日弁連新聞 第541号
真の被害回復実現のための補償法を
「旧優生保護法下における優生手術及び人工妊娠中絶等に対する補償立法措置に関する意見書」を公表
昨年12月10日、与党旧優生保護法に関するワーキングチームおよび優生保護法下における強制不妊手術について考える議員連盟は、双方の合意により「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する立法措置について(基本方針案)」を取りまとめた。日弁連は同月20日、「旧優生保護法下における優生手術及び人工妊娠中絶等に対する補償立法措置に関する意見書」を公表した。
日弁連は、基本方針案が公表される以前から、補償立法措置の在り方について提言を行うため、昨年8月には全国優生保護法被害弁護団との勉強会を行い、10月には7つの障害者団体を招いてヒアリングを行うなど、検討を重ねてきた。
意見書は、一人でも多くの被害回復を早期に実現するための補償立法措置の在り方について意見を述べるとともに、基本方針案の修正すべき点について付言し、本年の通常国会への提出が見込まれる補償法案に意見を反映させることを目的としている。
基本方針案が同意のある優生手術や法を逸脱した術式による手術が行われた場合についても補償の対象とし、手術記録が残っていない場合でも被害者本人の供述や医師の所見等に基づき被害認定をするとした点は評価できる。
しかしながら、旧優生保護法の違憲性について何ら言及せず、謝罪の主体を国ではなく「我々」としたこと、補償の対象を優生手術のみとし人工妊娠中絶を除外していること、被害者に対する個別通知を行わないとしたこと、被害の実態調査および検証について明記されていないことなど、不十分な点が多くある。
そこで、意見書では、①謝罪の主体は「国」とし、旧優生保護法が自己決定権等の基本的人権を侵害する違憲な法律であったことを明示的に認めるべきであること、②人工妊娠中絶についても被害者の人権を侵害するものであるから補償の対象とすべきであること、③行政が把握している被害者に対して現況調査を行った上で、十分にプライバシーに配慮した方法で個別の通知を行うべきであること、④被害の実態調査および検証のための第三者委員会を設置すべきであることなどの意見を表明した。
真の被害回復を実現できる補償法となるよう、今後も活動を続けていきたい。
(人権擁護委員会第7部会 部会長 松岡優子)
法制審議会会社法制部会の議論状況
会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案決定
1月16日の法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会で、会社法制の見直しに関する要綱案が決定した。要綱案は、2月の法制審議会総会で審議され、法務大臣に答申された後、要綱に基づく会社法改正の法律案が国会に提出される予定である。
社外取締役の設置義務付け
日弁連はかねてより、上場会社等における社外取締役の設置の義務付けを主張してきた。部会では、一律に社外取締役を義務付けるべきではない、義務付けが企業価値を向上させる実証研究等もないなどの反対論も強く唱えられた。しかし、業務執行者から独立した社外取締役による実効的な監督が期待でき、上場会社等には画一的に社外取締役がいる制度が望ましいとの議論が受け入れられ、社外取締役の設置の義務付けが要綱案に盛り込まれた。
株主総会資料の電子提供制度の新設
株主総会資料の電子提供制度が新設される。電子提供措置の開始日については、より早期を求める声も強かったが、実務上の円滑な対応を重視する経済界の要請を尊重し、株主総会の日の3週間前の日とされた。一方、インターネットへのアクセスに困難のある株主に配慮し、株主に書面交付請求権が認められ、定款によっても排除できないこととされた。
社債管理補助者制度の新設ほか
社債管理補助者の制度が新設され、弁護士・弁護士法人にも資格が認められる方向である。日弁連は、改正法の施行までに、利益相反の問題等に関し会則等による規律を設ける必要があり、ガイドラインを制定する意向である。
