日弁連新聞 第540号

司法を社会に発信して行動する日弁連を目指して
新年会長インタビュー


明けましておめでとうございます
本年が皆さまにとって良い年となりますようお祈り申し上げます


就任して9か月が経ちました。力を入れて取り組んだことは

笑顔でインタビューに応じる菊地裕太郎会長やはり、昨年5月の定期総会で「憲法9条の改正議論に対し、立憲主義を堅持し、恒久平和主義の尊重を求める立場から課題ないしは問題を提起するとともに、憲法改正手続法の見直しを求める決議」と「安心して修習に専念するための環境整備を更に進め、いわゆる谷間世代に対する施策を早期に実現することに力を尽くす決議」を採択したことでしょうか。
憲法改正とりわけ9条改正については賛否両論がありますが、国民の間で憲法改正の意味が十分に理解され、議論が深められるよう課題または問題を明らかにすることを決議しました。憲法改正手続法の見直しについても慎重に検討していきたいと考えています。
いわゆる谷間世代に関しては、引き続き国による是正措置の実現を目指すこと、日弁連として可能な施策を早期に実現することなどを決議しました。現在、会内施策として、いわゆる谷間世代に一人当たり20万円を給付する案を軸に意見を取りまとめています。


民事司法改革の進捗状況と今後の見通しは

日弁連は昨年1月、「民事司法改革グランドデザイン」の2度目の改訂版を公表しました。
いわゆる「骨太の方針」(昨年6月閣議決定)を受け、「民事司法の在り方に関する法曹三者連絡協議会」では民事裁判手続のIT化と民事訴訟における情報・証拠収集制度の充実について検討が行われています。また、「骨太の方針」には「民事司法制度改革を政府を挙げて推進する」とありますので、政府内にどのような組織体制が作られるかが焦点となります。
国際展開に関しては、国際仲裁・調停のための審問施設を大阪に次いで東京に設置する計画が進行しています。


大阪北部地震、平成30年7月豪雨、北海道胆振東部地震などの大規模災害が相次ぎました。どのように取り組みましたか

平成30年7月豪雨の際には、直ちに災害対策本部を立ち上げ、広島・岡山・愛媛の各弁護士会と連携して電話相談、巡回相談、情報提供、研修の実施など、ノウハウを総動員して被災者支援を展開しました。私自身も法務大臣や地元議員を訪ね、特定非常災害指定の要請を行いました。
また、被災者支援のためには、自治体との連携が極めて重要です。昨年12月には、全国市長会と「災害時における連携協力に関する協定」を締結しました。
今後も、災害対策や被災者支援に緊張感をもって取り組みます。


司法試験の合格者は3年連続で1500人台になりました

2016年3月の臨時総会では、「まず1500人にまで減員し、更なる減員については法曹養成制度の成熟度や現実の法的需要、問題点の改善状況を検証しつつ対処していくべきものと考える」とされています。現状「1500人程度」に至ったとも考えられ、1500人程度の合格者が継続された場合にどのような影響が生じるのか、各種統計数字の集積およびその分析を始める時期になったと認識しています。


業務拡充、活動領域の拡大は進んでいるでしょうか

市民の司法アクセスを弁護士費用等の面から改善する弁護士費用保険は、さまざまな商品の開発と販売が進んでいます。この1月には、交通事故における刑事事件の弁護士費用を付保する保険が発売されました。交通事故以外の各種損害賠償についても付保が進んでいて、本年は中小企業向けの弁護士費用保険も展開される予定です。これを契機に、中小企業への支援にも一層力を入れていきます。


あと一つ重要課題を挙げるとすれば何ですか

何といっても死刑制度の廃止に向けた取り組みです。昨年7月、オウム事件の死刑確定者13人の死刑が執行されました。13人もの大量の死刑執行は国内外で衝撃をもって受け止められ、日弁連は「arrow_blue_2.gif死刑執行に強く抗議し、直ちに死刑執行を停止し、2020年までに死刑制度の廃止を目指すことを求める会長声明」を公表しました。
弁護士会では市民を交えてシンポジウムを開催するなど議論が徐々に盛り上がっています。日弁連主催のシンポジウムでは、駐日英国大使や駐日EU代表部公使にも参加いただき、死刑制度に反対する立場からメッセージをいただきました。国内外の力を結集し、死刑制度廃止に向けた運動を推し進めていきます。そのほか死刑の代替刑として、「仮釈放のない終身刑」を原則とする制度設計も併せて検討しています。
同時に、犯罪被害者支援の充実に向けた活動にもしっかり取り組んでいきます。


