日弁連新聞 第528号
臨時総会開催
「女性副会長クオータ制」実施など5議案を可決
12月8日弁護士会館
臨時総会が開催され、代理出席を含め9631人が出席した。副会長の選任における男女共同参画推進特別措置の実施など5つの議案について活発な審議がなされ、いずれも可決された。
副会長の選任における男女共同参画推進特別措置(会則一部改正)など3議案を可決
日弁連の副会長に占める女性会員の割合を計画的に高めていくための積極的改善措置(ポジティブ・アクション)として、副会長を2人増員して15人とした上で2人以上は女性が選任されなければならないとする男女共同参画推進特別措置(女性副会長クオータ制)を実施すべく会則を改正するもの。
併せて、役員選任規程に男女共同参画推進特別措置実施のための副会長候補者推薦委員会を設置する等の改正を加え、平成30年度4・5月分暫定予算に男女共同参画推進支援費支給に係る補正を行うもの。「女性会員の会務参加が促進される」 「会務執行における多様性や多角的視点が確保される」等の賛成意見があり、採決の結果、賛成多数でいずれも可決された。
罷免事由等の通知(会則一部改正)を可決
裁判所法改正で司法修習生に対する「司法修習の停止」「戒告」の処分が設けられたことに伴い、司法修習生に処分事由がある場合に弁護士会が日弁連に対して行う通知に関する会則を改正するもの。採決の結果、賛成多数で可決された。
依頼者の本人特定事項の確認及び記録保存等に関する規程一部改正を可決
2019年に予定されるFATFの第四次対日相互審査に対応するため、標記規程を改正して、会員に対し依頼者の本人確認等の措置の履行状況等に関する年次報告書の提出を義務付け、弁護士会の会員に対する指導監督に関し助言等の具体的手段を定めるもの。FATFや弁護士自治の捉え方等に関連して賛否両方の意見があり、採決の結果、賛成多数で可決された。
2018年度から女性副会長クオータ制を実施します
2018年度(平成30年度)から、男女共同参画推進特別措置(女性副会長クオータ制)が実施される。制度実施の趣旨と副会長候補者の推薦手続等について説明する。
制度実施の趣旨
日弁連における男女共同参画の推進は、司法におけるジェンダー・バイアスを排除し、国民の半数を占める女性の法的サービスへのアクセスを容易にし、弁護士・弁護士会に対する国民の信頼を高めるという重要な意義を有する。
日弁連は、2002年の定期総会決議以降、男女共同参画の実現を目指しさまざまな取り組みを行ってきた。2013年3月の第二次日本弁護士連合会男女共同参画推進基本計画は、2017年度までの5年間で、日弁連の理事者(会長・副会長・理事)に占める女性会員の割合を15%程度に増えるよう期待し、そのための条件整備等の取り組みを推進すると定めた。本年度が基本計画の最終年となっている。
しかしながら、副会長については、2013年度は2人、2014年度は3人、2015年度は0人、2016年度は1人、2017年度は2人と、いまだ安定的・継続的に目標割合を確保するには至っていないことから、本制度の実施が提案された。
副会長候補者の推薦手続
副会長を2人増員して15人とし、うち2人以上は女性が選任されなければならないとした。この増員する2人の女性副会長は、「男女共同参画推進特別措置実施のための副会長候補者推薦委員会」(以下「推薦委員会」)が推薦する者の中から代議員会の決議により選任される。
推薦委員会は、50人以上の会員、弁護士会または弁護士会連合会が推薦した(第一次推薦)者の中から候補者2人を代議員会に推薦する(第二次推薦)。
第一次推薦に関しては、各会から偏りなく継続的に候補者が推薦されるよう、弁護士会および弁護士会連合会間の情報交換等を行うため「男女共同参画推進特別措置実施のための女性副会長候補者の第一次推薦に関する連絡協議会」を開催する。
環境整備と見直し規定
本制度は、施行後5年を経過した後に必要な見直しを行うものとされている。今後は、本制度の運用と併せて、職務の効率化など副会長の負担軽減を図り、女性会員が副会長に就任する上での障壁を除くなどの各種環境整備を進めることが必要である。
