福島第一原子力発電所事故の被災者を救済し、被害回復を進めるための決議

福島第一原子力発電所事故(以下「本件事故」という。)から4年半余りが経過したが、福島県だけでも、いまだ約11万人の被災者が避難生活を余儀なくされ、そのうちの約4割である約4万5000人が県外に避難しており、事故の収束にはほど遠い状況にある。よって、当連合会は、本件事故の被災者らの健康と生活を守り、被災者らの健康と生活を侵害している原因を除去して被害回復を進めるため、以下のとおり決議する。

 

1 健康被害への対応・生活再建について

(1) 国は、福島県全域と、年間追加被ばく線量1mSv(ミリシーベルト)を超える地域(以下「対象地域」という。)に居住していた、又は、居住している者に対し、定期的かつ継続的な健康診断(血液検査・尿検査を含む。)を無償で行い、その結果を広く共有し、専門家等が検証できるようにすべきである。

 

(2) 国は、上記の者に対し、本件事故に起因する健康被害、その他の健康に対する影響が認められる場合には、自己負担なく医療を受けられる制度を設けるべきである。

 

(3) 国は、「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律」(以下「子ども・被災者支援法」という。)の目的を実現する具体策として、以下の施策を行うべきである。

 

① 対象地域に居住し、又は、帰還した者に対しては、その生活環境の整備を行い、避難を継続している住民に対しては、住宅支援等の生活再建のための支援を行うこと。

 

② 心身の健康を害している被災者に対し、カウンセリング等を行い、子ども・被災者支援法に基づく支援対象地域と同様の医療確保に関する施策を移動先の地方公共団体でも実施し、かつ記録化するなどの対策を行うこと。

 

③ 本件事故の影響を受けた子どもたちについては、その心身の健康回復を目的とした保養を定期的に行える制度を構築すること。

 

2 本件事故に由来する汚染水対策について

(1) 国は、汚染水対策として実施している凍土壁建設を直ちに中止し、原子炉建屋への地下水の流入を抑止し、高濃度汚染水の原子炉敷地から外部への漏出を防止することができる恒久的遮水壁を速やかに構築すべきである。

 

(2) 国及び東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)は、汚染水対策に従事する労働者の被ばくを最小化する視点で工程を構築し直すとともに、労働者被ばくの状況を正確に把握し、労働者の健康保護や生活支援を十分に行うべきである。

 

(3) 国は、福島第一原子力発電所の敷地、その沿岸、周辺河川及び海洋の放射線量を継続して計測し、他機関の計測結果と併せ、その情報を一元的に公開すべきである。

 

3 本件事故に由来する放射性物質で汚染された廃棄物について

(1) 国は、「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(平成23年8月30日法律第110号。以下「特措法」という。)施行規則第14条を改正し、指定廃棄物の指定基準である「8000ベクレル毎キログラム」超という数値を、放射性物質利用に伴い発生する廃棄物等の処理等の安全性のための最低限の基準であるクリアランスレベルが100ベクレル/kgであることを踏まえて、相当程度引き下げるべきである。

 

(2) 国は、特措法第18条第3項を改正し、指定廃棄物の指定基準に該当すると認められるときは、環境大臣が廃棄物の占有者からの申請がなくても指定廃棄物に指定できるようにすべきである。

 

(3) 国は、十分な情報公開の下で、公開の議論を経て、焼却処理の基準を定める特措法施行規則第25条及び埋立処理の基準を定める同規則第26条を改正し、特定廃棄物(指定廃棄物及び対策地域内廃棄物)及び焼却処理した後の灰の放射能濃度が指定基準を超えることとなる本件事故に由来する放射性物質によって汚染された廃棄物について、より安全性に配慮した処理基準を策定した上で、焼却施設や最終処分場を建設・管理・運用するに当たって、適切な環境アセスメント制度・安全審査制度、十分な情報公開と住民参加を実現する制度及び独立・中立の監視機関を設けるなど、適正な制度を作るべきである。

 

国及び地方公共団体は、より安全性に配慮した特定廃棄物等の処理基準を策定し、適正な制度を作るまでの間、安全性が的確に確認でき、特定廃棄物等が環境中に拡散しないよう管理を強化した方法で、かつ十分な情報公開と住民参加の下で、暫定的に地上保管をすべきである。

 

(4) 国は、指定廃棄物について、十分な情報公開と住民参加を尽くさないまま、宮城県、栃木県、茨城県、群馬県、千葉県において各県ごとに1か所ずつ最終処分場を設置するとした方針を見直し、改めて指定廃棄物の処理方針を策定するに当たっては、十分な情報公開と住民参加を尽くすべきである。

 

以上のとおり、決議する。

 

2015年(平成27年)10月2日
日本弁護士連合会


提案理由

本件事故後4年半余りが経過したが、福島県においては、国が把握しているだけでも、いまだ約11万人の被災者が避難生活を余儀なくされ、そのうちの約4割である約4万5000人が県外に避難している(福島県災害対策本部「平成23年東北地方太平洋沖地震による被害状況即報」2015年6月23日)。また、本件事故による汚染水漏えい対策のめどは立っておらず、さらに、本件事故由来の放射性物質による汚染廃棄物の処理基準は、従来の放射性廃棄物のそれに比し緩められたままで、しかも、その処理方針は混迷し、事故の収束には程遠い現状にある。

