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第4回 2017年7月号 売掛金の回収トラブルとその対応策

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Q.当社(A社)は、建築資材の製造業で、私の父が創業した会社です。自社商品は、父の知人が経営する商社(B社)を通じて、大手建設会社(C社)に販売しています。契約上は、当社がB社に販売した商品はC社に転売され、それぞれの間で売買契約が締結されており、当社への代金支払いはB社からなされていますが、当社の商品はC社の施工する工事現場に直接納品しています。
 先日、父が急逝したため、長女である私が事業を承継しましたが、父はB社に対する売掛金の一部を回収しないまま放置していたようです。私は、過去の未払い分も含めて督促しているのですが、事業を承継して間もないことで甘く見られているのか支払ってもらえず、売掛金の未回収額も年々増えています。最近、B社は経営不振に陥っているとの噂を聞き、とても不安です。 
 B社から売掛金を回収するにはどうすればよいでしょうか? 

A.まずはB社に関する情報収集を行った上で、回収の方針を立てます。まずは督促や交渉によって回収を図りますが、それでも支払いがない場合には法的措置を検討します。B社の経営状況が悪化して支払えない場合は、交渉でB社のC社に対する売買代金債権の譲渡を受ける等の方法も考えられます。B社が売掛金の有無や額を争っている場合など交渉による解決が難しいときは、仮差押え等によりB社の財産を保全した上で、民事訴訟を提起し、債務名義を取得して強制執行による回収を図ります。 
 また、B社が倒産すると、個別執行はできなくなるのが原則ですが、動産売買先取特権に基づく物上代位により、B社のC社に対する転売による代金債権を差し押さえ、C社から直接に弁済を受けて回収できる可能性もあります。 諦めずに粘り強く回収に向けた法的措置を講じていくことが重要です。 

1 売掛金の回収に向けた事前準備

売掛金の回収トラブルといっても、①権利の有無及び金額などに争いがあるため、相手方が「支払わない」場合、②争いはないが経済的に支払いが困難であるため、相手方が「支払えない」場合、③相手方が倒産した場合、など状況は様々であり、回収手段やスピード感もそれぞれ異なるため、状況に応じた的確な判断が必要となります。

そこでまず回収の準備として、売掛金の有無及び金額などを証明する証拠関係の有無を確認するとともに、相手方に関する情報を収集・整理します。会社登記の全部事項証明書を入手し、会社の所在地や代表者の住所を確認し、不動産の全部事項証明書で会社所有不動産や代表者所有不動産の有無及び担保の設定状況等を調査します。また、日常的な取引関係の中で入手した取引金融機関や主要取引先などの情報や信用情報機関の情報なども重要です。これらの情報を踏まえて、回収の可能性(消滅時効の確認,訴訟等の法的手続の見通し等)、回収の容易性(相殺の可否,担保権の有無,相手方の資力等)、回収に要する費用,時間などを総合的に考慮して方針を決定します。 

2 売掛金回収の一般的な流れ

売掛金回収の一般的な流れは、次の通りです。相互に対立する債権を有している場合は相殺による回収が可能となり、抵当権や質権などの物的担保や保証人などの人的担保があればこれを実行して回収することができますが、担保がなく相殺もできない場合は、最終的には、強制執行による回収を図ることになります。

(1)交渉による回収

相手方に資力があり話し合いによる解決の可能性がある場合は、交渉により早期解決を図ることが有益です。交渉に際し、事前に内容証明郵便を送付して支払いを催告しておくと、期限の定めのない債務は遅滞に陥り、以後、遅延損害金が発生します。消滅時効が迫っている場合には、時効中断の効力があります。但し、この場合は6か月以内に裁判上の請求等の措置を取る必要があります(民法153条)。

また、交渉により相手方と合意が成立した場合は、支払いを受ける売掛金の金額、支払方法、分割払いの場合は期限の利益喪失条項や遅延損害金などを定めた合意書を作成します。合意内容については、後日に相手方が支払いを怠った場合に備えて公正証書を作成しておくと、これを債務名義として強制執行が可能となります。

また、交渉において、相手方の支払能力に不安がある場合には、返済条件だけでなく担保について合意しておくことも有効です。特に、相手方が第三者に売掛金等の債権を有している場合には、債権譲渡契約によりその債権を譲り受けたり、質権を設定したりして、万一の場合に、第三者から直接支払いを受けることによって回収できるよう交渉するとよいでしょう。 

(2)保全手続

交渉による回収が困難な場合は、債務名義を取得して強制執行により回収していくことになりますが、その前に、保全手続として仮差押命令の申立てを検討します。仮差押えは,訴訟提起前又は同時に,相手方の不動産や預金債権などの財産が散逸しないよう前もって仮に差し押さえる手続です。仮差押命令は、相手方が同席しない状況での審理に基づいて発令されるため、不当な申立てによる相手方の損害を補てんするための担保金を法務局に供託する必要があります。

