第42回定期総会・男女雇用機会均等法等の見直しに関する決議

(男女雇用機会均等法等の見直しに関する決議)

「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」(以下「均等法」という)が施行され、満5年が経過した。この5年間における女性労働者の現状は、均等法の目的である雇用機会及び待遇の男女平等について、一部前進した面はあるものの、形を変えた男女差別が広がり、賃金格差も全体としては縮小しておらず、真の男女平等には未だ遠い。また、均等法施行と同時に施行された「改正」労働基準法により、現実に家庭責任を負わされている女性にとっては、正規雇用者として働き続けることの困難さが増してきている。さらに均等法施行後、新たにセクシャル・ハラスメントが、女性の人権、労働権を脅かすものとして問題とされている。


当連合会は、男女がともに職業生活と家庭生活について責任を負い、真の男女平等を実現するため、均等法、労働基準法を改正するなどの必要な措置をとるよう以下の通り提言する。


  1. 募集、採用、配置、昇進についても、間接差別を含む全ての差別を禁止すること。
  2. 使用者にセクシャル・ハラスメントの防止、救済義務を負わせること。
  3. 積極的差別是正措置(アファーマティブ・アクション)を設けること。
  4. 実効ある救済措置をとりうる行政機関を設けるとともに労働者婦人少年室の権限を強化すること。
  5. 法定労働時間を短縮し、男女とも時間外労働を規制し、深夜業を原則禁止とすること。
  6. 産前産後休暇の延長、休暇中の所得保障など母性保護を充実すること。
  7. 男女とも現実に取得可能な育児休暇制度、看護(介護)休暇制度を法制化すること。

以上のとおり決議する。


1991年(平成3年)5月24日
 日本弁護士連合会


提案理由

はじめに

職場における男女の平等を規定したといわれる「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」(以下「均等法」という)が成立し、同時に「改正」労働基準法(以下「労基法」という)が施行され5年を経た。


均等法及び労基法の「改正」については、成立過程から多くの女性労働者や団体、労働組合から問題点が指摘されていた。


当連合会も、1984年6月に、均等法が国会に上程された時点で意見書を発表し、均等法の改善すべき点を指摘して労基法「改正」に反対した。


均等法施行等の女性労働者の実態を見るとき、均等法が施行されてからの5年間に雇用の分野においての男女平等は、一部前進した面はあるものの、女性労働者の職業生活と家庭生活の両立については以前より困難さが増しているといえよう。


1. 募集、採用、配置、昇進について

均等法では差別を禁止規定にしておらず、使用者に差別禁止の努力義務を課しているに過ぎない。そのため、4年制大学新規卒業者の募集については、技術系では50.0%の企業が、事務・営業系については26.3%の企業が「男性のみ」の募集になっている(労働省「平成元年度女子雇用管理基本調査」)。


また、「総合職」と「一般職」というようなコースに分ける「コース別雇用」が金融業を中心に急速に広がっているが、これは、賃金の高い「総合職」について、転居を伴う転勤を条件とすることによって、家庭責任を負う女性労働者を間接的に差別し、低賃金の「一般職」に追い込むものである。


労働省「平成元年度女子雇用管理基本調査」によると、配置についての基本的考え方は、女性を全ての職務に配置している企業は23.0%に過ぎず、昇進については、管理職全体の中で女性の占める割合は、係長相当職で5.0%、課長相当職で2.1%、部長相当職となると1.2%に過ぎない。


このように改善が遅れているのは、均等法が、配置、昇進についても差別を禁止せず、努力義務規定に止めた結果だと言わざるを得ない。平成2年版労働省婦人少年局編「婦人労働の実情」の中でも、「均等法に対する企業の対応には、ともすれば形式的遵守に走る傾向がみられる。努力義務規定である募集・採用については、技術系を中心にかなり『男子のみ募集』がみられる。」と指摘している。


2. セクシャル・ハラスメントについて

セクシャル・ハラスメントは、均等法施行当時、あまり問題とされておらず、均等法はこれを明確には禁止していない。しかし、この問題は、女性を男性と対等な人格として扱わず、性的欲望の対象としてのみ見るという女性に対する差別意識から生ずるものであり、女性労働者の働く権利、人格権を侵害する重大な問題であり、均等法にセクシャル・ハラスメントについて使用者の防止・救済義務に関する規定を設けるべきである。


3. 積極的差別是正措置について

均等法では、積極的差別是正措置(アファーマティブ・アクション)については何ら規定していない。均等法が基本とした差別撤廃条約やアメリカ、フランス、スウェーデン、カナダ等の立法ではこの積極的差別是正措置を盛り込んでいる。現実に平等を促進するためには、わが国においても一定の職種や職務、役職等において女性の比率を高めるよう積極的差別是正措置を設けることが必要である。


4. 救済手段について

均等法では、差別された女性の救済措置について、強制力を持つ救済機関がなく、また婦人少年室の権限も労働基準監督官と比較し弱い。救済措置としての「調停」機関には、この5年間の1件の申し立てもないことは、調停は強制力がないため、利用する者がいないことの現れとも言えよう。差別是正命令等の強制力ある救済措置をとり得る行政機関を設ける必要がある。


5. 「改正」労基法施行後の実態について

均等法施行と同時に「改正」労基法も施行された。「改正」労基法は、女性労働者に対する時間外労働、深夜業の規制を大幅に緩和した。


その結果、女性労働者の時間外労働、深夜労働は増加している。時間外労働、休日労働、深夜業によって女性労働者が働き続けることの困難さが増している。人間らしい労働条件の男女平等の保護を目指し、男女ともにこれらの労働を規制する旨の規定を設けるべきである。


6. 産前産後休暇その他の母性保護について

わが国の妊産婦の死亡率は世界の主要国から見ても高い。女性が家事・育児の責任を背負わざるを得ない現状を見ると、現行の規定では産前産後の休暇期間は短く、産前休暇が強制休暇でないことは問題である。休暇期間を延長し、産前休暇を強制休暇とし、賃金保障については10割保障とすべきである。また、均等法が努力義務を規定している妊娠障害休暇制度を有する事業所は、昭和63年度労働省調査によれば、19.1%に過ぎず、強行規定にすべきである。


7. 育児休暇制度,看護休暇制度について

育児休業法案が第120回国会に上程された。当連合会では、1991年2月、子の就学までの労働時間短縮型の育児休暇という提言を含む「育児休業法案に関する意見書」を発表し、労働省に提出した。育児休業法案は、所得保障も代替要員の確保もないなどその内容はかなり不十分である。男女労働者が働き続けるための当連合会の意見書を踏まえた育児休業法の制定こそが必要である。


また、現在、家庭責任を持つ労働者にとって、配偶者、子、同居の家族等が病気になった際の看護は、極めて大きな問題である。こうした看護は基本的には社会保障を充実し、病児保育、完全看護等の医療・保育制度を完備することにより、軽減されなければならない。しかし、現実には家庭の負担、多くの場合女性の重い負担となっている。従って、男女、なかんずく女性の労働者が働き続けるための実質的な内容を持つ看護(介護)休暇制度の法制化が早急に必要である。