恒久平和主義、基本的人権の意義を確認し、「国防軍」の創設に反対する決議

“不戦”は人類の等しく共有する痛切な願いである。日本国憲法は過去の軍国主義の歴史と先の大戦の惨禍への深い反省に基づいて、憲法前文に平和的生存権を謳い、憲法第9条に戦争の放棄と戦力を保持しないという徹底した恒久平和主義を定め、国家権力に縛りをかけた。この憲法前文と憲法第9条は、戦後68年間、戦争を防ぎ、我が国の平和を確保する上で重要な役割を果たしてきた。ところが今、この戦争防止のための条項をなくそうという憲法改正の動きが強まっている。

 

近時公表されている憲法改正草案等の中では、平和的生存権を前文から削除し、「戦争の放棄」の章題を変更した上、戦力の不保持・交戦権の否認を定める第9条第2項を削除して国際的軍事協力も任務とする「国防軍」等(以下「『国防軍』」という。)を保有する規定を設けるとするものがある。このような「国防軍」は、日本の国土防衛の枠を超えて、これまで、政府見解でも憲法上禁じられてきた集団的自衛権の行使を容認し、海外での権益を守るなどの名の下での軍事力の行使や、国際平和協力活動の名の下での海外での軍事活動に道を開くものとなる。さらに国民に向かっての治安維持活動も拡大する危険がある。

 

このような「国防軍」の創設は、国民の平和的生存権をはじめとする基本的人権を危うくし、かえって我が国の安全保障を損なうおそれが強い。

 

第1に、「国防軍」の創設は、自衛隊を、他国との軍事協力を可能にして、海外において同盟軍とともに武力行使をできる軍隊とすることを意味する。また、海外での権益を守るなどの名目で武力行使が際限なく拡大することへの歯止めがなくなるおそれがあり、憲法の基本原理である徹底した恒久平和主義を崩壊させて我が国を再び戦争へと導くおそれがある。

 

第2に、「国防軍」は軍事機密保護法の制定、一般裁判所と区別される軍事裁判所等の設置、緊急事態宣言などの法制を伴っており、これらは統治機構に対する国民の民主的コントロールを後退させて民主主義の基盤を掘り崩し、平和的生存権をはじめとする基本的人権の保障を極めて危うくする。

 

第3に、現在、北東アジアにおいては、様々な緊張関係が存在しているが、これらの紛争・対立は軍事力によって解決すべきものではなく、あくまで平和的方法による協調的・地域的安全保障の形成による解決こそが強く求められている。このような状況の中で自衛隊を「国防軍」とし、海外において戦争のできる軍隊とすることは、先の大戦の深刻な反省の下に採用された恒久平和主義を放棄するものと各国から受け取られ、北東アジアの緊張を増大し、かえって我が国の安全保障を損なうおそれが強い。

 

今、我が国に求められているのは、何よりも日本国憲法が目指す個人の尊重を根本とした立憲主義に基づく基本的人権の保障であり、軍事力によらない平和的方法による国際的な安全保障実現のためのリーダーシップの発揮である。

 

当連合会は、弁護士法の定める「基本的人権の擁護と社会正義の実現」という使命に立脚し、改めて日本国憲法の前文の平和的生存権や憲法第9条に示された基本原理である徹底した恒久平和主義の意義及び基本的人権尊重の重要性を確認し、ここに「国防軍」の創設に強く反対するものである。

 

以上のとおり決議する。

 

2013年(平成25年)10月4日
日本弁護士連合会


提案理由

第1 日本弁護士連合会の取組-人権擁護大会における宣言

当連合会は、1997年の憲法施行50年記念・第40回人権擁護大会において「国民主権の確立と平和のうちに安全に生きる権利の実現を求める」ことを宣言した。この宣言は、基地被害等の存在を指摘し、平和のうちに安全に生きる権利を実現することが「緊急にして最優先課題である」ことを強く訴えた。

 

2005年の第48回人権擁護大会では、「立憲主義の堅持と日本国憲法の基本原理の尊重を求める」ことを宣言した。この宣言は、日本国憲法が、戦争が最大の人権侵害であることに照らし、恒久平和主義に立脚するものであることを確認し、「日本国憲法第9条の戦争を放棄し、戦力を保持しないというより徹底した恒久平和主義は、平和への指針として世界に誇りうる先駆的意義を有するものである」とその意義を強調した。

