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第6回 2017年9月号 ブランドと商標を巡る対策について

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Q.当社(A社)は、最近パリコレで入賞した若手デザイナー◯◯が社長を務めるアパレルメーカーで、今までは大人向けのファッションのみでしたが、今般、新たに子ども向けのブランド「◯◯キッズ」のラインを作り、売り出すことになりました。当社の新たなラインで製造するのは子ども服ですが、玩具、文房具、靴、鞄等の子ども向けの小物の品揃えも充実させるため、別途、玩具メーカーや文具メーカーに「◯◯キッズ」のブランドをデザインとともにライセンスして、商品展開させていきたいと考えています。
 既に、当社ブランド「◯◯」は、大人向けの被服等を対象に商標登録されていますが、今後、従来ブランドを拡大する戦略を打ち立てるために、商標については何をしたらよいのでしょうか。また、ヒット商品が出るとすぐに品質の悪い安価な偽物が出回ってしまいます。これを防止するにはどうしたらよいのでしょうか。 
 B社から売掛金を回収するにはどうすればよいでしょうか? 

A.新たに立ち上げたブランド「◯◯キッズ」は、既に商標権を有している「◯◯」と類似していますが同一商標ではありませんので、「◯◯キッズ」として新たに売り出す子供服、おもちゃ、文房具類、靴、鞄等を指定商品とする商標を出願すべきです。 
  商標登録が完了すれば、偽物販売に対して、差止請求や損害賠償請求ができます。その際、それぞれの指定商品について、先に登録されている同一または類似の商標がないかを、特許庁のHP等でチェックしてください。先行する登録があると、当該商品にはこの商標は登録ができず、また使えない可能性が高くなります。
 また、新たな指定商品であるおもちゃ、文房具類、靴、鞄等の子ども向けの小物に関して、「◯◯」または「◯◯キッズ」と同一か、これに類似する商標登録があった場合、または、指定商品と類似の商品に関して「◯◯キッズ」またはこれと類似する商標が登録されていた場合には、商標権侵害ないし不正競争防止法違反になることがないか、を事前に専門家に相談して確認しておくべきでしょう。 

1 「ブランド」は法的にどう評価されるのか

一般的に「ブランド」というと、製品やサービスまたはそれを提供する企業を認識するための名称や記号、デザイン、メッセージなどを指しますが、消費者にとっては、価値ある製品やサービスに導いてくれるもの、企業にとっては製品固有の特徴を示して差別化や競争力をもたらす営業上の資源、と位置付けられます。

「ブランド」は、会社名や企業グループ名である場合や、商品名、サービス名などである場合もあります。また、単なる名称だけでなくロゴマークなどが使われることもありますし、商品等の形状や色彩、更には、音や動きも組み合わさっている場合もあります。これらの名称やマークは、一定の要件を満たすと特許庁に商標として登録することができ、商標法の下で独占的な使用が認められ、また、他人の使用を排除することができます。なお、必ずしも登録がなくても、一定の著名な商標の無断使用の場合や、周知商標で他人が消費者に誤認混同を起こすような使い方をした場合には、不正競争防止法という法律を使って差止請求や損害賠償を請求することができます。 

昨今の企業経営の上で、ブランド戦略はとても重要視されていますが、他方でブランドの価値、すなわち、自社製品・サービスへの顧客吸引力をきちんと守るため、また、逆に他人の権利を侵害したと言われない為に、新たなビジネスを立ち上げる時、新たな製品を世に送り込む時には、ブランドにまつわる法律関係については、注意を要します。   

本稿では、予防法務・戦略法務として、登録することで権利が守られる商標権とはどういうものか、与えられた権利はどう活用できるのかを、解説いたします。なお、上記の不正競争防止法による救済については、第三者との関係で紛争が生じた際の事後的な評価が主な問題になりますので、本稿では割愛させていただきます。 