仮差押えをしておかないと、後日に債務名義を取得して強制執行をしようとしても、差押えの対象物が第三者に処分されてしまって回収できなくなるリスクがあります。相手方に差押えの対象となる財産がある場合には、将来の強制執行による回収を確実なものにするためにも保全手続の活用が有効です 。 

(3)債務名義の取得

ア 民事訴訟
債務名義の代表的なものは、確定判決です。確定判決を取得するためには、相手方を被告として裁判所に民事訴訟を提起し、相手方に対する売掛金債権の存在及び金額を主張立証することが必要です。被告が第1回口頭弁論期日に答弁書を提出しないまま欠席した場合は、原告勝訴の欠席判決となりますが、被告が原告の主張を争う場合は、手続が長期化する場合もあります。

また、訴訟の途中で、裁判上の和解により解決した場合、和解調書は判決と同じ効力を有するため、和解において合意した内容が守られなかった場合は、和解調書を債務名義として強制執行をしていくことも可能です。 

イ 少額訴訟
60万円以下の金銭債権の支払いを求める場合には、通常訴訟以外に、少額訴訟という手続により早期に債務名義を取得することも可能です。少額訴訟では、1回の期日で審理が終了し、判決が言い渡されます。但し、判決による分割払い、支払猶予、遅延損害金免除なども可能とされており、判決に対する不服申立ては異議申立てのみとされ控訴はできません。また、被告は、通常訴訟へ移行させることが可能ですので、双方の主張に大きな争いがない場合に有効です。

ウ 支払督促
支払督促は、売掛金の請求のように金銭等の給付に係る請求について、申立人側の申立てのみに基づいて、簡易裁判所の書記官が相手方に支払いを命じる略式の手続です。相手方が支払督促を受け取ってから2週間以内に異議の申立てをしない場合、申立人は支払督促に対して仮執行宣言を発付してもらい、強制執行を申し立てることができます。しかし、相手方が異議の申立てをすれば、通常訴訟に移行することになりますので、相手方との間に争いがある場合は、最初から通常訴訟を提起するほうが早い場合もあります。 

(4) 強制執行 

債務名義を取得したにもかかわらず、相手方が売掛金の支払いに応じないときは、裁判所に強制執行を申し立てて、債務者の財産から強制的に回収を図ります。強制執行の種類は、目的となる財産によって、不動産執行、債権執行、動産執行などの方法があります。 

不動産執行は、相手方の所有する不動産を差し押さえ、競売により換価して、その中から配当を受けることによって回収する方法ですが、予納金が高額であり、手続にも時間を要します。また、動産執行も換価を前提とするため、換価が容易な価値のある動産が見当たらない場合には実効性がありません。 

売掛金の回収の場合は、時間や費用を考えると、相手方が金融機関に対して有する預金債権や取引先に対して有する売掛債権を差し押さえ、第三債務者から直接に支払いを受ける債権執行によることが有効です。 

3 倒産した取引先からの債権回収

取引先が倒産し、破産や民事再生の申立てに及んだ場合は、破産手続における配当や民事再生計画に基づく返済しか受けられなくなります。また、相殺が可能な場合や担保権を有している場合、保証人がある場合には、優先的に回収を図ることができますが、そうでない限り、個別的な回収は禁止されます。

もっとも、売掛金が、商品売買契約に基づく売買代金である場合は、動産売買先取特権という法定の担保物権が認められており、商品が相手方の手元にある場合には、動産競売の申立てにより、その商品を換価して回収を図ることができます。 

また、商品が第三者に転売されており相手方の手元にない場合には動産競売の申立てはできませんが、物上代位という方法により、相手方が商品を転売した代金債権を動産そのものの代わりに差押えて債権回収を図ることができます。 

但し、この物上代位による差押えは、第三者から相手方に支払いがなされてしまう前に行う必要があるためスピード勝負になります。相手方が破産開始決定を受けた場合は当然に期限の利益が失われるため弁済期を待たずに申立てができますが(民法137条1号)、破産申立てをしたに過ぎない場合や民事再生の申立てをしている場合などは、取引基本契約書等において期限の利益を喪失させる旨の合意をしておかない限り期限到来までは申立てができず回収に出遅れることになります。また、差押え命令発令の審理は、もっぱら書面審理によってなされるため、証拠となる取引基本契約書、注文書及び請書、納品書などの書類を正確に作成して保管しておくことも重要です。 

4 まとめ

売掛金の回収ができないと会社の資金繰りに影響するほか、売上に貢献した社員のモチベーションを低下させます。資金繰りへの影響が少なくとも、売掛金を回収せず放置すれば、取引先から支払いを後回しにされやすくなり、また、時効消滅や証拠の散逸によって権利行使が困難になる場合もあります。売掛金をきちんと管理して確実に回収するように心がけ、万一トラブルに発展しても諦めず粘り強く法的措置を講じていくことが重要です。

≪執筆者紹介≫ 弁護士 中澤 未生子(大阪弁護士会)
日本弁護士連合会ひまわり中小企業センター幹事

 

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