日弁連新聞 第560号

本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けて

arrow_blue_1.gif本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律の適正な運用を求める意見書


意見書取りまとめ

日弁連は9月10日、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律の適正な運用を求める意見書」を取りまとめた。


取りまとめに至る経緯

2016年6月、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(以下「解消法」)が施行されたが、その後の日弁連の調査で、解消法が十分に機能していないことが明らかとなり、同法の適正な運用が必要であると判断したため、本意見書を取りまとめた。


意見書の内容

意見書では、次の事項について、国や地方公共団体に対し、解消法の適正な運用を要請している。


①不当な差別的言動を解消するための教育


教育内容への過度の介入にならないよう配慮しつつ、教育現場に対し、差別の歴史的背景を踏まえること、何が不当な差別的言動に該当するのかにつき典型例も含め周知することの重要性を示し、不当な差別的言動を解消するための教育活動が実施されるよう求めた。


②不当な差別的言動を伴うデモへの対応


このようなデモが行われる蓋然性の高い場合に警備の警察官が行う解消法の趣旨に関するアナウンスを継続すべきとした上で、表現行為に対する萎縮効果が生じないよう、国が基準を策定することなどを求めた。また現場警備に当たっては、不当な差別的言動に対し反対の声を上げる人々の移動の自由や表現の自由を過度に制限しないよう配慮し、その配慮について第三者を含めて事後的に検証する体制を整えるよう求めた。


③インターネット上の不当な差別的言動の削除要請


集団等を対象とするものであっても、プロバイダへの削除要請を積極的に行うよう求めた。


④公の施設の利用制限


公の施設で不当な差別的言動が公然と行われるおそれが客観的事実に照らして具体的に明らかと認められる場合に利用制限ができるよう条例の改正を求めた。


*    *


現在、一時期に比べ、街頭でのデモは減っているようだが、インターネット上ではいまだに差別的言動が多く見られる。日弁連は、解消法の適正な運用を求めるだけでなく、これらの言動が社会からなくなるまで活動を続けていく。


(人権擁護委員会人種的憎悪を煽る言動などについての検討PT座長 加藤高志)



日本国際紛争解決センター・東京(JIDRC-Tokyo)オープニングセレモニーおよび「仲裁の日」記念行事を開催
10月12日 日本国際紛争解決センター・東京

arrow_blue_1.gif日本国際紛争解決センター・東京(JIDRC-Tokyo)オープニングセレモニーおよび「仲裁の日」記念行事


本年3月に東京・虎ノ門において開業した国際仲裁・ADR審問施設である「日本国際紛争解決センター・東京」を国内外に広く周知するとともに、日本における国際仲裁・ADRのさらなる振興を期してイベントを開催した。(主催:一般社団法人日本国際紛争解決センター(JIDRC)、法務省、公益社団法人日本仲裁人協会、日弁連)


冒頭、上川陽子法務大臣および一般社団法人日本商事仲裁協会の板東一彦理事長による来賓挨拶ならびに海外の仲裁関係者からビデオメッセージで祝意が寄せられた。


基調講演Ⅰでは寺田逸郞前最高裁判所長官(JIDRCアドバイザリーボード議長)が、平成年間のいくつかの法改正等に言及しながら、この間に起こった公と私の境に関する考え方の変化を指摘し、JIDRC設立をはじめ官民の連携による国際仲裁の活性化に向けた取り組みが進んでいることを心強く感じると述べられた。


基調講演ⅡではKevin Kim氏(国際商事仲裁協議会(ICCA)アドバイザリーボードメンバー)が、世界標準の仲裁法制、治安の良さ、素晴らしい観光資源といった日本が従前から有する訴求力に加えて、充実した審問施設の開設により、日系企業を一方当事者とする国際仲裁においてはもちろんのこと、日系企業を当事者としない国際仲裁においても、日本は仲裁地として大変魅力的な存在になったと強調された。


パネルディスカッションでは、海外の仲裁機関、仲裁人、弁護士だけでなく、仲裁を利用する企業の立場からもパネリストが登壇し、日本が今後アジアにおける主たる仲裁地として発展していくために必要なこと、コロナ禍における国際仲裁で物理的な審問施設が果たすべき役割等について意見交換を行った。



第65回市民会議
新型コロナウイルス対応とスクールロイヤーについて議論
9月29日 弁護士会館

2020年度初回の市民会議では、①新型コロナウイルス感染拡大への対応、②スクールロイヤーの2つのテーマについて、日弁連の取り組み状況を報告し、議論を行った。
なお、2020年度市民会議の議長に北川正恭氏が再任され、副議長に村木厚子氏が選任された。


