第30回定期総会・裁判官新任拒否に関する決議

(第二決議)

最高裁判所は、本年4月4日、第31期司法修習生の裁判官志望者のうち、5名のものに対し理由を示すことなくその採用を拒否した。


右5名は、いずれも青年法律家協会の会員であり、しかもその全員が事前に裁判教官によって、同協会会員であることが任官に際して不利益であるとの理由から、脱会することを迫られるなどの事態が明らかにされ、その帰すうが注目されていたところであった。


かかることから最高裁判所のとったこれらの措置は、まさしく思想・信条・団体加入を実質的理由として新任拒否をなしたものとの疑いが濃厚であるといわざるをえない。


当連合会は、昭和45年の第22期司法修習生から明らかとなった新任拒否問題につき、いずれも思想・信条・団体加入を実質的理由とした疑いが強く、憲法の理念に照らして容認できないものであるとの見地から、かかる措置が繰り返されることのないよう強く要望してきたものであるが、最高裁判所が、そうした声に耳を傾けることなく、本年度も大量な新任拒否を行ったことは、極めて遺憾とするところである。


最高裁判所のかかる措置は、国民の基本的人権と民主主義を守るべき裁判所本来の責務に背き、ひいては司法権の独立を危うくし、民主主義の根幹にかかわる重大事といわざるをえない。


当連合会は、今回の措置に強く抗議するとともに、最高裁判所が、当連合会と国民の意思を尊重し、国民が納得するような新任採用基準を明示するなど適切な措置をとり、今後再びかかる疑惑を生ずる事態のなきよう要望するものである。


右決議する。


1979年(昭和54年)5月26日
第30回定期総会 於東京


提案理由

最高裁判所は、本年4月4日、第31期司法修習生の裁判官志望者のうち、5名の者に対し、理由を示すことなく、その採用を拒否した。


当連合会の調査によれば、右5名は、いずれも青年法律家協会の会員であり、しかもその全員が後期修習中に司法研修所の裁判教官によって、青法協の脱会を迫られ、任官拒否される危険性が高いと言われていた人達であったことが明らかになっている。又、右脱会勧告にあたった裁判教官の発言においても、共通して昭和45年の岸事務総長談話にもとづき青法協加入は、裁判官の公正らしさを害するので好ましくないと強調されている点に特徴がみられる。


かかる事実と過去10年間繰り返されてきた従来の経過とを総合して検討してみると、最高裁判所が、今回とった措置は明らかに思想・信条・団体加入を実質的理由とした差別が濃厚であるといっても過言ではない。


当連合会では、昭和45年の第22期以降連続してなされた新任拒否につき、その都度、遺憾の意を表明し、国民のための司法を実現する立場からその改善を強く要望してきたものであり、とりわけ今回は任官内定前に青法協に所属する裁判官志望者に対し、裁判教官が同会脱会を促したという事態にあたり、事前の3月15日に最高裁判所に対し、団体加入への干渉をやめ、思想・信条等を実質的理由とする新任拒否をしないよう強く要望をなしたところであった。然るに、結果は、前述の如く5名の青法協会員の拒否として現実化するに至ったものである。


いうまでもなく、思想・信条・団体加入の自由は、民主主義社会の根幹をなすものであり、裁判の独立を内容的に保障する前提となるものである。その意味で、思想・信条・団体加入を実質的理由とする新任拒否は、憲法の理念に反し、裁判の独立を脅かし、帰するところ国民の人権保障を危機に陥れるものである。


当連合会は、憲法の最後の番人・人権の砦ともいうべき最高裁判所が、国民の批判の声に耳を傾けることなく、新任拒否を行っていることに強く抗議するとともに、今後裁判官の新任に際しては、憲法の理念に合致する採用基準を確立し、かかる不当な措置を繰り返すことのないよう要望する必要がある。


よって、本決議を提案するものである。