アイヌ民族の権利の保障を求める決議


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アイヌ民族は、北海道などに住んできた先住民族であり、アイヌコタン(アイヌ民族の人々が各地で伝統的に形成してきた自治的集団)を形成し、漁撈(魚介類及び海藻等の水生植物を捕獲・採取すること)・狩猟・採集等を中心とする生活を営み、自然の恵みを享有し、アイヌ語と呼ばれる独自の言語を用い、伝統的な宗教的儀式や祭事等を行うなどの独自の文化を育んでいた。


ところが、明治時代以降、政府は、松前地及び「蝦夷地」と呼ばれていた地域を北海道と改称し、伝統的風俗・習慣の禁止、日本語使用の強制等の同化政策を進めた。


そして、従来アイヌ民族が漁撈・狩猟・採集等を行い、生活を営んでいた土地は官有地とされた。また、「和人」(アイヌ民族以外の日本国民)が大量に北海道へ入植し、開拓が進められ、アイヌ民族の居住地域は奪われ、生活基盤となる河川や森林等の自然環境が改変され、さらに漁撈や狩猟への規制等が導入され、アイヌ民族の生活や文化は大きな打撃を被った。


2008年に、衆参両議院本会議で「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」が採択され、その後、2019年にアイヌ民族を「先住民族」と明記した「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」が成立した。同法には、伝統的な漁法への規制の緩和等が盛り込まれたが、一方で、アイヌコタンの権利、例えば、漁撈・狩猟・採集等を行い、その対象の動植物が生息・生育する自然環境を維持管理する権利や、アイヌ民族の人々が公の場でアイヌ語を使用する権利、アイヌ語教育を受ける権利等を保障する規定は、盛り込まれなかった。


とりわけ、アイヌ民族が伝統的に主食としてきたサケ等の漁撈や狩猟は、アイヌ民族の生活、伝統的儀式、文化と一体のものであり、伝統的に形成してきた自治的集団(アイヌコタン)に漁撈や狩猟を権利として保障することは大きな課題である。


さらに、北海道における自然破壊は、アイヌ民族の自然と共に暮らす権利に対する重大な侵害ともいうことができる。代表的な例として、平取町二風谷地区に住むアイヌ民族の人々から聖地といわれていた場所において、国がダム建設を計画し、これに反対した住民が訴訟を提起した二風谷ダム建設問題が挙げられる。


2007年には、国際連合で、先住民族の権利に関する国際連合宣言が採択され、日本政府は賛成した。アイヌ民族の権利の保障は、国内的にも国際的にも極めて重要な課題である。


当連合会は、アイヌ民族に関する政策を、先住民族の権利に関する国際連合宣言に合致させ、アイヌ民族の伝統的生活・文化等の回復並びにアイヌコタン及びアイヌ民族の人々の権利の保障を実現するために、国及び北海道に対し、以下のとおり求めるとともに、今後も引き続き、人権擁護を使命とする法律家団体として、アイヌ民族の権利の保障に力を尽くすことをここに決意する。


1 国及び北海道は、アイヌコタンが有してきた固有の伝統を尊重し、アイヌコタンの、漁撈・狩猟・採集等を行い、その対象の動植物が生息・生育する自然環境を維持管理する権利及び宗教的儀式や伝統儀式等を行う権利等の文化的・精神的権利を認め、これらを保障すること。


2 国及び北海道は、アイヌ語教育を受ける権利の保障、アイヌ語の保存・発展に向けた学術的取組、進学や就職状況の改善を始めとしたアイヌ民族の社会的地位の向上等、アイヌ民族の権利を保障するための施策を進めること。


3 国は、既に批准した自由権規約、社会権規約等の国際条約において、上記1のような、先住民族の集団としての権利が認められていることを確認し、その内容を早期に実行するとともに、ILO・1989年の先住民及び種族民条約(第169号)の批准を検討し、条約内容に沿って、上記1及び2を実現する国内法を整備すること。


以上のとおり決議する。


 

2022年(令和4年)9月30日
日本弁護士連合会

 

