第45回定期総会・司法改革に関する宣言(その3)

(司法改革に関する宣言(その3))

われわれは、二度にわたる司法改革宣言を経て、日弁連の各種委員会や各地の弁護士会において様々な分野での改革を検討し、実践してきた。しかし司法改革への道は未だ緒についたばかりであり、今こそ、その飛躍的前進へ向けて、本格的な運動の展開を図らなければならない時期を迎えている。


司法改革は、司法を市民にとって身近で、利用しやすく、納得のできるものにすることを目指すものであり、本来その担い手は市民である。われわれはそのことを常に念頭に置き、市民と連帯し、市民とともに司法改革を実現していかなければならない。そのためには、弁護士及び弁護士会も自身を、市民にとって身近で、利用しやすいものにするべく自己改革をしていかなければならない。


また、市民とともに司法改革を実現していくためには、市民の目に見える大きな目標を提示して、そこに迫る道程を明らかにしていくことが必要である。その目標としては、(1)全国どこにでも市民の身近なところに裁判所や弁護士が存在し、市民が適切で迅速な権利の実現を容易に得られるような体制を整備すること(弁護士偏在の解消と司法の物的・人的規模の拡充)、(2)陪審や参審など市民が直接司法に参加する制度を検討し導入すること(市民に開かれた司法の促進)、(3)裁判官や検察官は市民の生活に直接触れて来た弁護士から採用していく制度を確立していくこと(法曹一元の実現)、等が挙げられる。われわれは、これらの目標を達成するために、日弁連及び各弁護士会の様々な分野における実践を通じて、その成果を積み上げ、集約して市民に提示していかなければならない。


われわれは、以上のような司法改革に関する基本的な考え方を、日弁連の活動方針の求心的な理念として据えるとともに、市民との連帯、日弁連の各種委員会や各弁護士会の活動の有機的結合を通じて、司法改革に取り組む運動をさらに強化し、その実現を図る決意である。


以上のとおり宣言する。


1994年(平成6年)5月27日
日本弁護士連合会


提案理由

1. 当連合会は、1990年(平成2年)と1991年(平成3年)の定期総会において、2度にわたり司法改革に関する宣言をした。


当連合会は、1990年(平成2年)には日弁連刑事弁護センターを設置したが、1991年(平成3年)に法律相談事業に関する委員会、1992年(平成4年)に司法改革推進本部、さらに1993年(平成5年)には法律扶助制度改革推進本部を新たに設置し、その他の委員会における活動と併せて、様々な分野における改革を検討し、実践してきた。


ごく最近の例を挙げると以下のとおりとなる。


  1. 裁判所、検察庁に市民感覚を持込み、裁判官、検察官不足に対処するための弁護士任官の推進
  2. 当番弁護士制度の全国的展開、接見交通権の確立などとそれを契機とする刑事司法改革への試み
  3. 裁判所の人的・物的設備の充実や日常業務の運用改善を手始めとする民事裁判の総合的改革への取り組み
  4. 最高裁裁判官の任命手続の改革と国民審査の活性化
  5. 法律扶助制度の抜本的改革への取り組み
  6. 刑事処遇法案の策定
  7. 弁護士報酬等基準規程を市民によりわかり易くするための改正作業
  8. 弁護士業務の共同化や弁護士偏在問題に取り組む「弁護士業務改革6ヶ年計画」の策定への着手
  9. 法律相談活動の拡充を図るための諸活動
  10. 消費者のための製造物責任法の立法化への取り組み
  11. 両性の平等、子どもの権利、環境保全等に関する様々な人権侵害に対応するための各種活動
  12. 市民に身近な裁判の実現を目指す裁判傍聴運動の全国的な展開への支援

2. ところで2度にわたる司法改革宣言は、司法の現状を、現代社会における法的紛争の適正迅速な解決、人権保障、行政権に対するチェックなどの面においてその機能を十分に果たしていないばかりか、むしろ市民から遠ざかりつつあり、抜本的改革を要する状態にあると分析したうえで、改革の対象を、単に裁判制度の改革に止まらず、国民の権利をめぐる実体法、手続法のあり方、さらには弁護士と弁護士会のあり方を含むものと規定した。また裁判所の本来的な機能である人権保障機能及び行政等の権力に対する抑制機能をより一層発揮させるべく、その組織、運営の改善を求めていくことを宣明した。


そして目指すべき基本理念として、司法全体を身近で、わかりやすくかつ利用しやすいものとすること、適正かつ迅速な市民の権利の実現を目指すこと、司法に対する市民の参加を拡大することなどを掲げた。


このような司法の現状分析と司法改革の基本理念からみると、前述のような各分野における多彩な改革への取り組みにもかかわらず、司法改革運動は、未だその緒についたばかりであり、あらためて第三次の司法改革宣言をして、その飛躍的な前進のために、本格的な運動の展開を図ることを、会の内外に強い決意をもって示す必要がある。


