臨時総会・国際的法律事務の円滑・適正な処理のための「外国弁護士」制度の基本方針承認の件・附帯決議

附帯決議

国際的法律事務の円滑・適正な処理のための「外国弁護士」制度の基本方針承認の件

わが国の弁護士制度は、いうまでもなく司法制度の根幹をなしており、憲法の要請を受けて弁護士は基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、これを果すために、外部の権力からの不当な干渉を排除する弁護士自治が確立され、原則として営利を目的とする業務が禁止されるなど、わが国固有の制度となっている。


本日の「国際的法律事務の円滑・適正な処理のための外国弁護士制度の基本方針承認の決議」の具体化にあたっては、会内合意形成につとめ、今後ともわが国の弁護士制度の根幹を損うことのないよう最善の努力をするものとする。


右決議する。


1985年(昭和60年)12月9日
日本弁護士連合会臨時総会
日本教育会館一ツ橋ホール


〈参考資料〉

外国弁護士問題に関する基本方針

日本弁護士連合会
昭和60年3月15日理事会議決


外国弁護士に、わが国における事務所の開設を認めるべきか否かの問題(以下、外国弁護士問題という)につき、日本弁護士連合会(以下、日弁連という)は、左のとおり基本方針を確立する。


  1. 日弁連は、左の原則のもとに、外国弁護士の受け入れを認める。
    1. 相互主義の原則
      わが国が受け入れを認める「外国弁護士」は、相手国が、わが国の弁護士を受け入れる制度を持つ国であって、政府間で相互に右制度を持つことが確認されている国の弁護士に限定し、わが国の政府が、相手国との間で相互主義の存否について確認する場合には、日弁連の意見を聴いて、それを尊重しなければならない。
      相手国が連邦国家で弁護士の制度が州の権限に属する場合には、相手国全体との間で実質的に相互主義が保証されるものでなければならない。
    2. 外国弁護士は日弁連の自治権のもとに入るとの原則
      わが国において、外国弁護士の適格性の審査、登録、その活動についての監督、指導、取締等は全て日弁連の所管とする制度が確立されねばならない。
  2. 前項一、二の原則をとることを前提として、日弁連は、今後、外国弁護士の受け入れに関する具体的な諸条件について、外国弁護士対策委員会の答申書(昭和59年12月7日付)において「外国弁護士制度の構想試案」として示されている諸規制を基本とし、内外の意見を参酌して、国内的にも国際的にも妥当とされるものを策定する努力を継続する。

提案理由

1. 外国弁護士問題の登場―米国からの開放要求と日本政府の対応―

昭和55年頃から、いわゆる日米経済摩擦といわれる状況のもとに、一部の米国弁護士がABA(アメリカ法曹協会)及び米国政府に対して強い働きかけを行い、米国政府をして日本に対するサービス産業自由化の要求の中に弁護士業をも加えさせ、外国弁護士問題を政府間交渉の議題の一つとして掲げさせ、昭和57年3月には、米国政府から日本政府に対し、貿易自由化促進の方策として、弁護士業務をサービス産業ととらえて、米国弁護士が日本に事務所を開設して業務を行うことを認めるよう要請がなされた。


これに対し、日本政府は、同年5月28日経済対策閣僚会議をして、市場開放対策として、「外国弁護士の国内における活動の問題については、相互の法律サービス活動の在り方という観点から早期に適切な結論を得べく、米国に関しては、日本弁護士連合会とアメリカ法曹協会(ABA)との交渉の促進に努める」との発表を行い、ここでは一応、この問題を政府間交渉の議題としてまともに取り上げることを避けた。しかし、外国弁護士問題は、これを契機として、国際政治性を強く帯びた問題とならざるを得ないものとなった。


2. 外国弁護士問題に対する日弁連の今日までの対応

(1)日弁連においては、昭和56年2月、外国弁護士対策委員会を設置し、昭和57年4月にはときの鈴木総理に対し外国弁護士問題は自治権を持つ日弁連が自主的に解決すべき問題であり、日弁連の頭越し交渉をさるべきでない旨申入れ、同委員会は爾来、近い将来、外国弁護士問題について日弁連としての対応を迫られる事態を予測し、ABA特別代表団との意見交換を持ち、欧州4か国の実情調査などを行い、同委員会はこれらを踏まえ、専門的な調査研究を続けたうえ、昭和59年2月27日、日弁連会長宛に中間答申を提出した。


