貧困と格差が拡大する不平等社会の克服を目指す決議

現在、我が国では、貧困と格差の拡大・所得の二極化が進行し続けている。

 

労働者の賃金は1997年をピークに減少傾向にあり、全雇用労働者のうちに占める非正規労働者の割合も38%を超えるなど、不安定・低賃金労働が蔓延している。また、生活保護利用者は増加し続け、経済・生活問題を理由とする自殺は依然として年間5000人を超え、餓死・孤独死の報道も後を絶たない。このように拡大する貧困問題に対しては、税と社会保障による所得再分配機能の重要性が高まる。しかしながら、社会保障制度改革は、社会保障費を抑制する方向で行われており、国民の生活や老後に対する不安は高まっている。

 

憲法が保障する生存権や法の下の平等の観点から見て、貧困と格差が拡大する中において、社会保障費を削減し所得再分配機能を弱めて生存権保障を脅かす「不平等社会」の克服は、喫緊の課題である。特に、社会保障制度改革においては、ことさらに「自助」や「共助」を強調して、「公助」すなわち国の責務を後退させることがあってはならず、所得再分配政策による不平等の克服が要請される。したがって、社会保障については、その権利性を明確にするとともに、不平等の克服が公的責任であることを明確にし、年金・医療・介護や住宅保障等を含む充実した内容とすることが必要である。また、社会保障制度と一体として所得再分配機能を担う税制については、憲法第13条、第14条、第25条、第29条などから導かれる応能負担原則の下、所得再分配機能に配慮し、例えば、生存権保障の税制面における反映として生活費控除原則を徹底した課税最低限の設定や、資産所得課税のあり方、減税措置等の見直しなども含めた税制の再構築が必要である。さらに、社会保障や税制・財政のあり方の議論においては、関係当事者が対等に参画することを可能にするとともに、社会保障の権利性や応能負担原則など、憲法上の原則に基づいた議論が定着するような施策が重要である。

 

よって、当連合会は、国に対して、この「不平等社会」を克服するために以下の施策を求める。

 

1 社会保障制度改革においては、公的責任を軽視した社会保障制度改革推進法を抜本的に見直すとともに、社会保障の権利性を明確にし、社会保険中心主義から転換した税財源による普遍主義に基づく医療・年金・介護や、家賃補助などの住宅保障を内容とする社会保障基本法を早急に制定すること。

 

2 税と社会保障による所得再分配機能の重要性及び応能負担原則に基づく実質的平等の確保の観点から、生活費控除原則を徹底した課税最低限の設定や、資産所得課税の減税措置等の見直しなど、担税力に応じた税制の再構築を行うこと。

 

3 政策形成への関係当事者の対等な参画と、憲法上の原則に基づいた議論の定着のために以下の政策を実施すること。

 

(1) 税制調査会、財政制度等審議会及び規制改革会議等の諮問機関・審議機関における議論の公開及び透明性の確保とともに、使用者、事業者、労働者、消費者など関係当事者が対等に参画できる手続を保障すること。

 

(2) 学校教育課程等において進められている法教育の取組について、主権者教育の観点でこれを更に推進するとともに、社会保障、税制及び財政等の教育についても、これらを国民の権利、民主主義の観点から更に充実したものにすること。

 

当連合会は、貧困と格差の解消に向け、社会保障制度及び税制・財政等に関する情報の多様性の確保、これらの問題に取り組む当事者団体、市民団体及び労働団体等の活動に対する支援、法教育をはじめとした教育現場への協力等を行うとともに、税制を含めた社会保障制度についても今後研究を深め、継続的に提言をしていくなど、「不平等社会」を克服する取組を積極的に進めていくことを決意する。

 

以上のとおり決議する。

 

2013年(平成25年)10月4日
日本弁護士連合会


提案理由

第1 「不平等社会」日本の実態 

現在の我が国は、以下に見るとおり、貧困と格差が拡大・深刻化し、所得の二極化が進んでいる。
このような現状において、社会保障費が削減され所得再分配機能が弱められることにより、憲法が保障する国民の生存権は脅かされており、「不平等」な社会となっている。

