学校内傷害事件に関する人権救済申立事件(勧告)

A中学校校長宛て勧告

2012年8月28日


 

中学校での部活動において、上級生が下級生である申立人の練習態度を誤解して暴行を加え傷害を負わせたいじめ事件について、学校の当事者意識の欠如から来る不充分且つ不適切な対応が申立人の不登校を招いたとして、中学校に対して、①今回の傷害事件が「いじめ」であったことを認識し、部活動等の学校生活における上級生の下級生に対する助言・指導の実態とその問題点を明らかにするとともに、本件に至った原因を調査・研究すること、②今後いじめが再発することがないよう措置を講ずること、を勧告した事例。

 

執行後照会に対する回答

A中学校校長

<A中学校校長名回答・2013年4月24日>

 

※下記回答は、関係者のプライバシーを配慮し、一部修正の上掲載をしております。



勧告1

本件傷害事件が「いじめ」であったことを認識し、部活動等の学校生活における上級生の下級生に対する助言・指導の実態とその問題点を明らかにするとともに、本件人権侵害に至った原因を調査・研究し、それらの改善策を策定すること。



(回答)
勧告を受け、校長から、あらためて全職員に本件傷害事件の経緯について周知する機会を設定し、本件傷害事件が、上級生から下級生への「いじめ」の事案であること、及びそうした認識に立って原因を調査し、改善策を講じていく旨の指示があった。



本校では、日常の活動、委員会・生徒会活動、部活動等において、三年生が指導学年として、下級生とともに活動に取り組むことによって、中学生としてのあるべき姿を伝え、ともに目指そうとしている。そうした活動の場面では、上級生が下級生に対して、活動の目的や活動に対する考え方、行動様式等を助言・指導して、その目的を達成しようとしている姿勢が感じられる。



そうした中、本件人権侵害に至ったのは、そうした生徒の活動を教師が十分に把握し、適切に対応できなかったこと及び部活動に取り組んでいる生徒一人ひとりの心情面を十分に理解できていなかったことがその原因としてあげられる。



事件発生当時、顧問は学年行事の準備のために部活動場所を離れており、生徒だけによる部活動が行われていた。そうした中で、上級生の下級生に対する行きすぎた指導を把握することができず、結果として傷害事件が発生してしまった。また、部活動に対する上級生の思いや下級生の気持ちを十分に把握することができていなかった。他の部活動の顧問にも確認したところ、該当の部活動以外にもそうした状況が散見され、部活動における指導体制の整備等に取り組むこととした。



(具体的な対応策)
1 校内体制を見直し、顧問か学年の担当教師が常に部活動の状況を把握する。生徒だけによる部活動は設定しない。
2 部内での話し合いを定期的(学期に2~3回)に開催し、用具の準備や後片付け、練習内容や方法等についての話し合いを行うとともに、部員一人ひとりの思いや願いを受け止める。
3 PTAとの連携により、保護者等を部活動のコーチとして招聘する。それにより、活動の状況等をより細かく把握する。

 

勧告2
貴校において今後いじめが再発することがないよう、以下の措置を講じること。
(1) いじめや不登校が、最悪の場合自殺などを引き起こす重大な人権侵害であることを認識し、その認識をあらゆる機会を通じて徹底させ、学校全体で共有すること。



(回答)
勧告を受け、校長及び副校長が、職員会議において、過去の事例等を参考にしながら、いじめや不登校が、最悪の場合自殺などを引き起こす重大な人権侵害であることを教職員に周知するとともに、そうした認識を学校の教育活動を通じて、生徒及び保護者に徹底していくことを確認した。



(具体的な対応策)
1 文部科学省の「いじめ問題に対する取組事例集」等を資料として、今後も継続していじめ問題に対する校内研修を実施する。
2 学級内・学年内における活動や話し合い等の機会を通じ、生徒にいじめは重大な人権侵害であること繰り返し指導する。
3 学年PTAやPTA役員会においても、いじめや不登校が重大な人権侵害であることを説明し、理解と協力を依頼する。



(2) いじめの実態を早期に把握するとともに、いじめを学校全体の問題として受け止め、いじめに対する学校内の理解を深めることにより教育環境を整備する必要があり、そのために、いじめの早期発見と対応策やいじめ克服を有効に進めるための教育等に関するプログラムを策定し、これを実行すること。また、その実施状況を定期的に点検・検証するための制度を確立すること。



(回答)
いじめ問題の解決には、早期発見と早期対応が重要であるとともに、学校の教育活動全体を通じて、いじめを絶対に許さないという生徒及び生徒集団を育成することが重要であることを職員会議で確認した。



(具体的な対応策)
1 いじめ発見のためのチェックポイントを作成し、学校生活での生徒の様子を日常的に観察したうえ、その情報を教職員間で交流して、いじめの早期発見に努める。
2 いじめに関するアンケートを生徒及び保護者を対象に実施し、いじめの早期発見と早期対応に取り組んだ。今後も、継続して実態の把握に努める。
3 教育相談アンケートや個別面談の実施により、生徒一人ひとりの悩みや心の状態を把握し、心の健康を育む。
4 アンケートや教育相談等により把握した実態を学年、学校で共有し、いじめと認知された事案に対しては、毅然とした態度で、組織として対応しその解決を図る。
5 養護教諭等による教育相談体制を充実させ、悩みをかかえた生徒やいじめを受けた生徒の相談に対応し、心のケアに努める。
6 特別活動や道徳の授業を充実させるとともに他教科等との関連を図りながら、望ましい集団活動を推進し、集団や社会の一員としてより良い生活や人間関係を築こうとする態度を育むとともに、他の人々を思いやる心や生命を尊重する態度等を育てる。
7 ボランティア教育や体験活動を充実させ、生徒の人間関係や生活経験を豊かにする。
8 教職員へのヒアリングや校務分掌についてのアンケートにより、上記の具体的対応策についての評価を行い、次年度の具体的な計画を作成する。



(3) 生徒代表、保護者代表及び教師代表等の構成による「いじめ対策会議」など、いじめ問題を検討すべき組織の結成を促進し、本件からの教訓を共有化し、再発の防止に備えること。



(回答)
いじめや生徒指導上の問題を協議する委員会等の組織を校内外に設けるよう努めていく。



(具体的な対応策)
1 教職員において、いじめ問題に関する情報を共有し、解決に向けた対応を協議する機会を定期的に設定し、再発の防止に努める。
2 学級や学年、生徒会活動において、話し合い活動を充実させ、思いやりの心を育てるとともによりよい人間関係を築いていこうとする態度を育む。また、校内生活の向上に向けた委員会活動に取り組む。
3 教職員代表とPTA役員において、いじめを含めた生徒指導関係の事項について情報交換を行い、いじめの未然防止や再発防止のための協議を実施する。