生殖医療技術利用に関する法整備を求める会長声明

法務省は、「嫡出推定制度を中心とした親子法制の在り方に関する研究会」(以下「親子法制研究会」という。)を発足させ、2018年10月から議論を開始した。同研究会は、無戸籍者問題などを契機とした嫡出推定制度の見直しとともに、生殖医療技術によって出生した子に関する親子法制の検討を目的としている。


同研究会では、これまで厚生科学審議会で審議された、生殖医療技術の利用に対する規制(以下「行為規制」という。)の報告書及び行為規制を前提にした親子法制に関する法制審議会の「中間試案」がありながら、その後、議論が中断し、具体的な立法がされないままとなっている現状を踏まえ、生殖医療技術に関する親子法制については行為規制を前提としない形で検討することが相当であるとされている。


しかしながら、行為規制と親子法制は密接に関連しており、親子法制の適切な議論の前提としても行為規制の検討は重要である。


例えば、AID(非配偶者間人工授精)では、出生した子と分娩した女性の夫との間に血縁関係はなく、夫から子への父子関係否認がなされる余地を生じる。そこで、子の地位の安定のために、AIDに同意した夫から子への父子関係否認を制限することなどがこれまでも議論されてきた。しかしながら、技術的には簡易なAIDは、医療機関外で行うことも可能であり、上記の制限を設ける際、行為規制として議論されてきたAID実施医療機関の公的登録制度や夫の同意に関する情報管理や開示の制度が伴わなければ、紛争を回避することが困難である。


また、これまで親子関係の問題が生じていた死後生殖や代理出産は、その技術利用の是非自体に議論があったが、未だ具体的な規制はされていない。実際に出生した子がいる以上、子の福祉の観点から親子法制の在り方を議論する必要もあるが、行為規制が併せて検討されない場合、親子法制の議論の結果によって、未だ是非の定まらない技術の利用が助長又は抑制される懸念を生じる。


加えて、卵子を体外で受精させて女性の胎内に移植する技術は、分娩した女性と出生した子の間に血縁がない場合を生じる。また、胚などの凍結技術は、精子等の採取から懐胎までに長時間を経る余地を与える。このために死後生殖のみでなく、夫婦間の体外受精で、父が血縁のある子との父子関係を争う事例が生じていることも報じられている。このように生殖医療技術は、自然生殖では想定されていなかった状況や問題を生じうるものであり、親子法制を考える上で、併せて生殖医療技術がどの程度、どのように行われるべきか検討することは、極めて重要である。


当連合会は、これまでも度々生殖医療技術に関する法整備の必要性を提言し、生殖医療技術によって生じる親子関係の法整備も求めてきたものである。しかしながら、行為規制の検討を伴うことなく、親子法制のみが検討されることは、親子法制の面でも不備を生じかねず、また、行為規制のないまま技術利用が助長又は抑制されるなどの影響が生じることも危惧するところである。


よって、当連合会は、今般、法務省が親子法制研究会を発足させたことを機に、国に対し、厚生労働省において早急に行為規制に関する議論を再開すること及び生殖医療技術利用に関する法整備を進めることを改めて求める。
                                  

2019年(平成31年)4月25日
                        日本弁護士連合会
                         会長 菊地 裕太郎