新型コロナウイルス感染拡大への対応

560_1.jpg鎌田健司副会長(仙台)が、新型コロナウイルス感染拡大に関して、日弁連は、計14の会長声明を公表し、定期総会でも宣言を採択したこと、市民に対し相談対応や情報提供を行っていることを報告した。


委員からは、緊急事態においては統治が歪みやすく人権侵害も生じやすいが、その是正を求めることができるのは日弁連であるとの意見や、今後広がるであろう格差問題に対応できるのは日弁連であるとの意見があり、日弁連のさらなる積極的な活動に期待が寄せられた。


スクールロイヤーの整備

子どもの権利委員会の鬼澤秀昌幹事(第二東京)が、子どもの最善の利益を実現するべく日弁連がスクールロイヤーの整備を求めていたところ、近時、その重要性が注目され、国や地方公共団体で体制作りが進んでいることを報告した。


委員からは、現場のトラブルは複数当事者間のものが多いため、抽象的な分析ではなく具体的な対応策のアドバイスが求められるとの指摘や、スクールロイヤーと子どもの意見が対立した場合に子どもの最善の利益をどう実現するか等についてさらに検討すべきであるとの意見が出された。


市民会議委員(2020年9月29日現在)五十音順・敬称略

 井田香奈子(朝日新聞論説委員)
逢見直人(日本労働組合総連合会会長代行)
太田昌克(共同通信編集委員、早稲田大学客員教授、長崎大学客員教授、博士(政策研究))
北川正恭(議長・早稲田大学名誉教授)
吉柳さおり(株式会社プラチナム代表取締役、株式会社ベクトル取締役副社長)
河野康子(一般財団法人日本消費者協会理事、NPO法人消費者スマイル基金事務局長)
鈴木正朝(新潟大学大学院現代社会文化研究科・法学部教授、一般財団法人情報法制研究所理事長)
田中良(杉並区長)
浜野京(信州大学理事(特命戦略(大学経営力強化)担当)、元日本貿易振興機構理事)
村木厚子(副議長・元厚生労働事務次官)
湯浅誠(社会活動家、東京大学先端科学技術研究センター特任教授)


ひまわり

秋だ。例年であればこの時期は、各地でシンポジウムや大会などが開かれるイベントシーズンだ。大規模なイベントには懇親会がつきものだが、日中の参加がかなわずやむなく懇親会だけ参加という経験をお持ちの会員もいるだろう。この時期は毎週のように全国どこかの懇親会場で乾杯の挨拶がされていた。ところが今年はこれがない▼「乾杯」は、宗教的儀式が転じて仲間の健康や成功を祈念し祝福する儀礼となったものだと言われている。その機能的な意味は「時間に折り目をつける」ことであると、ある文化人類学者が言っていた▼酒という、許される時と場所が限定された、ある意味で禁忌を伴う物を、共同体の参加者が一つの空間で同時に摂取する。そのような特殊な時間にこれから入るのだということを宣言し、確認する。食卓の「いただきます」も同じような儀式だ▼人類にとって飲食は、単に生命維持に必要な栄養素を摂取するだけの行為ではない。こうした儀式は世界各国にあり、人類は飲食の時間と空間を、時間に折り目をつけて他者と共有することで、共同体の紐帯(ちゅうたい)を保ち、豊かにしてきた▼大人数が一堂に会して乾杯を唱和する光景の復活はいつになるのだろう。画面越しの乾杯だけでは、やはり寂しい。


(H・N)



取調べの可視化フォーラム
日常の隣にある密室の取調べ
9月30日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif取調べの可視化フォーラム「日常の隣にある密室の取調べ」【WEB開催】


改正刑事訴訟法が取調べの録音・録画を義務付けている対象事件は限定されている。本フォーラムでは、東京・築地で駐車違反の取り締まりを受けた二本松進氏が違法に逮捕・勾留され(刑事処分としては不起訴処分)、その後、国家賠償請求訴訟で東京都に対して240万円の支払いを命ずる判決が確定した築地公務執行妨害罪ねつ造事件(以下「本件」)を取り上げ、取調べの可視化の対象範囲拡大の必要性などについて議論した。(共催:東京三弁護士会)


560_2.jpg事案の概要・当事者の体験報告

本件の代理人を務めた今泉義竜会員(第二東京)が事案の概要を説明した。二本松氏は、「自白したらすぐに釈放する」等の捜査官による利益誘導があった当時の取調べ状況や、長期の身体拘束により自身が経営する飲食店の状況を心配して自白に至った胸の内を語った。


