第42回定期総会・人権4条約の批准促進を求める決議

(人権4条約の批准促進を求める決議)

国際連合は1948年第3回総会で世界人権宣言を採択し、人権及び基本的自由の尊重及び遵守を国際的に促進するために次々と人権関係諸条約を採択してきた。その主要なものは31条約に及んでいる。


世界の趨勢は、各地に戦乱と人権の抑圧による悲惨な犠牲を繰り返しながらも、漸次これら人権関係諸条約の批准国の数を増大させて、人類の悲願である国際的人権保障の実現に向かいつつある。


しかるにわが国の上記人権関係諸条約批准は遅々として進まず、批准・加入を終了したものは11条約に過ぎない。


批准・加入が未了の人権関係諸条約のうち、特に「市民的及び政治的権利に関する国際規約の選択議定書(自由権規約の第一選択議定書)」、「あらゆる形態の人種差別撤廃に関する国際条約(人種差別撤廃条約)」、「拷問及びその他の残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取り扱い又は刑罰を禁止する条約(拷問等禁止条約)」並びに「子どもの権利に関する条約(子どもの権利条約)」の4条約については、早期にかつ完全に批准を実現する必要がある。


われわれは人権関係諸条約の批准を国民とともに促進する決意をこれまでも再三表明してきたが、ここに改めて政府に対して、上記4条約を速やかにかつ完全に批准することを求める。


以上のとおり決議する。


1991年(平成3年)5月24日
日本弁護士連合会


提案理由

1.第3回国連総会で採択された世界人権宣言は、その前文において、「加盟国は、国際連合と協力して、人権及び基本的自由の普遍的な尊重及び遵守の促進を達成することを誓約した」ことを確認している。またわが国憲法はその前文において、「国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」とし、かつ「いずれの国家も自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」と宣言している。


国際連合は、世界人権宣言採択の後、人権及び基本的自由の尊重及び遵守を国際的に促進するため次々と人権関係諸条約を採択してきた。その主要なものは別紙のとおり31条約に及んでいる。


各地に戦乱と人権の抑圧による悲惨な犠牲を繰り返しながらも、漸次これら人権関係諸条約の批准国の数を増大させて、人類の悲願である国際的人権保障の実現とこれによる恒久平和の確立は21世紀を迎えようとしている現在において、漸く歴史的大河の流れとなろうとしている。


しかるにわが国の上記人権関係諸条約批准の状況は遅々として進んでおらず、批准・加入の終了したものは別紙のとおり11条約にすぎない。 このような状況は、上記憲法前文に表明された国民の期待に著しく反するもので、早急に改善されるべきである。また人権関係諸条約の批准は、単にわが国内の問題ではなく、国際社会において人権と基本的自由の遵守と尊重を普遍的に促進するため国連加盟国全てが負っている義務である。


2.特に「市民的及び政治的権利に関する国際規約の選択議定書(自由権規約の第一選択議定書)」、「あらゆる形態の人種差別撤廃に関する国際条約(人種差別撤廃条約)」、「拷問及びその他の残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取り扱い又は刑罰を禁止する条約(拷問等禁止条約)」並びに「子どもの権利に関する条約(子どもの権利条約)」の4条約については、早期に批准を実現する必要がある。


自由権規約第一選択議定書については、わが連合会の1986年徳島人権大会決議、同じく1988年神戸人権大会における「人権に関する神戸宣言」等々において再び批准促進を要望してきたとおりであり、この条約の批准は、内閣総理大臣、外務大臣により国会において度々前向きに検討する旨表明され、先の第120回国会の参議院予算委員会においては外務大臣より、可及的速やかに全力をあげて批准に取り組む旨の表明がなされたが、アジアにおいても既にフィリピン共和国及び大韓民国が批准を済ませている。