会員へのメッセージをお願いします

この9か月間で、日弁連の意見や活動が国内外で大きな影響力を持つことを再認識しました。それだけ日弁連の政策決定には重い責任が伴います。実効性を伴わないもの、非現実的なものでは意味がありません。今後も、理事の皆さまと情報や認識を共有しながら、しっかりとした合意形成に努めていきたいと思います。
各省庁との折衝など日弁連の日々の対応が急ぎ迫られる局面がますます増えています。時間的制約がある中、可能な限り会員の皆さまの意見をくみ上げていきたいと考えています。弁護士会におかれても、会員の皆さまへの情報提供にご協力ください。
私ども日弁連執行部は、これまでの委員会を中心として積み上げた議論を土台として会務の運営に努めてまいります。多様な意見を抱えながらも日弁連として団結していただけるよう切にお願いいたします。


◇    ◇

(インタビュアー・ 広報室長 佐内俊之)




「少年法における『少年』の年齢を18歳未満とすることに反対する意見書」取りまとめ

日弁連は2018年11月21日、「少年法における『少年』の年齢を18歳未満とすることに反対する意見書」を取りまとめ、同月27日、法務大臣に提出した。


2017年3月に設置された法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会では、少年法の適用年齢引下げの是非とともに、仮に適用年齢を18歳未満に引き下げた場合に採り得る刑事政策的対応が議論され、想定される制度が概ね明らかになった。また、2018年の通常国会では、民法の成年年齢を18歳に引き下げる民法改正法が成立した。
日弁連は2015年2月、「arrow_blue_2.gif少年法の『成人』年齢引下げに関する意見書」を公表しているが、近時の状況を踏まえ、改めて、少年法の適用年齢引下げに反対することを表明した。
意見書では、第1に、法律の適用年齢はその趣旨・目的によって定められるところ、主に経済的取引に着目して成年年齢が引き下げられた民法と非行を犯した者の更生を図る少年法とでは趣旨・目的が異なり、民法の成年年齢引下げは、少年法の適用年齢引下げの論拠になり得ないとした。
第2に、少年法の適用対象外となった場合に起訴される18歳・19歳の者には、家庭裁判所調査官による調査がなされないため適切な処遇選択や教育的働き掛けがなされない。他方で、不起訴となる者について想定されている「新たな処分」は、家庭裁判所に送致するが、行為責任の範囲内で行われる以上、有効な代替策とはなり得ない。現行の少年法に基づく処遇には遠く及ばないものであり、むしろ適用年齢引下げによる弊害が大きいことを指摘した。
法制審部会での議論は終盤を迎えており、意見書に基づき適用年齢引下げに反対する運動を強めていくことが求められている。


(子どもの権利委員会  委員長 須納瀬 学)


*意見書はarrow_blue_2.gif日弁連ウェブサイトでご覧いただけます。

 


全国市長会・日弁連
「災害時における連携協力に関する協定」を締結

被災者の生活再建と被災地の復旧復興を実現するために弁護士会と自治体が連携を強化


全国市長会と日弁連は、昨年12月17日、災害時に被災地域の自治体(市および特別区)と被災地弁護士会が、被災者に対する迅速な生活再建の支援と、被災地の円滑な復旧復興を実現するための連携と協力を深めるための「災害時における連携協力に関する協定」(以下「本協定」)を締結した。本協定により、災害発生直後に被災地弁護士会が行う被災者に対する相談等について、被災地域の自治体による場所の提供および広報に関する協力が期待される。


協定書の調印式・記者会見

菊地会長(左)と立谷会長全国市長会の立谷秀清会長(相馬市長)および荒木慶司事務総長、日弁連の菊地裕太郎会長、太田賢二副会長および菰田優事務総長が出席し、立谷会長と菊地会長が協定書に署名し、記者会見を行った。


立谷会長と菊地会長のコメント

立谷会長は本協定の締結を受け「東日本大震災の際に、相馬市では、津波被災者4500人の中から自殺者を一人も出さなかった。これはひとえに弁護士の法律相談によるサポートが大きいと実感している。大規模災害が多発していることもあり、全国市長会が日弁連から支援いただけることは大変心強い」と語った。
菊地会長は「日弁連はこれまでさまざまな災害復興支援を行ってきたが、行政との連携がなければ支援が進まないことを実感している。本協定は、各弁護士会が行政との連携体制をつくる大きな第一歩となることが期待でき、大変意義深い」と述べた。


