検察基本規程に関する会長声明

本日、最高検察庁は、「検察の理念」と題する検察基本規程を公表した。検察基本規程の制定は、本年3月31日に公表された検察の在り方検討会議提言「検察の再生に向けて」(以下「提言」という。)の中で、「検察官が職務の遂行に当たって従うべき基本規程を明文化した上で公表し、検察官の使命・役割を検察内外に明確にするべきである。」「その規程は、この提言において具体的に指摘する事項等の趣旨を踏まえ、外部の声を聞きつつ、多くの検察官が参加する議論・検討を経て制定するべきである。」との提起がなされたことを受けたものである。


検察基本規程の「あたかも常に有罪そのものを目的とし、より重い処分の実現自体を成果とみなすかのごとき姿勢となってはならない。」「無実の者を罰し、あるいは、真犯人を逃して処罰を免れさせることにならないよう、知力を尽くして、事案の真相解明に取り組む。」との記載は、提言の「検察官は、被疑者・被告人の権利保障と証拠に基づく事案の真相解明とに努めることにより、えん罪の発生を防ぎ、適切な処罰を実現しなければならない旨などを、基本規程の中核とするべき」との指摘を踏まえたものと考えられ、一定の評価をすることができる。


他方、提言が「検察官は、被告人の利益に十分配慮し、法令の定め・判例とそれらの趣旨に従い、誠実に証拠を開示するべきであること」を盛り込むことが考えられると指摘していたのに対し、今回公表された検察基本規程においては、検察官手持ち証拠を誠実に開示するべきことが明記されていない。この点は、「積極・消極を問わず十分な証拠の収集・把握に努め」等の文言に読み込むことができるとしても、明確に記述されていない点は遺憾である。


また、過去の冤罪の多くは、「事案の真相解明」や「真犯人を逃さない」ことを名目として、被疑者・被告人の防御権が侵害された結果、作られてきた。このような歴史の教訓を踏まえると、今回公表された検察基本規程は、防御権を尊重すべきことへの留意が不十分である。検察は、被疑者・被告人の防御権を十分に尊重しなければならず、被疑者・被告人が被疑事実を否認していることや、黙秘権その他の権利を行使したことをもって、勾留・保釈や終局処分の場面で不利益な取扱いをすべきでないことが確認されるべきである。


今回公表された検察基本規程は、具体性においても不十分であるといわざるを得ない。自白を偏重することなく客観的な証拠を重視すべきこと、身体拘束が重大な人権制限であることを自覚すべきこと、供述を獲得するために身体拘束を利用すべきでないこと、違法・不当な捜査を認識したときは告発や是正措置を講ずべきこと等が、検察基本規程中に具体的に規定されるか、或いは今後作成されるとされる検察基本規程の解説の中などに明記されるべきである。


上記の点を含め、今回公表された検察基本規程は、今後改善が重ねられるべきものである。当連合会としては、検察基本規程が制定されたことを前向きに受け止めつつ、今後の運用については厳しくチェックし、えん罪を生まない刑事司法制度を作るため、今後もその改善を提案していく所存である。



2011年(平成23年)9月30日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児