人種差別撤廃条約については、既に国連加盟国の大多数(129ヶ国)の諸国が批准を済ませており、人種による差別の廃絶が国連憲章の目的の一つに掲げられるなど極めて基本的な条約であるばかりでなく、さらに国際化を急速に進めているわが国の緊急の課題となっている定住在日外国人、外国人労働者に対する差別問題等に対して、本条約が規定する人種差別撤廃委員会による数々の実施措置は、有効な救済手段を提供することになるであろう。


 また拷問等禁止条約については、一旦われわれの反対により廃案となった拘禁二法案が三たび国会に上程されている現在の状況下において、この条約の批准は重要な意味を持つものである。既にわが国憲法第39条が拷問及び残虐な刑罰を厳しく禁じているばかりではなく、拷問等を受けない権利は最も普遍的な権利の一つであり、いかなる事態においても保障されなければならない。この条約は既に国連安全保障理事会常任理事国の全て、及び経済協力開発機構(OECD)加盟24ヶ国中、わが国とその他1国を除く全ての先進諸国により批准または署名されており、また本年一月に発表された世界最大の非政府機関(NGO)アムネスティ・インターナショナルの日本政府に対する勧告書においても、刑事被拘禁者の不当な取り扱いに対する保障として、日本政府がこの条約を早期に批准・加入することを要請している。この条約を批准した場合には、拷問禁止委員会による調査、個人通報の受理、調査、報告等々の実施措置は、拘禁二法案に関して問題とされている被拘禁者の不当な取り扱いに対しても有効な救済手段を提供することになるであろうし、また法案そのものを根本的に見直す必要に迫られるであろう。


さらに子どもの権利条約については、既にわが国は署名を済ませており、批准国も77ヶ国に上っており、一刻も早く批准すべき状態になっているばかりでなく、この条約の批准はとかく無視されがちであった子どもの人権全般について、政府・議会・国民全体の考え方を根本的に改める役割を果たすであろう。


3.以上のとおり、われわれ日本の弁護士も人権関係諸条約、特に上記4条約の批准を国民と共に促進することを決意し、あわせて法廷内外において人権と基本的自由が普遍的に尊重、遵守されるよう努力を重ねることを改めてここに表明し、政府に対して、まず上記4条約につき全力をあげて批准を促進するよう本決議を提案するものである。


(別紙)

条約名 採択 発効 わが国の態度
結社の自由及び団結権保護条約 1948 1950 1965批准
集団殺害防止条約(ジェノサイド条約) 1948 1950 未加入
人身売買・売春搾取禁止条約 1949 1951 1958加入
団結権及び団体交渉権条約 1949 1951 1953批准
男女同一労働同一報酬条約 1951 1953 1967批准
難民の地位に関する条約 1951 1954 1981加入
婦人の参政権に関する条約 1952 1954 1955批准
社会保障最低基準条約 1952 1955 1976批准
母性保護(改正)条約 1952 1955 未批准
国際修正権条約 1952 1962 未加入
奴隷条約改正議定書 1953 1955 未加入
無国籍者の地位に関する条約 1954 1960 未加入
奴隷制度廃止補足条約 1956 1957 未加入
既婚婦人の国籍に関する条約 1957 1958 未批准
強制労働廃止条約 1957 1959 未批准
雇用・職業上の差別待遇条約 1958 1960 未批准
教育における差別を禁止する条約 1960 1962 未批准
無国籍の削減に関する条約 1961 1975 未批准
婚姻の同意等に関する条約 1962 1964 未批准
人種差別撤廃条約 1965 1969 未批准
難民の地位に関する議定書 1966 1967 1982加入
国際人権規約(自由権規約) 1966 1976 1979批准
自由権規約第1選択議定書 1966 1976 未批准
国際人権規約(社会権規約) 1966 1976 1979批准
アパルトヘイト条約 1973 1976 未批准
女子差別撤廃条約 1979 1981 1985批准
家庭的責任を有する男女労働者の機会均等平等待遇条約 1981 1983 未批准
拷問等禁止条約 1984 1987 未批准
先住民条約 1989 未発効 未批准
子どもの権利条約 1989 1990 未批准
自由権規約第2選択議定書 1989 1990 未批准