全国学力・学習状況調査について、学校別結果公表を行わないこと等を求める会長声明

 

文部科学省は、本年4月に実施した調査該当学年の全児童生徒を対象とした「平成26年度全国学力・学習状況調査」(以下「本件学力調査」という。)の結果を本年8月25日に公表すること及び各教育委員会、学校及び児童生徒に対して調査結果等の提供を行うことを、本年7月14日に発表した。本件学力調査は、その実施要領において、一定の条件の下ではあるが、都道府県・市区町村の教育委員会及び各学校が、学校別の結果の公表を行うことを許容しているが、このようなことは過去に類例を見ない。


学校別結果の公表の許容は、ここ数年の間に顕著となった首長等による学校別調査結果公表を求める意見が相次ぐ中でのものである。しかし、実施要領自体が、調査結果の取扱いについては「序列化や過度な競争が生じないようにする」などの配慮を求めており、また学校別の公表に当たり、「平均正答数や平均正答率などの数値について一覧での公表やそれらの数値により順位を付した公表などは行わないこと」としているのは、序列化や競争教育助長の弊害を伴う危険のあることを自認しているものに他ならない。公表の仕方についてそのような配慮がなされたとしても、一旦数値が公表されれば、一覧表を作成したり順位を付することは容易であるし、また、実施要領には、数値のみの公表はせず、分析結果も併せて公表することなども指示されてはいるが、数値や順位に注目が集まり、学校間の競争を煽る結果になるであろうことは容易に想像される。


さらに、この間、学力調査に備えて学力調査の過去問や漢字ドリル・計算ドリルなどを繰り返す事前練習で子どもたちに負担を強いている事例もあり、教育委員会が各学校に学力テストの具体的な準備を指示していた事例もあったことが伝えられている。また、以前に学力調査を実施して学校別の結果を公表した地方自治体では、問題の漏洩や正解の誘導など、不正行為が複数発生したことも報告されている。


当連合会は、「全国学力調査に関する意見書」(2008年2月15日)で、その前年から復活した全国学力・学習状況調査に関し、問題の難易度、結果の公表、情報公開制度等を前提とするならば、教育現場における成績重視の風潮、過度の競争を招来し、教師の自由で創造的な教育活動が妨げられ、文部科学大臣の教育に対する「不当な支配」(教育基本法16条1項)に該当する違法の疑いが強いと指摘し、このような事態は子どもの全人格的な発達を阻害し、障害のある子どもに対する差別を招くなど、子どもの個性に応じた弾力的な教育を受ける権利を侵害するおそれが大きいとして、児童生徒全員を対象とする方法による学力調査に反対し、抽出調査やサンプル調査などの方法に改めることを求めた。


また、旭川学力テスト事件最高裁大法廷判決(1976年5月21日。以下「旭川学テ判決」という。)は、学力調査に「成績競争の風潮を生み、教育上好ましくない状況をもたらし、また、教師の真に自由で創造的な教育活動を畏縮させるおそれ」があることを認めつつ、当時の調査に関しては、①試験問題が平易で特別な準備を要しないこと、②学校別の結果公表はしないこと、③社会一般の良識を前提とすれば自由な教育活動が妨げられる可能性は強くないことなどを挙げて、教育基本法の禁ずる「教育への不当な支配」とまではいえないとした。しかし、本件学力調査は、学校別結果の公表を許容するというものであり、旭川学テ判決に照らしても適法性の要件を欠くものといわざるを得ない。


これは、2010年に国連子どもの権利委員会が、高度に競争的な日本の学校環境が、子どものいじめ、精神障害、不登校、退学、自殺などを助長している可能性があると指摘し、極端に競争的な環境による悪影響を回避するために学校及び教育制度を見直すよう勧告した趣旨に反するものである。また、当連合会としても、2012年10月5日の人権擁護大会において、「子どもの尊厳を尊重し、学習権を保障するため、教育統制と競争主義的な教育の見直しを求める決議」を採択し、過度な競争教育の柱となっている全国学力テストを含む学校教育の在り方を検証し、必要に応じて見直すことを求めているところであり、到底看過することのできない問題である。


よって、当連合会は、本件学力調査に関する学校別の結果の公表は、過度な競争教育を煽り、子どもの学習権・成長発達権を危うくするおそれが極めて高いことから、各教育委員会及び学校はこれを行わないことを求めるとともに、文部科学省は、該当学年の全児童を対象とする全国学力・学習状況調査の方法を改め、サンプル調査などの方法に変更するとともに、学校別の結果公表を許容する方針を見直すことを求める。

 

 

   2014年(平成26年)8月21日

  日本弁護士連合会
  会長 村 越  進