そのほか、取締役の個別報酬の決定を代表取締役に一任することを禁止する規定の新設も検討されたが、採用されなかった。現今の社会情勢に鑑み、取締役の報酬等に関しては、国会等において議論される可能性があろう。
(司法制度調査会会社法バックアップチーム 座長 佐藤順哉)
3月1日 臨時総会開催
3月1日(金)午後0時30分から、弁護士会館講堂クレオにおいて、臨時総会が開催される。多数の会員の参加による充実した審議をお願いしたい。
計8議案が審議予定
臨時総会では、①司法修習生の修習期間中に給与及び修習給付金の支給を受けられなかった会員に対する給付金に関する規程制定の件、②育児期間中の会費免除に関する規程改正の件、これに関連する③外国特別会員基本規程改正の件のほか、④定期総会の開催時期を6月に変更すること等に係る会則改正の件、これに関連する⑤外国特別会員基本規程改正、⑥議事規程改正、⑦会計及び資産に関する規程改正および⑧平成31年度(一般会計・特別会計)6月分暫定予算議決の件の計8議案が審議される予定である。
司法修習生の修習期間中に給与及び修習給付金の支給を受けられなかった会員に対する給付金に関する規程制定の件
いわゆる谷間世代の会員を対象に、弁護士としての登録期間が通算して5年経過していること等の受給要件を満たす場合に、申請により給付金20万円を支給することを提案するもの。2018年5月の定期総会決議を受け、谷間世代の会員が経済的負担や不平等感によって法曹としての活動に支障が生ずることのないよう、日弁連内における施策を実現するものである。
育児期間中の会費免除に関する規程改正の件
育児期間中の会員の会費および特別会費の免除期間を、現行の6か月以内から12か月以内に延長することを提案するもの。2015年4月に開始された育児期間中の会費等免除制度について、育児期間中の会員の負担を軽減し、制度趣旨である「仕事と生活の両立支援」を推し進めるものである。
ベビーシッター費用等の補助制度の延長決定
対象が「小学生以下」に拡大されます!
2019年4月以降に参加した研修や会務に関する申請については、対象が未就学児から「小学生以下」に拡大され、申請期間も「6か月以内」に延長されます。(2019年3月までに参加した研修や会務に関する申請については、従前のとおりです。)
補助の対象・金額
小学生以下の子を持つ会員が研修や会務のために必要になったベビーシッター等の保育サービス費用が対象となります。
「研修や会務」には、日弁連、弁護士会連合会、弁護士会が実施する一切の行事が含まれます。また、保育サービスの種類に限定はなく、自治体等のファミリーサポート事業、一時託児施設、保育園や学童保育の延長保育も補助の対象です。
補助の金額は、子一人につき1回当たり5000円、各年度1万5000円が上限です。
申請方法
対象となる研修や会務から6か月以内に、日弁連に直接申請してください。「登録及び補助金支給申請書」にご記入の上、領収書の原本、会務活動等を行ったことを証するもの、親子関係を証するもの(日弁連の育児期間中の会費等免除制度をご利用の方や2回目以降は不要)を添付してください。
(若手弁護士サポートセンター 副委員長 福崎聖子)
*詳細は日弁連ウェブサイト内会員専用ページ(HOME≫届出・手続≫ベビーシッター費用・延長保育料等の補助)をご覧ください。
ひまわり
今年、平成が終わる。そこで、裁判手続のIT化が検討されている昨今、筆者の朧気な記憶にしたがって、筆者が弁護士登録した平成6年以降現在に至るまでの、弁護士を取り巻く技術的な環境変化を振り返ってみたい▼訴訟書類はB5縦書きからA4横書きになり、準備書面等のFAXによる提出が認められるようになった。ワープロの普及に伴い手書きの準備書面はほぼ絶滅し、弁論準備期日の電話会議も始まった▼判例検索は、差し替え式の重厚な判例集か判例時報の索引版を使った手作業から、判例検索ソフトによる網羅的かつ簡潔な電子的作業となった▼契約書等のチェックは、契約書案の紙に手書きでコメントや修正を書き込んだ修正案をFAXで送っていたのが、メールで送信してもらった文書ファイルに修正機能を使ってコメントや修正をしてメールで返信するようになった▼専用倉庫を借りていた事件記録の保管は、PDF化することにより手のひらサイズの外付けハードディスクに収まるようになった▼裁判手続のIT化が、平成の環境変化の荒波に抗い、今でも紙とFAXを忘れず、手書きで委員会の出欠管理をし、身分証明書のICカード化に背を向ける我が弁護士会への「啐啄の機」となることを願ってやまない。
