日弁連新聞 第529号

改正総合法律支援法施行
弁護士へのアクセス改善を目指して

総合法律支援法の改正により、本年1月24日から認知機能が十分でない高齢者・障がい者に対する法律相談援助およびDV・ストーカー・児童虐待被害者に対する法律相談援助が開始された。


認知機能が十分でない高齢者・障がい者に対する法律相談援助

認知機能が十分でなく、近隣に居住する親族がいない等の理由で、自発的に弁護士等に相談することが期待できない高齢者・障がい者について、福祉機関等の支援者が日本司法支援センター(以下「法テラス」)に法律相談の要請を行うことで、弁護士等の法律相談を受け、助言を受けることが可能となった。
手続の流れは、福祉機関等の支援者から法律相談援助の要請を受けた法テラスが、要件を満たしていることを確認した上で、弁護士等に案件の配点を行う。配点を受けた弁護士等は、支援者と連絡を取り日程等を調整の上、自宅等に出張して法律相談を実施することとなる。

 

DV・ストーカー・児童虐待被害者に対する法律相談援助

DV・ストーカー・児童虐待被害を受け、または被害を受けている疑いのある人が法テラスに申し込むことにより、民事の法律相談、告訴等の刑事関連の相談を含む、被害の防止に必要な弁護士による法律相談援助を受けることが可能となった。
これら被害者から法テラスのコールセンターや地方事務所に弁護士による法律相談援助の要請があったときは、法テラスの地方事務所が、あらかじめ各地に備えられた名簿から弁護士を選任することとなる。


相談料

認知機能が十分でない高齢者・障がい者に対する法律相談援助の相談料は、民事法律扶助資力基準を満たす人は無償、資力基準を超える人は5400円となる。
DV・ストーカー・児童虐待被害者に対する法律相談援助の相談料は、DV等被害者法律相談援助資産基準(被害者が処分可能な現金・預貯金の合計額が300万円以下)を満たす人は無償、資産基準を超える人は5400円となる。
これらの施行により、弁護士へのアクセス改善が期待される。

(総合法律支援本部本部長代行 谷萩陽一)



法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会における議論状況


2017年4月以降、法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会では、会社法改正の議論が重ねられてきた。現在、「中間試案のたたき台」に関して審議が行われている。論点は多岐にわたるが、主な論点について簡単に説明する。


株主総会資料の電子提供制度の新設や株主提案権の制限等、株主総会に関する規律の見直し

株主総会資料の書面提供に代え、株主の事前承諾を要せずに、参考書類等の関連資料をインターネットを利用して提供する制度の新設が検討されている。株主の基本的権利である議決権行使との関連性が高く、株主にどのような要件で書面請求を認めるか、上場会社においてこの制度を義務付けるか等、議論するべき論点が多い。


取締役に対するインセンティブの付与としての取締役報酬や社外取締役の活用等、取締役等に関する規律の見直し

株式報酬等の金銭でない報酬について、現行法の株主総会決議による定めに関する規定を変更するか等の論点がある。
また、社外取締役を置くことの義務付けについては、日弁連は「監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものは、社外取締役を少なくとも1名置かなければならない」とすべきとの意見書を公表した。


新たな社債管理機関としての社債管理補助者や他の株式会社を子会社化する株式交付制度の新設

現行の社債管理者制度に加えて、職務内容が簡略化された社債管理補助者に社債の管理補助を委託できる制度の新設が検討されている。日弁連はその設置に賛成し、資格要件が拡大される場合には弁護士・弁護士法人に資格要件を認めるよう求める意見書を公表している。
また、株式会社が他の株式会社等を子会社としようとする場合に、現行会社法第199条第1項の募集によらずに、親会社となる会社の株式を他の株式会社の株主に交付する制度の創設が検討されている。意義や位置付け、親・子会社の株主・債権者の保護の必要性や方法等について検討を要する。


今後の予定

早ければ第10回部会(2月14日開催予定)で中間試案を取りまとめ、その後意見募集が行われる予定である。


(法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会バックアップチーム  座長 佐藤順哉)


*同部会での議論状況および資料等は法務省ウェブサイトで、日弁連意見書は日弁連ウェブサイトでそれぞれご覧いただけます。

 

 