 

2008年の第51回人権擁護大会では、「平和的生存権および日本国憲法9条の今日的意義を確認する宣言」を採択した。この宣言は、憲法第9条の今日的意義として、第1に、平和的生存権の具体的規範性、第2に、憲法第9条が、一切の戦争と武力の行使・武力による威嚇を放棄し、他国に先駆けて戦力の不保持、交戦権の否認を規定し、国際社会の中で積極的に軍縮・軍備撤廃を推進することを憲法上の責務として我が国に課したこと、第3に、憲法第9条が、現実政治との間で深刻な緊張関係を強いられながらも、自衛隊の組織・装備・活動等に対して大きな制約を及ぼし、海外における武力行使及び集団的自衛権行使を禁止するなど、憲法規範として有効に機能していることを確認した。その上で、「憲法は、個人の尊厳と恒久の平和を実現するという崇高な目標を掲げ、その実現のための不可欠な前提として平和的生存権を宣言し、具体的な方策として憲法9条を定めている」と指摘した。

 

これらの一連の宣言は、我が国の安全保障が平和的生存権及び徹底した恒久平和主義を基盤として確立されるべきことを要請するものであった。

 

第2 改憲論における「国防軍」

1 「国防軍」の構想

自由民主党(以下「自民党」という。)は、2012年4月、「日本国憲法改正草案」(以下「自民党草案」という。)を公表した。自民党草案は、前文から平和的生存権を削除し、現憲法の「第2章 戦争の放棄」という表題を「第2章 安全保障」に変えた上、第9条第2項を削除する。その上で第9条の2を新設し、その第1項で「国防軍」の保有を明記し、第3項で国際的軍事協力と在外邦人保護のための「国防軍」の利用を、第4項で「国防軍」の機密保持に関する事項を法律で定めるとし、第5項で軍事審判所の設置を規定する。さらに、第9条の3を新設し、「国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。」と定め、国民の領土等の保全にかかる責務も定める。

 

その上で、自民党草案は、新たな章として「第9章 緊急事態」を設け、緊急事態に関する第98条と第99条を規定する。

 

2 「国防軍」の内容

自衛隊は、その存在自体についての合憲性への疑念があるだけでなく、「個別的自衛権」という法的規範によって、これまでその存在と活動が大きく制約されてきた。自衛権行使の要件(①我が国に対する急迫不正の侵害(武力行使)が存在すること、②この攻撃を排除するため、他の適当な手段がないこと、③自衛権行使の方法が、必要最小限度の実力行使にとどまること)が定められ、政府は、1981年5月29日の政府答弁書において、集団的自衛権について「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもつて阻止する権利」と定義した上で、「我が国が、国際法上、このような集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上、当然であるが、憲法第9条の下において許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであつて、憲法上許されない」旨の見解を表明した。そして、この集団的自衛権の行使が憲法上禁止されているとの政府見解は、その後30年以上にわたって一貫して維持されている。

 

これに対し、「国防軍」は、憲法上、個別的自衛権により制約されるものではないとして、同盟国のために集団的自衛権を行使して同盟国とともに軍事活動を行うことに道を開こうとするものである。また、「国防軍」は領土・国民等の防衛という自衛のためだけでなく、「国益」のために軍事力を行使し、国際法上の交戦権を行使して戦争を行うことに道を開くこととなる。さらに、「自衛のための軍隊」という制約から、国内における治安対策としての出動についても大きな制約(出動要件等)を受けている自衛隊と異なり、「国防軍」は、国内において、法律の定めさえあれば国民に向かっての治安維持活動も拡大する危険がある。

 

第3 平和的生存権及び憲法第9条の立憲主義的意義

1 軍国主義の歴史と先の大戦の痛切な反省-不戦の誓い

日本は、第二次世界大戦が終了するまでの間、軍国主義の下でアジア諸国に対して侵略行為を行い、あるいは軍事的・外交的・経済的圧力等を加えて植民地化政策を推し進め、様々な被害を与えてきた。それだけでなく、国民に対しても甚大な被害を与えてきた。これらは冷厳な歴史的事実であり、国家として、そして国民としての痛切な反省点である。