(G・T)
公益信託法改正の要綱案を決定
要綱案は、今後、要綱として確定された後、法務大臣に答申され、しかるべき時期に法案として国会に提出される予定である。
公益信託については、2006年の信託法改正の際、当時並行して行われていた公益法人制度改革の動向を踏まえる必要があるとの理由で、改正が先送りにされた。新たな公益法人制度への移行期間が満了したことなどを受け、2016年6月に約10年ぶりに部会が再開され、約3年半・25回にわたる審議を経て、今般の要綱案の決定に至った。
要綱案のポイントは、次のとおりである。
①従来の公益信託は、信託財産を金銭とした上で、受託者が奨学金などの金銭給付を行う「助成型」に事実上限定されていたが、要綱案は、信託財産を金銭以外に拡大し、さらに受託者が事業を行う「事業型」の公益信託も許容している。
②従来の公益信託は、受託者が信託銀行にほぼ限定されていたが、要綱案は、一定の能力を有する自然人・法人が受託者となることを許容している。
③縦割りの弊害の大きかった主務官庁制を廃止し、信託管理人を必置とする内部的・自律的なガバナンスによる適正の確保が志向されている。行政庁は、公益信託の内部的・自律的なガバナンスを補完する立場から監督を行う。
このように要綱案は、公益信託の適正を確保しつつも、活用を促進しようとするものである。新たな公益信託は、軽量軽装備で公益活動を行える基盤を提供し得るものであり、弁護士の関与による活用も期待される。
(司法制度調査会委員 小松達成)
日弁連短信
事務次長って?
このテーマで日弁連短信を書いた事務次長は他にもいたのではないかと思いますが、「事務次長って何やっているの?」「ずっと弁護士会館にいるの?」と聞かれたり、「事務次長にどんな権限があるんだ!」と大きな声で言われたりしたことがあるので(私自身もよく知らなかった)、事務次長を退任するにあたり書く価値があるのではないかと思い、テーマに選びました。事務次長は常勤の弁護士職員です。したがって、基本は弁護士会館16階の総次長室にいます。
その位置付けや役割については、まず、会則に規定があります。82条の2は「本会に、事務総長一人及び事務次長若干人を置く」「事務次長は、事務総長を補佐して、会規又は規則で定める事務をつかさどる」「事務総長及び事務次長の任免は、理事会の議を経て、会長が行う」(1・4・5項)と規定し、私も就任2か月前の理事会で承認され、会長から辞令の交付を受け、日々事務総長の指示に従って職務に励んできました。
会規第1号である事務局職制の2条には「事務次長は、各種委員会、調査室、広報室、国際室等の事務の連絡、調整及び事務局の監督を掌り、事務総長の指示を受けて対外的事務を処理する」と規定され、具体的にはこの規定に則って職務を行っていました。委員会に出席して意見を申し上げたり、委員会がまとめた意見書案等の修正をお願いしたりしたのはこの規定に則った行為です。過去には担当委員会から「越権次長!」と呼ばれた事務次長がいたとの噂もありましたが、委員会等で発言をすることは決して越権ではないのです。
また、対外的には、最高裁や法務省をはじめとする諸官庁や国会関係者などとの折衝、マスコミの取材対応を行いました。対外業務は緊急対応を求められることも多く、対外業務が重なるとそれ以外のことはほとんどできず、やむを得ず後回しになることもありました。
就任間もないころに重要法案を担当しましたが、そのときは総次長室にいることはほとんどなく、外回りかその準備に明け暮れていました。今となっては懐かしい思い出です。
2年5か月にわたり事務次長を務めましたが、その間、内外を問わずとても人に恵まれました。関わりのありました全ての方、そして、事務次長という機会を与えてくださった全ての方に感謝いたします。ありがとうございました。
全国一斉生活保護ホットラインを実施
法「改正」、基準引き下げの影響を実感
昨年12月18日を中心に、全国52の弁護士会(東京三弁護士会は共同実施)で「全国一斉生活保護ホットライン」を実施した。