弁護士保険ADR始まる


日弁連は、弁護士保険に関する裁判外紛争解決機関(以下「弁護士保険ADR」)を設置し、1月1日から業務を開始した。裁判外紛争解決機関を日弁連が設置・運営するのは初めてのことである。
弁護士保険ADRは、弁護士保険に関するトラブルの解決をサポートする機関で、主に保険金給付義務の有無に関する紛争や、弁護士保険の対象となる弁護士費用等の適否または妥当性に関する紛争などを取り扱う。協定保険会社、保険契約者等のほか、紛争対象事故に係る委任事務処理を受任した弁護士も独立の当事者となることができる。
具体的な手続には、当事者間での話し合いによる解決を目指す「和解あっせん手続」、裁定による解決を目指す「裁定手続」がある。これらの手続で解決に至らなかった場合でも、「見解表明手続」において作成される見解書を私的鑑定書として証拠提出するなど、訴訟等の別の紛争解決手続に利用することも可能である。
弁護士保険の販売件数、日弁連での取扱件数が年々増加を続ける中で、弁護士保険ADRが、紛争を迅速かつ公平な解決へと導くことによって、弁護士保険制度のより一層の発展に貢献することが期待されている。


(弁護士保険ADR運営委員会委員長 佐瀬正俊)


◇    ◇
*詳細は日弁連ウェブサイト(HOME≫日弁連の活動≫法律相談・過疎・偏在対策≫権利保護保険(弁護士保険)について)をご覧ください。

 


新事務次長紹介

大坪和敏事務次長1月29日付で、道あゆみ事務次長(東京)が退任し、 後任には、
大坪和敏事務次長(東京)が就任した。

 

大坪 和敏 (東京・49期)


近年の社会経済の情勢は、弁護士業務にも大きな変化をもたらし、日弁連の役割も一層重要なものとなっていると思われます。市民および多くの会員に身近な日弁連の実現のために少しでも貢献できるよう努力する所存です。

ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いいたします。

 

 

 

ひまわり


アメリカメジャーリーグで既に採用されている「申告敬遠制」が日本のプロ野球にも導入されることになりそうだ。また、高野連は、この春のセンバツ甲子園大会から「タイブレーク制」を導入することとしている▼古い話になるが、敬遠といえば、阪神ファンには悪夢の「開幕戦サヨナラ敬遠暴投」(1982年)が思い出される。昨年春のセンバツ甲子園大会では、二試合連続で「15回引き分け再試合」が繰り広げられ話題となった。こうしたドラマや伝説がなくなってしまうのは味気ないような気もするが、試合時間の短縮や選手の健康管理などの制度趣旨を考えれば合理的な措置なのかもしれない▼合理性・効率性を追求して制度が変わるのは、わが法曹界とて例外ではない。今の若手弁護士はかつての「B4版・袋とじ・縦書き」という書式の裁判書面を知らないだろう。書面をファクシミリ送信できなかった時代も今は昔である▼さらに昨今のご時世、裁判手続にもIT化の波が押し寄せつつある。近い将来、電子書面やテレビ会議が裁判実務を席巻し、新人弁護士から「昔は訴状をプリントアウトしていたって本当ですか?」とか、「第一回弁論期日にわざわざ裁判所に出向いていたんですか?」などと聞かれる日が来るのかもしれない。

(K・K)

 


所有者不明土地問題について


不動産登記簿等により所有者が直ちに判明せず、または判明しても所有者に連絡を取ることが困難な土地(いわゆる所有者不明土地)に関する議論が進められている。


問題の所在

50年以上所有名義人が変わっていない土地について相続人調査をすると、ときに法定相続人の数が20人を超える場合もある。この場合、対象土地の紛争解決のための同意の取得や判決の取得に大変な時間と労力を要することとなる。対象土地の価値が低いときは、なおさらである。
法務省が行った「不動産登記簿における相続登記未了土地調査」によると、調査対象となった中小都市・中山間地域において、最後の登記から50年以上経過している個人所有名義の土地の割合は、宅地で10.5%、田畑で23.4%、山林で32.4%に及ぶ。また、所有者不明土地問題研究会(座長:増田寛也氏)の報告によれば、このような土地は約410万haにのぼり、九州本島の土地面積を上回る水準とのことである。
「土地の所有者が不明になる」という問題は、国土の有効利用を妨げるだけではなく、田畑、山林および都市部等国土の荒廃につながりかねない。


