長崎幼児誘拐事件・12歳少年のプライバシー侵害に関する会長談話

長崎市の幼児誘拐事件は、4歳の幼児が被害者となった痛ましい事件であり、被害者のご冥福を心からお祈りするものです。現在、家庭裁判所は、今回の事件を調査しているところであり、このような事件が繰り返されないよう一日も早く事件の原因と真相が解明されることを慎重に見守りたいと思います。


ところで、補導された12歳の少年に関連して、インターネットの掲示板に加害者として複数の氏名や中学校名等が書き込まれ、また、顔写真が携帯電話のメール等で出回っているとの報道がなされています。


憲法第13条は、個人の尊重をうたっており、子どもは、同条により成長発達権の主体としてその人格を尊重されなければなりません。また、子どもの権利条約第40条2項b(ⅶ)は、刑法を犯したとされた子どもに対する手続の全ての段階において当該子どものプライバシーが十分に尊重されることを求めています。少年司法運営に関する国連最低基準規則(北京ルールズ)第8条も、少年のプライバシーの権利は、あらゆる段階で尊重されなければならず、原則として、少年の特定に結びつきうるいかなる情報も公表してはならないとしています。


そして、少年法第61条は、家庭裁判所の審判に付された少年については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を出版物に掲載することを禁止しています。


当該掲示板は1日に400万人が閲覧するともいわれており、氏名等の書き込みなどを許容するときには本件少年の特定を招く恐れが大きく、憲法、子どもの権利条約、北京ルールズおよび少年法の趣旨からしても、これらの行為は人権侵害に該当するものといわざるをえません。


日本弁護士連合会は、人権擁護を使命とする法律家の団体として、広く国民に対し、少年を特定できる実名や顔写真等を伝播することを行わないよう強く要望するものです。


2003年(平成15年)7月16日


日本弁護士連合会
会長 本林 徹