第25回定期総会・参与判事補制度の廃止に関する決議

(決議)

最高裁判所は、昭和47年11月20日、1人制審理の特例として「地方裁判所における審理に判事補の参与を認める規則」を施行し、全国八高裁所在地においてこれを実施してきた。そしてさらに、本年2月1日より、全国の地方裁判所において実施を強行する態勢をとるに至った。


しかしながら、この制度は、これまで当連合会が強く反対してきたように、裁判所法に違反して裁判所の構成をみだすばかりでなく、憲法の保障する裁判官の独立を侵すものであり、かつ、参与判事補による裁判となる危険を招来するなど、国民の公正な裁判を受ける権利を侵害するものである。


われわれは、最高裁判所が、このような制度をただちに廃止し、すみやかに憲法の本旨にたちかえって、民主的司法の確立につとめることを強く要望する。


右決議する。


1974年(昭和49年)5月25日
第25回定期総会


提案理由

最高裁判所は、昭和47年2月、突然、一般規則制定諮問委員会を開催し、「一人制審理の特例に関する規則」の制定について諮問し、わずか一ヶ月足らずのうちに審議を終了させた。そして、同年5月におこなわれた当連合会の総会決議や判事補などの反対を無視し、「関与」を「参与」にかえ、尋問権条項、除斥忌避条項、裁判書署名条項などを削除したのみで、同年9月13日の裁判官会議において、「地方裁判所における審理に判事補の参与を認める規則」を制定して、昭和47年11月20日より施行し、全国8高裁所在地の地方裁判所でこれを実施した。


この制度の問題点は、つとに当連合会が指摘しているように、第一に、この制度が本来独立の裁判官たる未特例判事補を参与事件の裁判権行使のうえで、単独判事に従属する立場におき、他方単独判事が裁判体の部外者である参与判事補の意見によって、その判断に影響をうけるという二重の意味で憲法の保障する裁判官の独立を侵す危険があるところにあり、


第二に、大量の単独事件を裁判所法第26条に違反して裁判所の構成をみだし、権限もなく責任も負わない参与判事補に下請処理をさせ、そのことを通じて、官僚的な事件処理の姿勢を判事補にうえつけ、結局、国民の裁判を受ける権利の根底をゆるがすおそれが多いところにある。


最高裁判所によると、この制度の目的は、未特例判事補の研修と単独体の強化にあり、当連合会の指摘はあたらないとされるが、この二つの目的自体が表面上互いに矛盾するものであり、前者を重視すれば単独体の負担が増大し、後者を重視すればいきおい下請裁判化へと進まざるをえず、また、次に指摘する裁判の現状を考えると、結局、当連合会の指摘する問題は避けることができないといわざるをえないのである。裁判の現状は、第1回司法シンポジウムであきらかにされたとおり、臨司意見書以来10年の歳月が経過した中で、末端の裁判所においては、裁判官がいない、裁判が機械化する、下請処理が多数あらわれる、国民に負担が転嫁される、裁判官が独立の気概に乏しくなった、などの病弊が蔓延しているといわれている。この状況の中で参与判事補制度が運用されるのであり、当連合会の指摘する問題点は、更に拡大すると考えざるをえない。


このように問題のある制度だからこそ、本制度は、各実施庁所在地弁護士会の裁判所に対する説得活動と、事件担当弁護士の現場における抗議、未特例判事補をはじめとする現場裁判官の抵抗などにあい、現在でも必ずしも円滑に実施されているとはいえない状況にある。


当連合会は、かかる事態を改善するため、参与判事補制度の廃止を求めて最高裁判所との協議を開始したばかりであったが、それにもかかわらず、最高裁判所は、こうした状況に逆行し、突然、規則を改め、本年2月1日より全国の地方裁判所において実施を強行する態勢をとるに至った。


最高裁判所が内外の批判の高まりや、当連合会との協議のさ中にこのような逆行的措置をとったことはきわめて遺憾であり、われわれは、その姿勢自体が憲法の予定する裁判所としてふさわしいものではないと指摘せざるをえない。当連合会は、国民の基本的人権の擁護、民主的司法制度の確立を願う立場から最高裁判所が深く反省し、1日も早く憲法の本旨にたちかえり、民主司法の確立につとめる立場を回復するよう求めて、この決議をおこなうものである。


以上