 

1 貧困の拡大  

我が国においては、生活困窮者は増大の一途をたどっている。

 

生活保護利用者は、2011年以降、200万人を超える状態が続くとともに、毎月のように「過去最高」を更新し続けている。国民健康保険料滞納世帯は、2006年には480万世帯に達し、その後も400万世帯前後で推移しており、就学援助の支給対象となった小中学生は、2011年度において、過去最高の156万7831人となっている。そして、政府が発表する「ホームレス」も近年は減少傾向にあるものの、2012年も1万人近くに上り、毎年のように餓死・孤独死が報道されている。

 

また、厚生労働省の調査では相対的貧困率が2009年に16%に達し、特に一人親世帯の相対的貧困率は、2011年度に50%を超え、深刻である。国際比較においても、OECDが2006年に公表したデータによれば、我が国の相対的貧困率は、加盟国中アメリカに次いで2番目に高く、2011年に公表されたデータでは加盟国が増えたこともあり34か国中6番目となったが、平均よりも明らかに高い状態が続いている。

 

2 削減される社会保障費と生存権の危機 

現在、人々の暮らしを支えるべき社会保障制度の重要性は高まっているが、社会保障費の削減が続いており、例えば、生活保護については、老齢加算の廃止に続き、保護基準自体の引下げが決まった。生活保護基準については、デフレと第1・10分位の消費水準との比較を理由として、生活保護の生活扶助基準を最高で10%引き下げることを決め、本年8月から実行されている。

 

さらに、生活保護利用の申請自体を抑制する方向での生活保護法の改正も現実味を帯びている。この改正が実現すると、もともと諸外国の保護利用の実態に比べて極めて低い補足率が更に低下するおそれが指摘されており、生活保護が利用できないことによる餓死・孤独死の増加も危惧されるなど、座視できない深刻な事態と言わざるを得ない。

 

15年連続で3万人を超えていた年間の自殺者数は、2012年は2万7858人となり、経済・生活問題を理由とする自殺者も5219人と減少したが、社会保障費の削減と生活保護の窓口対応の強化等によって、再度増加に転じる懸念も否定できない。

 

第2 貧困の拡大の要因 

我が国の「不平等社会」の要因である「貧困の拡大」の背景には、以下のとおり不安定・低賃金労働の蔓延、もともと脆弱な社会保障、子どもの貧困による貧困の再生産が存在し、これらによって機会の不平等が生まれ、階層の固定化が生じていることが挙げられる。

 

1 不安定・低賃金労働の蔓延

我が国においては、働いても人間らしい生活を営むに足る収入を得られないワーキングプアが急増し、年収200万円以下で働く民間企業の労働者は、2006年以降6年連続で1000万人を超えた。ワーキングプア拡大の主たる要因は、労働分野の規制緩和が推進されたことにより、雇用の調整弁として非正規雇用が急増したことにある。非正規労働者は、2012年には2043万人となり、全雇用労働者の38.2%と過去最高に達したが、非正規労働者の賃金水準は、賞与を含めても正規労働者の約5割に過ぎない。また、偽装請負、残業代不払い等の違法状態の蔓延など、不安定就労・低賃金労働も改善されていない。

 

憲法は団結権、団体交渉権、団体行動権を保障し(憲法28条)、これにより、一人ひとりでは交渉力の弱い労働者が団結することによって使用者と対等の立場を確保し、交渉を通じて労働条件や職場環境の向上、紛争の予防的解決等を図ることを期待しているが、労働組合全体の組織率は2012年時点で僅か17.9%と低下傾向にあり、また、産業別組合が組織されていないために中小零細企業(100人未満の事業場の組織率は1%未満)や非正規労働者層は、事実上未組織状態に置かれているのが現状である。

 