問題解決に向けた動き

今通常国会には、所有者不明土地の利活用を促進するため、所有者不明土地に関する土地収用手続を簡易化し、公共的事業のために知事の裁定により一定期間の利用権を設定する制度などを創設するほか、民法の特例として、相続財産管理人や不在者財産管理人の選任申立権を地方公共団体の長に付与する法案が提出される見込みである。しかし、いずれも当面の対症療法にすぎない。
法務省では、2017年10月に、対抗要件主義の検証、登記の義務化の是非、土地所有権の放棄の可否、相隣関係・共有地の管理・財産管理制度の在り方の見直しなどを検討項目として、登記制度と土地所有権の在り方そのものを見直すための研究会を立ち上げた。今後、報告書をまとめて具体的な立法作業に入る予定である。
「経済財政運営と改革の基本方針」(いわゆる骨太の方針)には、施策の基本的方向性がまとめられる可能性が高く、今後も所有者不明土地問題に注目していく必要がある。


(所有者不明土地問題等に関するワーキンググループ座長 中井康之)


松橋再審請求事件
福岡高裁決定と検察官特別抗告を受けて


松橋事件とは

1985年、宮田浩喜氏が、シャツ左袖から切り取った布切れを柄と刃の接合部分に巻き付けた切出小刀で被害者を刺殺したとして逮捕・起訴され、有罪とされた事件である。宮田氏と犯行を直接結び付ける証拠は自白しかなく、最大の争点は自白の信用性であった。


福岡高裁の決定

2017年11月、松橋事件に関する再審請求事件の即時抗告審において、福岡高裁は、熊本地裁の再審開始決定を維持し、検察官の即時抗告を棄却した。
福岡高裁は、犯行に使用したとされる切出小刀に関する新証拠および切出小刀に巻き付けたとされる布切れに関する新証拠の新規性、明白性を簡潔明瞭に認め、自白の信用性を否定した。切出小刀に関する新証拠は、被害者の創傷と凶器とされた切出小刀の形状との矛盾等を指摘する大野曜吉教授(日本医科大学法医学教室)の鑑定書等である。布切れに関する新証拠は、自白によれば切出小刀に巻き付けるために細長い布切れを切り取り、犯行後に切り取った部分と一緒に焼却したとされるシャツ左袖等である。このシャツ左袖は、自白によると現存しないはずであるが、検察庁に保管されていた。


検察官の特別抗告

日弁連と弁護団は、高齢の宮田氏が存命中に雪冤する必要性等を訴え、特別抗告をしないよう検察官に要請したが、検察官は特別抗告をした。
その理由は、大野鑑定等に新規性を認めたことの判例(布川事件・再審請求審・特別抗告審決定等)違反、シャツ左袖等に明白性を認めたことの判例違反、著しく正義に反する重大な事実誤認等である。しかし、検察官の主張が排斥された決定等を持ち出して判例違反と主張し、確定審当時シャツ左袖が現存することを隠しておきながら、今になって宮田氏が布切れを取り違えた可能性を指摘しだして、シャツ左袖には明白性が認められないと主張し、特別抗告をしたことこそ、著しく正義に反する。
一刻も早い雪冤が求められている。


(松橋事件弁護団  事務局長 村山雅則)


第56回市民会議
福祉分野における弁護士の活動および少年法(年齢引下げ)について議論
12月19日 弁護士会館

2017年度第3回目の市民会議では、福祉分野における弁護士の活動状況および少年法の適用年齢引下げの問題に関する議論状況や日弁連の取り組みを報告し、議論を行った。


福祉分野における弁護士の活動について

福祉分野における活動に取り組む太田晃弘会員(東京/社会福祉士・精神保健福祉士)が、福祉・医療関係者と弁護士が協働した有機的な支援の実践例を報告し、寺町東子会員(東京/社会福祉士)が、高齢者・障がい者などの司法アクセス障害に対応するため、福祉専門資格を持つ弁護士がアウトリーチ活動を展開していることを報告した。
委員からは、福祉分野に法律的支援が加わることで真の解決に繋がった活動例や実践例を積極的に広報する必要があるとの声や、行政や個々の弁護士の努力に頼るのではなく社会資源が一体として活用される仕組みを構築する必要があるとの声が上がった。


少年法(年齢引下げ)について

子どもの権利委員会少年法・裁判員裁判対策チームの金矢拓座長(第二東京)と同委員会の斎藤義房幹事(東京)が、法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会の審議状況を概説し、日弁連が2015年9月の会長声明から一貫して少年法の適用年齢引下げに反対していること等を説明した。
委員からは、日本が大人向けの刑事司法では実現できない豊かな少年刑事司法を育んできた事実を世間にしっかり伝え、少年に対する処分が甘いというイメージを払拭する必要があるとの意見があった。また、少年に対する事後的教育としての刑事司法のほか、社会の担い手としての権利義務に関する法教育も重要であり、事前事後にわたる多面的なアプローチが必要であるとの意見もあった。


