「消費者契約法の一部を改正する法律」及び「特定商取引に関する法律の一部を改正する法律」の成立に関する会長声明

本年5月25日、第190回国会において「消費者契約法の一部を改正する法律」と「特定商取引に関する法律の一部を改正する法律」が可決され、成立した(以下「特定商取引に関する法律」を「特定商取引法」という。)。

当連合会は、2015年9月10日付け「内閣府消費者委員会消費者契約法専門調査会『中間とりまとめ』に対する意見書」、2015年9月25日付け「内閣府消費者委員会特定商取引法専門調査会『中間整理』を踏まえた特定商取引法改正の在り方に関する意見書」や、2016年1月29日付けの消費者契約法と特定商取引法の規律の在り方についての答申に対する2つの会長声明などにより、情報通信技術の発達や高齢化社会の進展等で拡大する消費者被害等の予防・救済を図るため、消費者契約法と特定商取引法の早期改正を求めてきたところであり、両法の改正が実現したことは評価できる。

1 消費者契約法改正の意義と課題
消費者契約法においては、(1)過量契約(事業者から受ける物品、権利、役務等の給付がその日常生活において通常必要とされる分量、回数又は期間を著しく超える契約)という限定的な範囲に止まるとはいえ、加齢や認知症等により合理的な判断をすることが困難な事情を利用して契約を締結させる不当な勧誘類型について新たな消費者の取消権を導入したこと、(2)不実告知を理由とした誤認取消の対象となる重要事項が動機付け部分にまで拡張されたこと、(3)取消権の行使期間を伸長したことは、不当勧誘行為の予防や被害救済の観点から高く評価できる。また、(4)事業者が債務不履行をしているにもかかわらず消費者が契約を解除できないとする契約条項を不当条項として無効とする規定や、(5)消費者の不作為をもって契約の申込み又は承諾の意思表示を擬制する契約条項を法10条前段の要件を満たす契約類型として例示するといった不当条項規制の改正が一部実現したことも、情報通信技術の発達に伴い多発する消費者被害等の予防・救済に資するものとして意義がある。

しかし一方で、消費者契約法では、制定時より多岐にわたる項目について見直しの必要性が指摘されながら、施行から15年もの長年にわたり内閣府や消費者庁等に設置された検討会等において十分な調査・検討と議論が積み重ねられてきたにもかかわらず、今回法改正が実現したのはわずか6項目にすぎない。

前記意見書や会長声明で当連合会が改正を求め、消費者委員会でも今後の検討課題と位置づけられた①「勧誘」要件の在り方、②不利益事実の不告知、③困惑類型の追加、④平均的な損害の額の立証責任、⑤条項使用者不利の原則、⑥不当条項規制の更なる追加などの諸項目についても、ネット取引における消費者被害や高齢者の消費者被害などが後を絶たない現状に照らし、対応を先延ばしすることは到底認められない。今回の法改正の附帯決議でも決議されたとおり、今後の検討課題とされた諸項目につき、引き続きあるべき法改正の内容を検討し、時間をおくことなく速やかに法改正が実現されなければならない。

2 特定商取引法改正の意義と課題
特定商取引法においては、(1)指定権利制の見直し、(2)電話勧誘販売への過量販売解除権導入、(3)業務停止命令を受けた事業者の役員等が新たに別の法人で同種の事業を行うことの禁止等が内容とされ、この点は消費者保護の見地から評価できる。

今後、内閣府消費者委員会が本年1月7日に行った答申に基づき、①事業者が支払いのために金融機関等に対して虚偽の申告をするようそそのかしたり、消費者の求めがない場合等に金融機関等に連れて行ったり、事業者が積極的に金銭借入・預金引き出しを勧める行為を指示対象とすること、②アポイントメント・セールス規制の範囲を拡大すると共に、来訪要請手段としてSNS・電子広告を用いた場合にも同規制が及ぶようにすること、③美容医療契約を特定継続的役務と位置づけること、④立入検査の対象となる「密接関係者」の範囲を広げるため必要な政令改正を行うこと、等を内容とする政省令改正を確実に行うことを求める。

また、今回の法改正で見送られた、訪問販売及び電話勧誘販売における事前拒否者への勧誘禁止制度の導入、通信販売における虚偽・誇大広告に関する取消権の付与、複数の都道府県にまたがる被害事案で都道府県による行政処分のみでは不十分なケースについては国が行政処分を行うべきことの明確化等についても、消費者保護の見地から、できるだけ早い時期に実効性ある法制度の確立に向けた検討が再開されるべきである。

 

 

2016年(平成28年)5月25日

日本弁護士連合会

会長 中本 和洋