右中間答申を受けた日弁連は、理事会内小委員会でこれを参考資料として審議の末、会長談話の成案を得、全体理事会で承認を受けたうえで、昭和59年3月30日これを内外に発表した。その内容は、外国弁護士を受け入れるか否かの問題は、日米貿易摩擦に関連して、日米間の政治問題となっているが、これは基本的には、一国の文化的・社会的所産であり、司法制度の重要な柱をなす弁護士の制度にかかわる国内問題であり、弁護士法によって高度の自治を採用しているわが国においては、いやしくも弁護士制度の変更にかかわる問題については、日弁連が会員の総意に基づき、自主的に決定してゆくべきものであるとの確信を前提としつつも、今後も増大する国際的法律業務に対応するため、わが国の渉外弁護士の育成及び渉外事務所の充実・発展をはかるとともに、その補完的手段としての外国弁護士の受け入れもまた、同時に検討に値する問題と位置付け、さらに検討を深めて、可能な限り早期に国内的にも国際的にも妥当とされる結論を得るよう努力するというものである。


(2)日弁連現執行部は、前記の前執行部の会長談話に示された路線にのっとって、外国弁護士問題に関し会内論議をより高める努力を払う一方、外国弁護士対策委員会に対し、外国弁護士の日本における法律業務を仮に認めるとした場合の国内的にも国際的にも妥当とされる制度の具体的構想について諮問を発した結果、同委員会より、昭和59年12月7日付「外国弁護士について」の答申がなされたものが、いわゆる「構想試案」である。


このような経過に鑑み、執行部は、前記構想試案を参考資料として、この当面する外国弁護士問題につき、日弁連としては今後、如何なる決着をはかるべきかについて昨年末より理事会において継続して審議を求めるとともに、全国の各単位会に対し求意見を行った次第である。


3. 外国弁護士問題に関する日弁連の基本方針の確定の必要性

(1) 日本政府は昭和59年4月27日、外国弁護士問題に関して、前記日弁連会長談話を受け「外国弁護士の国内における活動の問題については、日弁連において、可能な限り早期に国際的にも国内的にも妥当とされる結論を得るよう一層の努力を払っているところであり、政府としては、日弁連の自主性を尊重しつつ、可及的速やかに適切な解決が図られるよう努力する」旨の「対外経済対策」を発表した。


しかるに、本年1月、中曽根首相訪米後に至ってにわかに米国政府から日本政府に対する市場開放の要請が強まり、これに伴い、外国弁護士問題も焦眉の急を告げるかの様相を呈し、2月には米国通商代表部が日本を訪れて、外務省及び法務省に対して前記構想試案についての意見を述べるとともに、外国弁護士問題の早期決着を迫り、来る3月11日からは、日米両政府間で投資委員会、貿易委員会、あるいは高級事務レベルの協議が開かれ、ここにおいて外国弁護士問題が積極的に取り上げられることは疑うべくもない状況にある。


なお、このように弁護士業務の市場開放を求めているのは、米国だけではなく、英国を初めとするEC諸国も同様の状態である。


他方、前記「構想試案」の公表を期に、表明されている新聞等マスコミの論調、識者の意見表明、並びに経団連等財界の反応、各単位会から日弁連に寄せられたこの問題についての回答状況を勘案するとき、構想試案の示す、外国弁護士受け入れに際しての個々の条件については、種々の意見があるものの、現状において、(1)相互主義の原則、(2)外国弁護士を日弁連の自治権のもとに置く原則、の二大原則のもとに外国弁護士のわが国において一定の国際法律業務を行うことを許容することは、全国会員のコンセンサスを得、かつ今日の政治情勢から考え、時宜に適した決断であると判断するに至った。


(2) 日弁連は、外国弁護士問題に関して前記二大原則を確認することと併せて、今後とも、相手国における条件整備の状況を勘案しつつ、「構想試案」に示されるような個々の条件の検討を精力的に継続し、可及的速やかに、「国内的にも国際的にも妥当な制度」の実現に向けて、なお一層の努力を払う必要がある。


〈参考資料〉

「外国弁護士」制度要綱試案(第一次案)