 

よって、本件事故の被災者らの健康と生活を守り、被災者らの健康と生活を侵害している原因を除去して被害回復を進めるために、以下のとおりの施策をとる必要がある。

 

第1 健康被害への対応・生活再建について

1 健康調査の現状

(1) 本件事故により、福島県を中心として広範な地域が放射線汚染の被害を受けた。「放射性物質による放射線が人の健康に及ぼす危険について科学的に十分に解明されていない」(子ども・被災者支援法第1条)ことから、福島県は、2011年6月から、「県民健康調査」を実施した。この調査は、当初「県民健康管理調査」と呼ばれ、「県内の放射能汚染を踏まえて、長期にわたり県民の健康を見守り、県民の安全・安心の確保を図ること」を目的とするとされていたが、現在、福島県は「県民健康調査」と呼び、「放射性物質の拡散や避難等を踏まえ、県民の被ばく線量の評価を行うとともに、県民の健康状態を把握し、疾病の予防、早期発見、早期治療につなげ、もって、将来にわたる県民の健康の維持、増進を図ること」を目的としている。

 

「県民健康調査」は、県民全員に質問票を送付し回収結果を分析する基本調査と、甲状腺検診と一般の健康診断の際に追加的な分析検査を行う詳細調査がある。基本調査は、実際の問診を行わないアンケート調査に過ぎず、血液検査を実施していないなど甚だ不十分な内容であり、県民の健康状態を正しく調査することができないだけでなく、回収率も2015年3月末現在で27%程度にとどまっている。また、詳細調査のうち甲状腺検診は、本件事故当時19歳未満だった子どものみが対象であり、一般の健康診断の際に追加的に行われる分析検査も検査項目が限定されている。

 

(2) そのような限界があるにもかかわらず、2015年5月18日開催の「県民健康調査」検討委員会の第6回「甲状腺検査評価部会」において、これまでに甲状腺検診を受けた約30万人のうち112人が甲状腺がんやその疑いと判定され、2巡目になって初めてそのように判定された人も8人いたことが報告された。この点について、同部会は「こうした検査結果に関しては、わが国の地域がん登録で把握されている甲状腺がんの罹患統計などから推定される有病数に比べて数十倍のオーダーで多い。この解釈については、被ばくによる過剰発生か過剰診断のいずれかが考えられ、これまでの科学的知見からは、前者の可能性を完全に否定するものではないが、後者の可能性が高いとの意見があった。」と評価しているところであり、今後も慎重に健康診断を続けていく必要性は極めて高い。

 

(3) 本件事故による放射性物質の飛散状況からすれば、放射線被ばくした地域が福島県内に限定されるとはおよそ考えられない。

 

しかし、国は、福島県の事業である「県民健康調査」に対して財政的・技術的支援を行うにとどまり、放射線被ばくをしたおそれのある他県住民の健康調査を実施していない。しかし、これは相当ではなく、年間追加被ばく線量が1mSvを超える対象地域に居住していた、又は、居住している者に対し、定期的かつ継続的な健康診断(血液検査・尿検査を含む。)を無償で行うべきである。

 

2 子ども・被災者支援法制定後の被災者の状況

(1) 子ども・被災者支援法の成立と基本方針策定の遅れ

子ども・被災者支援法は、2012年6月12日に衆参両院の全会一致により可決・成立し、「放出された放射性物質が広く拡散していること」や「当該放射性物質による放射線が人の健康に及ぼす危険について科学的に十分に解明されていないこと」を前提に、被災者の生活上の負担、健康上の不安を解消し、安定した生活の実現に寄与することを目的としている(同法第1条)。

 

しかし、この法律の目的を実現するための具体的方策を定める基本方針は、法律が成立してから1年が経過しても策定されず、ようやく2013年10月に基本方針(以下「現基本方針」という。)が策定された。

 

(2) 被災者の生活不安と現基本方針の不十分さ

震災発生から約4年半が経過し、多くの避難者が避難元への帰還か避難先における定住かの選択を迫られている。避難者が帰還を希望しても、避難元のコミュニティが破壊されている場合が多く、現状で帰還しても医療や行政関係のインフラ設備の提供が十分になされる保証はなく、放射線への不安を抱えながら生活をしなければならない。また、避難者が避難先での永住を希望しても、避難元と避難先の住宅の二重ローンといった経済的な問題や、慣れない地域で生活することのストレス等による健康不安といった問題を抱えながら生活をしなければならない。

 

生活不安を有しているのは避難者だけではない。避難せずに被災地で生活を続けている住民も、周囲の住民の避難によりコミュニティが崩壊し、あるいは企業が倒産して就労が困難になるなど生活上の不安要素は今も存する。放射線への不安も強く、特に子どもについては外で遊ぶ時間が減少し、健康に悪影響を及ぼしているとの報道もある。

 

以上のとおり、本件事故の被災者の状況及び不安は様々である。子ども・被災者支援法は、本件事故により選ばざるを得なかった被災者自身の選択を尊重し、全ての被災者を支援するのが目的である。しかし、同法の具体的方策を定める現基本方針は、被災者に対する生活支援策が一定の範囲で含まれてはいるものの、支援対象地域が福島県中通り及び浜通りに限定されている点、施策に対する予算措置が十分ではない点などにおいて、不十分である。