第70期 司法修習終了者 1075人が一斉登録
二回試験に合格した司法修習終了者のうち1075人が、2017年12月14日、日弁連に一斉登録した。
同日時点での未登録者数は356人であり、終了者全体の約22.8%を占め、前年同時期よりも未登録者の割合はやや低下した。
本年1月の登録予定者や、当初から登録を予定していない者の数を差し引くと、150人余りの終了者が就職未定の状況にあると推計される。
引き続き、若手弁護士サポートセンターを中心に、未登録者への採用情報提供、即時独立支援、さらには登録後のフォローアップを行い、今後の推移を見守りたい。
修習終了者数 | 登録者数 | 未登録者数 | |
新63期 | 1,949 | 1,571 | 214 |
新64期 | 1,991 | 1,423 | 400 |
現新65期 | 2,080 | 1,370 | 546 |
66期 | 2,034 | 1,286 | 570 |
67期 | 1,973 | 1,248 | 550 |
68期 | 1,766 | 1,131 | 468 |
69期 | 1,762 | 1,198 | 416 |
70期 | 1,563 | 1,075 | 356 |
※登録者数・未登録者数は各期一斉登録日時点
新年会長インタビュー
1年9か月を振り返る―到達点と今後の課題
新年明けましておめでとうございます。
本年が皆さまにとって素晴らしい年となりますようお祈りいたします。
会長として力を入れて取り組んできた課題は
①平和と人権を守る取り組み、②民事司法改革と国際活動の強化、③司法修習生への経済的支援と法曹養成制度の改革、④弁護士自治を守る取り組み、⑤弁護士の活動領域の拡大・業務の拡充、⑥男女共同参画の推進、⑦刑事司法改革と死刑制度廃止の実現に向けた取り組み等が挙げられます。中でも力を入れてきた課題は、②民事司法改革と国際活動の強化です。
民事司法改革について
利用しやすく頼りがいのある司法を目指していますが、民事や家事の裁判等手続には時間と費用がかかり、利用者の満足度は依然として低調です。民事紛争は多発しているにもかかわらず、紛争解決のために裁判所で訴訟が利用される件数は、地方裁判所で年間14万〜15万件と低迷しています。
その理由には、司法アクセスの障害や権利救済が不十分であることが挙げられます。司法アクセスを改善するためには、司法予算を拡大し、裁判所の機能強化やIT化の促進等が必要です。機能強化の点では、最高裁判所と日弁連が協議を重ねた結果、労働審判を行う地方裁判所の支部の拡大等一定の成果が得られました。IT化の促進等については、現在協議が行われています。
訴訟費用問題について
司法アクセス障害を解消する上で最も大きな課題の一つで、民事扶助(公助)と弁護士費用保険(共助)の充実が求められています。
民事扶助については、対象の拡大と給付制度への転換が大きな課題です。
弁護士費用保険については、日弁連リーガル・アクセス・センターの活動により、大きな進展を見せています。一般の民事紛争を対象とする保険が発売されているほか、中小企業等法人を対象とする保険の開発も進んでいます。また、この1月には、保険会社と受任弁護士・保険契約者等の紛争を迅速・適正に解決するためのADR機関を日弁連内部に発足させました。
権利救済の充実のために
証拠収集手続の拡充、損害賠償制度の改革、執行制度の改革が必要です。証拠収集手続の拡充については立法化に向け検討が進んでおり、損害賠償制度の改革については日弁連内で検討中です。民事執行法の改正については法制審議会で審議されています。
国際活動の強化
国際活動の強化は、国内の訴訟制度の改革・改善と密接に関連しています。現在、国際紛争解決におけるリーガルサービスの向上と日本の法曹の競争力強化のために、日本における国際仲裁の活用促進や、依頼者と弁護士の通信秘密保護制度の確立等に取り組んでいます。
最も成果が得られたものは何ですか
司法修習生に対する新しい給付制度の創設
