医療的ケア児に対する県及び学校の対応に関する人権救済申立事件(勧告)

神奈川県教育委員会教育長及び神奈川県立X養護学校宛て勧告

2018年12月27日

 

 

神奈川県立X養護学校に通う申立人は医療的ケアを必要とし、保護者が医療的ケアを行うことを条件に通学を認められ、校外行事の際の移動も保護者同伴を条件にスクールバスに乗車することが認められていたが、平成28年12月に神奈川県教育委員会から、人工呼吸器を常時使用している児童生徒等に対する学校における医療的ケアを実施しない、スクールバスへの乗車は認めないなどを内容とする通知が発せられ、これにより申立人に対する学校における医療的ケアは全面的に実施されないことになり、校外学習の移動の際も含めスクールバスの利用が認められなくなった。


これらの行為は人権侵害が認められるとして、神奈川県教育委員会教育長及び神奈川県立X養護学校校長に対し、以下のとおり勧告をした事例。


① 神奈川県教育委員会教育長宛て

 (1) 平成28年12月15日付け特別支援教育課長名で発した「人工呼吸器を使用する児童生徒等への対応について(通知)」を撤回又は廃止すること。

 (2) 神奈川県立X養護学校に在籍する児童である申立人に対する学校内における医療的ケアについて、申立人の個別具体的な事情を考慮した上で、同校とともにその実施に向けて検討すること。


② 神奈川県立X養護学校校長宛て

 (1) 申立人に対し、平成28年12月15日付け神奈川県教育委員会特別支援教育課長名で「人工呼吸器を使用する児童生徒等への対応について(通知)」が発せられる前は認められていた校外活動へのスクールバスでの参加を同通知発出後に認めないこととした取扱いを撤回し、これを認めることとすること。

 (2) 申立人に対する学校内における医療的ケアについて、申立人の個別具体的な事情を考慮した上で、その実施に向けて検討すること。


執行後照会に対する回答

神奈川県教育委員会

<神奈川県教育委員会教育長名回答・2019年8月29日>


平成30年12月27日付け日本弁護士連合会からの勧告書(以下「勧告書」という。)の内容に関して、神奈川県教育委員会(以下「県教委」という。)の対応について回答します。


1 勧告書「第1 勧告の趣旨 1」について

県教委では、特別支援教育課長通知「人工呼吸器を使用する児童生徒等への対応について」(平成28年12月15日)を発出した後、平成29年4月1日に「神奈川県立特別支援学校医療ケア等支援事業ワーキンググループ」(以下「ワーキンググループ」という。)を設置し、人工呼吸器療法について検討を進めてきました。このことは平成30年6月15日付け貴連合会からの照会へ回答したとおりです。
 

県教委は、平成31年2月28日にワーキンググループからの検討報告を受け、特別支援教育課長通知「県立特別支援学校における医療的ケアの今後の対応について」(平成31年4月26日)(以下「本通知」という。)を県立特別支援学校長に対して発出し、「今後の人工呼吸器の対応については、特別支援教育課長通知「人工呼吸器を使用する児童生徒等への対応について」(平成28年12月15日)によらず、本通知による対応とします。」としました。


2 勧告書「第1 勧告の趣旨 2」について

県教委は、各県立特別支援学校長に対し、本通知の別紙としてまとめた「県立特別支援学校における医療的ケアへの今後の対応について(当面の方策)」(以下「当面の方策」という。)、「県立特別支援学校における医療的ケア実施に関する共通の手引き」、「県立特別支援学校における人工呼吸器療法ガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)の3点に基づき対応するよう通知しました。
 

具体的には、県教委はガイドラインに人工呼吸器療法を実施する上での安全な環境や体制を構築する上での配慮事項や留意点を示しました。そして、県立特別支援学校(以下「学校」という。)はガイドラインに基づき、人工呼吸器療法を必要とする児童・生徒について、その様子の把握、保護者との相談を十分に行った上で、医療的ケアの対応について、県教委と調整した上で、総合的に判断し、安全な状況が整えば看護師が人工呼吸器の管理ができる実施体制や手続きを示しました。
 

また、校外行事等における移動について、県教委はガイドラインにより、校外行事におけるスクールバスを利用する際に、各学校が安全に実施するための安全対策を定め、その実施について各学校と調整し、総合的に判断して、校外行事でのスクールバス乗車を認めることとしました。
 

このような対応のもと、神奈川県立X養護学校に在籍する児童である申立人に対する学校内における医療的ケアについて、申立人の個別具体的な事情を考慮した上で、同校とともにその実施に向けた検討を進めています。
 

なお、県教委は当面の方策について、各学校での実践等の検証を行い、必要に応じて見直しを行います。



神奈川県立X養護学校

<神奈川県立X養護学校校長名回答・2019年8月23日>


平成30年12月27日付け日本弁護士連合会からの勧告書(以下「勧告書」という。)の内容に関して、神奈川県立X養護学校(以下「学校」という。)の対応について回答します。


1 勧告書「第1 勧告の趣旨 1」について

申立人の校外活動へのスクールバスでの参加については、神奈川県教育委員会教育局支援部特別支援教育課長通知「県立特別支援学校における医療的ケアの今後の対応について」(平成31年4月26日)(以下「通知」という。)に基づき、実施できるよう環境整備を整えています。
 

具体的には、通知に示された「県立特別支援学校における人工呼吸器療法ガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)を踏まえ、申立人が校外活動でスクールバスに乗車するための検討チーム(以下「Aチーム」という。)を令和元年5月28日に組織し、令和元年10月15日の校外活動での実施を目標に、情報収集と環境整備の検討を進めています。Aチームの構成は、教頭、学部長、担任、看護師、指導連携部長、環境安全部長、スクールバス係で組織しています。7月末現在、ガイドラインで示された留意点に基づく運行ルート上の緊急医療機関の確認、乗降場所の安全確認、バスの車輌選定が終了しています。今後、運転手への配慮事項の確認、車内の固定方法の確立、車内での緊急対応シミュレーション、学校敷地内での乗車シミュレーション、緊急時に利用可能性のある医療機関への対応依頼、保護者との役割分担等の検討を予定しています。
 

なお、校外活動を安全に実施するためには、担任及び看護師の適切な対応並びに保護者との適切な連携が必須となります。したがって、申立人が使用する人工呼吸器に関する医療情報だけではなく、日常に必要なその他の医療的ケアの内容についても情報収集し、健康状態を正確に把握することが重要になります。このため、ガイドラインに示された「【人工呼吸器療法】診療情報提供書」、「人工呼吸器点検表」等により保護者及び主治医と十分に連携して情報収集に努め、担当医を含めた学校医療的ケア検討委員会で丁寧に検討していきます。


2 勧告書「第1 勧告の趣旨 2」について

今回の通知にあるガイドラインでは、人工呼吸器療法が必要な児童・生徒の健康を支え、安全に学校生活を送るための様々な配慮事項等について、具体的に示されました。これらを踏まえ、保護者と連携しつつ、申立人の個別具体的な事情を考慮した上で、人工呼吸器療法以外の医療的ケアについて、学校看護師等による実施に向け検討を始めています。