   市民会議委員(2017年12月19日現在) 五十音順・敬称略
    井田香奈子(副議長・朝日新聞大阪本社社会部次長)
    逢見直人(日本労働組合総連合会会長代行)
    北川正恭(議長・早稲田大学名誉教授)
    清原慶子(三鷹市長)
    吉柳さおり(株式会社プラチナム代表取締役、株式会社ベクトル取締役副社長)
    河野康子(一般財団法人日本消費者協会理事、NPO法人消費者スマイル基金事務局長)
    駒崎弘樹(認定NPO法人フローレンス代表理事、新公益連盟代表理事)
    ダニエル・フット(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
    中川英彦(元京都大学法学研究科教授)
    松永真理(セイコーエプソン株式会社社外取締役)
    村木厚子(元厚生労働事務次官)
    湯浅 誠(社会活動家、法政大学現代福祉学部教授)



国際機関キャリア情報セミナー
国連機関への就職方法・国際機関駐日事務所弁護士インターン制度
12月18日 弁護士会館

  • 国際機関キャリア情報セミナー「国連機関への就職方法・国際機関駐日事務所弁護士インターン制度」
日弁連は、弁護士の活躍の場を国際機関に広げるため、セミナーの実施や人事情報の提供など国際機関への就職支援に積極的に取り組んでいる。その一環として、外務省国際機関人事センターや国際機関駐日事務所等から講師を招いてセミナーを開催した。
(協力:外務省国際機関人事センター)


本田誠氏(外務省国際機関人事センター室長)が、国連関連機関でのキャリアと日本人の活躍の可能性、特に弁護士の親和性の高さについて説明し、JPO派遣制度についても言及した。同制度は、外務省が実施している制度で、将来的に国際機関で正職員として働くことを志望する若手日本人(35歳以下)を、国際機関に2年間派遣するものである。
JPOとして国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日事務所に勤務する谷直樹氏からは、若手弁護士がJPO派遣制度を使って国際機関に就職する方法について、経験をもとに具体的なアドバイスがなされた。
弁護士として国際労働機関(ILO)駐日事務所でインターンを経験し、現在は同事務所に職員として勤務する田中竜介氏は、インターンを経験することのメリットを説明した。
国連難民高等弁務官事務所駐日事務所でインターンの経験がある井上沙織会員(東京)は、求められる知識・語学力、インターンの経験が弁護士業務にどのように役立つかなどについて、具体例を交えて紹介した。
日弁連国際室の島村洋介嘱託からは、日弁連が実施している国際機関駐日事務所弁護士インターン制度について説明があった。

 (国際室嘱託 尾家康介)

◇      ◇
*日弁連が実施している国際公務のキャリアサポートについては、日弁連ウェブサイト内会員専用ページ(HOME≫国際活動・海外展開≫国際公務キャリアサポート)をご覧ください。
*JPO派遣制度については、外務省国際機関人事センターのウェブサイトをご覧ください。


家事法制シンポジウム
子の福祉のための面会交流
面会交流支援団体の実情から考える
12月16日 弁護士会館

  • 家事法制シンポジウム「子の福祉のための面会交流~面会交流支援団体の実情から考える~」

親当事者双方が強い葛藤状態にある事案において、面会交流の合意形成や円滑な実施のための協議、子の福祉にかなう面会交流をどのように行っていくのかという課題に、多くの親当事者やその代理人弁護士、家庭裁判所関係者等が直面している。面会交流支援団体(以下「支援団体」)による支援の実情を考えることを通じて、この課題への対応策などを検討するため、シンポジウムを開催した。

 