提案理由

第1 アイヌ民族に対する重大な人権侵害

1 江戸時代までのアイヌ民族の状況

アイヌ民族は、北海道などに住んできた先住民族であり、アイヌ語を母語とする。

彼らは、各地にコタン(アイヌコタン)と呼ばれる集団(あるいはその連合組織)を形成し、各アイヌコタンはイオルと呼ばれる領域を一つの単位として生活を営んできた。そして、アイヌコタンは、イオルにおいて、漁撈・狩猟・採集等を中心とする生活を営みながら、アイヌ語と呼ばれる独自の言語を用い、伝統的な宗教的儀式や祭事等を行うなどの独自の文化を育んでいた。また、「和人」等の周辺の社会との交易も行っていた。

1604年に、徳川家康は松前志摩守(松前慶広)に対し、黒印状を発し、アイヌとの交易について、独占的交易権を付与した。この結果、反射的にアイヌコタンの自由な交易は松前家に限定されることになった。


2 アイヌ民族に対する人権侵害の深刻化

明治政府は、1869年に、松前地(松前家の支配地)及び「蝦夷地」と呼ばれていた地域を北海道と改称し、開拓使を置き、北海道への入植、開拓を進めた。そして、アイヌ民族に対しては、伝統的風俗・習慣の禁止、日本語使用の強制等といった同化政策を推進し、土地売貸規則及び地所規則等により、アイヌ民族が生活していた土地や自然資源を一方的に取り上げていった。

具体的には、まず、「和人」が大量に入植し、開拓が進められるようになり、アイヌ民族の居住地域は奪われていった。そして、アイヌ民族の生活基盤となる河川や森林等の自然環境が改変され、さらに漁撈や狩猟への規制等が導入され、アイヌ民族の生活や文化は大きな打撃を被った。

また、アイヌ民族は、戸籍法によって日本人(平民)とされ、従来アイヌ民族が漁撈・狩猟・採集等を行い、生活を営んでいた土地は官有地とされて、これまで漁撈や狩猟をしていた地域で漁撈等をすることもできなくなった。これにより、アイヌ民族は困窮化していった。また、アイヌ語を始めとしたアイヌ民族の独自の習俗・文化は否定されるようになった。

日本政府は、1899年にアイヌ民族の生活の困窮を救済するという目的で北海道旧土人保護法を制定したが、これまで漁撈や狩猟をしていた地域での漁撈等が再び可能になったわけではなく、他方、十分な生業指導もなく、困窮化が進んだ。また、同法により設置された小学校は「土人学校」等と呼ばれ、アイヌ民族の子どもたちに対して日本語の習得を優先する教育が行われるなど、同化政策が進められた。しかも、アイヌ民族を「旧土人」とする北海道旧土人保護法は、1997年までその名称のまま存続した。


3 現状と残された課題

日本政府は、後述する第3で述べる世界的潮流の中で、1997年に北海道旧土人保護法を廃止し、アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律(以下「1997年法」という。)を制定したものの、同法はアイヌ文化の普及及び啓発に重点が置かれていたため、非アイヌの「和人」等が、アイヌ文化を知るための事業が中心となっていた。

その後、2008年に、衆参両議院本会議で「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」が採択された。2019年には、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」が制定され(1997年法は廃止)、「アイヌの人々」が「先住民族」と明記されたほか、伝統的な漁法への規制の緩和等が規定された。日本政府は、アイヌ文化の普及及び啓発のための民族共生象徴空間(愛称:ウポポイ)を北海道白老町に建設し、自治体がアイヌ施策推進地域計画を作成する場合に交付金を交付するという制度を新設した。

しかし、基本的にこれらの法律はアイヌ文化の普及及び啓発に政策の基本が置かれており、アイヌコタンの権利、例えば、漁撈・狩猟・採集等を行い、その対象の動植物が生息・生育する自然環境を維持管理する権利や、アイヌ民族の人々が公の場でアイヌ語を使用する権利、アイヌ語教育を受ける権利等を保障する規定は盛り込まれず、アイヌ民族の人々の権利やアイヌコタンの権利については全く触れられていない。

さらに、これらの法律に基づく施策もアイヌ文化を保存し、継承することに重点が置かれており、自治体がアイヌ施策推進地域計画を作成する場合も、アイヌ民族の意向が十分に聴き取られていない。また、アイヌ文化復興の中心となるべきウポポイも、職員(アイヌ民族を含む。)自身による運営方針の決定が可能な体制となっておらず、研究・研修の時間が事業計画に十分盛り込まれていないなどの問題があり、本来の機能を果たすには至っていない。