(事務次長 奥 国範)



日弁連短信

どこへでも行ける  どこまでも  どんな遠くでも


武内大徳事務次長『海街diary』という漫画をご存じだろうか。
鎌倉で暮らす4姉妹の日常と成長を爽やかに描いた作品で、2015年には映画化もされている。私は鎌倉の高校出身であり、作中に出てくる風景には馴染みが深いこともあって、発売当初から愛読してきた。
主人公の四女は、父の死を契機に3人の異母姉から誘われて、山形から1人で鎌倉へと越してくる。個性の異なる姉たちとの暮らしの中で、彼女は穏やかに成長し、中学卒業を機に鎌倉を離れ、県外の高校へと進学していく。物語のテーマは重層的であるが、全体を通じて「新しい世界への挑戦」という主題が基調音のように流れている。
新しい世界といえば、私の場合、日弁連事務次長への挑戦である。昨年6月に就任して以来、あっという間に半年が過ぎてしまった。
事務次長の職務は「事務総長を補佐して、会規又は規則で定める事務をつかさどる。」とされているが、これがもう実に多岐にわたる。業務の中心は各種委員会と執行部との意見調整であるが、その他、対外的には法務省・最高裁との折衝や国会議員への要請を行うし、会内的には170人を超す正職員や約100人の弁護士職員の人事管理も担っている。
いきおい、それぞれの事務次長の担当も広範となり、私でいえば、財務・経理、綱紀・懲戒、法曹養成といったテーマのほか、消費者問題対策委員会、家事法制委員会、犯罪被害者支援委員会等、合わせて29の項目を担当している。それぞれ、重要かつ専門的な分野であり、委員会の議論についていくだけでも大変であるし、テーマによっては即日対応のような機動性も求められる。毎日が、800メートルダッシュを繰り返しているような濃密で疾走感のある時間の連続だ。
もとより、事務次長の職責を果たせているかは心許ない限りである。周囲の人たちに助けられ、何とか半年を乗り切った というのが実情だろう。幸い、机を並べる事務総長と6人の同僚事務次長は人柄の良い人ばかりで、皆で協力し合い、とても和やかな雰囲気で仕事ができている。
表題は、『海街diary』の最終巻で繰り返される印象的なモノローグだ。未知の世界はいつだって不安だけれど、挑戦しなければ得られないものもある。事務次長の経験を通じて自分がどのように変わっていくか、密かに期待している。


◇   ◇

(事務次長 武内大徳)




刑事弁護の充実を目指して
研修を活用してスキル向上を


一連の刑事司法改革により、弁護人依頼権の重要性が高まっている。2018年6月には、勾留全件の被疑者国選弁護制度や捜査・公判協力型協議・合意制度(いわゆる司法取引制度)等が施行され、本年6月までには、一部事件について取調べの全過程の可視化がスタートする。
複雑化する刑事司法手続において、刑事弁護のスキルを向上させることは、弁護人依頼権を保障した憲法が個々の弁護士や弁護士会に付託した重大な責務といえる。
日弁連は、刑事弁護のスキル向上のために、さまざまな研修を用意している。中でも刑事弁護独自の発展型研修は、裁判員裁判に欠かせない法廷弁護技術をはじめ、30以上のメニューを用意し、それぞれの分野でトップ・スキルを持つ講師を弁護士会に派遣している。2014年度から2017年度までに266件、毎年約70件の派遣実績があるが、さらなる活用が望まれる。
また、日弁連総合研修センターと連携するeラーニングやライブ実務研修の内容も充実しており、本年2月13日には「あきらめない情状弁護」と題するライブ実務研修が実施される。とかく通り一遍に流れがちな情状弁護の在り方を根底から問い直す内容である。量刑にとどまらず、刑事弁護を通じて依頼者の更生をどう考えるべきか、医療・福祉等との連携はどう行うべきかをはじめ、多くの視点が提供される。司法面接に精通した講師による聴き取りの実演など、弁護士として身に付けたいさまざまなスキルを学ぶこともできる。弁護士にとって必見の研修であり、ぜひ受講されたい。