外国弁護士問題に関する理事会内小委員会
昭和60年9月3日


第一 外国法弁護士(仮称)の資格等
  1. 法務大臣は、相互の保証がある場合に限り、次の要件を具備する者に対し、外国法弁護士となる資格を付与することができる。
    1. 外国において、わが国の弁護士資格に相当する資格を有すること。
    2. 前号の資格を取得した国(以下自国という。)における実務経験が5年以上あること。
    3. 外国において弁護士法第6条に規定する事由に相当する事由のないこと。
  2. 法務大臣は、外国法弁護士が前項の資格付与の要件を欠くに至る等一定の場合には、外国法弁護士となる資格を取り消すことができる。
  3. 法務大臣は、外国法弁護士となる資格を有する者に対し、自国法のほかに取り扱い得る外国法を指定することができる。
  4. 法務大臣は、外国法弁護士となる資格を有する者に対し、自国法のほかに取り扱い得る外国法を指定することができる。

第二 登録等
  1. 外国法弁護士となるには、入会しようとする弁護士会を経て、日弁連に登録しなければならない。
  2. 日弁連は、弁護士法第6条及び第12条に規定する事由があった場合には、外国法弁護士審査会の議決に基づき、登録を拒絶することができる。三 日弁連は、弁護士法第17条に規定する事由及び後記第四、六の在留条件に違反する等一定の場合には、外国法弁護士審査会の議決に基づき、登録を取り消すことができる。

第三 職務の範囲
  1. 外国法弁護士は、自国法及び法務大臣が指定した外国法に関する法律事務を行うことができる。
  2. わが国の裁判所その他官公署における手続きに関する代理及びこれらに提出する文書の作成は、いかなる場合にも行うことができない。

第四 権利及び義務
  1. 名称は、外国法弁護士又は外国法相談弁護士とし、自国法及び法務大臣が指定した外国法を表示しなければならない。
  2. 事務所名は、外国法弁護士事務所とし、登録した外国法弁護士名を付し、自国法及び法務大臣が指定した外国法を表示しなければならない。
  3. 外国法弁護士事務所は、その外国法弁護士の所属弁護士会の区域内に設けなければならない。
  4. 外国法弁護士は、弁護士を雇用し、又は形態の如何を問わず弁護士と事務所の共同経営をしてはならない。
  5. 外国法弁護士は、法務大臣に対し、外国において第一、一、1及び3記載の要件を具備することを定期的に証明しなければならない。
  6. 外国法弁護士は、傷病等止むを得ない事由のない限り、1年間に6カ月以上わが国に在留しなければならない。

第五 弁護士会及び日弁連内における地位並びに懲戒等
  1. 外国法弁護士は、弁護士会及び日弁連の外国特別会員とする。
  2. 外国法弁護士は、弁護士会及び日弁連の指導、監督を受ける。
  3. 外国法弁護士は、弁護士と同様の懲戒を受けることとし、懲戒は、日弁連が外国法弁護士審査会等の議決に基づいて行う。
  4. 外国法弁護士は、日弁連の自治への一定の参加をすることができる。

第六 外国法弁護士審査会等
  1. 日弁連に外国法弁護士審査会等を置き、外国法弁護士に対する登録の拒絶、登録の取消し及び懲戒に関する審査を行う。
  2. 外国法弁護士審査会等は、弁護士、裁判官、検察官、法務省職員及び学識経験者からなる委員をもって組織する。
  3. 外国法弁護士審査会等は、外国法弁護士に対し、審査に必要がある事項について報告を求めることができる。

注記

本「注記」は、法案に明記すべき事項の中未検討部分及び会則、会規等に規定すべき事項並びに要綱試案の趣旨等を記したものである。


第一 外国法弁護士の資格等
  1. 相互の保証のある国のうち、連邦国家で弁護士の制度が州の権限に属する場合には、相当数の主要な州がわが国の弁護士を受け入れる制度を有していればよい。この場合、受け入れを認めるのは、わが国の弁護士を受け入れる制度を有する州の弁護士資格者のみとする。
  2. 実務経験を要する「自国」とは、前記連邦国家の場合には資格を取得した州を指す。
  3. 法務大臣が外国法弁護士の取り扱い得る外国法を指定するのは、外国法弁護士が当該外国において5年以上にわたり当該外国法の法律事務を取り扱い、外国法の知識が豊富であることを証明した場合に限るものとする。
    なお、当該外国の弁護士と同程度の知識を有していると認められる場合には指定できるとすべきであるとの意見がある。

第二 登録等
  1. 登録にあたっては、法務大臣から外国法弁護士となる資格の付与を受けたことの証明、自国での資格の証明、誓約、保証人、品性の善良性の証明等を必要とする。
  2. 弁護士会が弁護士法第12条に記載の登録進達拒絶等の実質的審査権をもつこととするか、あるいは日弁連のみがもつこととするかについては、今後の検討事項である。