また、例えば、アシリチェップノミというその年の最初に捕獲したサケを神に感謝する儀式が北海道全域で開催されるようになったものの、引き続くサケの捕獲が禁止され、アイヌの伝統儀式が単なる儀式としてだけ保存され、継承されるという矛盾を抱えている。

このように、アイヌ民族の人々及びアイヌコタンが有していた伝統的生活や伝統的な宗教的儀式等の独自の文化を尊重し、これらを回復するための施策や権利の保障等は、現在でも不十分といわざるを得ない。


第2 二風谷ダムを始めとした、自然破壊によるアイヌ民族への権利侵害

北海道における自然破壊は、アイヌ民族の生活・文化に大きな打撃を与えた。これは、アイヌコタンに認められるべき自然環境を主体的に維持管理する権利に対する重大な侵害ともいうことができる。


代表的な例として、二風谷ダム建設問題が挙げられる。北海道日高地方の平取町二風谷地区は、アイヌ民族が多く居住し、チプサンケと呼ばれるサケ捕獲のための舟下ろし儀式を始めとして、アイヌ文化が伝承される重要な土地であり、平取町二風谷地区に住むアイヌ民族の人々から聖地といわれていた。


それにもかかわらず、同地区にダム建設が計画されたことから、計画発表と同時にアイヌ民族の人々から反対運動が起こった。1987年に、北海道開発庁(当時)が特に強固にダム建設に反対したアイヌ民族の土地所有者のうち2名に対して、土地収用法に基づく強制収用に着手したため、当該2名は1993年5月に、土地収用を行う北海道収用委員会を相手に、札幌地方裁判所において土地収用裁決の取消しを求める行政訴訟を起こした。いわゆる「二風谷ダム建設差し止め訴訟」である。


1997年3月27日、札幌地方裁判所はこの訴訟の判決の中で「アイヌ民族は、文化の独自性を保持した少数民族としてその文化を享有する権利を国際人権規約B規約第27条で保障されているのであって、我が国は憲法第98条第2項の規定に照らしてこれを誠実に遵守する義務がある」と述べ、また「二風谷ダム建設により得られる洪水調節等の公共の利益がこれによって失われるアイヌ民族の文化享有権等の価値に優越するかどうかを判断するために必要な調査等を怠り、本来最も重視すべき諸価値を不当に軽視ないし無視して、本件事業認定をなしたのであるから、右認定処分は違法であり、その違法は本件収用裁決に承継される」旨を判示した。


ただし、原告らの請求そのものは行政事件訴訟法第31条第1項(事情判決の法理)により棄却された。


第3 先住民族に関する条約等

国際連合は、世界人権宣言の下で、市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「自由権規約」という。)と、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下「社会権規約」という。)を制定し(いずれも日本は1979年に批准。)、自由権規約の第27条に定める文化享有権には、先住民族の場合にはコタンのような集団による漁撈、狩猟等の伝統的活動を行う権利が含まれるとされ(一般的意見23)、社会権規約の第15条では、先住民族の集団的権利として先祖伝来の土地、資源についての権利が含まれるとされている(一般的意見21)。


1989年には、これらの規約をより強化する条約として、ILO・1989年の先住民及び種族民条約(第169号)(以下「ILO169号条約」という。)が採択された(日本は未批准。)。


また、子どもの権利条約(日本は1994年に批准。)第30条は、「種族的、宗教的若しくは言語的少数民族又は原住民である者が存在する国において、当該少数民族に属し又は原住民である児童は、その集団の他の構成員とともに自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されない」と規定する。


あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(以下「人種差別撤廃条約」という。日本は1995年に加入。)は、第2条第1項で「個人、集団又は団体に対する人種差別」を禁止し、アイヌの集団に対する差別を禁止している。同条約に基づく人種差別撤廃委員会は1997年に締約国に対して一般的勧告23を行い、「先住民族の共有地・地域及び資源を所有し、開発し、管理し及び使用する先住民の権利を承認し及び保護すること」を要請し、2014年には日本政府に対し、「土地と資源に関するアイヌの集団の権利を保護するための適切な措置」等及びILO169号条約の批准を勧告した(総括所見第20項(a)から(e)まで)。さらに、2018年には日本政府に対し「雇用、教育、サービスへのアクセスにおけるアイヌの人々に対する差別の解消のための努力を強化すること」及び「アイヌの集団の土地及び資源に関する権利を保護するための措置をとること並びに文化及び言語に対する権利の実現に向けた取組の強化を継続すること」等を勧告した(総括所見第16項(a)及び(c))。