ここに本宣言の第1の意義がある。


3. 司法改革のための運動を本格化するにあたっては、まず第1に市民との連帯がより一層強化されなければならない。


今回の宣言は、司法改革の担い手は本来市民であることを明記している。このことは国民主権や民主主義の理念からみれば、原理的には当然のことではある。しかし長年にわたり司法が市民から遠ざけられてきた結果、司法に対する市民の関心は、全体的には未だ十分なものとはいえず、まず司法の実態を知ってもらうこと、司法に対する関心を持ってもらうこと自体が司法改革を推進するうえでの課題となっているような実情にあることは否定できない。


しかし、だからといってわれわれが市民の立場に立った活動を忘れ、専門家内部の議論と活動にのみ終始しているのであれば、所詮その得られる成果には限界があることはこれまでの経験に照らして明らかである。


その意味で、われわれは、司法改革を推進するうえで専門家としての適切な役割を果たす一方で、本来の司法改革の担い手は市民自身であることを常に念頭に置き、世論とわれわれの活動が相互に影響しあうようなダイナミックな動きを創り出していく必要がある。当面、裁判傍聴運動の全国的な展開への支援が課題となっているが、それにとどまらず多彩な取り組みが求められているといえよう。


またこのような関係を創り出していくうえで、われわれ弁護士や弁護士会自身が市民に身近で利用しやすい存在になっているかということを虚心に反省し、自己改革を遂げていく必要がある。このことは、2度にわたる宣言の中で繰り返し触れられていたところであるが、あらためて強調されなければならない。


そのための課題は山積しているが、当面われわれが取り組むべき課題としては、(1)弁護士報酬を市民にわかり易くするための改正作業、(2)法律相談活動の拡充、(3)弁護士業務におけるインフォームドコンセントの徹底、(4)事務所形態の改善、(5)隣接職種との提携のあり方の検討、(6)弁護士偏在対策としての公設相談所・事務所の検討、(7)刑事・民事当番弁護士、(8)裁判傍聴運動の推進、(9)行政事件に対する取り組みの改善、(10)弁護士会モニターや市民窓口など市民と弁護士会との結びつきの強化、(11)広報活動の拡充などが挙げられよう。


4. 次に、司法改革の運動を市民とともに発展させていくためには、司法改革のイメージを鮮明にし、市民の目からみてわかりやすいものとする必要がある。そのためには、われわれが目指す大きな目標を市民に提示して、その実現に向けての道程を明らかにしなければならない。


ところで、これまで、2回の司法改革宣言及び司法シンポジウム等で積み重ねられてきた成果にもとづき、われわれは当面の大きな目標として、宣言の本文で掲げた(1)弁護士偏在の解消と司法の物的・人的規模の拡充、(2)司法への市民参加による市民に開かれた司法の促進、(3)法曹一元制度の実現を提示したい。市民にとって身近で、利用しやすく、納得のできる司法を実現していくためには、これらの目標の達成がいずれも必要不可欠だからである。


しかしながら、それぞれの目標の具体的な内容については、未だ検討事項も多く、市民に十分に理解されているとは言えないのが現状である。われわれは一刻も早く、それぞれの具体的内容を、市民とともに研究・検討して確立していかなければならない。そのためにも、あらためて第三次宣言において、市民にわかりやすい形でこの目標を提示することが、今後さらに司法改革運動を推進していくうえで必要なのである。


5. 同時に単なる現状批判や理念の提示に止まらずに、日弁連及び各単位会の様々な分野における実践を通じて、その成果を積み上げ、集約していくということも、司法改革の手法として重要なことである。現在、各地の弁護士会においては司法を市民に身近なものとするための裁判劇の上演や法律相談センターの拡充、市民の人権擁護のための当番弁護士や各種110番活動などが取り組まれている。これらは、すべて司法改革の実践として位置づけられるものであるが、これらをばらばらなものにするのではなく、それぞれの情報を交流したうえで有機的に結合していくことこそが、会内における司法改革の動きを定着させ、われわれの司法改革運動の力量を高めることになる。


また当連合会においても、前述したような様々な分野における取り組みが各種委員会によりなされている。これらが相互の交流を図り、すべての動きが司法改革に結びついているという自覚を高める中で、それぞれの活動が相乗効果を高め合うという関係が期待されている。


また当連合会は、司法試験改革問題(抜本的改革案の策定を含む)、法曹人口問題、民事訴訟法改正問題、外国法事務弁護士問題、法律扶助制度の抜本的改革、弁護士偏在問題の解消など、会内合意を得て、緊急に取り組まなければならない課題を多数抱えている。これらの問題への対処の基本にも以上のような司法改革の理念と実践の方法が基礎に据えられなければならない。


このように、司法改革は、当連合会の活動の全分野に関連するものなのであり、このような認識を共通なものにするための会内の広範な論議が期待されている。


以上のとおり、司法改革の運動を本格的に展開し、飛躍的に発展させるための課題を明示し、これを着実に実行していく決意を示したうえで、会内外のさらなる議論を期待して本宣言を提案するものである。