5年余りにわたる運動が実を結び、2017年4月に裁判所法の一部を改正する法律が成立し、11月に司法修習生に採用された第71期司法修習生から修習給付金が支給されることになりました。全国各地の会員やビギナーズ・ネットの皆さまのご尽力で、多数の団体の賛同署名や455人もの国会議員から賛同メッセージを頂いたことによるものです。この場を借りて感謝申し上げます。いわゆる谷間の世代の救済等残された課題はありますが、大きな成果と言えます。
法曹志望者が減少している原因として、法曹養成に時間と費用がかかることが挙げられます。給付制度の実現により費用問題は一部改善されましたが、時間の問題についてはさらに改善が必要であり、関係機関と共に取り組んでいきます。
弁護士自治を守るための取り組み
2017年3月の臨時総会で、預り金口座の規制を強化し、新たに依頼者見舞金制度を創設しました。これらは10月から施行されています。
12月の臨時総会では、マネー・ローンダリング対策およびFATFの第四次対日相互審査に対応するため、依頼者の本人確認等の措置等について、会規が一部改正されました。
会員の不祥事が発生したり、与野党対立法案に対して日弁連が意見を表明したりする場合など、日弁連が会内外から批判される場面が多くなっており、弁護士自治も常に批判の対象となり得ます。
日弁連は、弁護士自治を守る活動に、引き続き全力で取り組まなければなりません。
思い出深い出来事は何ですか
「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」の採択
2016年の第59回人権擁護大会(福井市)で採択しました。日弁連が死刑制度の廃止を目指すと初めて宣言したことになります。これに対し、会内外から賛成・反対の声が上がりましたが、死刑制度廃止の実現に向けて本格的なスタートを切ることになりました。
国際会議の開催
2017年は国際会議の多い一年でした。特に、9月18日から4日間にわたってLAWASIA東京大会2017が開催され、40の国・地域から1600人以上の参加者を得て、成功裏に終えることができました。
男女共同参画の推進
2017年12月の臨時総会で、2018年度から女性副会長クオータ制を実施することになりました。副会長を2人増員し、副会長のうち2人以上は女性が選任されなければならないとするものです(1面参照)。会員の間にさまざまな意見がある中、会内の合意形成が図られて実現したことは、喜ばしいことです。
いわゆる共謀罪の創設を含む改正組織的犯罪処罰法の成立
日弁連は、市民の人権や自由を広く侵害するおそれが強いとして、一貫して反対してきましたが、2017年6月に改正法が成立しました。今後は、同法が恣意的に運用されることがないよう厳しく注視していく必要があります。
会員へのメッセージをお願いします
憲法改正問題に向けて
今後国会では、憲法改正問題が議論されることが予想されます。日弁連は、憲法9条の改正問題について、積極・消極双方の立場から議論状況を整理し、会員の討議に資するための会内討議資料を取りまとめ、弁護士会に配布しました。今後、弁護士会等での検討内容を加えて、議論を尽くす予定です。
日弁連は法律家団体として、国民が憲法改正問題について考えるために必要な情報を分かりやすく提供することが必要であると考えています。
弁護士の活動基盤の強化と利用しやすく頼りがいのある司法を構築するために
日弁連の会員数は、4万人を超えました。そのうち半数程度は、ここ十数年の間に弁護士登録をした会員です。これらの会員の意見を聞くため、弁護士会連合会定期大会の前夜に、各地で若手弁護士カンファレンスを開催しています。多くの若手会員の関心事は、業務の拡充や会費問題で、経済的理由により会務活動に参加できない会員や、関心のない会員も多くなってきています。このような状況の中、議案によっては、日弁連の会内合意形成が大変困難になってきています。
