西山俊彦熊本地裁前所長の文書配布について

新聞報道によれば、本年9月、西山俊彦熊本地裁前所長が、同地裁民事部の全裁判官、書記官に対し、「民事事件処理上の問題点」と題する文書を配布し、審理促進のための裁判官の心構えや訴訟指揮の方法などについて、詳細な指示を行っている。


このような行為は、司法行政の責任者である地裁所長が上長としての立場から、個々の裁判官の訴訟指揮に具体的な指示を与えて統制を図っている点で、憲法上の裁判官の独立を侵すばかりでなく、その内容においても、訴訟の遅延を訴訟当事者の活動を制限することによって解決しようとするものであり、国民の裁判を受ける権利を軽視するものである。


当連合会は、かねて、裁判官自治を形骸化し、司法行政における指揮命令系統を強化することが、裁判官の独立を危うくすることを指摘するとともに、真に公正迅速な裁判を実現するには、裁判官増員等の方策が必要であることを提言してきたが、当局がこれに耳を藉さず、依然として能率偏重の司法統制を進めていることは、はなはだ遺憾である。


当連合会は、今回たまたま露呈された最高裁判所の司法政策の在り方に対し、裁判官の独立と、納得する裁判を求める国民的立場から、このような事態の改善を強く要望するとともに、キャリアシステムによる裁判官制度は、本質的に裁判官の上命下服的体制を招く危険を内在するものであって、民主国家における制度として、当連合会の主張する法曹一元制度の正しさを改めて強調するものである。


1982年(昭和57年)11月26日


日本弁護士連合会
会長 山本忠義