相談は600件近くに上り、240件余は不安を訴える内容であった。未受給者からは福祉事務所に「働いて生活しなさい」「扶養義務者に援助してもらいなさい」「所持金がなくなってから来なさい」と言われたなどの声が、受給者からは「後発医薬品(ジェネリック)を使用するよう言われている」「厳しい就労指導を受けている」「保護費を返すように言われた」「ケースワーカーが怖い」などの声が寄せられた。明らかに違法、または違法の可能性が高いと思われる対応も相談の約1割あった。
生活保護法「改正」に関しては、後発医薬品(ジェネリック)の使用に関する相談が突出して多く、昨年10月からの生活保護基準の再引き下げに関しては、「ここ数年保護費の減額が続いており、このまま削られていくと生活していけない。今も1日3食食べられておらず、死を迫られているように感じる」「保護費の引き下げがどこまで続くか不安。今でもギリギリなので、これ以上引き下げられたら生活できない」などの悲痛な叫びがあった。
日弁連としては、これらの声を無にすることなく、個別の支援はもとより、すべての人により良い生活保障が行われるよう、あるべき法改正の提案、意見表明などを行っていきたい。
(貧困問題対策本部セーフティネット部会 部会長 森 弘典)
日弁連新聞モニターの声
日弁連新聞では、毎年4月に全弁護士会から71人のモニター(任期1年)をご推薦いただき、そのご意見を紙面作りに生かしています。
法分野では、民法や少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)の改正について昨年度に引き続き高い関心が寄せられ、特に8月号の「民法改正と残された問題点」は有意義だと高評価でした。これに加え、民事執行法の見直し、民事裁判手続等のIT化、所有者不明土地問題などの分野も注目を集めました。
業務に直結するところでは、国選弁護事件等の契約約款、若手会員支援施策、交通事故刑事弁護士費用保険、依頼者の本人特定事項の確認等に係る年次報告書に関する記事が注視されました。災害対策や再審に関する記事は、業務に関係するか否かを問わず、興味を持っていただいていることがうかがわれます。
人権擁護大会の記事は、第1分科会で取り上げた外国人労働者の問題が国会の議論にリンクし、タイムリーな内容になったこともあり、参加すればよかった等と大きな反響がありました。
3面は、主にシンポジウム等のイベントを取り上げています。毎月何十とあるイベントの中から5つ程度を選択して掲載し、日弁連の幅広い取り組みを知っていただくことに重きを置いています。さらにイベント数を絞って詳細な内容を掲載すべきとの声も従前からあり、常々悩んでいるところです。
4面の「JFBAPRESS」は、広報室嘱託が中心となって特集記事を作成しています。おおむね好評ですが、特に7月号の「インタビュー村木厚子さん/共生社会の実現に向けた取り組み」、12月号の「自転車ADRセンターを訪ねて」に高い評価をいただきました。
今後も多様な会員のニーズをくみ取りつつ紙面作りに努めてまいります。
(広報室嘱託 柗田由貴)
新事務次長紹介
五十嵐康之事務次長(第一東京)が退任し、後任には、
2月1日付で永塚良知事務次長(第一東京)が就任した。
永塚 良知(第一東京・48期)
2017年度、第一東京弁護士会副会長と関東弁護士会連合会常務理事を務めましたが、その執務の中で各弁護士会が協力し連携することの大切さを実感いたしました。事務次長の職務を行うにあたっても、そのことを忘れずに誠実に取り組みたいと存じます。何卒ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。
少年法の適用年齢引下げ問題に関する各界懇談会
1月8日 弁護士会館
適用年齢を引き下げる理由はない
子どもの権利委員会少年法・裁判員裁判対策チームの金矢拓座長(第二東京)は基調報告で、「少年事件の増大・凶悪化」の事実はなく、現行少年法は有効に機能しており、適用年齢引下げは、むしろ少年の更生を阻害すると述べた。