しかし、私たち弁護士は、強制加入制度の下で、人権擁護と社会正義の実現という使命を担って活動しています。これまで先輩弁護士が形成・発展させてきた弁護士自治をはじめとする弁護士制度を維持し、さらに発展させる必要があります。
一方、広範なグローバル化、IT・AIの進展等の社会の変化に伴い、市民や企業の法的ニーズも日々変容し、拡大しています。
弁護士は、このような変化に対応するため、新しい技術・情報に関する研修によって研 さんを積み、スキルの向上に努めなければなりません。それにより、弁護士の活動領域の拡大・業務の拡充をさらに進め、弁護士の活動基盤を強固なものにすることができます。
日弁連は、会員の中のさまざまな意見を集約し、会内合意形成を図り、利用しやすく頼りがいのある司法を構築するための諸課題を一つ一つ実現していかなければならないと思います。
(インタビュアー 広報室長 佐内俊之)
院内学習会
カジノ解禁(実施法の制定)に反対する
12月5日 参議院議員会館
2016年12月にいわゆるカジノ解禁推進法が成立し、2017年内をめどにカジノを含んだIR(統合型リゾート)を開設するために必要な法整備を行うこととされた。これを受け、2017年7月、特定複合観光施設区域整備推進会議は、観光先進国の実現に向けてIRを導入する旨の取りまとめ(以下「本取りまとめ」)を公表した。
しかし、本取りまとめの内容ではカジノ解禁に伴う弊害は除去されない。広く問題点を共有するため、院内学習会を開催した。
鳥畑与一教授(静岡大学)が登壇し、本取りまとめが、賭博を犯罪とする刑法体系の下でIRカジノの違法性を阻却するため、「新しい公益」概念を持ち出していると報告した。本取りまとめによれば、カジノはIR全体の採算性を担保して大きな経済効果をもたらし、世界最高水準のカジノ規制により依存症対策も図られることから、弊害を上回る「公益」性があるという。鳥畑教授は、経済効果の大きさを追求するために、IR規制は緩和せざるを得なくなり、その結果、ギャンブル依存症対策も形骸化すると述べ、この論理が大きな矛盾を抱えていると指摘した。
カジノ・ギャンブル問題検討ワーキンググループの吉田哲也委員(兵庫県)は、本取りまとめは世界最高水準のカジノ規制を敷くとしながら、賭け金額の制限などに言及しておらず、ギャンブル依存症対策が不十分であることなどを説明した。
学習会には、赤松広隆衆議院議員(立憲民主党)や長妻昭衆議院議員(立憲民主党)、大門実紀史参議院議員(日本共産党)をはじめ、多くの国会議員が参加し(本人出席10人、代理出席24人)、「賭博のあがりで国を立て直そうとするのは筋道を誤っている」「日本には豊かな自然や文化遺産が数多く存在する。これらを用いた観光立国を進めるべきであり、カジノは不要である」「ギャンブルは誰かが損をするものであり、その上に経済成長などあり得ない」など、カジノ解禁に反対を唱える声が相次いだ。
日弁連短信
日弁連、社会と共に、社会の中で
事務次長に着任して2年余が経過しました。
任期中は、ここ数か月を除き、広報も担当していました。日弁連の広報には、この日弁連新聞を含む会内向けのものの他、会外に向けたものがあり、いずれもが重要な役割を担っています。このうち、会外に向けた広報には、意見書や声明を発信するものや、各種メディアの取材を通じて情報を伝えていくものがあります。
こうしたメディアの取材では、記者の皆さまとの対話が不可避です。そのことを通じて、社会やメディアから私たちがどう見られているのか、どこに関心を抱かれているのかを知ることができます。誤解があれば、それを解いて伝えることもありますし、過去の発信の仕方を振り返ることもあります。
そうした経験を踏まえると、先日の臨時総会で承認いただいたいわゆるクオータ制に対するメディアの反応には、正直、少し驚きました。会内でたやすくない議論を繰り返し、途中、厳しい意見も頂いてようやく総会に付議した案件です。外からも、さぞ様々な指摘がなされるだろうと覚悟し、そもそも関心も乏しいのではと思っていました。しかしながら、メディアの反応は予想を外して高く、好意的で、良い意味での社会へのインパクトを含意する示唆も頂きました。新しい制度を真に良いものにするには、不断の努力が不可欠であることは言をまちませんが、会の外からの期待や注目を感じるとその気概を新たにします。