2 商標権登録について

商標は特許庁に登録されて初めて権利が成立し、登録後10年間有効となり、10年ごとに更新が可能です。商標登録をするためには、①識別性を有していること、②公益性に反しないこと、③他の商標と類似性のないこと等の一定の条件があり、その条件の詳細は、商標法3条及び4条1項に規定されています。ここでは字数の関係で全てを記載できませんが、例えば、①「お茶漬けのり」や「観光ホテル」等の同業者間で同種のものに普通に用いられているため識別性を欠くとされる名称(3条1項1号、3号)や、国旗、勲章、国際機関の紋章等の公共の機関の標章と紛らわしいもの(4条1項1〜6号)、公序良俗を害するおそれのある商標(同7号)、商品の品質または役務の質の誤認を生じさせるおそれのある商標(同16号)、他人の登録商標や周知・著名商標等と紛らわしい商標(同8、10〜12、14、15、17号)等が、登録できないものとして揚げられています。

特に注意を要するのは、他人が先に商標登録している商標と類似する商標であると思われる場合、類似性の判断は審判や判例の積み重ねがありますが争いになりやすく、時としてその争いが裁判に持ち込まれることもありますので、可能な限り弁護士・弁理士等の専門家のアドバイスを求めるべきでしょう。

商標登録出願は、1または2以上の商品または役務を指定して、商標ごとに行います(一商標一出願主義)。対象となる商品または役務は、政令で定める45の分類の区分に従って指定され、一出願で複数の区分に渡って指定することができます(一出願多区分制)。 なお、自己が出願または使用したいと思う商標や類似の商標等が、登録または出願公報がなされているか否かを調べたい時は、独立行政法人工業所有権情報・研修館のサイトで、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)というシステムから,簡単な調査を行うことができますので参考にしてください 。 

3 商標権を持っているとできること(専用使用権/禁止権)

商標権は、自分の商品または役務(サービス)と他人のそれを区別する「自他識別機能」を持ち、かつ、繰り返し商品・役務等に使用されることでその出所を表示する機能(「出所表示機能」)、消費者が一定の品質を期待する機能(「品質保証機能」)、そしてシンボル性を獲得した商標は「広告宣伝機能」を持つに至り、これが顧客吸引力に繋がるという営業上の価値を持っています。こういった機能・価値を、登録した商標権者に独占させるのが商標権制度です。

ア.専用使用権。 

商標権者は、登録した指定商品または指定役務について、登録商標の使用をする権利を専有する(商標法25条本文)とされ、権利者には独占的な使用権が認められています。但し、この独占的な使用権は、登録商標と同一の商標で、同一の指定商品または指定役務においてのみ認められます。 

イ.禁止権

他人が似たような商標を似たような商品に使用している場合、厳密に判断すると登録と全く同一ではなくても、消費者が見ると良く似ていて出所を間違えてしまいそうになるような場合があります。このような類似商標や類似商品は、他人の使用を放置すると、消費者が混同して取引の混乱を来たすことが考えられ、商標の出所表示機能や時には品質保証機能を害することにもつながります。商標法は、商標のこれらの機能を保護するために、同一商標だけでなく、類似の商標や類似の商品・役務についても他人に使ってはいけないと請求することのできる権利(禁止権)を認めています。法律上、差止請求権といわれているものです。また、禁止権があるにもかかわらず、第三者が当該商標を無断使用していた場合には、これにより被った損害について賠償請求をすることもできます。 

ウ.ライセンス契約

商標権者は、自分が独占できる権利を独占せず、禁止権を行使しないで、他人にその商標を使わせて、ライセンス収入を得ることもできます。つまり、ライセンス契約とは、禁止権を行使しないかわりに、対価を払ってもらうということを主軸とする契約で、権利者(ライセンサー)が製品を作ったり販売したりする資源(資金、施設、労働力)を自ら調達できない場合には、ライセンスによりこれをメーカーや販売ルートを持っている者(ライセンシー)に行ってもらうことで、ビジネスを拡大し、収益を得ることができます。特に、国際間のビジネスでは、海外の権利者が自ら営業活動を行うよりも、市場(マーケット)に近い場所で地域の事情に精通している事業者が製造・販売するほうが、望ましい場合も少なくなく、インバウンドもアウトバウンドも、ライセンス契約が見受けられます。