子どもの権利委員会の山﨑健一幹事(神奈川県/法制審部会委員)は、法制審部会の議論状況について、これまで適用年齢が引き下げられた場合の刑事政策的措置の検討が中心に行われてきたが、現行少年法に匹敵する制度は困難である。適用年齢引下げの根拠としては主に民法の成年年齢引下げに合わせるべきとの意見が出されていることを報告した。
適用年齢引下げを阻止するために
参加団体を交えた意見交換・質疑応答では、参加者から、「適用年齢引下げがここまで差し迫った問題との認識がなかった」「少年法の手続や処遇がこれほど素晴らしいことが知られていない」「必要性のエビデンスがない以上引下げは許されないのではないか」「適用年齢引下げは若年者の再犯を増加させ社会の安全を脅かすという観点からの訴えも必要ではないか」などの活発な意見交換がなされ、できる限り多くの団体が適用年齢引下げに反対する意見表明を行うことが重要であるとの認識を共有した。
最後に、今後も日弁連が各種団体への働きかけを積極的に行う必要があることを確認した。
国際仲裁シンポジウム
ロンドン国際仲裁裁判所(LCIA)オードリー・シェパード議長を迎えて
1月10日弁護士会館
国際仲裁シンポジウム ~ロンドン国際仲裁裁判所(LCIA)オードリー・シェパード議長を迎えて~
シェパード氏は講演の中で、仲裁には仲裁人を選ぶ自由があり、柔軟な手続進行のもと公平・迅速な判断が得られるなどのメリットがあると解説し、今後、日本企業による国際仲裁の活用が増加する可能性は十分あるとの見通しを示した。国際仲裁の活性化のためには、ユーザーたる企業が何を求めているかを常に意識し、オンライン手続を可能にするなど使いやすい制度を構築することが重要だと指摘した。
松井信憲氏(法務省大臣官房国際課長)は、国際仲裁は国内外の経済成長を支える重要な司法インフラであると述べた。官民連携による基盤整備とそのための措置・取り組みが必要であることは認識しており、国際仲裁の先進国に比肩する恒久的な施設整備や法整備等について検討していくと語った。
佐久間総一郎氏(経団連経済法規委員会企画部会長/新日鐵住金株式会社常任顧問)は、日本で国際仲裁を活性化するためには、まず何より、日本企業が海外企業と取引契約を交わす際、日本を仲裁地とする仲裁合意を定めなければならないと指摘し、契約締結交渉時、企業担当者が仲裁条項やその他紛争解決条項が重要な契約条項であるとの認識をもって当たる必要があると述べた。
国際商事・投資仲裁ADRに関するワーキンググループの小原淳見委員(第一東京/ICC国際仲裁裁判所副所長/国際商事仲裁協議会(ICCA)理事)は、日本の経済活動の規模に比し国際仲裁の件数が少なく、日本企業が仲裁を活用できているか懸念されるため、仲裁法の適切なアップデートや、標準的な国際仲裁実務の普及など、必要なインフラの構築による仲裁の活性化が重要であると語った。
家事法制シンポジウム
子どもがいる離婚の解決手続において求められるものは何か
子どもの養育支援につながる離婚解決の在り方を考える
12月15日 弁護士会館
家事法制シンポジウム「子どもがいる離婚の解決手続において求められるものは何か~子どもの養育支援につながる離婚解決の在り方を考える~」
棚村政行教授(早稲田大学法学学術院)は基調報告の中で、兵庫県明石市が面会交流をサポートする事業や、市が委託した保証会社が養育費を立替払いし、別居親に督促・回収する事業などを進めていること、オーストラリアでは養育費を給与から自動天引きできる制度があることなど、国内外の取り組みを報告した。
谷口勝保氏(元家庭裁判所調査官/公益社団法人家庭問題情報センター大阪ファミリー相談室面会交流部幹事)は、面会交流支援に携わる立場から、父母が子どものことを最優先に考えられるようにするために、父母の話を傾聴して葛藤を逓減させることが重要だと説いた。
家事法制委員会の林千賀子委員(沖縄)は、調停委員会の紛争への対応とその影響等に関し、委員会内で実施したアンケートの結果を報告した。
パネルディスカッションで、山﨑朋亮氏(元家庭裁判所調査官/公益社団法人家庭問題情報センター/厚生労働省委託事業養育費相談支援センターセンター長)は、離婚を急ぐあまり養育費や面会交流について適切な取り決めをしないまま離婚してしまう場合が多いと指摘し、自治体が離婚を考え始めた段階の夫婦に対してガイダンスを実施し、子の利益のために適切な取り決めをすることの重要性を伝えるとよいのではないかと意見を述べた。