 

ところが、国は、避難区域等の指定解除を進めている。いまだ本件事故は収束しておらず、日々、放射性物質が放出されている状況にあり、場所によっては、空間線量や土壌汚染のレベルが高い値で測定されている。特に福島県内やその周辺の広大な森林については、土壌汚染等が認められても除染は極めて困難であり、住宅地のみ除染しても、森林近くの住宅地では線量が低減しないという事例も見られる。これらの事情が存するにもかかわらず、指定解除を行い、強制避難を理由とする補償を打ち切るのであれば、国の施策によって避難者の生活不安を一層増大させるものといわざるを得ない。

 

3 あらゆる対策は、年間追加被ばく線量が1mSvを超える被ばくは避けるべきであるという考えを前提とすべきであること

(1) ICRP(国際放射線防護委員会)は、1990年勧告において「公衆線量限度」を定め、一般公衆が自然放射線以外に追加で被ばくする場合、年間1mSvを超えてはならない(これを超えれば個人に対する影響は容認不可と広くみなされるであろうレベルの線量である。)とした。これを受け、日本でも、一般公衆の被ばくが年間1mSvを超えてはならないと定めている(「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則の規定に基づく線量限度等を定める告示(2001年3月21日)」など)。この法規範は、現在も効力を有するものである。

 

(2) また、国連人権理事会に対する健康問題に関する特別報告者(特定の国の状況又は特定の人権テーマに関し調査報告を行うために、国連人権理事会から任命された独立専門家)であるアナンド・グローバー氏は、2012年11月14日から26日まで訪日して本件事故後の日本の人権状況に関する調査を行った後、「避難区域及び放射線の被ばく量の限度に関する国家の計画を、最新の科学的な証拠に基づき、リスク対経済効果の立場ではなく、人権を基礎において策定し、年間被ばく線量を1mSv以下に低減すること。」、「放射線被ばくの危険性と、子どもは被ばくに対して特に脆弱であるという事実について、学校教材等で正確な情報を提供すること。」などと勧告した。この勧告は、放射線の被ばく線量と影響の間には、しきい値がなく直線的な関係が成り立つという考え方(LNT仮説・ICRPも採用している考え方)を前提とするものであり、2014年7月には、国連自由権規約委員会も日本政府に対する勧告において、前記特別報告者の勧告に言及している。

 

(3) 被災者は、避難によって生活基盤を揺るがされ、健康被害のおそれに苦しむこととなった。これらは、幸福追求権・人格権(憲法第13条)の侵害であるとともに、健康で文化的な生活を送る権利(憲法第25条)の侵害である。

 

4 早急に求められる健康被害対策及び被災者支援

(1) 健康被害防止のための健康診断の充実

前述のように、日本では「1mSv基準」が採用されているのであるから、福島県全域はもとより、対象地域に居住している、あるいは、居住していた者については、避難の有無にかかわらず、その健康の維持のため、十分な健康診断(最低でも継続的な血液検査と尿検査)を受け、適正な医療を受けることができるような制度を構築することが不可欠であり、これは、国の責務としてなされなければならない。

 

そして、国は、被災者の健康診断の結果を、専門家が検証できるよう、被災者のプライバシーに配慮した上で、公開しなければならない。なぜなら、低線量被ばくの影響について解明されておらず、これだけの長期的かつ広域的避難は歴史的に例がない出来事であるから、放射線被ばくによる健康被害を防ぐ方法については、専門家による広範かつ多角的な検証結果を踏まえて決定されるべきだからである。

 

(2) 自己負担なき医療制度の導入

放射線による健康被害に関し、広島・長崎の被ばく者に対しては、1957年以降、「原子爆弾被爆者の医療等に関する法律」(後に、「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律」)等により、健康診断、医療の給付、医療費の給付などの措置がなされている。

 

しかし、本件事故による放射線被ばくにより避難を強いられた被災者に対しては、子ども・被災者支援法による被災者支援の枠組みで、医療費の給付がなされているが、避難指示区域か否かで取扱いが分かれていること、福島県内に住民票があるかによって取扱いが分かれる例もあること、子どもの医療費について、福島県が負担しても国が負担しないことなどの問題がある。

 

よって、今後、被災者支援の枠組みでの医療費の給付に代え、その内容を拡充し、「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律」を参考に、被災者が自己負担なく医療を受けられる制度にすべきである。

 

(3) 子ども・被災者支援法の具体化

① 被災者の選択の尊重

子ども・被災者支援法に基づき被災者を支援する前提として、特に尊重されなければならないのは「被災者の選択」の保障である。被災者がどのような未来を選択したとしても、被災者の生活を支援していくことが国の責務である。

 

このような観点から、子ども・被災者支援法の理念を具体化するために定められる基本方針においては、避難地に居住する住民及び避難元に帰還する住民については、社会的インフラの整備を含めた生活環境の整備をすること、避難先に定住する住民については、就労支援・住宅支援等の生活支援を拡充することが重要である。これらの施策は、強制避難地域であったかどうかにかかわらず、広範囲に認められるべきであり、前述のように、1mSvを超える地域の被災者については、将来にわたって支援されるべきである。