2 脆弱な社会保障制度の実情

我が国では、男性を一家の働き手の支柱とし、年功序列制度と終身雇用制度に基づく賃金体系と「国民皆保険」を政策の中心として位置付けてきた。そして、社会保障制度が本来担うべき役割の多くを、企業、地域及び家族の負担と責任に委ね、出生から生涯を終えるまでの、漏れのない社会保障制度を構築することを怠ってきたと言っても過言ではない。

 

医療については、医療費抑制政策により、医療費の自己負担割合は増加している。

 

年金については、国民皆年金体制が成立しているが、国民年金を40年間納付したとしても、基礎年金額は夫婦ともに高齢者の世帯が受給する生活保護基準にも及ばない。

 

そして、住宅の確保については、国民の自助努力と位置付けられ、近時は、公営住宅の建設も抑制されている。その結果、家賃負担に耐えられなくなって、「ネットカフェ難民」や野宿等のホームレス状態に陥る人が後を絶たない。

 

このように、我が国の社会保障制度はセーフティネットとして十分に機能しておらず、一旦収入の低下や失業が生じると社会保障制度によっても救済されず、蓄え、家族、住まい、健康等を次々と喪失して、根本から生存権を脅かされていくこととなる。

 

3 「子どもの貧困」による貧困の再生産と機会の不平等による社会階層の固定化

社会保障費の削減は、子どものいる家庭への給付削減・負担増加を伴い、子どもを育むべき低所得者層の家庭の経済的基盤が脆弱になっていった。

 

加えて、公教育が縮小され教育の私費負担が拡大している。

 

そのため、貧困の拡大により、保育料、給食費、高校授業料などの滞納から、高校中退を余儀なくされたり、大学進学をあきらめたりする子ども、医療を受けられずに心身の健康を悪化させる子ども、家族の中で育つ機会を奪われ貧困に直面させられている子どもが増加している。

 

そして、本来保障されるべき教育・支援を奪われた子どもが、成長後も貧困から脱出できず、親の貧困が子どもの貧困につながる「貧困の連鎖」の構造が作られている。

 

さらに、不安定・低賃金労働の蔓延、社会保障費の削減及び子どもの貧困による貧困の再生産は、個人の努力では克服困難な「機会の不平等」を生じさせている。

 

すなわち、①生まれた家庭の経済事情によって受けられる教育に格段の差が生じること等により、学歴等が大きく左右され、②経済状況や学歴等により、起業の可能性や正規従業員への就職等、将来の所得力が事実上制限され、③学歴等の理由から非正規雇用になれば、賃金等の労働条件や社会保障制度について不十分な待遇しか受けられない上、昇給やスキルアップの機会も極めて制約され、④これらの積み重ねにより年金等の社会給付も含めた生涯にわたる不平等を強いられる。

 

そして、その経済的・社会的ハンディが次の世代に連鎖することとなり、この貧困の連鎖が、社会階層の固定化を生じさせている。

 

第3 所得再分配機能の重要性

貧困と格差が拡大している現状の中で、税と社会保障による所得再分配機能は極めて重要なものとなっている。税制においては応能負担の原則が要請され、実質的平等の観点から、担税力に応じて税負担を公平に行うことが要請されている。以下、その現状と背景を確認する。

 

1 税と社会保障制度による所得再分配の必要性

技術革新、グローバル化、高齢化等の進展による格差の拡大に対するための施策として、税と社会保障による所得再分配機能がある。すなわち、富の偏在に対して、課税面においては、低所得者への生活費控除原則や高額所得者に対する累進課税等による課税をはじめ、幅広い政策により実質的な平等を目指す機能であり、社会保障においては、低所得者などの社会的弱者に対して社会保障給付を行うことにより実質的な平等を図る機能である。

 

この所得再分配機能を十分なものとするためには、課税面において、所得等にふさわしい応分の負担を求める「応能負担の原則」が要請され、担税力に応じた税負担が必要となる。

 

所得の再分配は、生存権を保障するなど福祉主義を採用する憲法においては当然に予定されている機能であり、応能負担の原則も、憲法第13条、第14条、第25条、第29条などから要請されるものである。

 