(日弁連刑事弁護センター  副委員長 秋田真志)


ライブ実務研修

  「あきらめない情状弁護」


  ●2019年2月13日(水)
    14時〜17時
  ●弁護士会館2階クレオ
    (各地の弁護士会にライブ中継)


*詳細は、日弁連ウェブサイト内会員専用ページのicon_page.png日弁連総合研修サイトでご確認ください。


第71期 司法修習終了者
1032人が一斉登録

二回試験に合格した司法修習終了者1517人のうち1032人が、2018年12月13日、日弁連に一斉登録した。
任官志望者(約80人)、任検者(69人)を除いた未登録者は336人(22.1%)と推計される。さらに1月15日までの登録予定者(勤務開始時期等の理由から、例年、1月の登録希望者も相当数に上る)を差し引いた場合の未登録者は121人(8.0%)と推計される。
日弁連では、引き続き若手弁護士サポートセンターを中心に、新規登録者を含む若手弁護士への各種支援を行うとともに、未登録者への採用情報提供、即時独立支援、さらには登録後のフォローアップを行って、今後の推移を見守りたい(若手弁護士サポートセンターの活動については同送の委員会ニュースを参照)。


修習終了者数 登録者数 未登録者数
新64期 1991 1423 400
現新65期 2080 1370 546
66期 2034 1286 570
67期 1973 1248 550
68期 1766 1131 468
69期 1762 1198 416
70期 1563 1075 356
71期 1517 1032 336(推計値)

※登録者数は各期一斉登録日時点



第16回 高齢者・障がい者権利擁護の集い
11月23日 北海道函館市

 北海道における弁護士と社会福祉士・精神保健福祉士との連携

  〜罪に問われた障がい者・高齢者に対する支援と虐待問題について〜


arrow_blue_2.gif第16回「高齢者・障がい者権利擁護の集い」のご案内


第16回目の開催を迎えた今回は、罪に問われた障がい者・高齢者に対する支援と虐待問題をテーマに取り上げた。
当日は、厳寒の中の開催にもかかわらず、弁護士約260人、福祉専門職や行政担当者を含む一般約190人の合計約450人の参加を得て、弁護士と福祉専門職との連携を深める契機となった。
(主催:日弁連・北海道弁護士会連合会・函館弁護士会/共催:公益社団法人北海道社会福祉士会・一般社団法人北海道精神保健福祉士協会)


日弁連、公益社団法人北海道社会福祉士会、一般社団法人北海道精神保健福祉士協会および北海道庁がそれぞれ活動報告を行った。その後、日弁連高齢者・障害者権利支援センターの早坂悟郎委員(札幌)と佐藤智大会員(札幌)が、弁護士と福祉専門職の虐待対応連携の実践例について、統計や具体的注目点に関する解説を織り交ぜながら報告し、参加者は真剣に聞き入った。
後半は、函館で活動する社会福祉士の湯淺弥氏、精神保健福祉士の山村哲氏、平井喜一委員(函館)の三者によるパネルディスカッションを行った。パネリストは各専門職の立場から、刑事手続の流れに沿って、①当事者に障がいのあることの気付き、②刑事手続における弁護士と専門職の組織的連携制度の構築、③実際の連携事案における更生支援計画の内容と弁護士の活用法およびその支援成果について、具体的に語り合った。議論の過程において各専門職の視点の違いが浮き彫りとなり、それぞれの長所を生かし、連携して対応する意義が参加者にも伝わった。


◇    ◇


(日弁連高齢者・障害者権利支援センター  委員 平井喜一)



院内学習会
いわゆる共謀罪に関する院内学習会
11月21日 衆議院第二議員会館

arrow_blue_2.gifいわゆる共謀罪に関する院内学習会


2017年6月15日、いわゆる共謀罪の創設を含む改正組織的犯罪処罰法(以下「本法律」)が成立し、同年7月11日から施行された。本法律の問題点や運用状況等について理解を深めるために院内学習会を開催した。学習会には約30人が出席した(うち国会議員本人出席4人、代理出席2人)。