もちろん、外の目や評価が絶対ではありませんし、そうしたことをものともしない姿勢が必要とされることもあります。しかしながら、こうした対話は、私たちが自らを見つめ直し、司法、法曹のアイデンティティを一層研ぎ澄ますための貴重な機会、と言えるのも事実です。それはクオータ制だけでなく、法曹養成や活動領域拡大といった他のテーマに関連して感じることもありましたし、メディアだけではなく、ユーザーや諸機関を含めた、多くの関係者との対話に見いだせるものでもありました。
弁護士や弁護士会は決して孤高の存在ではなく、社会と共にあり、社会の中にある。そのことを痛感し続ける2年余でもありました。
(事務次長 道あゆみ)
シンポジウム
死刑廃止の実現を考える日
11月20日 弁護士会館
日弁連は、2008年から死刑の問題点を市民と考えるためのシンポジウムを毎年開催している。2016年の第59回人権擁護大会で「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択したことを受け、さらに議論を深めるためシンポジウムを開催した。
冒頭、中本会長の挨拶に続き、三谷英弘衆議院議員(自由民主党)からご挨拶を頂いた。
第1部「死刑に関する国内外の情報」
死刑廃止及び関連する刑罰制度改革実現本部(以下「本部」)の岩橋英世事務局長代行(福岡県)は、日本政府の問題点として、世論と民主主義の混同、死刑に頼った犯罪抑止、国会ではなく内閣で議論されていることを指摘した。国連が日本を意識した勧告等を発し、死刑廃止に向け精力的に活動していると報告した。
フランチェスコ・フィニ氏(駐日欧州連合代表部公使)は、リーダーは世論に追随するのではなく、根本的な人権について政策を決定し、啓蒙活動をすべきと説いた。
小川秀世会員(静岡県/袴田事件再審弁護団事務局長)は、現在も死刑の恐怖におびえる袴田巖氏の様子を映像で紹介し、再審の審理状況を解説した。
アーリン・リーメスタ氏(駐日ノルウェー王国大使)は、戦後、同国が憲法で死刑を否定し、最高刑を30年の禁錮刑としたこと、被害者支援制度を充実させ、全体として公平な制度にしたこと等を語った。
第2部 トークセッション「日本における死刑廃止に向けての政治家の役割」
漆原良夫会員(東京/前衆議院議員)は、有権者を意識するあまり、国会議員が死刑問題について議論しづらい雰囲気を改革すべきと訴えた。
杉浦正健本部顧問(第一東京/元法務大臣)は、死刑廃止がEU加盟の条件とされていること等の情報を国会議員に知ってもらうことが、議論の突破口になり得ると提案した。
平岡秀夫本部顧問(第一東京/元法務大臣)は、市民に情報を提供し、死刑問題を議論する国会議員が評価される環境を作るべきと述べた。
シンポジウム
福島原発事故被害の賠償と回復
〜その現状と課題〜
12月2日 明治大学
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シンポジウム「福島原発事故被害の賠償と回復~その現状と課題~」
福島原発事故から6年が経過し、2017年3月に前橋地裁、9月に千葉地裁、10月に福島地裁で、避難者による集団訴訟の判決が言い渡された。日弁連は、これらの判決や原子力損害賠償紛争解決センター(以下「原紛センター」)の紛争解決の状況を分析し、福島原発事故被害の賠償と回復について検討するためシンポジウムを開催した。(共催:日本環境会議)
第1部 総論
吉村良一教授(立命館大学大学院法務研究科)は、3つの判決の内容に触れ、「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」(以下「中間指針」)を見直す時期に来ていると指摘した。
除本理史教授(大阪市立大学大学院経営学研究科)は、避難元地域の再生のためには、除染などの原状回復措置・財物等の賠償・ふるさと喪失慰謝料のいずれも必要であると訴えた。