2 課税における応能負担原則に反する現状

所得が1億円を超える人の多くは、低率・分離課税の対象となる株式譲渡益や株式配当の所得に占める割合が高いことなどから、2011年度の申告納税者の所得税負担率は、国税庁「申告所得税標本調査結果(税務統計から見た申告所得税の実態)」によると、所得1億円の人の28.9%をピークに、10億円では23.5%、100億円では16.2%まで低下する。この点について、応納負担の原則に反し、逆進課税になっている点で問題がある。

 

さらに、所得税率と比べると、課税所得330万円超695万円以下の所得税率が20%である(なお、平成23年分の平均所得金額は555万円である。)のに対して、上記のように所得10億円の人の所得税負担率は23.5%と大差なく、所得100億円の人の所得税負担率はこれより低い状態となっている。

 

3 所得税基礎控除額の問題

高額所得者に対する資産税の課税負担が軽減される一方で、個人所得課税については問題があり、見直しが必要である。すなわち、所得税では給与所得控除、社会保険料控除、基礎控除、配偶者控除、扶養控除などの控除総額が課税最低限となっているが、これらの控除の趣旨は生存権の反映としてなされる人的控除であるところ、1965年までは基礎控除の額が生活扶助費よりも高額となっていたものの、その後は生活扶助費との逆転が生じている。

 

4 資産所得の分離課税と減税措置の問題

株式、金融資産などによる資産所得(不労所得)は、所得を合算して税率を決める総合課税ではなく、分離課税を選択することができる(一部は源泉分離課税)。そのため、資産所得については、分離課税を選択し、所得を合算した場合に適用される所得税率よりも低い税率の適用を受けることができる。

 

上場株式配当に対する減税措置については、本年に改正がなされたが、分離課税の資産所得に対する所得税率は15%となっており、前述した平均的給与所得者の給与に対する税率よりも低い。

 

他方、相続税についても、過去75%に及んだ最高税率は、2003年以降引き下げられ、現在は50%になっているなど、高額資産保有者の相続税の負担は軽減されている。

 

高額所得における税負担率が低くなる主な原因は、資産所得の分離課税と減税措置等にあると言われており、実際に、合計所得金額のうち株式譲渡による所得金額の占める割合は、所得1億円から100億円にかけて上昇しているという統計もある。

 

5 社会保障制度の所得再分配機能としての問題点

前述のとおり、我が国の社会保障制度は脆弱であり、所得再分配の機能を十分に果たしていない。

 

まず、我が国の社会保障給付費は、対GDP比で欧州諸国よりも少なく、「平成24年度版厚生労働白書」によれば、2007年時点においてスウェーデンやフランスが30%近いのに対し、我が国は20%にも達していない。

 

また、社会保障給付の内訳についても、「平成24年度版厚生労働白書」によれば、欧州諸国と比べて高齢者関係・医療関係に偏り、家族関係支出・失業関係支出・住宅関係支出などの割合が少ない。

 

その結果、我が国は所得再分配機能が低く、所得再分配前後のジニ係数の改善度による国際比較においても、OECD加盟国の中では最低レベルにあり(平成23年6月「産業構造審議会基本政策部会資料」による。)、子どもの貧困率においては、加盟国中唯一、所得再分配前より所得再分配後の方が高くなるという逆転現象を示している(OECD「Growing unequal?(2008)」(平成23年版厚生労働白書のデータ)による。)。

 

第4 「不平等社会」克服の視点 

以上の観点からすれば、「不平等社会」の克服のためには、まず、貧困を生む要因である不安定・低賃金労働の解消、社会保障制度の充実及び子どもの貧困対策等を行い、それによって格差の固定化、社会階層の固定化を防ぐとともに、加えて、社会保障基本法の早期制定により、社会保障の内容の具体化と権利性の明確化を行い、社会保障費削減を止めることが不可欠である。

 

そして、税制においても、生存権保障の趣旨を生かすよう所得税の所得控除を見直すとともに、応能負担原則による税制の再構築を行う必要がある。

 