秘密保護法・共謀罪法対策本部の海渡雄一副本部長(第二東京)は基調報告で、本法律の問題点として、意思の連絡が犯罪の重要な構成要素となり犯罪の成立時期が早まる点、犯罪行為と非犯罪行為との境界があいまいである点、意思の連絡の有無が捜査の焦点となり、通信傍受やメール等の内容を収集する捜査が行われるおそれがある点を指摘した。また、監視社会を招き国民が萎縮して自由な活動が阻害されるおそれがあると述べた。
続いて、三宅弘本部長代行(第二東京)が「共謀罪の廃止・抜本見直しとプライバシー・表現の自由の保障」と題して講演を行った。三宅本部長代行は、行政機関個人情報保護法10条が定める個人情報ファイルの保有等に関する事前通知は、国防や犯罪に関する情報には適用されず、行政機関が保有している個人情報ファイルを明らかにする必要がない点を問題視した。また、共謀罪処罰を導入すれば、警察の取締権限の範囲は拡大すると説明し、本来必要のない処罰規定を作ることにより、犯罪でなかったものを犯罪と呼び、違法でない行為や軽微な違法性しかない行為について、今までにはなかった摘発が起きていると述べた。
出席した国会議員からは、本法律成立に向けて議論が十分に尽くされなかったことを疑問とする声や、情報が国民のものであることを再確認し、国民の権利と自由を守るために共謀罪に反対する必要がある、国民が忘れないよう、諦めずに廃止に向けて取り組む必要があるなどの意見が寄せられた。



セミナー
EU諸国における取調べの可視化と弁護人の立会い
11月27日 弁護士会館

arrow_blue_2.gifセミナー「EU諸国における取調べの可視化と弁護人の立会い」


エド・ケープ名誉教授2016年の刑事訴訟法改正により、一定の事件について取調べの録音・録画が義務付けられることとなったが、取調べへの弁護人の立会権が保障されていないなど、なお多くの課題が残されている。イングランドやEUにおける取調べの可視化などの取り組みに詳しいエド・ケープ名誉教授(西イングランド大学)を講師に招きセミナーを開催した。

(共催:東京弁護士会・第一東京弁護士会・第二東京弁護士会)

 

ケープ教授は、ヨーロッパにおける刑事手続の中で被疑者・被告人に認められる手続的権利の2つの重要な起源として、欧州人権条約とEUの存在を挙げ、手続的権利に関するEU指令のうち、弁護人アクセス権についてのEU指令(以下「EU指令」)について説明した。
EU指令は、取調べの前に弁護人の援助を受ける権利、秘密交通権、弁護人が取調べに効果的に参加する権利等を保障している。ただし、「効果的な参加」が何を意味するかが定義されていないため、一部のEU加盟国では弁護人のなし得ることを著しく制限する立法が行われるなど、弁護人アクセス権に影響する課題は多く残る。この点に関し、イングランドやウェールズでは弁護士会の主導により、特定の質問に答えないようクライアントに助言することや取調べの中断を求めることなど、弁護人の「効果的な参加」の具体的な内容は約20年前に規則化されていた。
また、EUには警察における取調べの記録化に関する基準がなく、録音・録画が恒常的に行われている国はほとんどないが、イングランドやウェールズでは1990年代初頭から取調べが録音されてきた。当初反対していた警察も、今では調書作成が省略され取調べが迅速に行えるようになったことなどを理由に賛成している。
ケープ教授の講演を受けて、葛野尋之教授(一橋大学法学研究科グローバル・ロー研究センター)がコメントし、「原則黙秘」の弁護活動の実践が、日本の法と実務の改革のために弁護人がなし得る第一歩であると述べた。



国際公法の実務研修連続講座Vol.2 第3回
国際海洋法裁判所(ITLOS)の法と実務
12月6日 弁護士会館

国際海洋法裁判所(ITLOS:International Tribunal for the Law of the Sea)は、国連海洋法条約(以下「条約」)に基づき1996年にドイツのハンブルクに設置された、条約の適用や解釈に関する紛争を解決する機関である。
2005年から現在に至るまでITLOS裁判官を務め、2011年から3年間は所長として活躍した柳井俊二氏(元外務事務次官/元駐米特命全権大使)による講演が行われた。


