金大中事件の特赦にあたり

韓国大法院は本日、金大中氏に対し、上告を棄却する旨の判決を云い渡し、これにより同氏の死刑が確定したが、全斗煥大統領の特赦により死一等を減じられ、無期懲役となった。


当連合会は、昨年5月、同氏が逮捕、拘禁され、公訴を提起されるに至る経過、それに続く軍事法廷における審理の異常さ、極刑という重大な結果について判決文が公表されない等すべてが世界人権宣言・国際人権規約の趣旨に明白に反しており、同氏の基本的人権が侵害されているとの視点から、日本政府が、韓国当局に対し、同氏の裁判につき公正な措置をとるよう、外交その他あらゆる努力を尽くされることを日本政府に対し再三要望して来た。


また、金大中氏が問われた罪は、国家保安法違反・反共法違反・内乱陰謀罪・戒厳令違反・外国為替管理法違反であるが、法定刑中死刑を含むものは、国家保安法違反のみであり、公訴事実によると、同氏が、韓国民主回復統一促進国民会議(韓民統)日本本部の議長に就任したことを以て国家保安法第1条第1号に該当するというが、これに関する事実は、すべて同氏の日本滞在中における言動である。当連合会人権擁護委員会がこの事実の存否を調査したところ、同氏が、右議長に就任した事実も、また、その可能性すらもないことが判明した。当連合会は、この調査書を日本国政府及び国連事務総長に送付し、同氏を救済するため速かに有効・適切な措置を講じられるよう強く要望しているところである。このたびの全斗煥大統領の特赦処置により、金大中氏の生命は救われることになったが、同氏に対する国家保安法違反の事実につき無実が証明されないばかりでなく、人権の回復もなされなかったことは、まことに遺憾である。


日本政府は、金大中氏問題に関するこれまでの消極姿勢を改め、今後引続きとり得るあらゆる方法をもって、同氏の人権を救済するための措置を講じられることを強く要望するものである。


1981年(昭和56年)1月23日


日本弁護士連合会
会長 谷川八郎