名張毒ぶどう酒事件第8次再審請求審棄却決定についての会長声明

本日、名古屋高等裁判所刑事第1部(石山容示裁判長)は、いわゆる名張毒ぶどう酒事件第8次再審請求審につき、請求人奥西勝氏の請求を棄却する旨決定した(第8次再審請求審決定。以下「本決定」という。)。

 

本件は、1961年(昭和36年)3月、三重県名張市で、農薬が混入されたぶどう酒を飲んだ女性5名が死亡し、12名が傷害を負った事件である。奥西氏は、一審で無罪となったものの、控訴審で逆転死刑判決を受け、最高裁判所で上告が棄却されて、死刑判決が確定していた。当連合会は、1973年(昭和48年)に人権擁護委員会において再審支援のための名張事件委員会を設置し、以来、四十年余にわたって奥西氏の救済のため、最大限の支援を行ってきた。

 

第7次再審請求においては紆余曲折があり、請求審においては、犯行に使われた毒物は請求人が当時所持していたニッカリンTとは異なる毒物であることを実証した弁護団提出の鑑定等の新規性・明白性を認め、一旦は再審開始がなされたが、その後、異議審、第1次特別抗告審を経て、差戻し後の異議審においては「犯行に用いられた薬剤がニッカリンTではあり得ないということを意味しない」として再審請求を棄却し、最終審(第2次特別抗告審)もこれを追認した。

 

2013年(平成25年)11月5日に申し立てられた第8次再審請求では、第7次再審請求の最終審において弁護団が証拠提出した毒物意見書等について、最終審での検討がされないまま棄却決定された経過を踏まえ、同意見書等をあらためて証拠提出した上で、さらに、第7次再審請求において最終審が棄却決定した根拠が誤りであることを実験により証明することを予告していた。

 

ところが、本決定は、弁護団が近々提出する予定であるとしていた実験結果すら待つことなく、請求を棄却した。奥西氏の加齢の程度や健康状態の悪化の程度を踏まえて、裁判所の判断を早期に示すこととしたと本決定はいうが、弁護団に立証のいとまも与えず、審理不尽のまま棄却決定したものとの批判を免れない。

 

また、近時の重要再審事件においては、検察官の手持証拠の開示が再審開始決定の重要な端緒となっている例が多く見られるところ、本件においても弁護団は、証拠開示請求を繰り返し求めてきたが、裁判所及び検察官は何らの回答もしないという姿勢に終始した。証拠が隠されたまま死刑判決が維持されていることは、正義に反し、司法に対する国民の信頼を失わせるものであり、到底容認できないものである。

 

奥西氏はすでに88歳になり医療刑務所で病床に伏せており、雪冤の思いを胸に生命の火をともし続けている。当連合会は、今後とも奥西氏が無罪判決を勝ち取り、死刑台から生還するときまで、あらゆる支援を惜しまないことをここに表明する。



 


 2014年(平成26年)5月28日

  日本弁護士連合会
  会長 村 越   進