東日本大震災・原子力発電所事故等対策本部の二宮淳悟委員(新潟県)は、東京電力が判決確定まで原紛センターの和解案の諾否を留保している事例があることは極めて問題であり、制度的な改善が必要だと語った。
大谷禎男会員(第一東京/元原紛センター総括委員長、元原子力損害賠償紛争審査会委員)は、そうした東京電力の対応は「和解案尊重義務」に反すると評価せざるを得ず、このままであれば原紛センターの機能低下は免れないと語った。
第2部 各論
潮見佳男教授(京都大学大学院法学研究科)は、中間指針はあくまで自主的解決支援のガイドラインに過ぎないが、判決を分析すると裁判規範となっているようにも思えると述べた。
若林三奈教授(龍谷大学法学部)は、3つの判決の認容額を分析し、一部の人たちに強いられた自己決定に対する賠償が認められたことを指摘した。
下山憲治教授(名古屋大学大学院法学研究科)は、国の責任の観点から3つの判決を分析し、国の責任を認めなかった千葉地裁判決でも、遅くとも2006年には敷地高を超える津波の発生を予見できた可能性が高いと認定していることを指摘した。
院内集会
修習給付金制度スタート!
充実した司法修習と司法制度の充実・強化について考える会
11月27日 衆議院第二議員会館
- 院内集会「修習給付金制度スタート!~充実した司法修習と司法制度の充実・強化について考える会~」
日弁連は、修習給付金の創設の成果を共有するとともに、いまだ残された課題について国会議員、市民、法曹志望者等と改めて考えるため、院内集会を開催した。
集会には約170人が出席した(うち国会議員本人出席24人、代理出席60人)。
冒頭、田村智幸副会長が、修習給付金制度創設のために尽力いただいた国会議員の方々、司法修習生に対する給与の支給継続を求める市民連絡会、ビギナーズ・ネット、弁護士会、会員への感謝の言葉を述べた。
その後、ビギナーズ・ネットのメンバーが、2017年に司法試験に合格した第71期司法修習生のメッセージを読み上げた。メッセージの中で修習生は、修習給付金制度の創設に向け尽力いただいた多くの国会議員の方々や弁護士に対して謝意を表し、この感謝の気持ちを持って司法修習に臨みたいと抱負を語った。本年7月から修習貸与金の返還が始まる新65期の会員からは、同期の弁護士の実情などが訴えられた。
そのほか、20人の超党派の国会議員から、温かい応援メッセージが寄せられ、有意義な集会となった。
シンポジウム
同性カップルの法的保障を考える
多様な家族が平等であるために
11月22日 弁護士会館
- シンポジウム「同性カップルの法的保障を考える~多様な家族が平等であるために~」
本シンポジウムでは、同性カップルの生の声と専門家による講演をもとに、同性カップルの法的保障や多様な家族について考えた。
冒頭、世田谷ドメスティックパートナーシップレジストリーの小野春氏と白石岳志氏が登壇し、同性カップルが受けている不利益を語った。
小野氏は、同性パートナー、元夫との間の子ども2人、同性パートナーの元夫との間の子ども1人の5人で生活している。子どもが入院した際の手続の苦労や、婚姻できないことにより社会保障が受けられない苦悩を訴えた。
白石氏は、自身が同性愛者であることに気付き悩んでいた頃から、現在のパートナーと出会い、世田谷区の要綱による同性パートナーシップ宣言をするに至るまでの経緯や、社会から受けてきた理不尽な対応について述べ、同性カップルの法的保障の必要性を熱く語った。
続いて、鈴木賢教授(明治大学法学部)が登壇し、札幌市の同性パートナーシップ制度や全国の自治体における施策の成功例を紹介した。同性間の婚姻を認めない民法を違憲とした台湾の事例を紹介し、平等の観点・権利実現の観点・国際社会とのハーモナイズの観点から、同性婚を認め、婚姻平等化を実現する必要性を説いた。
