第37回定期総会・詐欺的取引による被害防止と救済を求める決議

(第2決議)

今日、全国的に、「有利な利殖」を口実とする詐欺的取引が横行している。これら悪徳業者は、破産した豊田商事株式会社の如く、存在しない物を存在するかの如く見せかけて顧客に「売却」してこれを運用のために「預かる」という法形式を採ったり、あるいは先物取引等の手法を用いて一般大衆の生活資金を奪い取っている。しかも、被害者の大半は、この種侵害行為に抵抗力のない老人等の社会的弱者や人を信じ易い善良な一般市民であり、その被害は深刻で、経済的損失のみならず精神的打撃も多大であり、その結果、自殺や家庭の崩壊まで引き起している。


こうした由々しき事態にあって、政府は、国民の生活と財産を不法な侵害から守るべき責務があるにもかかわらず、その施策・対応は甚だ不十分で、被害を根絶するには至っていない。政府が提案し、過日国会において成立した「特定商品等の預託等取引契約に関する法律」では、当連合会がこれまで指摘しているとおり、新たな被害の発生を防ぐことはできない。


よって、我々は被害防止と救済に向けて、国および関係機関に対し、次の事項を要望する。


  1. 詐欺的取引に加担した加害者に対し、迅速な捜査を行い、刑法(詐欺罪)・出資法などの厳正な適用を図ること。
  2. 早急に訪問販売法等の必要な改正を行うとともに、行政上の監督・指導体制の抜本的な整備を図ること。

当連合会としても、この種被害の深刻かつ広範な状況を踏まえ、今後とも引き続きこの問題に重大な関心を持ち、悪徳業者の跋扈を許さぬよう、努力する決意である。


右決議する。


1986年(昭和61年)5月31日
日本弁護士連合会


(提案理由)

1. 豊田商事株式会社に代表されるいわゆる「現物まがい商法」によって一般大衆に被害を発生させていた会社が、昨年末、相次いで破産宣告を受けている。また、今年になって「海外金融先物」を口実に一般大衆から金員を取得していた株式会社飛鳥が捜索を受け、これまた破産宣告を受けている。


「商取引」を仮装したこれら悪徳業者の行為は、一般大衆からの詐欺的な金員騙取行為にほかならず、被害発生を根絶すべきことを当連合会は早くから指摘していた。これらの悪徳業者に共通しているのは、甘言、詐言を弄した執拗かつ強引ないしは常軌を逸した勧誘であり、標的とされているのは、一人暮らしの老人、年金生活者等の社会的弱者や人を信じ易い善良な人々等、およそこの種の攻撃に抵抗力のない一般市民である。また、その被害も、汗水たらして蓄えた老後の生活資金やなけなしの金を根こそぎ奪われる等、経済的にきわめて甚大であるのみならず、精神的打撃も多大であり、自殺、親子・家庭の崩壊といった深刻かつ広範な事態に立ち至っている。


2. こうした被害が早くから発生している事態にかんがみ、政府は、国民の平穏な生活と財産を不法な侵害から守るべき、責務があるにもかかわらず、今まで被害根絶のため有効な措置を講じていたとはいい難く、前記各破産にみられるが如き膨大な被害発生を招来する結果となった。しかも、右各事例は、氷山の一角であり、この種詐欺的取引は、形を変え品を変え今もなお白昼堂々と横行している。


3. 政府は、いわゆる「現物まがい商法」を規制するとして、「特定商品等の預託等取引契約に関する法律案」を提出し、過日これが国会を通過したが、当連合会が既に指摘しているとおり、これは「海外商品市場における先物取引の受託等に関する法律」が海外先物取引を口実とする詐欺的取引被害の根絶とは程遠かったという誤りを繰り返すものであり、この内容では、到底この種詐欺的取引被害の再発を防止することはできない。また、この種詐欺的取引は、訪問販売という攻撃的形態をとってなされることがきわめて多く、この種被害を防止しえなかった現行訪問販売法の不備、すなわち、指定商品制および勧誘員と勧誘行為の規制を欠いているなどの欠陥があらためて痛感されている。


よって、政府は、右法律で事足れりとすることなく、広く「利殖」を口実とした詐欺的取引被害を防止する為、消費者保護の理念に沿った抜本的な法規制と監督・指導体制の強化を図るべきである。また、将来にわたりかかる被害の再発を防止するためには、この種被害の発生要因を解明し、加害行為に加担した者に厳重な責任をとらせることが不可欠である。


4. よって、当連合会は国民の基本的人権の擁護と社会正義の実現のため、国および関係機関に対し、決議のとおり要望するとともに、引き続きこの問題に重大な関心を持って取り組む意思を表明するものである。