至るまでの各プロセス、NAPの内容、今後の実施予定を説明し、誕生したばかりのNAPをこれから大切に育てていきたいと語った。


田中竜介氏(国際労働機関駐日事務所プログラムオフィサー)は、作業部会のさまざまな立場のステークホルダー構成員がNAPに盛り込むべき内容について議論し政府に対して共通要請事項を提出したことや、同日付で政府に対し一貫性のある施策の実施とステークホルダー団体の関与するモニタリング体制の実施を求める合同コメントを公表したことを説明した。


パネルディスカッションでは、NAPの意義・課題と今後の実施の在り方をテーマに意見交換を行った。パネリストからは、政府が初めて企業に対し人権デューデリジェンスを要請したことを評価する意見、今後の課題としてギャップ分析の実施や救済メカニズムの整備・改善が必要だとする意見などが寄せられた。



医療制度改革に関するシンポジウム
新型コロナウイルス感染症拡大による医療の現状から「地域医療構想」を考える
11月5日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif医療制度改革に関するシンポジウム「新型コロナウイルス感染症拡大による医療の現状から『地域医療構想』を考える」


2019年12月に公表された全世代型社会保障検討会議の中間報告では、医療提供体制の改革の具体策として地域医療構想の推進が掲げられている。新型コロナウイルス感染症の拡大による医療崩壊が取り沙汰される中、病床数の削減など地域医療の縮小を進める政府の施策の問題点について議論した。


貧困問題対策本部の森弘典事務局次長(愛知県)は、2012年の社会保障制度改革推進法制定以降、医療制度改革や医療を受ける権利をめぐり日弁連が公表した会長声明、意見書や、2018年の人権擁護大会で示した社会保障と労働のグランドデザインに触れ、日弁連の取り組みを振り返った。


長友薫輝教授(三重短期大学生活科学科)は、全世代型社会保障改革の概要と日本の医療提供体制の現状について説明した。公的医療費の抑制による感染症病床の削減や医療提供体制の抑制の最中に新型コロナウイルス感染症が流行し、医療現場では患者数が増加し、医療従事者の負担は限界を超えて、医療崩壊につながったと述べた。コロナ禍の現況を踏まえれば、病床削減計画の実現を急ぐのではなく、「薄氷を踏む状態」となっている医療現場の改善に向けた取り組みが喫緊の課題であると警鐘を鳴らした。そして、地域から作り上げる視点で社会保障の充実を図り、感染症に強い社会を作ることが必要である、また、感染症は個人の力で対応できるものではないからこそ、公衆衛生など社会保障が整備されてきた歴史を踏まえる必要があると強調した。


森田進氏(日本医療労働組合連合会書記長)は、慢性的な人手不足の中、感染症に対応している医療・介護現場の実情を語った。人権を保障し、医療・社会保障を充実させるには、医療提供体制、特に感染症病床を設備、人員ともに確保すること、研究所や保健所などの公衆衛生を拡充することが必要であると力を込めた。



JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.153

中小企業再生支援全国本部
準則型私的整理の中核を担う

新型コロナウイルス感染症の影響で、準則型私的整理を取り扱う中小企業再生支援全国本部(以下「本部」)の役割は、ますます重要視されています。統括プロジェクト・マネージャーの賀須井章人氏と副統括プロジェクト・マネージャーの加藤寛史会員(第一東京)にお話を伺いました。

(広報室嘱託 柗田由貴)



設置の経緯

(賀須井)中小企業の再生に向けた取り組みを支援するため、2003年2月以降、各都道府県に順次、中小企業再生支援協議会(以下「協議会」)が設置されました。ところが、協議会ごとに運用などでばらつきがあったことから、共通のルールを作るべく、2007年6月に本部が設置されました。