柳井氏は、ITLOS裁判官や条約上の紛争解決手続とその特殊性について解説した。
−21人のITLOS裁判官は、締約国会議において3分の2の多数で選出される。3年ごとに7人ずつ改選され、任期は9年、同一国から複数人の裁判官が選出されることはない。裁判官は海洋法や国際法に詳しい人が選出されるため、外務省出身者が多いが、学者・弁護士・裁判官出身者などもいて、多様性に富んでいる。一つの事件を5人の裁判官で担当することが多い。
条約に関する紛争解決機関として、ITLOSのほかに国際司法裁判所(ICJ)、条約付属書Ⅶによる仲裁裁判所、付属書Ⅷによる特別仲裁裁判所があり、これらの機関による国際裁判は一審制で、強制執行ができない、国境を越えた証拠調べが困難であるなどの特殊性がある。複数の機関があると結論がまちまちになるのではないかとの懸念もあるが、各機関とも他機関の裁判の内容等を含めて調査し、結論付けており、整合性は保たれている。
ITLOSは、両当事者の合意がある場合など利用できる場面が限定されるが、裁判官の人数に比して事件数が少なく、手続の進行が早いという特徴がある。これまで、拿捕された乗組員や船体の早期解放、海洋境界の画定など、審理中のものを含めて25の多様な事件を取り扱った。中でも、ベンガル湾におけるバングラデシュとミャンマーとの間の海洋境界を画定した事件やアルゼンチン海軍の軍艦がガーナに入港した際に差し押さえられた事件などは、興味深いものであった。−
柳井氏は、当事国間では譲歩できないところを、第三者であるITLOSが結論を出すことで、両国が結論に従いやすくなるとITLOSの意義を語った。




司法試験シンポジウム
法科大学院での試験・成績評価との関連を中心に
12月1日 弁護士会館

arrow_blue_2.gif司法試験シンポジウム~法科大学院での試験・成績評価との関連を中心に~


日弁連は、新司法試験の開始以来、毎年「司法試験シンポジウム」を開催している。本年度は、法律基本科目の学修がひととおり終了する2年次の成績評価と司法試験の合否の相関関係の分析を通じて、司法試験が法科大学院での学修の成果を図るという本来の趣旨に沿った試験になっているかなどの検討を行った。(共催:法科大学院協会)

 

パネルディスカッションの様子法科大学院センターの幹事らから平成30年司法試験の傾向分析の結果について報告があった後、横大道聡教授(慶應義塾大学法科大学院・憲法)、秋山靖浩教授(早稲田大学法科大学院・民法)、小池信太郎教授(慶應義塾大学法科大学院・刑法)が法科大学院の試験問題・成績評価と司法試験結果の相関関係について、それぞれ報告を行った。三教授の報告は、法学既修者・未修者いずれについても法科大学院における成績評価と司法試験合格には正の相関関係がある点、成績評価が同等の既修者と未修者を比較すると、既修者の合格率が有意に高く、その差は成績が低いほど顕著に表れている点、2年次のある特定の科目の成績ではなくGPAと司法試験の結果を比較した場合にはより強い相関関係が認められる点において共通していた。
次に高橋直哉氏(法科大学院協会司法試験等検討委員会主任/中央大学法科大学院教授)が、法科大学院協会が全法科大学院を対象に実施した平成30年司法試験に関するアンケート調査では、全ての大学院から回答があり、短答式、論文式の各試験に関するもののほか、出題趣旨の公表時期・方法等についてもさまざまな意見が寄せられたことを報告した。
パネルディスカッションおよび質疑応答では、未修者と既修者の合格率の差が生じる原因、司法試験で要求すべき事務処理能力のレベル、法科大学院の授業の予習復習と司法試験のための勉強との時間配分など、さまざまな論点について積極的な意見交換が行われた。



日本国憲法企画
憲法を詩おう♪コンテスト 
表彰式&憲法ソング発表会
12月1日 東京都港区

希望を 未来を 憲法ポエムに託して
〜あなたと共に この憲法ソングを、今〜


arrow_blue_2.gif日本国憲法企画「憲法を詩おう♪コンテスト」 表彰式&憲法ソング発表会 希望を 未来を 憲法ポエムに託して ~あなたと共に この憲法ソングを、今~


日弁連は昨年5月から9月まで、施行後70年を超えてなお平和と人々の自由や人権を支え続けている日本国憲法の大切さをうたう「憲法詩(ポエム)」を募集した。応募総数390作品の中から選出した入賞作品を表彰し、大賞作品を作曲家の谷川賢作氏により「憲法ソング」として歌唱曲化し発表した。