また、税制、財政、社会保障等に関する議論を国民全体の関与・監視の中で行うとともに、社会保障の財政における不可侵性、税制における応能負担の原則等についての国民の理解・認識を定着・推進させるための教育制度の整備が必要である。

 

1 貧困を生む要因の排除

貧困を生む要因を排除するには、具体的には、社会保障制度の整備・充実、労働者の権利の確立及び子どもの貧困対策等が必要である。これらの点について、当連合会は、これまでも人権擁護大会において、2006年の第49回大会「貧困の連鎖を断ち切り、すべての人の尊厳に値する生存を実現することを求める決議」で生活保護の運用改善や生活保護に至る前のセーフティネットの整備等を、2008年の第51回大会「貧困の連鎖を断ち切り、すべての人が人間らしく働き生活する権利の確立を求める決議」で正規雇用の原則、均等待遇、最低賃金の大幅引上げ、使用者の違法行為に対する監督強化等を、2010年の第53回大会「貧困の連鎖を断ち切り、すべての子どもの生きる権利、成長し発達する権利の実現を求める決議」で保育施設の拡充、教育無償化、一人親家庭の支援などを、それぞれ提言してきた。しかし、以上の提言の多くがまだ実現していない現状にある。

 

2 社会保障に関する権利性の確認と社会保障基本法の制定

当連合会は、2011年の第54回大会において「希望社会の実現のため、社会保障のグランドデザイン策定を求める決議」を採択し、雇用、子育て、教育、住宅なども含めた社会保障のグランドデザイン(全体構想)の策定及び憲法的理念を踏まえた社会保障基本法の制定などを提言している。

 

現在、社会保障制度改革推進法に基づき、生活保護基準の引下げを手始めとして、医療・年金・介護の各社会保険制度の給付削減と負担の増大が進められようとしているが、当連合会は2013年5月8日の「社会保障制度改革国民会議の審議のための意見書」においても前記提言を確認しており、社会保障に関する権利性の確認と社会保障制度の確立が急務である。

 

同時に、社会保障費の削減政策の見直しも必要である。

 

また、社会保障基本法については、国民の生存権を真に保障する内容でなければならない。ワーキングプアの増大、年収400万円から2000万円の層の減少等により、保険料とサービス利用時の自己負担分を支払うことができない人が激増している現状においては、医療・年金・介護の各社会保険制度について、社会保険中心主義の社会保障制度から、イギリス・イタリア・北欧諸国などのように、年金も含め税財源によるという普遍主義の原則に立った社会保障制度への転換の議論を行うべきである。

 

さらに、我が国では、住宅に関する社会保障制度は権利性がないが、健康で文化的な最低限度の居住環境で生活することは、生存権保障の重要な要素である。低所得のために住居を失うことや劣悪な居住環境での生活を強いられることはあってはならず、ヨーロッパで広く実施されている低所得者一般に対する普遍的な家賃補助制度を我が国でも創設すべきである。

 

3 所得再分配機能を重視した応能負担原則による税制の再構築

我が国において「不平等社会」を克服するためには、税制において、応能負担原則に従った適切な課税にり所得再配分機能を発揮させるという、憲法上の要請を十分に意識した議論がなされなければならない。

 

生活費控除原則は、応能負担原則の中でも重要なものであって、特に給与所得控除が受けられない低所得者への課税は、厳しいものとなっていることなどから、生活費控除原則を徹底した課税最低限の再検討がなされるべきであろう。

 

また、応能負担原則に基づく実質的平等の確保の観点からも、担税力に応じた資産所得課税のあり方、減税措置等の見直しなども含めた税制の再構築等が必要である。

 

4 政策形成過程の透明性と公正性

憲法は「租税法律主義」及び「財政民主主義」を規定し、何のために税金を使い、そのためにどの程度の税金をどのようにして徴収するかを国会、すなわち主権者たる国民から選ばれた議員で構成される議会が決め、民主政の過程を通じて国民の不断の監視の下に置くことを予定している。

 

