沖縄復帰10周年に当って

5月15日、沖縄は復帰10周年を迎える。


日本弁護士連合会は、昭和29年以来、人権擁護の見地から沖縄問題をとり上げ、復帰の前後を通じて、度重なる現地調査やシンポジウムなどを実施し、調査研究の成果をその都度報告書にまとめてこれを公刊してきた。


復帰はあるべき姿としての日本国憲法への復帰でなければならないとの基本認識のもとに、複雑多岐にわたる人権問題についてその採るべき方策を提言し続けてきた。


復帰後10年の間には、たしかに改善向上をみた面も若干認められるが、およそ県民の復帰にかけた「平和で豊かな新しい沖縄の建設」という期待からはほど遠く、今後に多くの課題をのこしている。


当連合会は、県民110万余の、今日までの苦渋に満ちた歴史と、現在懐いている不安とに想いを至しつつ、復帰10周年に当るこの機会に次の諸点を特に指摘したい。


  1. 沖縄における米軍基地は、復帰後もなお広大であり、しかも機能強化がはかられ、米軍による演習被害と航空機騒音は、周辺住民の日常生活を著しく侵害しているほか、核疑惑による県民不安の根源ともなり、加えて自主的な土地の利用開発にとっても重大な阻害要因となっている。この現状は国の思い切った対策によってしか打開の道がないことを銘記すべきである。
  2. 一方、県民の生活においても、失業率の高さ、医療施設の不足など、本土の各県との格差はなお大きく、更に無国籍児問題、軍用地問題、請求権問題など、質量ともに深刻にして未解決の人権問題が多く残されている。
    国は真に県民のための特別措置を継続し、更に充実せしめる責務を負っている。
  3. この10年間に沖縄における海面埋立のために進められた自然破壊は、その限界に達している。
    平和で豊かな沖縄の建設のためには、環境保全を優先させ、住民参加のもとで長期展望に立った自主経済計画を策定し、その実現をめざす立法、行財政措置について、国は適切な援助を行なうべきである。

想うに、沖縄の現状は、日本国憲法の拠って立つ原理と現実の人権状況との矛盾の凝縮であり、その縮図でもある。今こそ我々は、このような沖縄の人権問題が、決して一地方の問題ではなく、まさに国民全体によって解決を図るべき国民的課題であることを深く認識し、なお、継続して、当会にふさわしい問題への取り組みに努力を惜しまない所存である。


1982年(昭和57年)5月15日


日本弁護士連合会
会長 山本忠義