家庭裁判所の調停委員を務める戸倉晴美氏(元裁判官/元弁護士)は、父母の再婚に伴って養育費や面会交流の問題が再燃する場合、当事者が感情的になることもあるが、そのようなケースでは、裁判所も慎重な調停運営をしていると語った。
全国弁護士会中小企業支援連絡協議会
12月11日 弁護士会館
今回は事業承継をテーマに、弁護士とネットワークとの連携の在り方という観点でグループワークと全体会を行った。
あるグループワークでは、ネットワークに持ち込まれた事業承継案件を各専門家につなぐ役割を果たすコーディネーターに、弁護士がどのような場面で活躍できるのかを理解してもらう必要があるとの指摘があった。この指摘に関連して、「日弁連のパンフレットなどを活用し、法的紛争に至っていない場面でも弁護士が活躍できることをアピールするのが有効である」「事業承継といっても一つ一つの手法は弁護士にとって特殊な手法ではない」「債権者との債権カットの交渉など、弁護士にしかできないことがある」など積極的な意見が数多く寄せられた。さらに相談窓口の運用の方法、知識や経験の共有の仕方など実践的な問題についても熱心な議論が行われた。
全体会では、それぞれのグループワークの結果を共有した。報酬を設定する際の考え方や、事業承継先が見つからない相談者に取り得る対応など、弁護士が事業承継に関わる際に直面する問題について、活発な意見交換も行われた。
国際公法の実務研修連続講座Vol.2 第4回
国際司法裁判所(ICJ)の法と実務
12月26日 弁護士会館
今回は、2017年1月から現在に至るまでICJの法務官補を務めている中島啓氏により、ICJの組織概要や最近の事件と動向についての講義が行われた。
−ICJは地域的バランスを考慮して選出された15人の裁判官(日本からは2018年に岩澤雄司氏が選出)や100人を超える事務局で構成される。15人の法務官補は法務部に配置され、おのおのが決められた裁判官を補佐し、担当裁判官の心証形成に必要な証拠調べや適用法・判例分析を行っている。法務官補は、組織図上は法務部に属しているものの、日常的には15人の裁判官が率いるそれぞれのチーム(秘書やインターン等を含め4人で1チーム)に属して業務を行っている印象である。
ICJに付託される事件は10年前と比べ件数も増え、内容も複雑化しているが、ICJが活動してきた過去70年でみれば、紛争類型としては国境や領海等の境界確定事件が最も多く、過去の判例分析、条約や仲裁判断の解釈、そして証拠調べといった法律家的な仕事が業務の中心となる。時に本案判決があるまで当事者の権利保全のために裁判所が発する仮保全措置命令事件を担当するが、極めて短期間で書面を審査して命令を出すかどうかを決めなければならず、裁判官を補佐する法務官補にとってもストレスフルな仕事である。−
最後に中島氏から国際裁判の実務に必要なスキルやキャリアパスについて、自身の経験に触れながら具体的なアドバイスがあった。ICJの法務官補は若手のためのポストで任期は最大4年であるが、ぜひ日本の弁護士にもチャレンジしてほしいと期待を寄せた。
(法律サービス展開本部国際業務推進センター 幹事 島村洋介)
日本組織内弁護士協会(JILA)インタビュー
弁護士の活動領域の拡大に向けて
組織内弁護士の人数は、2018年6月30日現在で2161人となり、現在もなお増加傾向にあります。2001年8月に設立された日本組織内弁護士協会(以下「JILA」)は、組織内弁護士に関する研究や政策立案、組織内弁護士の能力・識見向上、組織内弁護士間のネットワーク形成など企業内弁護士を支える存在として実績を上げ、会員数は1600人を超えています。
今回は、2018年6月にJILAの理事長に就任した榊原美紀会員(第二東京)と、弁護士登録以来組織内弁護士として活躍し、JILAでも積極的に活動している上野陽子会員(第一東京)からお話を伺いました。
(広報室嘱託 本多基記)
弁護士の20人に1人は組織内弁護士