 

この反省と、二度と政府の行為により戦争を起こさないという現行憲法の“不戦の誓い”は、戦後日本の出発点であり、原点である。今日においても人類が等しく共有する痛切な願いである。

 

2 憲法の中に再び戦争を起こさない仕組みを定めることの意義 

現行憲法の平和的生存権と第9条第1項、第2項はこの歴史的反省に立って定められたものである。すなわち、再び戦争を引き起こさないよう、最高法規たる憲法に「一切の戦力の不保持」、「交戦権の否定」を明記して国家権力を縛り、戦争を防止する現実的仕組みとしたのであった。また、憲法は平和的生存権について、「ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利」を「全世界の国民」の個人の権利として宣言し、「平和」を国家の視点だけではなく一人ひとりの基本的人権の問題と位置付けている点で、画期的で先駆的意義を有するものであった。

 

当連合会は、これらの思想を、「徹底した恒久平和主義」として、立憲主義の下で憲法改正によっても侵すことのできない基本原理であると評価してきた。

 

第4 自民党草案の問題点 

1 戦争の契機の拡大による恒久平和主義の崩壊

(1) 「国防軍」は、個別的自衛権の行使の枠を超えて、集団的自衛権を行使することが予想される。集団的自衛権は、国連憲章第51条ではじめて規定されたものであるが、その後の集団的自衛権行使の歴史には、集団的自衛権に基づいて北大西洋条約機構(NATO)やワルシャワ条約機構(WTO)が東西の冷戦下で設立されるなどして、大国による中小国に対する侵略や国家主権侵害の手段及びその正当化理由ともされてきたとの批判もある。また、日本が集団的自衛権を行使することになれば、他国の間で発生した紛争に日本が否応なしに巻き込まれる可能性が高まり、ひいては、国際紛争を解決する手段としての武力の行使を行わないとする徹底した恒久平和主義を否定することとなる。

 

また、自民党草案のように、憲法第9条第1項から「永久に」を削除した上で、第2項の「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」という規定を削除し、新たに「我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため」、「国防軍を保持する」という規定を創設するというとき、軍事力行使は、本土が攻撃されるような場合の厳密な意味の自衛権の行使の場合にとどまらず、日本の権益を守る等の名の下で海外での軍事力の行使に際限なく拡大する危険がある。さらに、自民党草案第9条の2第3項は、これまでは憲法上禁止されてきた、国際平和協力活動の名の下での海外での軍事活動を規定している。

 

このように、憲法第9条を改正して「国防軍」を設置することは、徹底した恒久平和主義という日本国憲法の基本原理を踏みにじることとなる。

 

(2) さらに、自民党草案第9条の2第1項、第3項は「国防軍」の任務として、我が国の防衛と、国際平和、安全確保活動への参加と並んで、国内治安維持活動を規定する。

 

自衛隊法でも、自衛隊による国内での治安出動が規定されている(自衛隊法第78条)。しかし、自衛隊の憲法適合性についての根強い疑義が存在することもあり、これまで治安出動は一度も行われなかった。しかし、自民党草案では、「国防軍」による治安出動は憲法上の位置付けがなされ、「国防軍」の国民に対する治安維持活動が現実化する危険がある。

 

2 統治機構と人権保障への影響 

「国防軍」の保有は統治機構(民主主義政治及び国民の参政権等)及び市民の自由と人権、生活に重大な影響を与える。

 

この点について当連合会は、自衛隊に関して前記の人権擁護大会における宣言や意見書において指摘してきた。例えば、「『有事法制』3法案についての意見書」(2002年6月21日)では、同法案が憲法の平和原則、憲法第9条に抵触する疑いが存することを指摘した上で、有事法制の構築が憲法の人権保障原理と抵触すること、有事情報開示制度が存しないため有事事態における国民主権に基づくコントロールが極めて不十分であること、統治機構そのものが変容する危険性を指摘してきた。

 

「国防軍」の創設は、これに伴う緊急事態法制の整備や軍事審判所(軍法会議)の設置等にみられるように日本の統治機構に重大な変容をもたらし、軍事機密保護法制に象徴されるように、国民の知る権利を制約し、軍隊による国民に対する情報収集・監視活動を生じさせるなど、日本の民主主義の基盤を掘り崩すものである。