主な業務

(加藤)本部では、協議会が取り扱う案件のうち、支店が全国にある企業や粉飾事案のような、複雑な案件のサポートを行っています。


(賀須井)協議会のプロジェクト・マネージャー(以下「PM」)とサブマネージャーに対する研修、地域の金融機関や専門家向けの研修、協議会が利用するマニュアル等の作成・修正、外部専門家の紹介なども本部の業務です。2014年の産業競争力強化法の施行に伴い、協議会の評価が本部の業務に加わりました。評価報告書には、各協議会の評価が4段階で示されていますので、相談前の参考になると思います。


(加藤)経営者保証に関するガイドライン(以下「ガイドライン」)の普及活動は、ここ2年の重点課題です。また、本年4月には、「新型コロナウイルス感染症特例リスケジュール計画策定支援(以下「特例リスケ支援」)を新たに企画しました。


組織体制

(賀須井)本部には17人のPMが在籍しています。その内訳は、弁護士3人、公認会計士3人、税理士3人、中小企業診断士5人程度であるほか、金融機関出身者が過半数となっており、複数の専門性を兼ね備えた者もいます。


支援スキーム

(賀須井)協議会では、最初に窓口相談で、どのような支援が適切かを検討します。窓口相談でのアドバイス、関係機関や専門家の紹介で相談終了となることもしばしばです。


相談企業等の再生計画策定支援決定後は、協議会が選定した利害関係のない外部専門家が、財務と事業のデューデリジェンスを行います。その結果を基に、企業が売り上げから営業利益までに焦点を当てた事業計画を策定し、外部専門家が検証します。事業計画が固まると、再生手法を選択して、企業が外部専門家のアドバイスを受けながら再生計画を策定します。この再生計画を基に、協議会が金融機関の調整や再生計画調査報告書の作成(ただし、再生手法が債権放棄の場合は外部の弁護士が作成)を行い、債権者会議を開催します。ここで全金融機関の合意があれば、再生計画開始となり、協議会はそのフォローを3年間行います。


特例リスケ支援は、資金繰りに特化した支援です。金融機関に返済猶予を要請して資金計画と損益計画を作り、必要に応じ政府系金融機関に融資を依頼しています。


協議会の特徴

(賀須井)他の準則型私的整理より圧倒的に取扱件数が多いのは、債権者の主張も真摯に検討し各計画に反映させているためであり、これが一番の特徴です。


(加藤)再生手法の8割強がリスケジュールで、小規模の企業も利用しやすい手続です。協議会は全都道府県に設置され、20年近くの歴史があるため、金融機関に周知されていることも特徴です。


課題・展望

(賀須井)協議会の相談件数は、2019年度2247件でしたが、今年9月までの半年間で3千件を超え、うち1300件程度が特例リスケ支援に進んでいます。特例リスケ支援は1年間毎月モニタリングを行いますが、返済の一時停止のみで解決する企業は少なく、新たな借り入れの処理が課題になると予想されます。関係機関を巻き込み、事前に対策を講じる必要があります。


また、事業承継も大きな課題で、再生計画には事業承継が頻繁に登場します。事業の改善が不十分だったり、借入金の保証が難しかったりして事業承継が進まない企業は多く、他機関とも連携し対応しています。


会員へのメッセージ

(賀須井)各計画の策定や金融機関との話し合いが必要な案件があれば、気軽にご相談ください。企業には法的整理が必要でも、経営者はガイドラインにより法的整理を回避できる場合がありますので、この点もぜひご留意いただきたいです。


(加藤)弁護士に相談すると法的整理に持ち込まれるというイメージが根強く、私的整理の普及は道半ばですが、各スキームやガイドライン等がこうしたイメージの払拭に役立てばと思います。



日弁連委員会めぐり106
男女共同参画推進本部

日弁連は、2018年1月に第三次日本弁護士連合会男女共同参画推進基本計画を策定し、男女共同参画に関する組織的かつ横断的な取り組みを推進しています。今回の委員会めぐりは男女共同参画推進本部(以下「本部」)の小川恭子副本部長(滋賀)、杉田明子事務局長(栃木県)、佐藤倫子事務局次長(香川県)に活動内容等についてお話を伺いました。 (広報室嘱託 本多基記)