可視化はなぜ必要か

パネルディスカッションで前田裕司会員(宮崎県)は、現行法の可視化対象事件以外でも違法な取調べが行われていること、身体拘束前の任意取調べや在宅事件、参考人取調べであっても過酷な取調べとなる場合もあることから、録音・録画対象範囲を「全事件」「全過程」に拡大すべきと提言した。今泉会員とともに本件の代理人を務めた小部正治会員(東京)は、えん罪や違法な身体拘束防止の観点から可視化の必要性を説いた。身体拘束は社会生活に支障を来すことが多く、捜査官から早期の釈放を示唆された被疑者は、捜査官に迎合して意に反する自白をする可能性があるため、えん罪を生む温床となる。また、本件では暴行態様に関する二本松氏の供述に変遷があったが、録音・録画されていれば変遷の不合理さが明らかとなり、国賠請求で二本松氏(原告)が負担する立証責任の問題も早期に解決できたし、そもそも検察官が嫌疑不十分で釈放していたであろうと述べた。



日弁連短信

民事裁判手続IT化と日弁連の取り組み

560_3.pngIT化の経過


日弁連は、市民のための司法の観点から、かねてより裁判のIT化に関する提言等を行ってきた。政府においても、2018年3月に裁判手続等のIT化検討会が3つのe(e提出・e事件管理・e法廷)について、フェーズ1(現行法下で実現可能なウェブ会議等の運用)、フェーズ2(法改正によって直ちに実現可能な弁論等の運用)、フェーズ3(法改正に加えてシステム構築等の整備を必要とするオンライン申し立て等の運用)の段階的実現を目指すとの取りまとめを発表した。また、昨年4月に民事司法制度改革推進に関する関係府省庁連絡会議が組織され、本年3月には、国際化社会の一層の進展を見据えた民事司法制度の在り方という視点から、民事裁判手続のIT化等の方策について、関係機関が具体的な実施・検討を着実に行う必要があるとの取りまとめがなされた。そして、本年2月からは、各裁判所におけるフェーズ1の運用が順次開始され、来年度中にはいわゆるフェーズ3の先行実施(現行法の下での一部書面のオンライン提出開始)が予定されている。


さらに、公益社団法人商事法務研究会に民事裁判手続等IT化研究会が立ち上げられて、昨年12月に検討結果をまとめた報告書が発表され、本年6月から法改正に向けた法制審議会の部会での検討が急ピッチで進められている。


日弁連の取り組み


日弁連は、前記研究会報告書に対する意見書を本年6月に取りまとめ、民事裁判手続等のIT化に関する検討WGを中心として、法制審議会部会の弁護士委員・幹事へのバックアップを精力的に行っている。


また、事件管理システム構築に関し、フェーズ3の先行実施対応も含めて最高裁との協議の機会を持ち、ユーザーの視点から極めて多岐にわたる事項を検討している。


さらに、フェーズ1の運用状況の検証とともに、オンライン申し立ての原則義務化の前提条件である本人サポートの在り方や具体的内容についても鋭意検討を進めている。


今後は、順調にいけば来年2月頃の公表が見込まれる法制審議会部会の中間試案に対するパブリックコメント対応も必要となる。


このように、IT化に向けた動きはめまぐるしいが、市民のための司法という視点を忘れることなく、今後もその実現に向けて取り組んでいく必要がある。


(事務次長 藤原靖夫)



日弁連民事介入暴力対策委員会設立40周年記念大会
第9回民事介入暴力対策全国拡大協議会大阪
新たな局面を迎えた民暴対策の展開
10月2日 大阪弁護士会館

新型コロナウイルス感染拡大を受け、日弁連の大規模イベントの多くが延期・中止される中、本協議会は、新型コロナウイルス感染拡大後、日弁連としては初めて実施する大規模行事となった。当日は、サテライト会場も含め協議会史上最多の約850人が参加した。(共催:近畿弁護士会連合会・大阪弁護士会)


本協議会では「組長責任の再構成」「ホワイト化受入れの現状及び今後の展望」「不当要求対策の実践と立法提言」「組織犯罪対策」の4つのテーマについて、実践的かつ先進的な報告が行われた。


開催に当たっては、新型コロナウイルス感染防止対策に万全を期した。具体的には、全国65の弁護士会・支部をサテライト会場として大阪の本会場と中継で結び、一部の挨拶や報告は東京会場から行ったり、事前に収録したビデオを放映するなどの工夫を凝らした。さらに感染防止対策に関する各種ガイドラインを参照し、各会場においては、マスク着用や手指消毒は言うまでもなく、会場出席者の徹底把握、収容人員の制限、外部参加者の制限、会場でのソーシャルディスタンスの確保など可能な限りの感染防止策を講じた。これらの対策を講ずるため、事前に詳細な計画を策定して綿密な調整を行い、全弁護士会にサテライト会場の設置・運営と感染防止策の徹底につき準備と協力を依頼した。その結果、協議会史上最多となる参加者を得て、大過なく成功裏に終えることができた。


