デモ行進等における公園等公共用物の利用の制限に反対する会長声明

首都圏において原子力発電所の再稼働の反対等を訴える抗議行動やデモ行進等を主催する集団や個人の連絡組織が、日比谷公園から国会周辺まで脱原発を訴えるデモ行進を本年11月11日に行うことを企画し、東京都に対し、日比谷公圏内の霞門とその周辺を本件デモ出発のために同日午後1時から3時までの間一時的に使用することの承認を求める許可申請をした。日比谷公園には、日比谷公会堂と日比谷野外音楽堂という二つの集会施設があるが、これまで、デモ行進の集合場所・出発地としては、この二つの集会施設を使用しない場合でも、園路あるいは広場などを利用することが広く認められてきた。実際、同組織も、本年3月11日と7月29日の2回にわたり、一時使用届出書を提出し、デモ行進の集合場所・出発点として、日比谷公園を使用してきたが、いずれも、日比谷公会堂や日比谷野外音楽堂を使用せず、園路のみの使用であった。



ところが、東京都は、本年8月中旬以降、日比谷公会堂や日比谷野外音楽堂の使用料を支払わなければ、園路のみをデモ行進の集合場所・出発地点として使用することはできないという扱いとしたため、10月31日、本件デモの集合場所・出発地としての使用を、公園管理上の支障となるため許可しない旨の処分をした。



上記の不許可処分については、東京地方裁判所に対し、仮の義務付けを求める申立てがなされたが、この申立てに対しては、11月2日にこれを却下する決定がなされた。さらにその後なされた即時抗告に対し、東京高等裁判所は、11月5日に抗告を棄却した。これらの裁判所の決定においては、「本件デモは、特定の組織化された団体によるものではなく、広く一般市民に参加を呼びかけて行われるものであるから、その参加者の人数をあらかじめ相当程度の確度をもって把握することは容易ではな」いとした上で、11月11日の日比谷公園の空いているスペースでは、デモの参加予定者である1万人を収容する能力はないとし、他の公園利用者の利用との間に競合を生じ、混乱を生じる具体的危険があるとし、行政事件訴訟法第37条の5第1項の「本案について理由があるとみえるとき」 の要件が満たされていないとした。



しかし、日比谷公園は、典型的な公共用物であり、一般公衆による公共用物の使用は当然に自由である。そもそも、公園は、伝統的に、集会やデモ行進の集合・出発地点として用いられてきた典型的なパブリック・フォーラムであり、その利用は原則として認められるべきであって、これを正当な理由なく制約することは、憲法の保障する表現の自由及び集会の自由の不当な制限となる。したがって、公園の一時使用申請について許可をするに当たっては、その公共用物、公の施設及びパブリック・フォーラムとしての性質に鑑み、原則としてこれを許可しなければならず、申請を拒否することができるのは、利用者の希望が競合する場合のほかは、施設を利用させることによって、他の基本的人権が侵害され、公共の福祉が損なわれる危険がある場合に限られる(最判平成7年3月7日民集49巻3号687頁参照)。



しかも、これらの裁判所の決定は、東日本大震災以降の原子力発電所の再稼働の反対等を訴える抗議行動やデモ行進は、多くの市民が自発的に参加し、しかも、整然と平和的に行われており、これまで混乱を来していないという重要な視点が看過されている。また、裁判所の論理に従えば、自発的に多くの市民が集まるデモであり、参加者の人数の把握が困難だとして、今後もデモ行進の集合場所・出発地点としての日比谷公園の使用が認められないことになる恐れがあり、市民の国会への請願行動などへの深刻な障害となりかねない。



よって、当連合会は以下の点を強く求める。



1 東京都は、平和的な抗議行動やデモ行進が、民主主義の根幹にかかわるものであり、最大限の尊重を要するものであることを確認し、日比谷公園について、日比谷公会堂や日比谷野外音楽堂を使用しない場合にも、デモ行進の集合場所・出発地として使用することを広く認めるべきである。



2 裁判所は、憲法の保障する表現の自由及び集会の自由の重要性を踏まえ「デモ行進の集合場所・出発地点として使用する場所があるかどうか」「他の基本的人権が侵害される具体的危険の有無」についての判断を厳格に行い、これらの自由の不当な制限とならないよう配慮すべきである。

 

2012年(平成24年)11月9日

日本弁護士連合会
会長  山岸 憲司