入賞者に表彰状を手渡す菊地会長菊地裕太郎会長が開会挨拶に立ち、憲法詩コンテストに全国から多数の応募があったことに感謝の意を示すとともに、市民の皆さんと一緒に憲法について考える機会にしたいと述べた。
青井未帆教授(学習院大学)が、「だれが憲法を守る?」と題して講演を行った。憲法には権力を抑制して国民の自由を守る役割があることを分かりやすい言葉で説明し、憲法12条に定める「国民の不断の努力」として、どのような憲法にしたいのかを考える必要があると強調した。
表彰式では、金賞に選ばれた尾池ひかりさんの作品(小学生以下の部)、大橋宗馬さんの「暴走」(中学生・高校生の部)、坂巻克巳さんの「雑巾のように」(大学生・社会人の部)が朗読され、他の入賞作品とともに表彰された。大橋さんはコンテストが憲法を考える機会になったと感謝の言葉を述べ、坂巻さんは憲法詩のタイトルを付けた経緯などをコメントした。
審査員を務めた作詞家の覚和歌子氏は、受賞作品は切り口の良さや軽妙さなど作曲されることが意識されていたと評価した。谷川氏は作曲家の視点で、受賞作品に即興でメロディーを付けて歌うなどユーモアあふれる講評をした。その他の審査員からもビデオメッセージを含め講評があった。
第2部では、金賞作品の中から大賞に選ばれた尾池さんの作品「わたしのねがい」が憲法ソングとして歌唱曲化され、バンド「DiVa」によるミニライブが開催された。最後は、会場の参加者全員で大賞曲を合唱し締めくくった。


◇    ◇


*憲法ソングおよび入賞作品は、arrow_blue_2.gif日弁連ウェブサイトで視聴いただけます。



日弁連海外ロースクール推薦留学制度20周年記念シンポジウム
12月3日 弁護士会館

arrow_blue_2.gif日弁連海外ロースクール推薦留学制度-20周年記念シンポジウム-


日弁連は、年々国際化する弁護士の活動を支援すべく、ニューヨーク大学(米)、カリフォルニア大学バークレー校(米)、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(米)、エセックス大学(英)およびシンガポール国立大学のロースクール等に、客員研究員またはLL.M.コースの学生として、会員を推薦し派遣している。
この海外ロースクール推薦留学制度が20周年を迎えたことを記念し、恒例の帰国者報告会に加え、過去の留学生によるパネルディスカッションを開催した。


第1部では、近時の帰国者および現在の留学生から留学生活の報告が行われた。
加藤丈晴会員(札幌)は、2016年度、LGBTの権利擁護等を研究すべく、ニューヨーク大学に留学した。加藤会員は、大学での講義聴講にとどまらず、講演会やセミナーに参加し、LGBT活動家や法律家、法曹団体への訪問・面談を重ねる中で、研究テーマを深めた過程を詳説した。また、客員研究員という立場での留学であったため、自分の興味のある分野に集中して研究ができたと語った。
藤本圭子会員(東京)は、2017年度、エセックス大学に留学した。当時の所属弁護士会の副会長を務めた後、子どもを連れて留学したが、イギリスへの留学は欧州各国の様子をも見聞でき、ミッドキャリアで一度立ち止まって学ぶことができて本当によかったと振り返った。
このほかにも、各校での留学生活が報告された。
第2部では、過去の留学生が帰国後の取組等を中心に報告した。
伊藤和子会員(東京)は、2004年度、アメリカの陪審制度下の刑事司法制度と国際人権法を研究すべくニューヨーク大学に留学した。伊藤会員は、帰国後、研究成果を書籍化し、認定NPO法人「ヒューマンライツ・ナウ」を立ち上げたこと、同法人が国連NGOとして活動するまでになり、国際人権問題が自身の得意分野の一つになったことを語った。
平尾潔会員(第二東京)は、2012年度、エセックス大学に留学し、イギリスのいじめ対策を研究した。日本では、いじめの件数は学年が上がるほど増える傾向にあるが、イギリスでは反対で、子どもが学びを深めることで、学年が上がるほど件数が減少する傾向にあるという。平尾会員は、帰国後、それまでは小学校高学年をターゲットにしていた「いじめ予防授業」を小学校全学年で実施する取り組みを立ち上げたことなどにより、この分野で名前が知られるようになり、いじめの問題がライフワークになったことを報告した。
このほかにも、留学を機にさまざまなキャリアを形成した事例が数多く報告された。



