死刑執行に強く抗議し、直ちに死刑執行を停止し、2020年までに死刑制度の廃止を目指すことを求める会長声明

本日、東京拘置所において3名、名古屋拘置所において2名、仙台拘置支所において1名の合計6名に対して死刑が執行された。その中には再審請求中であるものも含まれている。執行の事実及び人数の公表を行うようになった1998年11月以降では、本年7月6日の7名に対する死刑執行に続く大量の執行である。昨年8月就任以降、上川陽子法務大臣による3回目の執行であり、第2次安倍内閣14回目の死刑執行で、合わせて34名になる。


当連合会は、2016年10月7日、第59回人権擁護大会において、「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し、日本政府に対し、日本において国連犯罪防止刑事司法会議(コングレス)が開催される2020年までに死刑制度の廃止を目指すべきであることなどを求めてきた。


犯罪により奪われた命は二度と戻ってこない。このような犯罪は決して許されるものではなく、犯罪により身内の方を亡くされた遺族の方が厳罰を望む心情は十分に理解できる。悲惨な体験をした犯罪被害者・遺族に対する十分な支援を行うことは、社会全体の責務である。


一方で、刑罰制度は、犯罪への応報にとどまらず、社会復帰の達成など再犯の防止に役立ち、社会全体の安全に資するものであることが必要であり、死刑制度を含む刑罰制度全体を見直す必要がある。この刑罰制度全体の改革を考えるに当たっては、とりわけ、死刑制度が、基本的人権の核をなす生命に対する権利(国際人権(自由権)規約第6条)を国が剥奪する制度であることに留意すべきである。


1980年代に再審無罪が確定した4件の死刑事件は、誤判・えん罪の危険性が具体的・現実的であることを私たちに認識させるものであった。当連合会が再審を支援している死刑事件である袴田事件もえん罪の疑いがあり、現在再審に向けた手続が続いているところである。死刑に直面している者に対しては、死刑が執行されるまでその全ての刑事手続の段階において十分な弁護権、防御権が保障されるべきであり、再審請求中の死刑確定者に対する死刑の執行はこの観点からも問題の残るものである。


内閣府が2014年11月に実施した世論調査で、「死刑もやむを得ない」とした80.3%の回答者への追加質問では、そのうち40.5%が「状況が変われば将来的には死刑を廃止してもよい」と回答している。また、死刑制度の存廃について終身刑が導入された場合は、「死刑を廃止する方がよい」という回答も全回答者の37.7%に上っている。死刑についての情報が十分に与えられ、死刑の代替刑も加味すれば、国民の多数の世論に死刑存置の根拠を求めていた状況が変わる可能性がある。


2017年12月現在、法律上及び事実上の死刑廃止国は、世界の中で3分の2以上を占めている。また、OECD加盟国のうち死刑を存置しているのは、日本・韓国・米国の3か国であるが、このうち、死刑を国家として統一して執行しているのは、日本だけという状況にある。


国際社会においては死刑廃止に向かうのが潮流である。死刑制度を残し、現実的に死刑を執行している国は、少数になってきている。国連の自由権規約委員会、拷問禁止委員会及び人権理事会は、死刑の執行を繰り返している日本に対し、死刑執行を停止し、死刑廃止を前向きに検討するべきであるとの勧告を出し続けている。


更に日本は、本年7月17日にEU及びEU加盟国との間で、戦略的パートナーシップ(SPA)を締結しており、その目的及び一般原則には「共通の価値及び原則(特に、民主主義、法の支配、人権及び基本的自由)の促進に共同で貢献すること」が掲げられている。EUは死刑制度に明白に反対しており、その廃止を求めている。死刑執行を続けるならば、EU及びEU加盟国は、日本との間で人権及び基本的自由という価値や原則の共有に懸念を抱くことになりかねない。実際に、本年7月6日の死刑執行後直ちに、EU代表部と加盟国駐日大使らの連名、ドイツ人権政策委員、駐日フランス大使等が、それぞれ死刑廃止を呼びかける声明等を公表している。


2020年に開催されるオリンピック・パラリンピック及びコングレスに向けて多数の国家、国民の注目が日本に集まってきている中、死刑を執行することが、日本に対する国際評価に影響することも考慮すべきである。


死刑は憲法上保障された生命権に対する人権侵害を行う刑罰であり、国際法上の問題であることに政府は目を向ける必要がある。当連合会は、本日の死刑執行に対し強く抗議するとともに、改めて死刑を廃止するまで全ての死刑執行を直ちに停止した上で、2020年までに死刑制度を廃止するよう求める次第である。


2018年(平成30年)7月26日

日本弁護士連合会      

 会長 菊地 裕太郎