 

② 避難により健康を害した被災者への支援

被災者の中には、先の見えない避難生活が長引くことによりうつ病等の精神疾患にかかるなど、心身の健康が損なわれている人たちもいる。したがって、被災者全般について心のケアを図る施策、その他健康を回復させるための対策が必要である。

 

具体的には、カウンセリング等を行い、現基本方針の支援対象地域と同様の医療確保に関する施策を、避難先の地方公共団体でも実施し、かつ記録化するなどの対策を行うべきである。

 

③ 子どもの保養制度

特に、子どもについては、戸外での運動について放射能の影響を危惧する声もあることから、その心身の健全な発達のため、常時保養を受け入れるための施設を確保し、運営体制を確立させる等、保養制度等の拡充が図られるべきである。

 

第2 本件事故に由来する放射能汚染水対策について

1 汚染水処理対策の重要性

放射性物質は拡散させないことが対策の基本であり、放射能汚染水を増加させず、海洋に漏出させないことが求められる。しかるに、福島第一原子力発電所の原子炉建屋内には、現在、炉心冷却によって生じた7万6000トンもの高濃度汚染水が溜まっている。そこに、阿武隈山系から流れ込んでいる日量1000トンの地下水の一部が建屋内に浸入し、日々、大量の高濃度汚染水が増加し続けている。

 

東京電力は、2011年4月4日、大量の汚染水を海洋に意図的に放出し、国際社会から強く非難されたが、その後も汚染水の海洋への漏出が続いている。これらは海流によって、東日本沿岸域はおろか、北米大陸西海岸にも達していることが確認されている。

 

よって、本件事故に由来する放射能汚染水を増加させず、漏出させない対策を早急に立てることが必要である。

 

2 これまでの汚染水対策

(1) 汚染水問題の発生と経緯

東京電力は、事故当初、汚染水の拡大と海洋汚染を防止するために、深さ約30メートルの難透水層に達する恒久的な地下遮水壁の構築を計画していた。しかし、多額の費用を要するとして実施せず、この中長期的対策を棚上げし、政府もこれを容認してきた。

 

その後、東京電力は、2011年末、中長期ロードマップを公表し、汚染水対策として、サブドレーンから地下水を汲み上げ、敷地内に設営された貯水槽やタンクへ貯留するものとしていた。

 

しかし、この貯水槽やタンクは、工期や工費を削減するための簡易・不十分なものであったことから、後に漏出事故が相次ぎ、2013年4月には、貯水槽から100トンを超える汚染水漏れが判明し、貯水槽は廃止された(なお、この事業については、2015年3月に会計検査院から無駄な支出として指摘されている。)。

 

こうした中、政府は、経済産業省資源エネルギー庁主導の下、2013年5月30日、凍土遮水壁の設置案を取りまとめ、これを受けて、東京電力は、同年6月27日には中長期ロードマップを改定し、タンクの増量と溶接式への更新、海側トレンチの水抜きと凍土方式による陸側遮水壁の設置及びALPS(多核種除去設備)の導入の方針を打ち出した。

 

しかし、その間も、タンクからの汚染水漏れの発覚が相次ぎ、同年8月に明らかになった海洋への放射線量数十テラベクレルに上る約3000トンの汚染水の漏出は、原子力規制委員会によってレベル3の事故と認定された。

 

ここに及んで、ようやく政府は、国が前面に出て必要な対策を行うとし、同年9月3日、320億円を拠出して凍土壁を建設するとした。しかし、凍土壁設置の工事は難航し、現在も汚染水は増加し続けている。

 

(2) 汚染水問題の現状

2015年4月末時点で、総貯蔵容量80万トンのタンク(約1000基)には既に60万トンの汚染水が貯留されている。タンクは、溶接型に置き換えられているが、耐震性を具備しておらず、地震等で汚染水が漏出する危険がある。

 

政府及び東京電力は、2013年3月以降、3系統のALPSを導入してきたが、フィルター等に起因するトラブルが続き、しばしば停止を余儀なくされてきたところ、東京電力は、2015年5月31日、タンク内の汚染水の多核種除去を終えたと発表した。しかし、タンク底部には汲み上げられない約1万トンの汚染水が残留して、さらに、地下水の流入は継続し、新たな汚染水が発生し続けている。まず、汚染水の増加を止める措置が必要である。

 

原子力規制委員会は、2014年9月以降に導入された増設型ALPSや、高性能ALPSによって核種が除去された後、更に希釈して海洋に投棄する方針だと伝えられている。しかし、そもそもALPSによっても放射性物質であるトリチウムを除去することはできないし、核種が除去されるという上記見解には異論も存する。

 

したがって、トリチウムを含む処理後の汚染水を希釈・海洋投棄することについては安易に認めるべきではなく、少なくとも漁業関係者との協議が不可欠であるところ、2015年2月には原子炉建屋屋上の汚染水が排水溝から1年以上にわたって海洋に流出したまま放置されてきたことが明らかとなり、協議のめどは立っていない。

 