本協議会の実現が、コロナ禍における日弁連の今後の活動の先鞭となれば幸いである。


(民事介入暴力対策委員会 幹事 疋田淳)



全国一斉「暮らしとこころの相談会」を46弁護士会で実施

arrow_blue_1.gif令和2年度自殺予防週間(9月10日~9月16日)を中心に、全国一斉「暮らしとこころの相談会」を実施します


「自殺予防週間」(9月10日〜16日)を中心とした日程で、「自殺予防週間における全国一斉『暮らしとこころの相談会』」を実施した。(共催:各弁護士会・日本司法支援センター)


日本の年間自殺者数は、2011年まで14年連続して3万人を超えていたが、2012年以降3万人を下回り、2019年には約2万人に減少したものの、自殺率(人口10万人当たりの自殺者数)は依然高い。今般のコロナ禍の影響か今年7月~9月は前年同月比で自殺者数が増加しており、今後も対策が必要な状況である。


政府は、自殺を社会的な問題と捉えて自殺対策基本法、自殺総合対策大綱を定め、官民連携して自殺対策に取り組むことで自殺者の減少を図っており、9月の「自殺予防週間」に加え、月別自殺者数が最も多い3月を「自殺対策強化月間」として、集中的な自殺対策の活動を呼び掛けている。日弁連はこれに応えて2012年から各地の弁護士会の協力を得て毎年度9月と3月に「暮らしとこころの相談会」を実施しており、今回が通算17回目となる。


今回の相談会には、10月7日集計時点で510件の相談が寄せられ、例年と同様に家事事件、多重債務の相談が多くみられた。


(貧困問題対策本部 事務局員 山田治彦)



法曹人口検証本部活動開始

本年7月の理事会において法曹養成制度改革実現本部内に「法曹人口検証本部」を設けることが確認され、これまでに全体会議が2回開催された。


法曹人口検証本部は、司法試験合格者数1500人達成後のさらなる減員について、現実の法的需要、司法基盤整備、法曹の質等の観点から検証し、法曹養成制度改革実現本部の委員である理事の意見を聴きながら、将来の法曹人口についての今後の方針を、荒会長の任期中に取りまとめることを目指すこととしている。


同本部では、①業務量・求人量(現実の法的需要)、②司法基盤整備の状況、③法曹の質という論点項目を設定し、それぞれの論点項目に関するデータや資料に基づく議論を行った上で、2021年秋頃に取りまとめ案を策定し、弁護士会に意見照会を行う予定である。



オンラインセミナー
改正公益通報者保護法の概要と今後の課題
9月28日 オンライン開催

arrow_blue_1.gifオンラインセミナー「改正公益通報者保護法の概要と今後の課題」 


本年6月に成立、公布された改正公益通報者保護法(以下「改正法」)は、通報者保護の拡充、保護要件の緩和、事業者や通報受付担当者に対する義務の新設など内容が多岐にわたり、企業や労働者に与える影響は大きい。2年以内の施行に向けて、改正内容を周知し、今後の課題について検討した。


本年6月に成立、公布された改正公益通報者保護法(以下「改正法」)は、通報者保護の拡充、保護要件の緩和、事業者や通報受付担当者に対する義務の新設など内容が多岐にわたり、企業や労働者に与える影響は大きい。2年以内の施行に向けて、改正内容を周知し、今後の課題について検討した。


消費者庁の担当者が改正法の概要について、①事業者に対し、内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等を義務付け、内部調査者に刑事罰を伴う守秘義務を課したこと、②権限を有する行政機関や報道機関等への通報の条件を緩和したこと、③保護される通報者について労働者だけでなく退職者や役員を追加し、通報内容に刑事罰の対象だけでなく行政罰の対象を加え、通報に伴う損害賠償責任の免除を追加したことを説明した。


消費者問題対策委員会の志水芙美代副委員長(東京)は、改正法で保護対象に含まれた「退職者」が退職後1年以内に限定された点、従業員数300人以下の事業者の内部通報体制整備義務が努力義務とされた点は改めて検討が必要だと述べた。