宍戸常寿教授(東京大学大学院法学政治学研究科)は、憲法24条は同性婚を禁止するものではなく同性カップルの法的保障の妨げとならないこと、同性カップルに法的保障を認めないことで憲法上の基本的人権が毀損される問題を考慮する必要があることを指摘した。同性カップルと異性カップルの法的保障に差異を設けることに平等の観点から問題がある点、個人の自己決定に基づく自由・権利に制約が生じている点、同性カップルが婚姻できないとするのは個人の尊厳を損なうという点からも憲法問題として解決が求められると力を込めて語った。
成年後見制度利用促進基本計画に関する連続学習会(第4回)
成年後見人等の不正防止策
後見制度支援信託を代替する預金等
12月5日 弁護士会館
- 成年後見制度利用促進基本計画に関する連続学習会(第4回)「成年後見人等の不正防止策-後見制度支援信託を代替する預金等-」
2017年3月に閣議決定された成年後見制度利用促進基本計画(以下「基本計画」)には、「後見制度支援信託に並立・代替する新たな方策」の検討が明記され、一部金融機関では、後見人が家庭裁判所の指示書により利用できる後見制度支援預金(以下「支援預金」)の運用等が始まっている。連続学習会の第4回目は、親族後見人の不正防止策をテーマに取り上げた。
基調報告
日弁連高齢者・障害者権利支援センターの堀江佳史委員(和歌山)は、不正防止と利用しやすさの調和を図るため、基本計画が、①金融機関による取り組み、②親族後見人の成年後見制度に対する理解促進、③家庭裁判所と専門職団体との連携等を期待していると解説した。
大垣尚司教授(青山学院大学大学院法務研究科)は、不正防止等の観点から支援預金を評価する一方、任意後見監督人や信託監督人の監督機能を活用する家族信託預金などの新たな取り組みを紹介した。
金融機関による支援預金への取り組みの報告
海田新也氏(沼津信用金庫相談センター副部長)は、支援預金の特徴として、後見制度支援信託と異なり、最低預入金額や手数料がなく、利用時に専門職後見人の選任を必要としないケースが多いことを挙げ、支援預金の有用性を説いた。
白原敏光氏(近畿産業信用組合経営企画部副部長)は、不正防止の問題は、本人のための取引かどうかを誰がどのように確認するかに尽き、まずは比較的対応が簡易な、家庭裁判所の指示書に基づく支援預金を広めていきたいと語った。
意見交換
大垣教授は、家庭裁判所の負担を軽減するため、支援預金の出入金が許される場合を定型的に判断する仕組みを構築する必要があると述べ、弁護士会などの家庭裁判所以外の団体が不正防止のために積極的な役割を担うべきと訴えた。
日弁連高齢者・障害者権利支援センターの滝沢香副センター長(東京)は、親族後見人に財産の峻別への理解が不足しているにもかかわらず、包括的代理権が付与されること等が不正の原因となっており、その対策として相談・支援拠点の設置、指示書・専門職後見人・後見監督人の活用等が考えられると述べた。
続・ご異見拝聴❹
ダニエル・フット日弁連市民会議委員
今回は、東京大学大学院法学政治学研究科のダニエル・フット教授にお話を伺いました。フット教授は、米連邦最高裁判所長官の調査官を務められたほか、日産自動車株式会社法規部に勤務されるなど多彩な経歴をお持ちで、2003年12月から日弁連の市民会議委員を務めていただいています。(広報室嘱託 大藏隆子)
市民会議委員に就任した経緯は
私は、2000年に東京大学の教授に就任し、その後、文部科学省中央教育審議会大学分科会法科大学院部会の専門委員や、司法制度改革推進本部法曹養成検討会の委員を務めていました。司法制度改革にさまざまな形で関わっていたこともあって日弁連から声が掛かり、市民会議委員に就任しました。
裁判員制度について
この制度は、多くの方々の期待以上に日本社会に定着しました。裁判員経験者に対する調査でも、評議に十分参加できたため満足度が高かったなどの声が上がっています。一般市民が裁判官と対等な立場で議論できることは、まさに民主主義を体現するものであり、市民の裁判制度に対する意識を「客体」から「主体」へ変容させるものとして評価しています。
法科大学院教育について