家事法制委員会の福市航介事務局次長(第一東京)が、面会交流の実情等を把握するため日弁連の関連委員会に所属する弁護士を対象に実施したアンケート調査の結果を報告した。多くの弁護士が、高葛藤事案や連れ去りの危険がある事案等における支援団体の利用が必要かつ有用であると評価している一方、支援団体の利用者にとっては、費用の負担が大きいなどの課題があることが浮き彫りになった。面会交流の意義と役割について解説する二宮周平教授
二宮周平教授(立命館大学法学部)は、面会交流の意義と役割について解説した上、全国に少なくとも39の支援団体が存在するものの、財政的に自立している団体はなく、スタッフのボランティア精神に依存していること、諸外国では、国や自治体の財政支出によって、利用料の軽減や支援団体への援助が図られていることなどを報告した。
パネルディスカッションにおいて、光本歩氏(NPO法人ウィーズ副理事長)は、両親の離婚を経験した子どもの立場から、子どもが前に進むためには、離婚後も双方の親に関わることが重要であると指摘した。また、自身の支援団体では、子どもが発達障がいを持つ場合なども、子どもの特性に合わせた支援を行って面会交流が円滑に実施されるよう取り組んでいると述べた。
山口美智子氏(公益社団法人家庭問題情報センター理事兼東京相談室面会交流援助部部長)は、同センターにおけるさまざまな支援実例を紹介したほか、離婚を考え始めた段階の親に対して、面会交流の意義を伝える親ガイダンス・親セミナーを実施していることなどを語った。


供述分析研究会
供述鑑定の意義
大崎事件の経緯を踏まえて
12月12日 弁護士会館

日弁連刑事弁護センターでは、刑事弁護に携わる会員や法と心理学会会員を対象として、供述分析研究会を開催している。2017年度第1回目の今回は、2017年6月28日に鹿児島地裁で再審開始決定がなされた大崎事件の経緯を踏まえた供述鑑定の意義について、弁護団や供述心理鑑定をした専門家による研究会を開催した。


冒頭、大崎事件弁護団の泉武臣会員(鹿児島県)が、大崎事件の概要を説明し、主犯として有罪とされた原口アヤ子氏の自白がなかったことや、捜査開始直後から近親者による保険金目的の殺人という見込み捜査がなされたことなど事件の特徴や問題点を指摘した。また、第1次・第2次再審請求の経過および棄却された結果について説明し、第3次再審請求で再審開始決定がなされたことについて、共犯者の自白を補強していた目撃供述の供述心理鑑定を行い、目撃供述の信用性、さらには共犯者の自白の信用性が減殺されたことが決め手となったと報告した。
大橋靖史教授(淑徳大学)は、従来の供述信用性判断が抱える問題点や、大崎事件において実施した供述心理鑑定について講演した。大橋教授は、供述心理鑑定について、相互行為(コミュニケーション)への着目等の手法を説明し、大崎事件の目撃供述は非体験性兆候の可能性が高く、本件犯行に関連する他者との関わりにコミュニケーション不全の兆候が見られ、供述された体験や記憶が存在しない可能性が高いとの鑑定結果であったと報告した。
弁護団の小豆野貴昭会員(鹿児島県)は、再審開始決定の要旨を基に、裁判所は、供述心理鑑定を科学的な知見に基づく高い証拠価値を有し、鑑定結果を供述の信用性を低下させる事情と評価したとして、供述心理鑑定が再審開始決定に大きな影響を与えたと説明した。


シンポジウム
お買いもので世界を変える
〜消費者市民社会の到達点とこれから〜
12月14日 弁護士会館

  • シンポジウム「お買いもので世界を変える~消費者市民社会の到達点とこれから~」

2012年12月に施行された消費者教育の推進に関する法律(以下「推進法」)は、消費者市民社会を「消費者が、個々の消費者の特性及び消費生活の多様性を相互に尊重しつつ、自らの消費生活に関する行動が現在及び将来の世代にわたって内外の社会経済情勢及び地球環境に影響を及ぼし得るものであることを自覚して、公正かつ持続可能な社会の形成に積極的に参画する社会」と定義し、その実現を中核に掲げた。
推進法施行から5年が経過した今、消費者市民社会の実現に向けた従前の取り組みの到達点を確認し、今後の取り組みの方向性を考えるためシンポジウムを開催した。


東珠実教授(椙山女学園大学/消費者教育推進会議会長/日本消費者教育学会会長)は、消費者市民社会の理解は広がったが、自治体間の取り組みの違いから格差が生まれていると指摘した。
消費者市民社会の実現に向けて議論が交わされた カライスコス アントニオス准教授(京都大学)は、法学の観点から消費者市民社会を検討し、消費者市民とは消費者に市民的な要素が加わった概念であり、推進法が定義するように「尊重」「自覚」「参画」の三要素が入ったものと整理できると説明した。
柿野成美氏(公益財団法人消費者教育支援センター総括主任研究員)は、同センターが自治体の消費者教育推進計画策定に関与し、小中学生・高校生向け教材などを作成した取り組みについて、浜松市の例などを交えて報告した。
末吉里花氏(一般社団法人エシカル協会代表理事)は、人・社会・地球環境・地域に思いやりのある消費行動であるエシカル消費について概説した。消費者市民社会を拓くためには、エシカル消費によって消費者としての責任を果たすことが必要であると強調した。
消費者問題対策委員会の江花史郎副委員長(新潟県)は、同委員会の消費者教育・ネットワーク部会の活動を紹介したほか、消費者教育指針の策定および全市展開などを行う兵庫県姫路市、エシカル消費の取り組みなどを行う鳥取県の例を紹介した。