日弁連で働く弁護士たち ❹


■■ 刑事調査室 ■■


刑事調査室は、昨年8月、司法調査室から独立して設置され、刑事司法制度等に関する調査、研究などを行っています。今回は河津博史室長(第二東京)にお話を伺いました。


 (広報室嘱託 柗田由貴)

刑事司法について執行部をサポート

刑事弁護は憲法に唯一規定された弁護士の役割です。強制加入団体である日弁連は、刑事司法制度のあり方と運用に関して、国民に対し責任を負う立場にあるといえます。そのため、日弁連執行部は、立法提言をしたり、制度や運用のあり方について意見を述べたり、ときには立法に反対意見を述べたりすることがあります。また、最高裁や法務省、検察庁などと折衝を行う必要もあります。最高裁や法務省には、刑事局という専門的組織がありますが、刑事局と対等に協議し、日弁連として目指すべき立法を実現するためには、専門性のあるスタッフが執行部を支える必要があります。このような執行部のサポートを目的として、刑事調査室は設置されました。


事実や法令・判例の調査を中心とする地道な作業

刑事調査室では、法科大学院の実務家教員、司法研修所の刑事弁護教官経験者、刑事関係での留学経験者を中心に、刑事弁護人として実績のある者が活動の中枢を担っています。
具体的な業務としては、全国の問題事例に関する情報を収集し、弁護人に直接事情を聞いたり、報道をきっかけとする事実の調査や、執行部の意見形成に必要な法令や判例の調査等を行っています。
刑事調査室の課題に、2022年に行われる2016年改正刑事訴訟法の見直しに向けて、立法事実を収集することが挙げられます。法制審の村木厚子委員(当時)が立法事実を把握することの重要性を繰り返し指摘されていましたが、立法事実に基づき立法や運用改善の提案ができる仕組みを作るのは、日弁連の責務と考えられます。

刑事調査室会議は、テレビ会議も利用して効率的に行われている


市民に対する広報の重要性

逮捕直後に被疑者が有罪であるかのような報道が出るのは、無罪推定の原則に反するものであり、海外からも度々指摘を受けています。被疑者・被告人を弁護する理由についても、日弁連を中心に、法教育を含め、市民の理解を得る努力を続けることが必要です。
また、裁判員制度における裁判員の辞退率が依然として高いのは、その意義が伝わっていないからといえます。制度10周年を機にこの点の広報も強化したいと思っています。


会員へのメッセージ

刑事弁護に関する弁護士の責務を果たすため、地道な作業を続けていきたいと思います。問題事例の調査にぜひご協力ください。(本紙2面の広告をご覧ください。)




ブックセンターベストセラー
(2018年10月・手帳は除く) 協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編者名 出版社名・発行元名
1 模範六法2019 平成31年版 判例六法編修委員会 編 三省堂
2 携帯実務六法2018年度版 「携帯実務六法」編集プロジェクトチーム 編 東京都弁護士協同組合
3 会社法コンメンタール15―持分会社(2)
§§614〜675
神田秀樹 編 商事法務
4 新注釈民法(14)債権(7)§§623〜696 山本 豊 編 有斐閣
5 相続実務が変わる!相続法改正ガイドブック 安達敏男 他著 日本加除出版
後遺障害入門―認定から訴訟まで― 小松初男・小林 覚・西本邦男 編 青林書院
7 インターネット関係仮処分の実務 関 述之・小川直人 編著 きんざい
8 法務と税務のプロのための改正相続法徹底ガイド 松嶋隆弘 編著 ぎょうせい
9 相続法改正のポイントと実務への影響 山川一陽・松嶋隆弘 編著 日本加除出版
10 量刑調査報告集Ⅴ 第一東京弁護士会刑事弁護委員会 編 第一東京弁護士会



日本弁護士連合会 総合研修サイト

コンパクトシリーズ人気講座ランキング 2018年6月~11月

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順位 講座名 時間
1

セクシュアル・ハラスメント及びマタニティ・ハラスメントの基本

28分

2

保釈の基本

25分

3

戸籍の仕組み・読み方の基本

30分

4

職務上請求の基本

30分

取調べの可視化時代の捜査弁護の基本 35分
6

身体拘束からの解放の基本

24分

7 地図の読み方の基本~ブルーマップ・公図の利用方法~ 31分
8 和解条項の基本 26分
9 不動産登記の基本 31分
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お問い合わせ先 日弁連業務部業務第三課(TEL 03-3580-9927)