第25回定期総会・調停委員の公務員化反対に関する決議
(決議)
調停制度の真髄は、国民の司法参加にあり、調停委員が国民の各層から選ばれ、調停を受ける人と同質の国民である点にある。
今国会で成立した、民事調停法及び家事審判法の一部を改正する法律は、当連合会などの批判により一部修正をみたものの、調停委員を非常勤の裁判所職員とし、かつ、これにともないその職務も事件担当以外に拡大することとしている。これらは調停制度の生命たる国民の司法参加の実を失わせ、公務員による職業的調停化を招くもので極めて遺憾である。
よって、当連合会は、「改正」法の運用を厳しく監視しながら、ひきつづき調停委員の公務員化に反対し、調停制度が本来の姿を回復するよう国民と連携して努力していくものである。
右決議する。
1974年(昭和49年)5月25日
第25回定期総会
提案理由
1.調停制度は、調停を受ける当事者と全く同質の一般国民が調停委員となり、説得のみを手段として紛争を解決する制度であり、その真髄は、国民が司法に参加し、民主的に解決をはかるところにある。
今国会に提出された「民事調停法及び家事審判法の一部を改正する法律案」は、この調停制度の真髄を侵し、その生命を失わせる次の三点の提案を含むものであった。
- 改正民事調停法第8条2項、同家事審判法第22条の2、2項において「民事(家事)調停委員は、非常勤とし、その任免に関して必要な事項は、最高裁判所が定める。」とし、調停委員の身分を、担当事件と関係なく当初から非常勤公務員として任命するものとすること。
- 前各条1項において「民事(家事)調停委員は、調停委員会で行う調停に関与するほか、裁判所の命を受けて、他の調停事件について、専門的な知識経験に基づく意見を述べ、嘱託に係る紛争の解決に関する事件の関係人の意見の聴取を行い、その他調停事件を処理するために必要な最高裁判所の定める事務を行う。」として、調停委員の職務と、担当事件以外の他の事務にまで拡張するとともに、規則により無定量に拡張し得るものとすること。
- 改正民事調停法第16条の2において、調停委員会は、一定の場合において「事件の解決のために適当な調停条項を定めることができ」「その記載は裁判上の和解と同一の効力を有する」ものとすること。である。
2.調停委員の身分の公務員化は、その職務の担当事件外への拡張と表裏の関係にあるが、これは身分・服務・分限・懲戒等においていくつかの弊害が予想される。
- まず、われわれ弁護士にとって、この裁判所職員化は、在野性と相容れない疑問を生ずるが、他の調停委員にとっても事態は同様と思われる。調停委員の人選は、自然常時執務ができ、かつこのような矛盾を生じない階層へと偏っていき、職業化し、固定化した国民とかけはなれた調停委員が出現するおそれがある。
- 次に、公務員化した調停委員は、自然に身分的な優越感を抱く危険が多く、事件処理の能率や成績を気にして、役人的な態度で当事者に臨むことが心配される。
こうした疑問は、すべて、調停制度の本来の趣旨を失わせる危険をはらむものといわざるをえない。
3.調停委員会の定める調停条項によって調停を成立させることは、当事者の自由な意思で紛争を解決するという調停制度の本質を失わせるものであり、これが終局的解決となるため、ひいては国民の裁判を受ける権利にも影響する疑のあるものであった。
4.当連合会は、このような、調停制度の根幹をゆるがし、国民の権利を侵す事態を招来する危険のある「改正」点に対し、国民の人権擁護と社会正義の実現を使命とする立場から強く反対し、各方面に呼びかけて前記「改正」点が実現せぬよう全力を尽してきた。その結果、衆議院においては、前記調停委員会の定める調停条項をもって調停を成立させる点が修正削除され、また参議院においては家事調停委員の職務に「その他最高裁判所の定める事務」を行わせる部分が削除された。これは当連合会の運動の成果ということができる。
しかし、今次改正の眼目とされている調停委員の公務員化と職務拡張(前記一部削除を除く)の点は、そのまま可決され、10月1日から施行されることとなった。これは極めて遺憾なことである。
5.当会の批判に理由があり、右二点の「改正」が不当なものであることは、「改正」案の審議を行った衆・参両院の法務委員会が、いずれもその決議に関して、成立後の運用を懸念する立場から付帯決議を行ったことからも明らかである。
衆議院法務委員会付帯決議
- 調停制度は、民間の司法参与の下に、当事者の互譲によって紛争を解決することを本質とする制度である。このような調停制度の本旨にかんがみ、調停制度の運用に当たっては、次の点について配慮すべきである。
- 調停委員の身分を当初から非常勤の公務員とするに当たり、調停委員の職業化を避ける等民間の司法参与の実を損なうことのないよう留意すべきである。
- 調停委員の任命については各方面の意見を聴取し、広い範囲から適任者を確保するよう努力すべきである。
- 裁判官の調停関与の実を挙げるため、今後一層調停担当裁判官の確保に努力すべきである。
- 調停委員の身分を当初から非常勤の公務員とするに当たり、調停委員の職業化を避ける等民間の司法参与の実を損なうことのないよう留意すべきである。
- 政府及び最高裁判所は、この際調停委員の待遇との均衡を考慮し、保護司、人権擁護委員、司法委員及び参与員の待遇改善並びに国選弁護人の報酬の一層の増額について努力すべきである。
参議院法務委員会付帯決議
- 最高裁判所は、改正後の民事調停法第8条第1項の規定により、最高裁判所規則に委任せられた「調停事件を処理するために必要な事務」を定めるにあたっては、民事調停委員の負担過重とならないよう必要最小限度のものにとどめるべきである。
- 最高裁判所は、民事調停委員及び家事調停委員の任命にあたっては、調停制度の本旨にかんがみ、民間の司法参与の実を挙げるため、関係各方面の意見を聴取し、民間の各界各層から適任者を確保するよう配慮すべきである。
6.このように付帯決議は「改正」法の運用について注意をうながしてはいる。しかしながら、ことは、単なる運用に関する問題ではない。問題は調停委員の公務員化にある。
したがって当連合会は、あらゆる機会を通して運用に厳しい監視を行いながら、ひきつづき調停委員の公務員化に反対し、調停制度が本来の民主的な姿を回復するよう国民と連携して努力を続けていく決意を強く表明するものである。