第3回
全国弁護士会中小企業支援連絡協議会
12月21日 弁護士会館

2017年8月、日弁連中小企業法律支援センター等が「第2回中小企業の弁護士ニーズ全国調査報告書」を取りまとめた。中小企業の支援に取り組む会員が全国から集まり、調査の結果や分析を踏まえ、弁護士や弁護士会による中小企業支援の在り方等を協議した。


グループディスカッション

大規模弁護士会を中心とするグループでは、ニーズにきめ細かく応え、一層高度なリーガル・サービスを提供するため、ひまわりほっとダイヤルの対応の迅速化、中小企業に対する支援分野の細分化などについて議論がなされた。
中小規模の弁護士会を中心とするグループでは、中小企業関連団体との意見交換会(以下「キャラバン」)は若手会員のやる気につながるが、その後の施策等につなげることが難しいなどの意見が出され、具体的検討課題として、各種問題を弁護士に相談すべき問題であると認識してもらうための施策、関連団体との関係の構築、キャラバン後の継続が挙げられた。
同じく中小規模の弁護士会を中心とする他方のグループでは、弁護士の中小企業に対する直接的なアプローチが重要であるなどの意見が出され、弁護士のなし得ることを知りたい人にピンポイントで伝える方法について議論が行われた。


全体会

弁護士が中小企業の下支えとなり、地域社会に貢献するための方策などについて意見交換を行った。
中小企業の抱える諸問題を弁護士に相談してもらうことがまず必要であるとの指摘がなされた。そのためには、弁護士自ら中小企業に出向き、中小企業の現状や中小企業を取り巻く環境を知る努力を尽くし、経営指導員と良好な関係を築くことが有効であるとの意見が述べられた。
また、裁判手続や問題の全体像を予想して助言できることや、企業コンプライアンスの観点から適切な指導ができることなど、弁護士が秀でている点をアピールすべきとの意見も述べられた。


日弁連新聞モニターの声

日弁連新聞では、毎年4月に全弁護士会から71人のモニター(任期1年)をご推薦いただき、そのご意見を紙面作りに生かしています。
5月号のGPS捜査に関する最高裁大法廷判決、6月号の債権法改正法成立、9月号の預り金等の取扱いに関する規程の改正に関する記事については、タイムリーで業務や実務に直結するものとして注目されました。5月号の司法修習生への給付金制度に関する改正裁判所法成立についての記事にも興味を持ったとのご意見をいただきました。また、民法(相続関係)、少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)の法制審議会部会における議論状況にも昨年度に引き続き高い関心が寄せられました。
2年に一度開催される弁護士業務改革シンポジウムについて、大きく紙面を割き、詳細な記事を掲載したところ、「今後の業務の参考にしたい」などの好意的なご意見を多数いただきました。
4面では、「JFBA PRESS」と銘打ち、広報室嘱託が中心となって時宜にかなった情報発信を目指した記事を作成しています。6月号「(渋谷区男女平等・ダイバーシティセンター)アイリス」、7月号「司法面接の取り組み(カリヨン子どもセンター、チャイルドファーストジャパン)」、12月号「研修の達人に訊く」などについて高い評価をいただきました。
3面では、毎号主にシンポジウム等のイベントを取り上げて記事にしています。現在のところ、できる限り多くのイベントを掲載し、日弁連の取り組みの幅広さを知っていただくことに軸足を置いていますが、取り上げるイベントの数を絞って詳細な内容を掲載してほしいとの声もあります。
広報室は、今後とも会員のニーズに応え、より有意義な紙面作りに努めていきたいと考えています。


(広報室嘱託 神田友輔)


JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.129

労働審判員連絡協議会
労働審判制度のさらなる成長・発展に向けて

労働審判制度は2016年4月に制度発足10年を迎え、個別労働紛争解決制度としての実績を積み上げてきました。2017年4月には、労働審判員とそのOB・OGを構成員とする労働審判員連絡協議会(以下「協議会」)が設立されました。
今回は、労働審判制度の創設・運営に関与し、協議会の結成にあたっても中心的に活動し、現在も協議会の支援委員会委員を務める石嵜信憲会員(第一東京)、鵜飼良昭会員(神奈川県)からお話を伺いました。 (広報室嘱託 柗田由貴 本多基記)


