法廷における傍聴人のメモ問題について

  1. 当連合会は、ローレンス・レペタ氏から一般傍聴人のメモについて救済申立を受けたことを契機として、一般傍聴人のメモという問題について裁判所がいかなる対応をとっているかを調査し、この問題を通して裁判の公開の実質をいかに保障していくかという問題について検討してきた。
    裁判所は、一般的に傍聴人がメモをとることを、その許可にかからしめている。しかしながら、「メモをとる」という行為は、人が見聞した事象を記憶するための最も基本的な行為であり、公開法廷においては「公正な裁判」という制度目的をさまたげない限り、自由にこれをなすことができ、裁判所が自由裁量によって実質的理由なしに制限することはできないものと解すべきである。
  2. しかるに、本日東京地方裁判所が、「傍聴人が法廷でメモをとる権利」の権利性を認めず、傍聴人のメモを禁止することにいかなる実質的理由が存するのかを全く判断することなく、請求を棄却したことは遺憾である。
  3. 当連合会が全弁護士を対象として法廷における一般の傍聴人のメモに関するアンケート調査を実施した結果でも、裁判所が傍聴人のメモを黙認している例が多数あるほか、明示的に許可した例も存し、傍聴人にメモを許しても必ずしも弊害が生じるわけではないことが実証されている。そして、アンケート結果によると、アンケートに回答した弁護士の90パーセントが何らかの意味で傍聴人のメモを許すべきであると考えている。
  4. 傍聴人のメモの問題は、裁判の公開の原則に照らし、極めて重要である。

当連合会は、前述のとおり、法廷における傍聴人のメモは原則として自由であり、制限すべきときは、その許否は各裁判所が個別具体的に判断すべきものと考える。よって、東京地方裁判所他多数の裁判所において法廷の入口に「許可を受けないでメモをとらないこと」として統一的に掲示している注意書はこれを撤廃すべきことを提言する。


当連合会としては、今後とも傍聴人のメモが広く認められるよう裁判所に具体的提言をしていく所存である。


1987年(昭和62年)2月12日


日本弁護士連合会
会長 北山六郎