人種差別撤廃条約第1条第1項では、差別とは単に平等な立場での権利の享受を妨げる場合だけでなく、結果として権利の享受を妨害する場合を含み、客観的に異なる状況にある個人や集団を平等に扱うことは、効果としての差別に該当するとしている。


すなわち、アイヌコタンというアイヌ民族の集団の資源に対する権利を否定することは、人種差別撤廃条約によって禁止されている差別なのである。


さらに、2007年に国際連合は、先住民族の権利に関する国際連合宣言を採択し、日本政府は賛成した。同宣言は、前文で「先住民族が他のすべての民族と平等であること」や「すべての民族が、人類の共同遺産を成す文明および文化の多様性ならびに豊かさに貢献すること」等を確認した上で、先住民族の集団の権利と権限について、自決権、土地や自然資源に関する権利、教育の権利等を規定している。


第4 今後とるべき政策

1 アイヌ民族の集団的権利の保障

日本政府は、アイヌを個人と集団とに二分し、アイヌは個人として憲法の下で「和人」と同様に人権を享受しているとした上で、集団としての権利については認められないとする見解であり、それを前提として法律の制定や政策が行われている。

しかし、実際に、現在も北海道浦幌町のラポロアイヌネイションというアイヌの集団が、十勝川下流域に存在したコタンの構成員の子孫によって組織され、かつてのコタンが有していた伝統的・慣習的なサケ捕獲権の確認を求めて訴訟を提起している。北海道各地には、ラポロアイヌネイションのようにかつてのアイヌコタンの構成員の子孫によって地域的なコミュニティーが形成されている場合が見られる。日本政府はこれらのコミュニティーをアイヌの集団と認め、国際的潮流に従って、これらの先住民族としての権利と権限を保障していくべきである。

具体的には、アイヌコタンの伝統的生活・文化を尊重し、特に、漁撈・狩猟・採集等を行い、その対象の動植物が生息・生育する自然環境を維持管理する権利及び宗教的儀式や伝統儀式等を行う権利等の文化的・精神的権利を認め、これらを保障すべきである。


2 アイヌ民族の人々の権利保障のための具体的施策

(1) アイヌ語教育、アイヌ語の継承発展

日本国民の多くは、当然のように母語である日本語を学校で学び、官公庁等で日本語を使って意思疎通している。

しかし、アイヌ民族の人々には、アイヌ語を学校で学ぶ機会も、官公庁等でアイヌ語を使って意思疎通することも保障されていない。

アイヌ語は、2009年に、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)により、「危機的な状況にある言語」とされた。

また、2013年に、国際連合の社会権規約委員会は日本政府に対し、次の趣旨の勧告を行っている。

「30.委員会は、アイヌ民族が先住民族として認められ、かつその他の進展が達成されたにも関わらず、経済的、社会的および文化的権利の享受に関してアイヌ民族が不利な立場に置かれたままであることを依然として懸念する。委員会は、アイヌ語が消滅の危機にあることをとりわけ懸念する。」(第15条、第2条第2項)

この勧告から既に8年以上が経過し、また、2018年の人種差別撤廃委員会による同様の勧告から4年が経過しようとしているが、いまだに勧告への対応は行われていない。アイヌ民族の文化的権利の享受、とりわけアイヌ語の保存に向けた取組は、もはや一刻の猶予も許されない。

学校教育においてアイヌ語の授業を受けること、官公庁におけるアイヌ語の使用等を認め、アイヌ語の教育、継承発展に向けた取組を進めることは、喫緊の課題である。


(2) アイヌ民族の人々の社会的・経済的地位

また、アイヌ民族の人々は、その社会的・経済的地位も低く、この点でも基本的人権が「和人」同様に保障されているとはいえない。北海道が2017年に行った「北海道アイヌ生活実態調査報告」によると、アイヌ民族の人々の平均年収は他の人々と比較して有意に低い状況にある。進学率等の他の指標も同様である。