 石嵜信憲会員に聞く


石嵜信憲会員協議会設立の経緯

労働審判制度は、菅野和夫名誉教授(東京大学)が中心となり、2000年頃から司法制度改革審議会や司法制度改革推進本部の労働検討会でヨーロッパの法制度も参考にしながら議論を重ね、2006年4月に発足しました。
労働審判員は、労働審判官と並ぶ労働審判手続の担い手であり、重要な役割を果たすことが期待されていますが、その経験を交流し継承する場が限られている点が問題でした。そこで、労働審判制度のさらなる成長・発展を実現するために、現役の労働審判員とOB・OGが経験の交流と継承を図ることを目的に協議会が設立されました。


協議会のメンバー

名誉会長に菅野名誉教授、副名誉会長に山川隆一氏(元東京大学大学院法学政治学研究科教授/中央労働委員会会長)が就任し、共同代表と役員には現役の労働審判員が就任しています。また、協議会の運営をサポートする支援委員会では、労働者側弁護士、使用者側弁護士から2人ずつ、連合、経団連から1人ずつ、全国労働基準関係団体連合会(全基連)から2人の合計8人の委員が選任され、活動しています。
現在の会員数は472人です(2017年11月24日現在)。中でも東京地裁からの会員が多く、名古屋、横浜と続いています。今後、全国各地において、協議会の趣旨、目的等を周知し、協議会への参加を募るシンポジウム等の開催を検討しています。


労働審判制度に対する評価

労働審判制度は、権利義務関係を踏まえた相当な解決を実現できる点で労働者側、使用者側双方にとって望ましい制度です。発足までに紆余曲折がありましたが、現時点ではうまく育っていると言えます。今後、制度がさらに大きく成長するためには、国民にいかに利用してもらうかが鍵だと考えています。


弁護士に対するメッセージ

労働審判制度の発足当初は、小さく生んで大きく育てようと考えていました。人間で言えば10歳ですが、すでに過度な期待をかけられているようにも思います。裁判所における個別労働紛争解決手続には、労働審判だけではなく、訴訟、調停などもあります。各手続の特徴と紛争の実情を踏まえて、どの手続を利用するのが最適かを検討することも必要です。


 鵜飼良昭会員に聞く


鵜飼良昭会員労働審判制度の現状

2016年の労働審判事件新受件数は3414件でした。10年間の新受件数の推移は2007年の1494件から年々増加し、2012年には3719件と過去最高を記録しましたが、その後は3500件前後となっています。
個別労働紛争解決制度のうちの総合労働相談件数は2016年度で9年連続100万件を超え、うち民事上の個別労働紛争相談件数も25万5460件と増加している現状からすれば、労働審判の件数は伸び悩んでいるように思えます。


協議会の果たす役割

労働審判制度は民間の方々が裁判手続に関与する制度ですから、かねてから労働審判員のスキルを維持・向上させる必要が叫ばれていました。また、労働審判員としての経験を次世代に継承するのは非常に重要ですが、難しいことです。協議会の設立により、審判員相互の経験の交流を通じた継承の機会が設けられたことは非常に有益であると考えます。


協議会の活動内容

年に1回シンポジウムを開催し、会員の経験交流を図っています。また、定期的に労働審判員通信を発行し、審判員の経験談や判例解説、法改正の動向などを周知しています。
審判員として経験できる事件には限りがあります。経験交流や労働審判員通信を通じて、審判員としての悩みを共有し、成功体験を疑似体験することは、有意義なことであると考えています。


弁護士に対するメッセージ

労働審判制度は労使が直接的に手続に参加し、迅速に集中審理されることから、受任する弁護士の能力も要求されます。労働審判はこの10年間で一定の基盤ができたと言えますが、今後、労働審判制度がさらに深く社会に根ざし、成長・発展するためには、事件を扱う弁護士の研さんも必要であると考えます。



日弁連で働く弁護士たち ❷
人権救済調査室

弁護士法第1条に規定された弁護士の重要な使命としての人権擁護。人権救済調査室には6人の嘱託弁護士が在籍し、日弁連の人権擁護活動の柱の一つである人権救済申立てに関する業務などを担当しています。今回は秋山淳室長(第二東京)のほか、嘱託の皆さんからお話を伺いました。  (広報室嘱託 本多基記)