税制調査会、財政制度等審議会、規制改革会議、産業競争力検討会議等、税制、社会保障制度、労働法制等を審議する場における政策形成過程の不透明、委員構成の不均衡は、審議過程における情報の公正性を欠くことにつながり、ひいては上記憲法の予定する民主主義の機能不全をも招く結果となる。

 

したがって、これらの重要な政策形成過程においては、議論の公開及び透明性の確保とともに、使用者、事業者、労働者、消費者など関係当事者が対等に参画できる手続を保障されるような制度が構築される必要がある。

 

5 学校教育課程等における教育内容の充実・制度化

大多数の国民は、義務教育及び高等教育を終えた後、労働者として社会に出て働き、消費生活を営み、税金や社会保険料を納める。しかし、学校教育課程において、自分が労働者となったときに身を守るための法的知識を教えられる機会は不十分であり、社会保障制度についてもその「権利性」をあまり学ぶことなく社会に出ているのが実態である。

 

労働現場における使用者側の違法行為への対抗や、生活に困窮した場合に必要な社会給付を受けるためにも、学校教育の果たすべき役割は大きい。

 

加えて、税制・財政の仕組みやそれに対する憲法上の原則についても国民に対して十分な教育がなされているとはいえない。「不平等社会」の克服には、社会保障の権利性についての認識の共有と、税制・財政に対する国民の参加と監視が重要であり、その点に関する教育制度の充実が求められる。

 

第5 国に対する提言

「不平等社会」克服のために、過去の人権擁護大会等において既に決議しているものに加え、喫緊の課題である以下の点について提言する。

 

1 社会保障制度改革においては、公的責任を軽視した社会保障制度改革推進法を抜本的に見直すとともに、社会保障の権利性を明確にし、社会保険中心主義から転換した税財源による普遍主義に基づく医療・年金・介護や、家賃補助などの住宅保障を内容とする社会保障基本法を早急に制定すること。

 

2 税と社会保障による所得再分配機能の重要性及びそのために不可欠な応能負担原則に基づく実質的平等の確保の観点から、生活費控除原則を徹底した課税最低限の設定や、資産所得課税の減税措置等の見直しなど、担税力に応じた税制の再構築を行うこと。

 

3 政策形成における関係当事者の対等な参画と、憲法上の原則に基づいた議論が定着するために重要な以下の政策を実施すること。

 

(1) 税制調査会、財政制度等審議会及び規制改革会議等の諮問機関・審議機関における議論の公開及び透明性の確保とともに、使用者、事業者、労働者、消費者など関係当事者が対等に参画できる手続を保障すること。

 

(2) 学校教育課程等において進められている法教育の取組について、主権者教育の観点で更に推進するとともに、社会保障、税制及び財政等の教育についても、国民の権利、民主主義の観点から更に充実したものにすること。

 

第6 当連合会の課題

客観的で多様な情報の発信が保障され、その中から国民が必要な情報を選択し、それに基づいて自己の意見を表明することは民主主義の基本であり、民主主義の確立・維持には不断の努力が必要である。

 

そして、格差が拡大して所得の二極化が進み、社会的力関係に圧倒的な差が存在する現在においては、当事者団体、市民団体及び労働団体等の果たすべき役割は大きい。これらの団体には、被害の救済、情報の提供、啓発、政策や新しい価値観の提言、事業者や行政の監視等、様々な役割が期待される。当連合会は、これらの団体の社会的意義・役割の重要性に鑑み、専門的見地に基づいて、その活動と連携していく。同時に、企業活動についても、消費者や労働者の人権に十分配慮し、社会的責任を果たすよう求めていく。

 

憲法は租税法律主義及び財政民主主義を採用しており、税制及び財政は民主主義・国民主権的観点からの議論が必要であり、税と社会保障を通した所得再分配を十分に機能させることが、生存権等の国民の人権保障につながるものである。

 

したがって、当連合会は、今後、税制を含めた社会保障制度についても、人権及び民主主義等の観点から調査・研究を行い、継続して提言を行っていくことを決意する。