拝師徳彦副委員長(千葉県)は、当事者団体や消費者団体など22団体で構成される「市民のための公益通報者保護法の抜本的改正を求める全国連絡会」を中心に行った議員要請などの法改正に向けた活動を振り返り、課題は山積しているが、引き続き関係団体と連携しながら課題解決に努めたいと今後の活動に意欲を示した。


内部通報をしたことが原因で会社から不当な取り扱いを受け、人事異動の無効と損害賠償を求めて最高裁まで争った濱田正晴氏(オリンパス株式会社)は、今後も自らの経験を伝えることで、改正法が適正に運用されるよう力を尽くし、人権擁護の底上げをしたいと意気込みを語った。参加した消費者関連団体からも発言があり、改正法には評価できる点もあるが、不利益取り扱いに対する行政措置・刑事罰が盛り込まれなかったことなど課題も残されており、今後の見直しについても注視が必要との意見があった。



シンポジウム 「30%」は企業を変えるのか
30% Club Japanの活動と女性活躍先進企業の好事例
10月5日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif【経済団体・企業関係者・弁護士対象】シンポジウム「『30%』は企業を変えるのか~30% Club Japanの活動と女性活躍先進企業の好事例~」 


社会のあらゆる分野において、2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度とする目標、いわゆる「202030」の総括の年に、企業の意思決定機関における健全なジェンダーバランスの重要性について改めて検証すべくシンポジウムを開催した。(共催:東京三弁護士会ほか6弁護士会)


30% Club Japan創設者の只松美智子氏は基調講演で、多くの問題の根底には格差と不平等があり、その解決に寄与するジェンダー平等の実現は、多くの社会課題の解決につながる横断的価値であると強調した。そして企業の重要意思決定機関に占める女性の割合の向上を通して企業の持続的成長を目指す30% Club Japanの活動を紹介し、「30%」は変化を起こすために必要な最低限の量であると数字に込められた意味を説明した。


続いて、男女共同参画推進本部の山神麻子幹事(第一東京)が、女性社外役員の候補者を決定するために利用できる名簿を上場会社等からの申請に基づき弁護士会が提供する、女性弁護士社外役員候補者名簿提供事業の概要を説明した。


パネルディスカッションは、女性社外役員として活躍する会員のほか、女性の活躍推進に積極的に取り組む複数の企業、30% Club Japanの活動の一つである「TOPIX社長会」の運営にかかわる立場からパネリストを招いて行われた。女性が取締役会のメンバーに加わることで取締役会に起きた変化、社内の女性管理職をはじめ従業員に与えた影響、女性社外役員に対する期待や要望、女性社外役員が自らの役割として意識していることなど、女性社外役員の登用を検討する企業、社外役員として活躍したいと考える会員や既に社外役員として活動している会員にとって関心の高いテーマについて充実した議論が交わされた。



第12回 貧困問題に関する全国協議会
9月18日 オンライン開催

各地の貧困問題について全国的に情報を共有して意見交換を行うため、弁護士会の関連委員会委員等が参加して協議会を開催した。
本年はコロナ禍の影響による貧困問題の深刻化が主要なテーマとなった。


貧困問題対策本部の猪股正副本部長(埼玉)は、本年4月から8月にかけて弁護士など有志が実施した4回の電話相談の報告をした。特に緊急事態宣言中は労働者や自営業者から解雇や休業による生活困窮を訴える相談が数多く寄せられたが、本年12月には住居確保給付金など各種支援が終了する可能性があるため、11月12日に日弁連が全国一斉ホットラインを実施すると案内した。


中村和雄事務局員(京都)は、休業、解雇・雇い止め、採用内定取り消しなどコロナ関連の労働問題に関する法律知識や各種支援制度の情報の入手方法を解説した。


民谷渉委員(京都)は、コロナ禍で増える生活保護、公的貸付、税金・公共料金滞納に関する相談に対する回答を「コロナ災害を乗り越える・いのちとくらしを守るQ&A」を用いて説明した。


岩重佳治事務局員(東京)は、学費や生活費に困窮する学生の支援制度として貸与奨学金、高等教育修学支援新制度、学生支援緊急給付金の概要と問題点を解説し、コロナ禍で顕在化した奨学金問題の根本的解決の必要性を指摘した。


続いて、各地の弁護士会の貧困問題への取り組みとコロナ禍の影響について意見を交換した。東京、広島、愛知の相談会でのコロナ対策や相談実績の紹介、大阪や宮崎のコロナ電話相談の報告があった。また、各地からコロナ禍で行政等との連携が困難になっているとの問題意識が示された。