企業で働く企業内弁護士と国や自治体その他の団体で働く弁護士を組織内弁護士と総称しています。組織内弁護士の人数は、私が組織内弁護士になった2003年当時は100人弱でしたが、現在では2100人を超え、15年で20倍に増加しました。弁護士の20人に1人は組織内弁護士であり、キャリアとして定着したといえます。組織内弁護士は、当初は外資系企業や金融機関など一部の企業で採用されていましたが、近年では業種に限定なくあらゆる日本企業が採用するようになりました。現場に近いことをやりたい、規模の大きな案件に携わりたいという志を持った方が組織内弁護士を目指す傾向にあるようです。
組織内弁護士に役立つ知見や情報を共有
JILAは関西、東海、九州および中国四国に支部があり、多様な分野で活躍する組織内弁護士が所属しています。JILAには金融・IT・機械・公共団体など業種別に設置された10の部会があり、業界の課題に関する勉強会等を開催し、情報交換を行っています。また、知的財産・金融商品取引法・ダイバーシティ・国際仲裁など特定の分野・テーマに特化した10の研究会があり、調査研究や成果発表を行っています。
このようにJILAでは、会員の自己研鑽に有用な場を多く提供しているほか、組織内弁護士として活動する先輩や後輩と多くの知見や情報を共有しています。
法の支配・法化社会の実現に向けて
弁護士会費の負担など諸般の事情から弁護士登録をしていない会員や、東京中心の各種活動に参加しにくい地方在住の会員などもいます。これらの会員にもJILAの研究会等を活用しやすくすることで、会員のレベルアップを図り、ひいては日本社会全体に法の支配が行き渡るよう力を尽くしたいと考えています。
また、多くの組織内弁護士がジェネラルカウンセルなど経営層に加わることが法化社会の実現につながると考えています。そのために研修等を通じてベテランが若手に経営に関する技術やノウハウを伝達できるような組織にしたいと考えています。
多くの組織内弁護士とつながりを持つために
組織内弁護士は孤立することもあります。多くの会員と知見や情報を共有し、スキルアップに役立て、多くの会員とつながりを持ち話し合うことは、業務に役立つはずです。ぜひJILAに入会して積極的に活動に参加していただきたいと思います。
組織内弁護士になるまで
私は、大学卒業後、SEや営業職などとして一般企業で勤務していましたが、たまたま家族の法律問題に直面し、法律を勉強しようと法科大学院に入学しました。弁護士登録後は、任期付公務員として総務省総合通信基盤局電波部移動通信課で2年間勤務し、その後、現在勤務している株式会社ジャックスに入社しました。
さまざまな業務で経験を重ねる
入社後3年間は、管理職として契約書審査や法改正対応、新規事業の検討等の予防法務を担当しつつ、法務課長としてマネジメント業務も経験しました。その後、訴訟の実務経験を積みたいと考え、専門職へのキャリア変更を希望し、現在は訴訟追行や訴訟管理等の臨床法務を中心に担当しています。会社の顧問弁護士と協働する機会もあり、業務の中で教えていただくことも多いです。
組織内弁護士のやりがい
組織内弁護士は組織の中にいるため、内部事情に精通しており、現場に踏み込み、問題の本質を捉えた解決を図ることができます。また、事業の遂行や経営の意思決定に影響を与えられる点にもやりがいを感じます。社内においては各事業部との連携も多く、社外においても行政、業界団体や外部弁護士など、多数で複合的かつ長期的な人間関係を築くことができるのも大きな魅力です。
勤務外の時間を有効活用する
組織内弁護士といっても働き方や勤務外の時間の使い方はさまざまであると思います。私の場合は、月に2回程度弁護士会やJILAの研修、弁護士倫理についての任意の研究会等に参加するほか、日弁連の弁護士業務改革委員会企業内弁護士小委員会や弁護士会の組織内弁護士委員会でも活動しています。そして、そのほかの時間は自己研鑽に努めるなどして勤務外の時間を有効活用しています。
日弁連委員会めぐり98
国際商事・投資仲裁ADRに関するワーキンググループ
(広報室嘱託 大藏隆子)
そもそも国際仲裁とは
国際仲裁は、私的な裁判手続であり、上訴がない極めて強力な紛争解決手段です。海外との取引で、契約に仲裁合意条項が含まれている場合、トラブルが生じたとき、契約当事者は裁判手続を選択することができず、国際仲裁手続を利用しなければなりません。国際ビジネスでは、相手国での裁判を避けたいという要請があり、国際仲裁が広く利用されています。当事者が仲裁人を選べる点が大きな特徴です。