(3) 凍土壁工法とその決定過程における問題

凍土壁計画とは、原子炉建屋の周り1.5kmに凍土壁を設置し、2014年度中に運用を開始し、原子炉建屋内の高濃度汚染水を汲み上げ、原子炉内部をドライアップし、7年内に建屋内部を止水処理し、これを解凍するというものであった。

 

この凍土壁工法は、世界的にも大規模かつ長期間の運転実績がないばかりか、地下水流のある場所では不適な工法とされているものである。また、凍結解除の要件である建屋内のドライアップや止水工事は実現可能性を欠くものであり、緊急性・確実性が求められる本件事故の汚染水対策として、不適切な工法である。しかし、国は、本件事故に対する損害賠償責任を認めていないため、工法の確立している遮水壁設置に国費を拠出することはできないとし、実証実験としての凍土壁設置のために国費を拠出できるとしたものである。2014年3月31日の原子力規制委員会における特定原子力施設監視・評価検討会等において、凍土壁設置後の建屋内部の止水工事は極めて困難を伴うとの指摘もあったが、原子力規制委員会は、同年5月27日に工事着手を容認し、6月2日から工事が開始された。

 

果たして、その後の凍土壁設置工事は難航して今日に至っているが、凍土壁設置の基本方針は変更されず、高濃度汚染水は増加し続けている。したがって、遅きに失するが、不適切な対応を繰り返してきた汚染水対策の早期かつ抜本的見直しが必要である。

 

(4) 原子力規制法制における問題

原子力規制委員会が「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(以下「原子炉等規制法」という。)に基づき定められた「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則」第55条及びその解釈によれば、重大事故に至った場合に工場等外への放射性物質の拡散を抑制するために必要なことの一つとして、「海洋への放射性物質の拡散を抑制する設備」の設置・整備が求められている。しかし、福島第一原発には、上記のとおり、放射性物質を含む汚染水の拡散を抑制する設備が整備されていない。

 

また、福島第一原発は特定原子力施設に指定されているので、原子力規制委員会は、特定原子力施設に係る事業者が提出した防護措置に関する実施計画について、その変更を「命ずることができ」(「原子炉等規制法」第64条の3第4項)、必要な防護措置を講ずることを「命ずることができる」(同条第6項)とされている。しかし、「できる」との規定にとどまることから、原子力規制委員会は積極的に適切な措置を命じるのではなく、「原子力災害対策特別措置法」に基づく政府の措置の監視役にとどまっている。

 

しかも、原子力規制委員会は、海洋汚染防止策の実現に向けた有効な監視活動をせず、凍土壁について特定原子力施設監視・評価検討会でその有効性の検討は行ったものの、工法等に関する専門的知見を欠き、監視・評価を継続することで工事着手を容認してきた。結果として、不適切な汚染水対策を排除できず、時間と費用を無駄にし、汚染水を増加させ、事故の収束を遅らせることになった。

 

そもそも汚染水対策として、技術的にも疑問の多い凍土壁工法がとられてきたのは、国の責任として、長期的な事故収束を見据えた確実な汚染水対策を緊急に行う必要性の認識を欠いていたからである。それに加え、汚染水対策が、「原子力災害対策特別措置法」に基づき、経済産業省主導の下で東京電力によって行われ、原子力規制委員会が、その監視・助言役にとどまってきたことも、凍土壁方針を変更できないまま今日に至った大きな理由である。

 

3 早急に求められる汚染水対策

福島第一原子力発電所は、現在も、日々大量の放射能汚染水を発生し続けている。汚染水は海洋を通して国際社会へも影響を及ぼすものであるから、確実に汚染水の増加と流出を止めることを最優先とし、一切の制約なくあらゆる資源を投入し、国が責任をもって主体的に汚染水の拡散を防止すべきである。

 

この点、地盤工学会は、2014年9月、長期的な遮水工事において実績のある地中連続壁工法を主体とする工法により、原子力建屋基礎の地盤に遮水層を設け、汚染水をその場所で水密する方法をとることが第一であり、その水密された地下水の取出しの具体化は未来の世代と協働して技術開発することが必要であるとの見解を示した。

 

したがって、国は、福島第一原発における地下水の遮水と放射能汚染水を確実に閉じ込めるために、直ちに凍土壁設置工事を中止し、地盤工学会が提案している長期の遮水工事において実績のある地中連続壁工法を主体とする工法により、原子炉建屋の周囲に恒久的な地下水遮水壁を建設すべきである。

 

4 汚染水処理に絡む労働者被ばくの問題

(1) 高濃度放射線下での事故処理作業に従事する労働者の被ばく問題は、汚染水処理に関わる重大な人権問題であるとともに、汚染水対策の帰趨を左右する重要な問題である。

 

(2) 汚染水処理をはじめとする事故処理作業においては、必然的に労働者の被ばくを伴う。労働者の被ばくは、本来的にその生命や健康を害しかねない人権上の問題であるから、事故処理のため必要やむを得ないものであったとしても、その被ばくは最小限度に抑えられなければならないものである。

 

国や東京電力は、事故処理というだけで安易に労働者を被ばくさせる状況に置いてはならないし、作業工程などを十分に吟味して、被ばくを最小限に抑えるような施策を講じなければならない。事故処理を実現するために労働者の許容線量を高く定めることがあってはならない。

