「人権委員会設置法案」の閣議決定に対する会長声明

政府は、本日、「人権委員会設置法案」を閣議決定した。



当連合会は、刑事施設、入管施設などにおける人権侵害、官民を問わず性別や障がい、民族などを理由とした差別など様々な人権侵害について、その救済と予防を任務とし、また総合的な人権政策を提案するなどの役割を担う国内人権機関が必要であることを、強く訴えてきた。また、既に約100か国で国内人権機関が設置されていることも背景に、国連の各種人権機関も、日本に対して国連が採択したいわゆるパリ原則に合致した国内人権機関の早期設置を求めてきたところである。



これを受けて、人権救済と人権教育、人権政策の総合的推進などを目的とする人権委員会を設置する本法案が閣議決定されたことは、国内人権機関設置に向けた大きな一歩を踏み出したものといえる。



しかし、本法案の人権委員会は、法務省の外局として設置され、その事務局の事務を法務局長又は地方法務局長に委任することができることとされている。人権委員会が、独立性が高いとされる国家行政組織法上のいわゆる3条委員会として設置されるとしても、僅か5名の委員(うち、常勤の委員は2名のみ)の活動を実質的に支える全国の事務局職員を、法務省の内局である法務局職員が事実上兼任することとなるおそれがある。そうなると、パリ原則の求める独立性が危うくなり、これまでの法務省人権擁護局による人権擁護行政との実質的な違いも定かではなくなる。



この問題点に関し、法務省が昨年12月に発表した法案概要では、全国所要の地に、人権委員会直属の事務局職員(現地担当官)を配置し、公務員による人権侵害事案の調査及び法務局・地方法務局の指導監督等の事務を行わせるとしていたが、この趣旨が法案から消えている。



刑事施設や入管施設などの公務員による人権侵害事案について、独立した立場から公平な調査を行うためには、人権委員会直属の事務局職員(現地担当官)が直接関与する体制を作ることが必要であり、その旨法案に明記すべきである。



また、公務員による人権侵害事案について、人権委員会の調査に実効性を持たせるため、これに対する公務所の協力義務を法定すべきであるし、その調査拒否に対してはそれを公表できることとすべきである。



当連合会は、国際的な基準を満たす人権保障体制の確立という喫緊の課題の達成のため、本法案に少なくとも人権委員会直属の事務局職員(現地担当官)が直接関与する体制を作ること及び人権委員会の調査に実効性を持たせるため、これに対する公務所の協力義務等について修正を行った上で、早期に法案を成立させることを求めるものである。

 

2012年(平成24年)9月19日

日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司