公職選挙法違反事件の無罪判決をうけて

去る10月12日、松山地方裁判所は、公職選挙法違反事件の43名の被告人に対して、無罪の判決を言い渡した。


事案は、1990年2月施行の衆議院議員総選挙に際し、松山市内で開かれた立候補予定者の励ます会に出席した後援会員41名が、帰りのバス車中で、世話人から各自封筒入りの現金5,000円を供与されたというものである。


判決が指摘するところによれば、本件は、捜査官が不確かなバスガイドの供述や判断力等に問題のある者を追及して得た自白などをもとに、否認する者は執拗に呼び出して逮捕・勾留すると脅し、または現に逮捕・勾留して厳しく追求した結果、ほぼ全員について虚偽の自白調書が作成されている。加えて、一部の取調警察官がけん銃様のライターを突きつけて引き金を引いて見せたり、他の捜査官の取調べもあまりに執拗強引であり、総じて違法ないし不当な捜査であった。供与者の一人とされる者には明白なアリバイがあった。


この認定事実を前提にすれば、本件は、憲法と刑事訴訟法が求める適正な捜査をじゅうりんするものであって、とりわけ密室の取調べと自白の強要そして代用監獄の弊害を端的に示すものである。


われわれは、人権擁護と刑事手続の適正化の視点から、接見交通権の保障はもとより、被疑者段階への国公選弁護人や保釈制度の導入、取調べへの弁護人の立会などを要求するとともに、すすんで当番弁護士制度を発足させてきた。他方、人権侵害と冤罪の温床となっている代用監獄の廃止を求め、真に被拘禁者のための監獄法改正を期している。


本件は、われわれのかねてからの捜査のあり方についての警告や上記のような制度改革の要求の正しさとそれが焦眉の急となっていることを重ねて裏付けるものである。


そこで、われわれはまず第1に、当局が本件を控訴せず、速やかに無罪判決を確定させて被害者の犠牲をいやし、関係捜査官の責任を明らかにするよう求める。


第2に、かかる不祥事を再び招来しないために、捜査当局が、自白の強要とそのために身柄拘束をすることをやめ、客観的な証拠に依拠する本来の捜査に徹するよう求める。


第3に、政府が被疑者段階への国公選弁護人制度の実現をはじめ刑事手続の抜本的改革並びに代用監獄の早期廃止に着手することを求める。 そして、第4に、自らさらに当番弁護士制度の充実に努め、また刑事手続並びに監獄法の民主的改革のために全力をあげることを確認する。


1993年(平成5年)10月21日


日本弁護士連合会
会長 阿部三郎