 

ところが、2015年6月30日に東京電力が公表した「福島第一原子力発電所作業者の被ばく線量の評価状況」によると、既に累積被ばく量が100mSvを超えている労働者が174名であり、その予備軍ともいえる50mSv超100mSV以下の被ばく労働者は2267名にのぼっている。また、本来の許容限度であった5mSvを超える被ばくを強いられている労働者に至っては、2万669名にものぼる。汚染水対策との関係でいえば、実現可能性を欠く凍土壁及びドライアップ・止水工事の非現実性などを十分検討をしないまま、既に1年半にわたって凍土壁設置工事に多数の労働者を従事させており、多数の労働者が無用な被ばくを強いられているといえる。

 

高濃度放射線量の現場にいる労働者が、積算被ばく線量が高くなって作業に従事できなくなると、事故処理に従事する労働者がいなくなる懸念がある。

 

(3) 汚染水処理に従事する労働者は、健康被害及びそれに伴う失職の危険にさらされている。国及び東京電力は、早急に汚染水処理等に従事する労働者の被ばく状況を継続的かつ正確に把握し、情報を適切に管理して労働者本人に開示し、その上で、労働者に対する必要な健康保護及び生活支援を十分に行うべきである。具体的な生活支援としては、危険な作業に伴う生活保障のために東京電力から支払われるはずの危険手当の支払の徹底及び許容限度との関係で働けなくなった労働者に対する一定期間のしかるべき休業補償等が必要である。

 

5 放射線量の計測と情報公開

子ども・被災者支援法第6条は、国は放射性物質の種類ごとに汚染の状況を継続的に調査し、調査結果を随時公表すると定めている。しかし、これまでのところ、モニタリング調査もその結果の公表も不十分である。とりわけ、海洋や河川については、海域や水域、生物の生息域によって、モニタリングの実施主体が、環境省、国土交通省、原子力規制委員会、福島県等分散しており、包括的なモニタリングがなされていない。

 

よって、国は、環境の放射性物質による汚染状況の観測、監視を行い、他機関の観測結果と併せて、放射性物質の拡散、汚染の状況、将来予測など、放射性物質による汚染に関する情報を、即時に一元的に公開すべきである。

 

第3 放射性物質に汚染された廃棄物等の処理について

1 特措法における「特別な管理が必要な程度に事故由来放射性物質により汚染された物」の該当性の基準の引下げ

(1) 「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(以下「廃棄物処理法」という。)第2条第1項は、「廃棄物」の定義をしているが、そこでは、廃棄物の定義から「放射性物質及びこれによって汚染された物」を除外している。

 

そして、「放射性物質及びこれによって汚染された物」に該当するか否かを定める基準(この基準は、放射性物質利用に伴い発生する廃棄物等の処理等の安全性のための最低限の基準であり、クリアランスレベルと呼ばれる。)については、例えばセシウム134及びセシウム137については、合計100ベクレル/kg以下とされている(「精錬事業者等における工場等において用いた資材その他の物に含まれる放射性物質の放射能濃度についての確認等に関する規則」第2条第1項第1号、「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」第33条の2第1項、同施行規則第29条の2、さらにそれを受けた「放射線を放出する同位元素の数量等を定める件」(平成12年科学技術庁告示第5号)第27条)。

 

上記のクリアランスレベルに照らして、「放射性物質及びこれによって汚染された物」に該当する物は、廃棄物としての処理はできず、低レベル放射性廃棄物処理施設で長期保管しなければならないなど厳格な管理が必要とされている(「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」第58条、「核燃料物質等の工場又は事業所の外における廃棄に関する規則」第2条第1号)。

 

(2) ところが、特措法第17条第1項は、本件事故により同原発から放出された放射性物質(以下「事故由来放射性物質」という。)による環境汚染への対処について、「環境大臣は、前条第1項の規定による調査の結果、同項各号に定める廃棄物の事故由来放射性物質による汚染状態が環境省令で定める基準に適合しないと認めるときは、当該廃棄物を特別な管理が必要な程度に事故由来放射性物質により汚染された廃棄物として指定するものとする。」とした(以下、特措法第17条第1項の規定による指定に係る廃棄物を「指定廃棄物」という。)。さらに、特措法施行規則第14条は、上記「環境省令で定める基準」について、「事故由来放射性物質であるセシウム134についての放射能濃度及び事故由来放射性物質であるセシウム137についての放射能濃度の合計が8000ベクレル毎キログラム以下であることとする。」と規定した。そして、指定廃棄物については、環境省令で定める基準に従い、国が収集、運搬、保管及び処分をしなければならないものとされた(特措法第19条、第20条)。

 

その結果、放射能濃度が8000ベクレル/kg未満の事故由来放射性物質によって汚染された物については、「放射性物質及びこれによって汚染された物」に該当しないものとされ、放射性物質が含まれていない廃棄物同様、廃棄物処理法による焼却や埋立てができることとなった(特措法第22条)。

 

