第33回定期総会・核兵器の使用禁止と廃絶を目指し、積極的な施策を推進することを要請する宣言

(宣言)

核兵器の存在は、人類の生存と繁栄に対する最大の現実的脅威である。


全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することは、わが憲法の宣明するところであり、核兵器の廃絶こそ、今日、人類共通の悲願であることは疑いがない。


われわれは、わが国が唯一の被爆国であることに思いをいたし、ここに第2回国連軍縮特別総会が開催されるにあたり、わが国ならびに各国政府に対し、核兵器の使用禁止と廃絶を目指し、積極的な施策を推進することを強く要請するとともに、今後ひろく世界の法律家と連携して、平和な国際秩序の確立に向けて努力することを決意する。


右宣言する。


1982年(昭和57年)5月29日
日本弁護士連合会


(提案理由)

  1. 当連合会は、世界における唯一の被爆国日本の法律家団体として、一貫して核兵器の実験、製造、貯蔵、使用等に反対し、核兵器の全面禁止を世界に呼びかけてきた。1950年の第1回定期総会における平和宣言以来、最近では1974年の人権擁護大会、1978年の第29回定期総会においても、核兵器の全面禁止を求める決議を採択している。


  2. しかるに、米ソ両大国を中心とする核軍拡競争は、その後もとどまるところを知らない。今や全世界を十数回破壊しても、まだあり余るほどの核兵器がこの地球上に存在し、その数は約4万発、広島型原爆の100万発以上にも相当する莫大な量といわれている。


  3. さらに、重大なことは、核兵器は使用することのできない兵器であるとの「神話」が完全に崩壊し、世界は今や、現実の核戦争の脅威にさらされるに至っていることである。


    第1に、核兵器の命中精度が驚異的に向上したことである。このため、相手の核基地を先制攻撃によって壊滅的に破壊してしまう「先制第一撃戦略」が可能となった。


    第2に、都市や兵器を破壊せず、人間だけを殺りくすることのできる「中性子爆弾」の開発や、小型の戦術核兵器が普及されたことである。このため全面核戦争を誘発しない限定核戦争が可能であるとする戦略すら出現するに至っている。


    このように、核戦争の危機は、極めて現実的なものとなり、とりわけアジア、ヨーロッパが核戦場とされる危険性はますます強まりつつある。


  4. しかし、ひとたび核戦争のボタンが押されれば、それが引金となって無限に拡大され、地球規模での全面核戦争に発展することは火をみるよりも明らかである。限定核戦争構想は、人類破滅への危険な幻想であると言わざるを得ない。そしてさらに、たとえそれが限定された地域内の戦争になったとしても、核戦争による現実の犠牲者が出ること自体、人道上、絶対に許しがたいものである。


  5. すでに当連合会の第29回定期総会における決議において指摘しているように、核兵器の使用は、国際法に照しても無差別砲爆撃禁止の原則、有毒兵器の使用を禁止したハーグ陸戦規則23条(a)、1925年のジュネーブ議定書、不必要な苦痛を与える兵器を禁止したハーグ陸戦規則23条(e)、および、1868年のセント・ペテルスブルグ宣言に、それぞれ違反している。


    いうまでもなく、戦争は最大の人権破壊であり、核戦争はその極限であって、人権擁護と社会正義の実現をその崇高な使命とするわれわれにとって、かかる非人間的兵器の製造、保持、使用を黙視することは許されないところである。今こそわれわれ在野の法律家は、この重大な事態のもとにあって、核戦争を防止するための最も有効で適切な方途を見出すべく、最善の努力を尽くさなければならない。


  6. ときあたかも、本年6月ニューヨークにおいて、第2回国連軍縮特別総会が開催されようとしている。われわれは、わが国政府に対し非核3原則を堅持するよう要求することは勿論、わが国政府ならびに諸外国政府が核兵器の使用禁止と廃絶を実現するため、国連を中心として積極的な施策を推進することを強く要請するものである。


  7. 同時に、われわれは、唯一の被爆国の在野法曹として、右国連軍縮特別総会の成功を期するため、現地に代表を派遣し右総会に対してわれわれの意思を伝達すると同時に、ひろく世界の法律家との連帯を深め、相携えて核兵器廃絶のための新しい国際秩序の確立に積極的に取組むことを決意し、本宣言を提言するものである。