現在の法科大学院教育には、交渉能力・コミュニケーション能力・聞き取り能力など「技術(skill)」の学びが足りないように感じます。米国のロースクールの場合、法律相談を実践する授業などは大変人気がありますが、日本では、受験勉強に重点が置かれ、技術(skill)教育が足りていない。法科大学院の授業の一環として、そのような学びをさらに充実させることが必要です。
組織内弁護士について
企業や国の行政機関に勤める弁護士の数はずいぶん増えましたし、地方自治体レベルでも徐々に増えてきていますが、環境団体などの公益団体、国際機関、労働組合などの専属弁護士はごく少数にとどまります。米国では、3000以上のNPO・NGOが弁護士を採用しており、100人以上採用している環境保護団体もあります。優秀な学生の多くが公益団体の専属弁護士を目指す傾向があるのです。日本でも社会の隅々に法をいきわたらせるためには、これらの場でも、弁護士にもっと活躍してほしいです。
弁護士に対する要望
弁護士の皆さんには、日弁連が10年おきに行っている弁護士業務の経済的基盤に関する実態調査への回答協力をお願いしたいです。研究者にとって、この調査の結果は、極めて重要な調査データです。2000年と2010年の調査では回答率が17〜18%にとどまっていましたので、より多くの方々にご回答いただきたいです。
ブックセンターベストセラー
(2017年10月・手帳は除く) 協力:弁護士会館ブックセンター
順位 | 書名 | 著者名・編者名 | 出版社名 |
---|---|---|---|
1 | 携帯実務六法 2017年度版 | 「携帯実務六法」編集プロジェクトチーム 編 | 東京都弁護士協同組合 |
2 | 模範六法2018 平成30年版 | 判例六法編修委員会 編 | 三省堂 |
3 | 別冊ジュリストNo.233 交通事故判例百選[第5版] | 新美育文・山本豊・古笛恵子 編 | 有斐閣 |
4 | 新注釈民法(17)親族(1)§§725〜791 |
二宮周平 編/大村敦志・道垣内弘人・山本敬三 編集代表 |
有斐閣 |
超早わかり・「標準算定表」だけでは導けない 婚姻費用・養育費等計算事例集(中・上級編)[新装版] |
婚姻費用養育費問題研究会 編 | 婚姻費用養育費問題研究会 | |
6 | 類型別 労働関係訴訟の実務 |
佐々木宗啓・清水響・吉田徹・ 伊藤由紀子・遠藤東路・湯川克彦 編 |
青林書院 |
7 | 別冊ジュリストNo.234 経済法判例・審決百選[第2版] | 金井貴嗣・泉水文雄・武田邦宣 編 | 有斐閣 |
8 | 契約法 | 中田裕康 著 | 有斐閣 |
労働事件事実認定重要判決50選 |
須藤典明・清水響 編 | 立花書房 | |
裁判官はこう考える 弁護士はこう実践する 民事裁判手続 | 柴崎哲夫・牧田謙太郎 著 | 学陽書房 |
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実践演習!LAC制度の概要と対応のポイント(2017年度) |
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よくわかる最新重要判例解説2017(労働) |
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5 | DVをめぐる法制度の概要と相談対応 | 89分 |
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DV被害者への対応-初動支援から実務の流れ- |
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7 | 児童虐待問題に対する法的対応の実務 | 109分 |
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9 | 2016年改正ストーカー規制法の概要 | 20分 |
【コンパクトシリーズ】公正証書の基本~概要と利用法~ | 37分 |
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