第三 職務の範囲
  1. 「自国法」とは、連邦国家の場合には資格を取得した州の法のほか連邦法を含む(自国法には、法務大臣が指定した外国法を含むものとする。以下同じ。)。
  2. 「自国法に関する法律事務を行うことができる」とは、主として自国法に関する法律事務であれば、その一部に自国法以外の法に関連する事項が含まれていても、右事項を含む法律事務全体の取扱いを認める趣旨である。
    なお、日本法の専門知識を必要とする事項については、弁護士の助言を受けなければならないとすべきであるとの意見もある。
  3. 外国法弁護士が行うことができる法律事務は、大要次のとおりである。
    1. 自国法についての鑑定、相談、助言。
    2. 自国法を準拠法とする、又は自国と密接に関連する重要な事項があるため自国法が準拠法となる可能性ある場合(行為地、契約締結地、義務履行地、目的物の所在地等が自国にある場合を指し、当事者の合意のみが連結点である場合は除く。)についての契約書その他の文書の作成並びに契約の締結及び履行に関する代理。
    3. わが国の法例により自国法を準拠法とする権利の行使又は義務の履行に関する代理。
    4. 自国の裁判所その他の官公署における手続きに関する代理及びこれらに提出する文書の作成(後記五、7を除く。)。
  4. 外国法弁護士は、日本法又は自国法以外の外国法に関する法律事務を行うことができないが、その一部に自国法に関連する事項が含まれている場合には、その事項については自国法の鑑定、相談、助言をすることができる。
  5. 自国法に関する法律事務であっても、外国法弁護士が行うことができないものは、大要次のとおりである。
    1. 日本法及び指定された外国法以外の法の鑑定、相談、助言。
    2. 専らわが国に所在する不動産の権利の得喪に関する法律事務。
    3. わが国に所在し、わが国の居住者が所有する財産の死後処分及び遺産の管理に関する法律事務。
    4. 当事者の双方、又は一方がわが国に居住する場合の婚姻関係、又は子の監護に関する法律事務(なお、自国民間の法律事務については除外すべきであるとの意見がある。)。
    5. 執行認諾文言付公正証書の作成に関する法律事務。
    6. 専らわが国の行政庁における登録等により成立する権利の得喪に関する法律事務。
    7. 外国の公権力の行使と同視されるような類型の行為(訴訟事件の訴状及び呼出状の送達並びに証拠調べ・証拠保全手続きに関する行為等)。
      なお、これらの法律事務については、弁護士と共同する場合、又は弁護士の助言を受けた場合には、これを行うことができるとすべきであるとの意見もある。

第四 権利及び義務
  1. 外国法弁護士は、自国法の表示をしなければならないが、その表示方法は、「外国法弁護士(○○法)」とする。
  2. 外国法弁護士は、自国で所属する法律事務所名を事務所名として使用、表示してはならない。
  3. 外国法弁護士と公認会計士、弁理士、税理士及び司法書士等との雇用及び共同経営は認めるべきではないが、他業種との関係でもあり外国法弁護士の面からのみ禁止することは妥当ではないので、今後これら業種の団体とも協議しつつ、さらに検討する。
  4. 外国法弁護士の法務大臣に対する証明は、1年毎にすべきであるとの意見が強い。
  5. 弁護士法第四章(弁護士の権利及び義務)の規定のうち、第21条乃至第30条の規定は、外国法弁護士に対し準用するものとする(なお、同法第20条については、試案第四、一乃至三に記載。)。

第五 弁護士会及び日弁連内における地位並びに懲戒
  1. 日弁連及び弁護士会は、外国法弁護士に関する会則、会規等を定めることとし、外国法弁護士はこれを守る義務を負うが、右会則等の細目については、別途検討する。
  2. 外国法弁護士の日弁連の自治への参加の形態については、
    1. 自己の権利義務に直接関係する議案につき、総会において議決権を有するものとする。
    2. 自己の権利義務に直接関係する議案について、総会における議決権は有しないが、これに出席して意見を述べる機会を保障されるものとする。
    3. 代議員選任権を有するものとする。
    4. 外国法弁護士に関連する委員会の委員になることができるものとする。
    等種々の意見があり、今後の検討事項である。

第六 外国法弁護士審査会等
外国法弁護士審査会のほか、外国法弁護士のための綱紀委員会、懲戒委員会等を設けるべきであるとの意見がある。