(3) しかし、指定廃棄物の指定基準を8000ベクレル/kg とすることは、放射性廃棄物としてのクリアランスレベルを80倍に緩和するものであり、種々の問題点がある。これらの問題点について、当連合会は、2015年7月16日付け「放射性物質汚染対処特措法改正に関する意見書」(以下「特措法改正に関する意見書」という。)において指摘した。

 

(4) ところで、クリアランスレベルの値を緩和した廃棄物の処理基準を設けることには多くの問題があることを踏まえ、当連合会は、特措法が制定される前、「放射性廃棄物かどうかを区別する基準については、現行のクリアランスレベルである10μSv/年を基本として定める値(セシウム137については、100ベクレル/kg)によるべきであり、したがって、100ベクレル/kg 以上のものについては、放射性廃棄物として厳重な取扱いが必要であるものとすべきである。」という意見を表明した(2011年7月29日付け「放射能による環境汚染と放射性廃棄物の対策についての意見書」)。

 

(5) その後、国は、 前述した特措法で、指定廃棄物の指定基準を制定し、同法附則第5条において、「政府は、この法律の施行後3年を経過した場合において、この法律の施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。」と定めた。

 

当連合会も、同年9月20日付け「放射性汚染物質対処特措法施行に当たっての会長声明」で、「政府は、…少なくともセシウム137が100ベクレル/㎏以上であれば、放射性廃棄物として、通常の埋立て処理ではなく、特に厳重な処理を定めるべきである。」とした上で、特措法附則第5条の規定を踏まえ、「放射性廃棄物の処理に係る科学的知見は今後、急ピッチで増進することが確実であるから、特措法の施行については適宜見直しを図るべきであ」るとの声明を公表し、再度、意見表明した。

 

(6) 国は、上記特措法附則第5条の規定を踏まえて「放射性物質汚染対処特措法施行状況検討会」を設置して見直し作業を進めている。しかし、上記検討会において、指定基準については議題に乗せることすらしていない。

 

(7) 上記のような国の見直し作業の状況や、特に福島県内を中心にセシウム134及びセシウム137の量が100ベクレル/kgを超えている汚染廃棄物が大量かつ広範に存在しており、その処理が切迫した状況であることに鑑みて、当連合会は、特措法改正に関する意見書において、それらの現状を総合的に考慮した上で、国は、「指定廃棄物の指定基準の適用について一定期間の経過措置を講じるなど現場の混乱を防止するための配慮を行うことを前提として、特措法施行規則第14条を改正し、現在の指定廃棄物の指定基準である『8000ベクレル/kg超』という数値を、放射性物質利用に伴い発生する廃棄物等の処理等の安全性のための最低限の基準であるクリアランスレベルが100ベクレル/kgであることを十分踏まえて、相当程度引き下げるべきである」という意見を表明した。

 

(8) この指定基準は、放射性物質による汚染から住民の生命と健康及び環境を守るために極めて重要な問題である。よって、国は、指定廃棄物の指定基準の適用について一定期間の経過措置を講じるなど現場の混乱を防止するための配慮を行うことを前提として、クリアランスレベルが100ベクレル/kgであることを十分踏まえて、相当程度引き下げる見直しをすべきである。

 

2 「当該廃棄物を特別な管理が必要な程度に事故由来放射性物質により汚染された廃棄物」(指定廃棄物)の指定手続の改正の必要性

特措法第18条第3項は、環境大臣が「特別な管理が必要な程度に事故由来放射性物質により汚染された廃棄物」と指定するためには、当該廃棄物の占有者からの申請が必要と規定しており、環境大臣は、当該廃棄物の占有者からの申請がなければ、指定廃棄物と指定することができない。

 

特措法改正に関する意見書において、その結果生じている問題点について指摘したが、この点についても国はいまだに態度を改めていない。

 

そこで、当該廃棄物の事故由来物質による汚染の状態が、指定廃棄物の指定基準に該当すると認められるときは、環境大臣が当該廃棄物の占有者からの申請がなくても指定廃棄物と指定できるようにすべきである。

 

3 特定廃棄物等の処理(焼却及び埋立て)と住民参加の充実について

(1) 特定廃棄物等の処理基準の問題点

「特定廃棄物」とは、特措法第20条で定める廃棄物であるが、これには、「対策地域内廃棄物」(特措法第13条)及び「指定廃棄物」(同法第17条第1項)が含まれる。「対策地域内廃棄物」とは、「その地域内において検出された放射線量等からみてその地域内にある廃棄物が特別な管理が必要な程度に事故由来放射性物質により汚染されているおそれがあると認められることその他の事情から国がその地域内にある廃棄物の収集、運搬、保管及び処分を実施する必要がある地域として環境省令で定める要件に該当する地域」(同法第11条第1項)内にある廃棄物と定義されているが、これは、福島第一原発の20km圏内を中心とした地域内の廃棄物である。一方、指定廃棄物は、対策地域外ではあるが、福島県及びその周辺の都県内の廃棄物のうち、環境大臣の指定を受けたものを指している。この特定廃棄物の処理基準について、特措法第20条は、環境省令で定めるものとし、環境省令である特措法施行規則第25条が焼却処理の基準について、同規則第26条が埋立処理の基準についてそれぞれ規定している。また、焼却処理をした後の灰の放射能濃度が指定基準を超えることとなる、事故由来放射性物質によって汚染された廃棄物(特定廃棄物と併せて以下「特定廃棄物等」という。)に関しては、指定廃棄物に準じた処理の基準が設けられるべきであろうと考えられるが、特措法は何ら規定を設けていない。