また、国際調停というものもあります。任意の紛争解決手段ですが、だからこそ柔軟な解決を図り得るメリットがあります。
WG設置の経緯
2018年3月、法律サービス展開本部国際業務推進センターに置かれていた同名の部会を前身として設置されました。日本における国際仲裁の基盤整備・振興を検討するためです。
WGの活動内容等
国際仲裁の基盤整備という点では、外国弁護士が関与しやすくするための外弁法改正あるいは、仲裁法改正など法整備に関する検討、仲裁人・調停人・代理人などの人材の育成、物的施設の整備に向けた検討や支援などを行っています。国際仲裁の振興のため、企業向けセミナーの開催などを同時並行で進めています。
物的施設の整備については、2018年5月に法務省の協力を得て、日本初の国際仲裁・ADR専門施設(大阪・中之島)が設置され、同施設を提供する「日本国際紛争解決センター(大阪)」が業務を開始し、11月には京都国際調停センターも開設されました。近い将来、東京にも国際仲裁・ADR専用施設が開設される予定です。
会員へのメッセージ
以前は、海外との取引は一部の大企業だけの話でしたが、今や、地方の中小企業が海外と取引する場面も珍しくありません。すでに多くの会員が仲裁合意条項のある契約書を目にしていると思います。国際仲裁・調停は、海外取引における重要な紛争解決メニューです。会員の皆さんには、このメニューについて理解を深めていただき、海外との取引を行う方へのアドバイスに役立てていただきたいです。
ブックセンターベストセラー
(2018年11月・手帳は除く) 協力:弁護士会館ブックセンター
順位 | 書名 | 著者名・編者名 |
出版社名・ 発行元名 |
---|---|---|---|
1 | 模範六法2019 平成31年版 | 判例六法編修委員会 編 | 三省堂 |
2 | 有斐閣判例六法Professional 平成31年版 |
宇賀克也・中里 実・長谷部恭男・ 佐伯仁志・酒巻 匡 編集代表 |
有斐閣 |
3 | 新注釈民法(1)総則(1)§§1〜89 | 山野目章夫 編 | 有斐閣 |
4 | 携帯実務六法2018年度版 | 「携帯実務六法」編集プロジェクトチーム 編 | 東京都弁護士協同組合 |
5 | 相続実務が変わる!相続法改正ガイドブック | 安達敏男 他 著 | 日本加除出版 |
6 | 平成30年改正 知的財産権法文集 平成31年1月1日施行版 | 発明推進協会 編 | 発明推進協会 |
7 | 新注釈民法(14)債権(7)§§623〜696 | 山本 豊 編 | 有斐閣 |
8 | 実務家が陥りやすい相続・遺言の落とし穴 | 遺言・相続実務問題研究会 編 | 新日本法規出版 |
後遺障害入門−認定から訴訟まで− | 小松初男・小林 覚・西本邦男 編 | 青林書院 | |
10 | 民事執行の実務[第4版]債権執行編(上) | 相澤眞木・塚原 聡 編著 | きんざい |
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順位 | 講座名 |
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1 |
2016年改正刑事訴訟法−捜査・訴追協力型協議・合意制度と刑事免責制度の施行を控えて− |
2 |
中小企業の事業承継支援の全体像(入門編)連続講座 第1回「事業承継支援の概要」 |
3 |
弁護士が押さえておきたい民事信託に必要な後見・遺言知識 |
4 |
よくわかる最新重要判例解説2018(民事) |
5 | 法的交渉の技法と実践〜問題解決の考え方と事件へのアプローチ〜 |
6 |
会計原則の基礎知識〜会計の基本と会計基準と法令の関係〜 |
7 | 所得税法の基礎 |
8 | 知的財産に関する研修会2018−立法・判例の最新動向を踏まえて− |
9 | 性暴力被害者支援の基本実務 |
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