第20回定期総会・司法権の独立に関する宣言

(宣言)

司法権の独立は、民主主義の根幹であり、人権擁護の最終的保障である。しかるに近時権力を背景として裁判官に圧力を加え、または加える虞れある言動がみうけられることはまことに遺憾である。


われわれは司法権に対するかかる圧力を排除し、その独立を守ることを期する。


右宣言する。


1969年(昭和44年)5月24日
  第20回定期総会


提案理由(議事録より)

司法権の独立は、本来古典的な三権分立思想による産物、すなわち、国家権力の一元化に対する抑制として生じたものでありますが、近年、議院内閣制による立法権と行政権の緊密化、即ち、国会の多数党が常に内閣を組織するという状態のもとにあっては、司法権の独立はいよいよ重大であり、人権擁護の最後のとりでとなっているのであります。


国家権力が、自己の欲する裁判を実現するために裁判官に圧力を加え、もし不幸にして裁判官がその圧力に屈したときは、人権は法律の名において蹂躙されるという運命となるのであります。我々在野法曹はそのような事態をひき起すいかなる兆候についてもこれを見逃すべきではないのであります。


近時最も問題なのは、政府与党においていわゆる裁判制度調査構想が示されたことであります。本来政党が政策として単に裁判制度を調査研究することはそれ自体としてあえて異を称えることではないが、裁判を研究調査するという名目であっても、特定の具体的裁判の傾向を不当であるとして批判することは、それが裁判官の任免権を有する内閣に事実上最大の支配を及ぼす与党の動向であることを考えると、司法権の独立に対する介入となる虞れのあることは申すまでもありません。最高裁判所をはじめとする裁判所のこれに対する抵抗を、法曹全体の立場として支援すると共に一歩すすめて、我々在野法曹は、人権擁護の最前線にある者として司法権に対する一切の不当なる圧力を排除し、その独立を守る堅い決意を持って、民主国家の司法を国民のために死守する輝やかしい責務にまい進したいと考えております。しかしながら、裁判に対する批判の自由は尊重されねばならないのでありまして、裁判批判の自由が侵害されるときは言論抑圧につながる虞れがあるのであります。従って、裁判批判は司法権の独立を侵害しないものである限り絶対に尊重確保せられるべきものであって、この宣言はこのことを否定するものでないことをここに明らかに致しておきます。