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第3回 2017年6月号 契約書の作成時における留意事項

※本記事はPDFでもご覧になれます PDF版はこちら

Q.当社は、私と従業員の計20名の会社で、小規模なオーダーメイド家具の製造販売業を営んでいます。これまでは取引規模も小さかったので、契約書を作らず、全てメールやFAXなどで対応していました。 
 最近、あるお客様から、大規模な発注をお願いしたいとの連絡を受けました。信頼のおけるお客様ではあるのですが、今回は取引規模も大きいため、契約書を作成することにしました。 
 契約書の作成にあたっては、書籍やインターネット上に掲載されているひな形を使えば大丈夫でしょうか。それとも、弁護士に依頼をして契約書を作ってもらった方がよいのでしょうか。 

A.今回のようなオーダーメイドの家具に関する取引には、お客様から予期せぬキズを指摘されるなどトラブルの種が潜んでいます。ひな形を使ったり、ご自身で契約書を作ったりすると、負担の必要のない義務まで負うことを求められたり、想定外のクレームを言われるなど思わぬ紛争に巻き込まれるかもしれません。 弁護士に依頼し、トラブルに対応できる契約書を作ってもらうのがベストです 。 

1 契約書の意義

(1)契約書はなぜ必要なのか 

契約書は多くの取引において作成されています。その理由はズバリ「トラブルを防止するため。トラブルを解決しやすくするため。」です。 

契約書がないと、〇〇してくれると言った、言わないの争いになり、解決の指針がなくなってしまうのです。 

(2)契約書は起こりそうなトラブルに対処する「ルールブック」 

契約書はトラブルに対処する「ルールブック」です。無理なクレームを言う人にも強く対応することができます。 

本設問の事例のようにオーダーメイドの製品を販売する場合、クレームの種はたくさんあります。 
お客様の側からの、「思っていたより品質が悪い」「時間がかかりすぎ」「傷がついている」といったクレームが、「値段を安くしろ」「返品するからお金を払わない(返せ)」という不当要求に発展することが考えられます。 

お店の側からも、お客様に対して、「いろいろ理由をつけてお金を払ってくれない」「デザインの案を出したのに、レスポンスがないため作業が進められない」などのトラブルが発生することも考えられます。 
契約書でルールをあらかじめ定めることによって、トラブルが生じた際に速やかに対処することができます。あらかじめ定めた明確なルールであれば、無理して争う人は多くないため、紛争に発展する前に解決することができるのです。 

だからこそ、契約書で起こりそうなトラブルを予見し、その対処方法を明確にしておくことが大切になるのです。特に中小企業・小規模事業者にとっては、簡単に訴訟を起こせる状況にない場合も多いように思います。トラブルが発生しても、自分の意見やクレームを申し立てるところまでたどり着くことなく押し切られることもありますし、悪評を立てられたり、次の仕事がもらえない可能性もあります。 

契約書があると強く対応できるのは、裁判でもそのルールを主張できるからです。負けると分かっていて争う人は少ないですよね。そのためも、「ルールブック」である契約書をあらかじめ作成しておき、トラブルが起こった時に、そのルールブックに照らして結論がどうなるかが分かるようにしておくことが望ましいのです。 

(3)信頼関係のある人との取引の場合 

契約書を作る必要性は、たとえ信頼関係がある相手との取引で、かつ、話し合いではいろいろな条件について合意をしていたような場合であっても変わりません。 

筆者はこれまで、弁護士として多数のトラブルに立ち会いましたが、トラブルになってから「(契約の相手は)契約のとき、〇〇と言っていたのに・・・」と言う方は非常に多いといえます。真実はいつも一つのはずですが、一度トラブルが発生してしまえば、嘘をついたり、そうでなくても自分に有利に記憶を書き換えてしまっていると考えざるを得ない事態が多数発生しているように思います。 

たとえ取引相手が、これまでの取引で信用できる人と思っていても、トラブルが発生してしまうと、想像もしないような形で揉めてしまうことがあります。信頼できる相手だからこそ、その関係を続けるために契約書を作ってはどうでしょうか。

2 契約書を作成するときの留意事項

契約書には「起こりそうなトラブルの対処方法を明確にして、紛争を避ける」という役割があります。

そのため、起こりそうなトラブルを予見し、その対処方法を「明確に」書かないと、契約書を作成する意味がないといえます。契約書を作成する場合は、起こりそうなトラブルを予見し、トラブルの対処方法を明確に定めていくことが大切です。 

(3)ひな形を使うときに注意すべきこと

今は、書店だけではなくインターネット上でも簡単に契約書のひな形を探すことができます。ひな形は、契約書を作る時に、必要な項目を見落とさないようにできるので、弁護士もよく使っています。 