人権救済申立てに関する業務を担当

日弁連には年間約300件の人権救済申立てがなされます。事件の調査や判断は人権擁護委員会が行い、人権救済調査室はその活動を補助しています。具体的には、申立てがなされると、人権擁護委員会が、①日弁連が調査をする、②弁護士会に移送する、③調査を行わない、のいずれとするかを判断しますが、嘱託は人権擁護委員会が判断するための意見を述べます。また、日弁連が調査をする案件には、すべて嘱託が担当として付き、事件処理が停滞しないよう進行を管理するほか、委員会の会議に出席し、委員会で必要な調査や議論・検討が行われるよう支援しています。


人権擁護活動の裏方として

人権救済調査室は、人権救済申立事件に関する弁護士会の問い合わせに回答するなどの情報提供等も行っています。また、人権擁護委員会が主催する全国人権擁護委員会委員長会議では、準備から運営までを嘱託が担います。この会議では弁護士会の委員長が一堂に会して情報交換がなされるほか、憲法学者による講演などが実施されることもあり、人権擁護に関する知識や理解の蓄積・深化に貢献しています。また、日弁連の人権行動宣言推進会議の事務局を務め、憲法問題対策本部のPTに参加するなどの活動も行っています。


業務の魅力

人権擁護委員会では最先端の人権課題についても議論しており、委員の深く熱い議論に触れられることが一番の魅力であり、やりがいを感じるところです。前列左から吉村健一郎嘱託、秋山室長、髙田智美嘱託、後列左から西山温嘱託、高木小太郎嘱託、梶田潤嘱託また、人権擁護委員会以外の人権関連の委員会や、国際室・広報室等のほかの室とも連携するなど、組織横断的なやりとりができることも、人権救済調査室の大きな魅力です。


会員へのメッセージ

人権救済申立ての調査をはじめとする日弁連や弁護士会の人権擁護活動をさらに推し進めるためには、多くのマンパワーが必要であり、また、社会一般に活動が広く知られ、理解される必要があります。より多くの会員に、日弁連や弁護士会の人権擁護活動を知ってもらい、積極的に参加してもらえるよう、業務を通じて貢献できればと考えています。



ブックセンターベストセラー
(2017年11月・手帳は除く) 協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編者名 出版社名
1 株式会社法[第7版] 江頭憲治郎 著 有斐閣
2 模範六法2018 平成30年版 判例六法編修委員会 編 三省堂
3 超早わかり・「標準算定表」だけでは導けない 婚姻費用・養育費等計算事例集(中・上級編)[新装版] 婚姻費用養育費問題研究会 編 婚姻費用養育費問題研究会
4 携帯実務六法 2017年度版

「携帯実務六法」編集プロジェクトチーム 編

東京都弁護士協同組合

5

実務解説 改正債権法

日本弁護士連合会 編 弘文堂
6 主文例からみた請求の趣旨 記載例集 弁護士法人佐野総合 編 日本加除出版
7 別冊ジュリストNo.236 行政判例百選Ⅱ[第7版] 宇賀克也・交告尚史・山本隆司 編 有斐閣
8 別冊ジュリストNo.235 行政判例百選Ⅰ[第7版] 宇賀克也・交告尚史・山本隆司 編 有斐閣

9

新注釈民法(17)親族(1)§§725〜791

二宮周平 編/大村敦志・道垣内弘人・山本敬三 編集代表 有斐閣
10 裁判官はこう考える 弁護士はこう実践する 民事裁判手続 柴崎哲夫・牧田謙太郎 著 学陽書房


日本弁護士連合会 総合研修サイト

コンパクトシリーズ人気講座ランキング 2017年5月〜12月

サイトへ日弁連会員専用ページからアクセス

順位 講座名 時間
1

公正証書の基本〜概要と利用法~

37分


2

戸籍の仕組み・読み方の基本 30分

和解条項の基本

26分

4

地図の読み方の基本〜ブルーマップ・公図の利用方法〜

31分

5 職務上請求の基本 30分
6

公判前整理手続の基本

30分

7 不動産登記の基本 31分
8 弁護士報酬の基本 29分
9 商業登記の基本 21分
10 控訴審弁護(刑事)の基本 23分

約30分で基本知識を押さえるeラーニングのシリーズです!

お問い合わせ先 日弁連業務部業務第三課(TEL 03-3580-9927)