本部設置の経緯と特徴

1999年に男女共同参画社会基本法が制定され、2002年の第53回定期総会で、「ジェンダーの視点を盛り込んだ司法改革の実現をめざす決議」が採択されました。日弁連としても、男女共同参画社会にふさわしい弁護士会に変化することが求められているとの声が高まり、会内における男女共同参画推進のための基本方針を確立し、推進計画を実行していく司令塔としての役割を果たす機関が必要になりました。2007年4月に「日本弁護士連合会男女共同参画施策基本大綱」を、同年5月に「日本弁護士連合会における男女共同参画の実現をめざす決議」をそれぞれ採択し、同年6月に本部が設置されました。


現在の活動内容

日弁連では、2008年3月に第一次、2013年3月に第二次、2018年1月に第三次の日本弁護士連合会男女共同参画推進基本計画を策定し、男女共同参画推進に向けて取り組みを進めてきました。現在は、第三次基本計画の施策内容である、男女共同参画推進体制の構築・整備、研修・啓発活動など、9つの重点項目に取り組んでいます。女性弁護士の増加は、日弁連の男女共同参画推進のために不可欠ですから、弁護士を志望する女子学生などの裾野を広げるべく、法曹分野進路選択支援シンポジウム等のイベントを開催するなどして情報提供を行っています。また、これまで育児期間中の会費免除制度の拡充等の施策を推進してきましたが、今後は介護離職を防止するための施策も検討を進めるなど、仕事と生活の両立支援に力を入れます。


会員へのメッセージ

本部は、各弁護士会および各委員会からの推薦委員で構成されていて、日弁連の組織を横断する機能を持っています。日弁連を男女共同参画社会にふさわしいものに改革していくために、ぜひ本部の活動に関心を持っていただき、一緒に日弁連の、そして司法の在り方を考えていただきたいと思っています。



ブックセンターベストセラー
(2020年10月・手帳は除く)協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編集者名 出版社名・発行元
1

携帯実務六法 2020年度版

「携帯実務六法」編集プロジェクトチーム/編 東京都弁護士協同組合
2 婚姻費用・養育費等計算事例集(中・上級編)新装補訂版 婚姻費用養育費問題研究会/編 婚姻費用養育費問題研究会
一問一答 令和元年改正会社法 竹林俊憲/編著 商事法務
4

実践 経営者保証ガイドライン

野村剛司/編著 青林書院
5 破産・民事再生の実務〔第4版〕破産編 永谷典雄・谷口安史・上拂大作・菊池浩也/編 きんざい
6 模範六法 2021 令和3年版 判例六法編修委員会/編 三省堂

一問一答 新しい相続法〔第2版〕

堂薗幹一郎・野口宣大/編著 商事法務
8 養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究 司法研修所/編 法曹会
9

債権総論〔第四版〕

中田裕康/著 岩波書店
10 外国人事件Beginners ver.2 外国人ローヤリングネットワーク/編 現代人文社


海外情報紹介コーナー⑨
Japan Federation of Bar Associations

新型コロナ接触確認アプリに関する声明

欧州弁護士会評議会(CCBE)は2020年5月15日、各国政府が感染拡大防止策として新型コロナウイルス接触確認アプリ(以下「アプリ」)を取り入れるに当たり、アプリがプライバシー権等の基本的人権を侵害する危険性を有しているとの懸念を表明し、アプリの導入に際し遵守すべき原則に関する声明を発表した。当該原則では、アプリによる人権の制限は比例原則の下で必要最小限度の範囲でのみ認められるべきこと、利用を強制しないこと、利用しない人に不利益を課さないことなどが掲げられている。


(国際室嘱託 坂野維子)