しかし、弁護士は、相談を受けている具体的な取引のトラブルを予見でき、ひな形では不足している部分、さらに依頼者にとって不利かどうかが分かるからこそ、ひな形を使いこなせているのです。ひな形を使う場合は、次の二点については、きちんと確認をすることが重要です。 

1.その取引で起こりそうなトラブルに対応できる契約書のひな形かどうか 

2.会社にとって不利な条項をそのまま使っていないか 

また、今回のようなオーダーメイド家具の契約では、お店で引き渡す部分を捉えれば売買契約のようですが、家具を作るよう依頼するものですから、その点では請負契約にも近いといえます。このような契約は一般に「製造物供給契約」と呼ばれ、使うひな形も様々なものが用意されています。その選択も非常に難しいといえますので、プロである弁護士によるチェックがないままひな形を使用するのはリスクがあります。

では、取引に合わないひな形を使用してしまった場合、具体的にどのような問題があるのでしょうか。次の例を用いて解説します。 

【具体例1 オーダーメイドの特性を意識していない場合】 

第★条(本製品の製造)
受注者は、平成★年★月★日までに本製品を製造する。

この条項は、単純な製品の製造で使われるものになります。この契約書の条項をオーダーメイド家具の場合に適用すると、次のようなトラブルが生じた場合、どのように対処すればよいかわかりません。 

・発注者から具体的な指示が来ないまま、納期を迎えてしまった場合 

・指示が曖昧なままオーダーメイド家具が製造されてしまい、あとで「こんな製品なら買わない」と言われてしまった場合 

上記で例にあげた条項が記載された契約書では、トラブルが発生した場合、互いに言い合いとなってしまい、解決まで相当時間がかかってしまいますし、それだけではなく、インターネット上で思わぬ悪評が投稿されるなど、思いも寄らない影響を受けてしまうこともあります。 

この条項を弁護士がチェックした場合、次のような案で修正していくことが考えられます。 

第★条(本製品の製造) 
1 発注者は受注者に対し、平成●年●月●日までに、本オーダーメイド家具(本製品)の仕様書を提供する。受注者は、受領した仕様書を確認し、不足事項等があれば、速やかに発注者と協議の上で確定しなければならない。
2 受注者は、前項の仕様書に従って、平成★年★月★日までに、本製品を製造する。 

このような条項であれば、発注者の指示が具体的に「仕様書」という形で書面になり、本製品の仕様が曖昧になることを防ぐことができます。さらに仕様書の作成期限を設けることで、期限内の仕様書の提出を発注者の義務にすることもできます。 

【具体例2 どの段階まで製造すれば「完成」といえるか不明瞭な場合】 

製造物供給契約書のひな形では、「完成」の定義がないことが多く見受けられます。 

しかしながら、オーダーメイド家具だと、例えば意図していないガタツキなどがあるような場合、「完成していない」と言われて、完成前の契約の解除を主張され(民法641条)、お金を払ってもらえないというトラブルの発生も考えられます。 

そのような場合に備え、先ほどの(本製品の製造)という規定の続きに、以下のような条項を追加することが考えられます。 

第★条(本製品の製造)
3 本製品の完成は、受注者が予定している製造工程を一応終了した時をいう。目的物の瑕疵があるかは完成に影響しない。 

このような定めを置いておけば、完成は、あくまで製造工程を終了した段階ということが誰の目にも明らかになりますので、トラブルを防ぐことができ、後に問題箇所を修理する形で対処することができます。 

(4)弁護士に契約書の作成を依頼するメリット

弁護士は多数のトラブルに携わっているため、トラブルを予見することに関してもプロフェッショナルなのです。 

また、弁護士は、裁判官などの中立的な判断をする人に明確に意味を読み取ってもらえる文章を書く訓練をしています。そのため、契約書を作成する目的である「トラブルを予見して、処理方法を明確にしておく」ことに向いていると言え、弁護士が「契約書のプロ」と呼ばれる所以もここにあります。 
本件のようなオーダーメイド家具の契約でも、弁護士が依頼者である会社にとってトラブルが生じないような形で契約書を作成いたします。 

また、今回は企業との取引でしたが、消費者との取引の場合は、消費者契約法などの規制も関わってきます。消費者契約法では、企業に有利な条項が一部無効となるので、そのような専門的な部分も含めてフォローすることができると思います。 

今回の事例であれば、弁護士に依頼し、事業者向けと消費者向けの契約書をあらかじめ作ってもらえば、安心してビジネスを進めることができます。 

日本弁護士連合会のひまわりほっとダイヤルでは、中小企業・小規模事業者の皆さまを対象に初回面談30分の無料相談を行っています(一部地域除く)。契約書に関するご相談についても対応しておりますので、ぜひご利用いただければと思います。

≪執筆者紹介≫ 弁護士 杉浦 智彦(神奈川県弁護士会)
 日本弁護士連合会ひまわり中小企業センター事務局員

 

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