小川英郎事務局次長(第二東京)は、地域別最低賃金を廃止することなどを内容とする「全国一律最低賃金制度の実施を求める意見書」の内容を紹介した。


小久保哲郎事務局次長(大阪)は、生活保護受給者に準じた生活困窮者に対する民事法律扶助の立替金の償還猶予・免除制度の要件や手続を解説し、コロナ禍で貧困問題の相談が増えている今こそ積極的に活用してほしいと呼び掛けた。



国際分野で活躍するための法律家キャリアセミナー
9月12日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif国際分野で活躍するための法律家キャリアセミナー


560_4.png多様な国際業務への理解を深め、目指すキャリアプランを中長期的視点で考える機会としてセミナーを開催した。(共催:法務省・外務省)


指宿昭一会員(第二東京)は、外国人技能実習生の残業代請求事件に携わったことを契機に外国人労働者の事件を多数取り扱うようになり、執筆、取材、立法支援などの依頼も受けるようになった経験を紹介し、国内でも国際的業務ができると説明した。


中島啓准教授(東京大学社会科学研究所)は、国際司法裁判所法務官補の経験を踏まえ、学位、実務経験、語学力などの要件を満たせば、国際機関でキャリアを積む道が開かれると説いた。


谷内一智氏(外務省国際法局経済紛争処理課長)は、外務省では、条約の交渉や締結、国際法の解釈や運用、紛争処理等の業務を通じ、国際社会における法の支配の拡大に貢献できると述べた。


川淵武彦氏(法務省訟務局国際裁判支援対策室長)は、訟務局では、国が当事者である訴訟追行のほか、関係省庁への予防司法支援や国際裁判支援を行っており、政府を依頼者に、国内法と国際法を駆使したダイナミックな活躍ができるとその魅力を伝えた。


矢吹公敏会員(国際法曹協会弁護士会問題評議会副議長/東京)は、専門性を磨いてネットワーク構築を継続することが国際法曹団体での活動につながると説いた。


前田絵理会員(第二東京)は企業内弁護士の立場から、法務部、経営企画部、海外現地法人での勤務を通じて携わってきた国際的業務について紹介した。


磯井美葉会員(第一東京)は、国際協力機構(JICA)国際協力専門員の経験から、大陸法と英米法の影響を受けた日本は法制度に対し相対的な視点を持ち、押し付けでない法整備支援ができるとして、日本の法整備支援の特長を説明した。


大谷美紀子会員(東京)は、国連子どもの権利委員会委員として活躍する立場から、円滑なコミュニケーションの基礎として、たゆまない語学研さんの必要性を伝えた上、国際分野を目指す若者たちにエールを送った。



シンポジウム
「収容・送還問題」の真の解決に向けて
9月24日 オンライン開催

arrow_blue_1.gifシンポジウム「『収容・送還問題』の真の解決に向けて」


法務省が本年6月に取りまとめた「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」(以下「本提言」)は、本邦から退去しない行為に対する罰則の創設や、再度の難民認定申請者について送還停止効に例外を設けるなど多くの改善すべき点が含まれている。本シンポジウムでは、本提言の問題点や改善すべき点を議論した。


人権擁護委員会の駒井知会特別委嘱委員(東京)が、収容送還の現状と問題点を報告した。日本の難民認定率が他の難民条約締結国と比べて著しく低いことを示し、保護すべき難民を認定できる審査制度が求められていると力を込めた。


リレー報告では、難民認定申請者が実体験を報告し、貧困や政治的・宗教的迫害などさまざまな境遇の難民に対する理解を求めた。


提言報告では、山岸素子氏(NPO法人移住者と連帯するネットワーク)が、収容送還問題の解決のためには、収容制度の改善、難民保護法制度の改善、非正規滞在者の正規化が必要と述べ、在留特別許可の申請手続の法制度化や新たな類型に基づく在留特別許可などを提案した。新島彩子氏(NPO法人難民支援協会)は、送還停止効に一定の例外を設けることは難民保護の理念に反し許されないと主張した。また、送還の促進ではなく、難民認定制度の改善を優先すべきと訴え、難民認定基準の明確化や、審査への代理人の同席など手続保障の必要性を説いた。本田麻奈弥委員(第一東京)は、本提言について、退去しない行為等に対する刑事罰創設、難民認定申請者の本国送還を可能にする例外を設けることに反対し、①出入国管理行政の目的に外国人の人権尊重、難民保護を明記する、②在留特別許可に関して、国際人権法に基づいた要件を明示する、③収容の要件を「逃亡すると疑うに足りる相当の理由があるとき」に限り、司法審査、収容期間の上限を設ける、④「新たな収容代替措置」について、全件収容主義を前提とせず国が責任を持って関与する制度とすることを提案し、難民条約締約国としての義務を果たすべきと強調した。



JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.152

独立行政法人国民生活センター
消費者問題・暮らしの問題に取り組む中核的な実施機関

560_5.jpg高齢化やネット社会の発達によるサービスの複雑化を背景に消費者被害は後を絶たず、全国の消費生活センター(以下「相談センター」)には多くの相談が寄せられています。独立行政法人国民生活センター(以下「センター」)は、全国の相談センターに対して個別の相談に関する処理方法の助言を行い、相談センターが受けられなかった相談などに対応しています。今回はセンターを訪問し、PIO―NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)を所管する情報管理部の林大介次長、石川邦彦氏、紛争解決委員会事務局の枝窪歩夢調査役補佐からお話を伺いました。

(広報室嘱託 本多基記)


今年で設立50周年を迎えます

センターは、1970年10月に発足し、組織変更を経て、今年で設立50周年の節目を迎えます。役員6人、職員140人、非常勤職員等を含めると約300人で運営しています(2020年4月1日現在)。


センターの業務が消費者被害の予防と救済を実現します

センターの主な業務は①相談、②相談情報の収集・分析・提供、③商品テスト、④広報・啓発、⑤教育研修・資格制度、⑥裁判外紛争解決手続(ADR)、⑦適格消費者団体支援です。それぞれの業務が相互に補完し合い、センターが一体となって業務を実施することで消費者被害の予防と救済のための3つの機能を実現しています。


一つ目は全国の相談センター等に対する支援です。全国の消費生活相談窓口に対するワンストップサービスとして、相談処理のアドバイス等を行う経由相談、PIO―NET等による情報提供、苦情相談解決のための商品テスト、相談員等への研修、紛争解決困難事案の裁判外紛争解決手続(ADR)を実施しています。


二つ目は消費者に対する注意喚起です。相談、商品テスト、PIO―NET情報等に基づき消費者に対して積極的に注意喚起をしています。2019年度は記者説明会等を通じて合計72件を公表するなど取引や安全に関する注意喚起をしました。


三つ目は、業務で培った問題意識をもとにした行政機関や事業者団体等への要望、情報提供です。2019年度は17件の改善要望を行い、そのうち12件について対応を確認し、その他48件の情報提供を行いました。


PIO―NETによる相談情報が紛争予防・解決に役立ちます

センターでは、1984年からPIO―NETを通じて、全国の相談センター等に寄せられた消費生活相談情報を収集し、その内容を分析し、全国の相談センター等の相談業務に対する支援、消費者に対する注意喚起などに役立てています。また、適格消費者団体への情報提供のほか、弁護士会照会や裁判所からの調査嘱託、捜査機関からの捜査事項照会にも応じています。


2019年度に弁護士会照会に対してPIO―NETの情報を開示した件数は266件でした。相手方事業者の相談件数や問題となった事例の概要などについて回答しており、事業者の常習性・悪質性の立証などに利用されています。今後も、消費者被害の救済に有効に活用していただきたいと思います。


消費者問題に特化したADRを実施しています

560_6.JPGセンターに設置された紛争解決委員会では、各地の相談センターで解決できなかった事案等の重要消費者紛争について、裁断型手続である仲裁と調整型手続である和解の仲介(あっせん・調停)により紛争を解決しています。消費者問題専門のADR機関として専門的知見を有する委員が手続を担当します。委員が消費者の後見的役割を担い、事業者との格差を補うため、実質的に対等の立場で交渉が可能になります。また、手続自体に強制力はないものの、独立行政法人国民生活センター法に基づく実効性の担保措置として、事業者名を含む結果の概要の公表など独自の制度が存在します。


紛争解決委員会は委員と特別委員で構成されますが、現在、委員14人のうち5人が、特別委員50人のうち28人が弁護士です。その他、消費生活相談員や建築士、医師、大学教授等さまざまな立場の方が就任しています。和解の仲介手続は主に2人の委員で担当します。全体的なコストを考えたアプローチで事業者を説得して解決に至る事案では、弁護士の役割は大きいと感じます。


紛争解決委員会では、委員等として関わっている弁護士のほか、事務局内で手続の実施支援に携わる嘱託の弁護士も活躍しており、紛争解決委員会の運営に弁護士によるサポートは必要不可欠です。今後も消費者被害の予防と救済のため、センターの活動を支える一層の活躍を期待しています。



日弁連委員会めぐり105
日弁連リーガル・アクセス・センター(LAC)

今回の委員会めぐりは、日弁連リーガル・アクセス・センター(以下「LAC」)です。
今年設立20周年を迎えるLACは、対象事件や取扱件数が拡大する中、年々活動が活発になっています。その内容などについて、和田光弘委員長(新潟県)と伊藤真悟事務局長(第二東京)からお話を伺いました。