 

当連合会は、特措法改正に関する意見書において、特措法を制定するに当たり、国が、放射性物質の危険性を考慮した安全性についての調査・検討を行っていないことを指摘した。しかし、国は、いまだにこのような点に配慮した見直し作業を行ってはいない。

 

そこで、国は、特措法及び関連法令を改正し、より安全性に配慮した特定廃棄物等の処理基準を策定すべきである。

 

(2) 住民参加の欠如による問題点と制度的整備について

また、特措法改正に関する意見書では、特措法には住民参加手続に関する配慮が欠如していること、適切な環境アセスメント制度・安全審査制度が欠如していることを指摘した。しかし、現在においても、国は過去に混乱を生じた原因等を検討した上での特措法の見直し作業を行っていない。

 

そこで、国は、次のような適正な制度を設けるべきである。まず、特措法に基づく最終処分場の選定や、焼却炉の建設等に当たって、関係住民の範囲を広く設定し、その住民らに対して計画を策定する前の段階からその内容を開示して、十分な説明を行い、住民らの疑問点に対しても適切に対応し、その計画の当否も含めて住民らの意見を適切に反映することができるよう、意思決定に際して広く住民が参加できる制度を設けるべきである。

 

次に、住民参加制度と並んで、焼却施設や最終処分場の建設・管理・運用に当たっては、適切な環境アセスメント制度・安全審査制度などを作るべきであり、かつ、委員が住民代表や住民の推薦する専門家が半数を占め、議事が必ず公開される等の要件を備えた、独立・中立の立場に立つ監視機関の設置もされるべきである。

 

(3) 焼却処理や埋立処理をするまでの間の環境保全策について

特定廃棄物については、一部地域では、既に、コンクリートの箱に入れて管理する仕組みをとるなどの対処をしている。

 

より安全性に配慮した特定廃棄物等の処理基準が策定され、適正な制度が作られるまでの間は、特定廃棄物等の処理については、安全性が的確に確認でき、汚染廃棄物が環境中に拡散しないよう、管理を強化した方法をとり、かつ十分な情報公開と住民参加の下で、暫定的に地上保管とするのが相当である。

 

4 指定廃棄物に対する対応策について

特定廃棄物のうち指定廃棄物について、国は、2011年11月11日に特措法第7条に定める基本方針を閣議決定した。

 

国は、上記閣議決定を具体化するものとして、2012年3月30日に「指定廃棄物の今後の処理の方針」を定め、指定廃棄物が多量に発生し、施設において保管がひっ迫しているとされた都県においては、各都県内に集約して必要な最終処分場を確保する方針を定め、最終処分場候補地の選定作業を進めることとした。国は、この方針の下で、具体的には、宮城県、栃木県、茨城県、群馬県、千葉県の5県の各県内に1か所の最終処分場を作ろうとしている。

 

国は、上記のような方針の下、2012年9月、栃木県、茨城県における指定廃棄物最終処分場予定地をそれぞれ選定したが、両県ともに地元で強い反対運動が起こったため、国はそれらの選定を撤回した。国は、その後、栃木県においては、更に塩谷町内の国有地を選定したが、同町を中心に、やはり強い反対運動が起こっている。国は、千葉県においても、2015年4月、千葉市内の東京電力株式会社敷地内を指定廃棄物最終処分場予定地として選定したが、強い反対運動が起こりつつある。

 

茨城県では、指定廃棄物を一時保管している同県内14市町の首長らが、環境省との会議において、各市町において分散保管するという方針を示し、環境省もそれを否定しないという態度をとっている。

 

各地で最終処分場に対する反対運動が勃発し、深刻化・長期化し、住民の理解が得られない理由の一つは、住民への説明と住民参加が不十分なものにとどまっているからである。また、国は、水源地や傾斜地、災害発生懸念地を候補地に選定しているが、そのような場所が選定された理由や手続にも不明な点が多い。そもそも、前記「指定廃棄物の今後の処理の方針」自体が、十分な国民の参加と情報公開を欠いたまま定められたものであり、そうして情報公開と参加を欠いたまま方針を決定したこと自体がその後の問題解決を困難にさせている原因である。

 

よって、国は、指定廃棄物について、宮城県、栃木県、茨城県、群馬県、千葉県において、各県ごとに1か所ずつ最終処分場を設置する等とした方針を撤回し、十分な情報公開と住民参加を尽くした上で、改めて指定廃棄物の処理方針を策定すべきである。

 

第4 結語

本件事故から4年半以上が経つが、第56回人権擁護大会の「福島第一原子力発電所事故被害の完全救済及び脱原発を求める決議」(2013年10月4日)において行った提言はいまだ実現まで道半ばである。当連合会は、同事故によって生じた生命の損失を含む巨大な人権侵害を改めて直視し、喫緊の課題である健康被害の防止や被災者への支援、汚染水の増加と漏出防止、放射性物質に汚染された廃棄物の適正処理などについて、 国等に対して、適切な対策をとるよう強く求める。