この根本的な原因としては、土地利用や漁撈・狩猟の権利が奪われて伝統的生活が困難になったこと、貨幣経済の進展によって商品経済に巻き込まれていったことで生活が貧困化したこと、そのために構造的な貧困とその連鎖に陥ると同時に、民族の誇りを持てるようなアイヌ語教育・歴史文化の習得の機会もなかったこと、アイヌ民族の人々に対する差別・偏見があったことなどが挙げられる。

また、同報告によると、アイヌ民族の人々の約4分の1が、差別を経験しており、その主な原因・背景として人種的偏見やアイヌ民族の歴史的・社会的背景に対する無理解が挙げられている。

アイヌ語・アイヌ文化の継承・発展とあわせ、進学・就職等の社会的・経済的地位を向上させる取組や、差別・偏見を無くすために、アイヌ民族に対する理解を深め、差別・偏見につながる慣習や社会の仕組みを改善する取組が不可欠である。


3 ILO169号条約の批准及び国内法の整備

1989年にILO総会で採択されたILO169号条約は、国際規約(自由権規約第27条及び一般的意見の23、社会権規約第15条及び一般的意見の21)において保障された集団的権利を含む先住民の権利をより強化させた条約である。

ILO169号条約は、第1条で先住民の定義を規定し、第2条第1項において「政府は、関係人民の参加を得て、これらの人民の権利を保護し及びこれらの人民の元の状態の尊重を保障するために調整され、かつ、組織された活動を進展することについて責任を有する」と規定し、これを受けた同条第2項で、「組織された活動」に含まれるものとして「(a)これらの人民の構成員が、平等の立場で、国内法令により当該住民のうちの他の構成員が保障されている権利及び機会から利益を得ることができるよう確保すること。(b)これらの人民の社会的及び文化的独自性、慣習、伝統並びに制度を尊重して、その社会的、経済的及び文化的権利の十分な実現を促進すること。(c)原住民とその国の共同社会の他の構成員との間に存在し得る社会経済的格差を除去するため、関係人民の構成員をその希望及び生活方法と適合する方法によって、援助すること」を列挙している。

また、第15条第1項は「関係人民の土地に属する天然資源に関する関係人民の権利は、特別に保護される。これらの権利には、当該資源の使用、管理及び保存に参加するこれらの人民の権利を含む」と規定している。

日本は、ILO169号条約を未批准であるが、人種差別撤廃委員会や社会権規約委員会から再三にわたって批准の検討を勧告されている。また、ILO169号条約は、free, prior and informed consent (FPIC)(「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」)という先住民族の人権に関する基本的な考え方を体現している。ILOは、2015年にILO169号条約に関する一般的見解を公表しており、基本的な考え方は現在においても国際社会から支持されている。日本政府は、速やかに同条約の批准を検討し、条約内容に沿って、本決議の1及び2を実現する国内法を整備すべきである。


第5 結語

本年は、旭川の地で人生の大半を過ごした知里幸恵(ちりゆきえ)の没後100周年に当たる。知里幸恵は、1922年に19歳で逝去したアイヌ民族の女性であるが、アイヌ民族に伝わる神謡(ユーカラ)を収集し、初めて日本語に表記し、「アイヌ神謡集」としてまとめ、また、アイヌ語のローマ字表記の礎を作った。彼女のこの作業がなければ、ユーカラは後世に残らなかった可能性が高く、アイヌ文化の伝承にとって、極めて重要な役割を果たした。


彼女は、「アイヌ神謡集」の序文で次のように述べている。


「その昔この広い北海道は、私たちの先祖の自由の天地でありました。…平和の境、それも今は昔…この地は急速な変転をなし、山野は村に、村は町にと次第次第に開けてゆく」


彼女の嘆きは、その後100年を経て、彼女の想定をも超えた形で現実化してしまった。これ以上、アイヌ民族の伝統や文化を失わせることはあってはならず、アイヌ民族の先住民族としての権利と権限を保障することが急務である。


当連合会は、国及び北海道に対し、アイヌ民族に関する政策を先住民族の権利に関する国際連合宣言に合致させ、アイヌ民族の伝統的生活・文化等の回復並びにアイヌコタン及びアイヌ民族の人々の権利の保障を求めるとともに、今後も引き続き、人権擁護を使命とする法律家団体として、アイヌ民族の権利の保障に力を尽くす決意である。