(広報室嘱託 柗田由貴)


弁護士費用保険とLACの誕生・発展

560_7.jpg日弁連は、司法アクセスの拡充、ひいては弁護士業務の拡大を目指し、2000年、保険会社と協力して弁護士費用保険を創設するとともに、LACを弁護士業務改革委員会から分離独立させて設置しました。


対象事件について、設立当時は交通事故の被害事件に限られていましたが、今や交通事故の刑事弁護事件、交通事故以外の民事事件(労働事件や慰謝料請求事件など)、家事事件、医療機関などの事業者に対する業務妨害事件、中小企業の事業活動に係る事件にまで広がっています。また、LAC取扱件数も、2001年度は3件でしたが、2019年度は約4万件になりました。


2018年には制度の信頼を維持するべく、LACと別組織として弁護士費用保険ADRが設置され、今までに20件余りのADR申立てが行われました。


LACの活動内容

日々、保険金支払基準に関する問い合わせに対応しています。問い合わせは会員と保険会社いずれからも同じ程度あります。よく問題になるのは、タイムチャージの対象業務か、税別60万円を超えたタイムチャージ発生の必要性・相当性があるか、着手金・報酬金方式における経済的利益の範囲、保険金支払対象となる実費の範囲などです。LACでは、問い合わせを受け、保険金支払基準や書式などの変更も検討します。


他にも、新しい保険商品について保険会社から相談を受けたり、設立20周年行事について検討したりしています。後者については、来年度の弁護士業務改革シンポジウムで、さらなる司法アクセスの拡充と弁護士業務の拡大を企図して分科会を開催する予定ですので、ご期待ください。


会員へのメッセージ

相談者が加害者か被害者かを問わず、本人やその家族の弁護士費用保険が利用できないかを受任時にご確認いただくことをお勧めします。自分がどのような保険に加入しているか正確に理解していない相談者が多いので、法テラスの利用などを勧める前に、まずは確認を促してみてください。


また、保険そのものに関する知識についても、都度深めるようにしていただきたいと思います。



ブックセンターベストセラー
(2020年9月・手帳は除く)協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編集者名 出版社名・発行元
1

携帯実務六法 2020年度版

「携帯実務六法」編集プロジェクトチーム/編 東京都弁護士協同組合
2 婚姻費用・養育費等計算事例集(中・上級編)新装補訂版 婚姻費用養育費問題研究会/編 婚姻費用養育費問題研究会
3 養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究 司法研修所/編 法曹会
4

弁護士になった「その先」のこと。

中村直人・山田和彦/著 商事法務
5 令和2年度版 弁護士職務便覧 東京弁護士会・第一東京弁護士会・第二東京弁護士会/編 日本加除出版
6 新問題研究 要件事実 付ー民法(債権関係)改正に伴う追補ー 司法研究所/編 法曹会
7

著作権法〔第3版〕

中山信弘/著 有斐閣
8 婚姻費用・養育費の算定〔改訂版〕 松本哲泓/著 新日本法規出版
9

即実践!!電子契約

高橋郁夫・北川祥一・斎藤 綾・伊藤蔵人・丸山修平・星 諒佑・西山 諒・細井南見/編集 日本加除出版
10 遺言モデル文例と実務解説〔改訂版〕 満田忠彦・小圷眞史/編 青林書院


日本弁護士連合会 総合研修サイト

eラーニング人気講座ランキング 2020年9月

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順位 講座名 時間
1 改正相続法と家裁実務~遺産分割事件を中心として~ 104分
2 法律事務所事務職員向け初級研修 書類の取り寄せ方・見方 130分
3 民事執行法等の改正と家事事件実務~子の引渡し,第三者からの情報取得手続,財産開示手続ほか~ 100分
4 債務整理事件処理における留意事項~多重債務者の生活再建のために~ 87分
5 2020雇用形態による不合理な待遇差の解消に関する改正法と実務~パートタイム労働法、労働者派遣法のポイント~ 104分
6 改正民事執行法の実務上の諸問題(金銭債権執行の事例検討を中心に) 120分
7 2019年度ツアー研修 第2回 労働事件への実践的対処法~地位確認・残業代請求・ハラスメントを中心として~ 157分
8 民法(債権法)改正と倒産実務への影響 110分
9 自然災害債務整理ガイドラインの実務に関する研修会 105分
10 尋問技術 240分

お問い合わせ先:日弁連業務部業務第三課(TEL:03-3580-9902)