4 権利侵害だと言われないようにするために

以上のように、商標権を持つとできることに関しては、立場を変えると、自社も商標権侵害をしたと主張され、差止や損害賠償請求を受けうるリスクがあるということです。そのため、新たな事業を始める時、特に新たにブランドを立ち上げて新商品や新サービスを開始する場合、あるいは、既に確立して商標登録をしているブランドがある場合であっても、新たな派生ブランドを作ったり、従前とは異なる商品の製造・販売やサービスを展開する時には、商標権侵害だとして差止や損害賠償請求をされないようにするためのリスク管理が必要となります。 

更に、本件では、自分が既に商標権(本件では「◯◯」)を持っていたとしても、登録商標と同一ではない類似の商標(本件では「◯◯」と類似である「◯◯キッズ」)の使用や指定商品・役務と類似の商品や役務への使用が想定されますが、これは「◯◯」との関係では、専用使用権の範囲ではなく、あくまで禁止権の範囲で登録商標と類似の商標を使用することになるため、これが他人の商標の禁止権により排除されることがありえます。そこで、「◯◯キッズ」の登録出願を検討することになりますが、その際、他人の登録商標と類似しているため自己の商標として登録できないことも想定されますし、他人の商標権の禁止権の範囲に入っている可能性もありますので、類似商標の有無について慎重に調査・判断する必要があります。 

更に言えば、2者の商標権者の禁止権の範囲が重なってしまう場合もあり(図)、両者ともが類似商標を使用することができない場合もあります。これを蹴り合い現象と言います。 

商標の専用使用権と禁止権

このように、登録商標と類似の商標を使用する場合、また、指定商品・指定役務と類似の商品・役務に使用する場合には、他人の禁止権の範囲に入っていないか(つまり、他人の商標権と類似していないか)について事前にチェックしておかないと、後から損害賠償・差止請求を受けるリスクがあることになります。 
但し、形式的には登録商標を使用しているかのような外観のある場合であっても、真性商品の並行輸入品のように実質的に出所表示の機能を害していないので侵害にはならないとされているケース(パーカー事件/大阪地判昭45・2・27・判時625・75)や、シャツの模様等としてデザイン的に使用しているため出所表示機能を果たさず「商標的使用」とはいえないとして侵害にならないと判断されたケースもあります(ポパイ事件/大阪地判昭和51・2・24) 

更に、近時、話題になった言葉やそのバリエーションについて、全く関係のない他人が先行して勝手に商標出願を大量にしているケースがあることが問題になっています。こういった商標の先取り出願については、特許庁から、出願却下処分としているので登録を断念することのないように、との注意喚起が出ています。(「自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ(ご注意)」(特許庁:平成28年5月17日付) 
http://www.jpo.go.jp/tetuzuki/t_shouhyou/shutsugan/tanin_shutsugan.htm ) 

商標件侵害が発生すると、特に商品・役務が素晴らしくて売れ行きがよかったりする場合には、そのインパクトや損失は看過できないものとなりますし、ブランドイメージの深刻な毀損になりうる可能性があります。上記のとおり、使用したいと思う商標や類似の商標等が、登録されているか否かを調べたい時は、独立行政法人工業所有権情報・研修館のサイトで簡単な調査を行うことができますが、商標件侵害になりうるかの判断については、専門的な知見と判例に乗っ取った比較観察の必要な場面となりますので、最終的には、弁護士・弁理士等の専門家に相談されることをお勧めします。 

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≪執筆者紹介≫ 弁護士 市毛 由美子(第二東京弁護士会)
日本弁護士連合会ひまわり中小企業センター幹事

 

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