 

また、「国防軍」の創設は、安全保障の目的である国民一人ひとりの生活・人権を危うくする。憲法から平和的生存権と戦争防止の条項が削除され、軍隊の保有・維持と、円滑な軍事力行使に憲法上の価値が認められることとなれば、それに伴って、市民の基本的人権の制約という問題が生じる。

 

例えば、自民党草案第9条の3は、「国は…国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。」としている。これは正面から国民の国防の義務を規定してはおらず、まして徴兵制を規定するものでもない。しかしながら、自民党草案前文では、前記のとおり平和的生存権を削除する一方、その3段目で「日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り」と規定していること、自民党草案第9条の3は軍事力により国家の安全保障政策を達成しようとする第2章の中に位置付けられていることから、自民党草案第9条の3は、平和的生存権という国民の権利を弱めるだけでなく国防の義務への契機となりかねず、ひいては国を守るために国民に戦場で戦う義務を課す徴兵制の議論にすらつながりかねないものであって、人権保障に重大な影響を及ぼすものである。

 

また、自民党草案は、人権相互が衝突する場合の調整原理である現憲法の「公共の福祉」概念を「公益及び公の秩序」に置き換えることを提案しているが、人権制約の根拠として、軍隊の保有や維持、軍事力の行使の目的が「公益及び公の秩序」として人権制約の根拠とされる可能性がある。

 

例えば、軍事目的による私有財産の強制収用も行われる危険がある。さらに、「国防軍」の創設は、軍隊を支える教育、軍隊を支える精神的基盤の整備(靖国神社を中心とした宗教的基盤の整備強化)を生むおそれがあり、教育・信教の自由にも大きな影響を与え得るおそれがある。

 

3 近隣諸国との緊張関係

憲法の徹底した恒久平和主義は、第3で述べたとおり、第二次世界大戦終了までの間の近隣諸国への侵略に対する日本政府と国民の歴史的反省に立って確立された基本的考え方である。ゆえにその遵守は国際的な約束としての側面を有しており、平和憲法の遵守及びその履行はアジアにおける日本の信頼を獲得するための大きな基盤(要素)となっていることを忘れてはならない。

 

軍事力による国際貢献の必要性を強調する意見も存在するが、世界が日本に求めている国際貢献は軍事的な貢献ではなく、むしろ「徹底した恒久平和主義」に立脚した先駆的な憲法を有する日本の独自性・先進性を生かした非軍事的で国際的な貢献活動である。

 

北東アジアの安全保障の状況は、なお各国の間に緊張関係があり、困難な側面と問題を有しているものの、軍事的対応で解決し得る保障はない。

 

このような北東アジアの状況を踏まえると、我が国における「国防軍」の創設は、かえって日本に対するアジア諸国の不信を増幅し、日本の安全保障を大きく損なうものと考えられる。

 

第5 恒久平和主義の下での日本の安全保障の進むべき道

1 国際社会における紛争の予防と解決の取組

第二次世界大戦後、戦争の違法化、軍事力に依存しないで平和的手段で国際紛争を解決するという基本的思想に立って国際連合が成立した。その下で国際人権規約の成立、人道に反する犯罪を国際的犯罪とする人道法の成立、国際司法裁判所、国際刑事裁判所の創設等、国際社会の大きな流れは、軍事力による紛争解決から協調的、平和的な手段での安全保障の形成へ、さらに法の支配の実現(法に基づく紛争の解決)へと、平和的解決を目指す大きな基本的流れが形成されている。

 

国際連合は紛争の平和的解決を目指し(国連憲章第6章)、それが功を奏せず、平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為が存する場合には、国連としての軍事的措置を含むあらゆる措置・行動をとる枠組みを定めている。国際連合のこの枠組みは、様々な限界や困難を伴っているものであるが、一定の成果を挙げている。また、その限界を踏まえて、地域的な協調・協力・統合が模索され、その構築に向けての取組も進展している。

 

2 北東アジアにおける安全保障と恒久平和主義

自衛隊は、米ソの世界的な冷戦構造下で、朝鮮戦争という緊迫した北東アジアの安全保障環境を背景に創設されたが、憲法違反の疑いを投げかけられながら存続してきた。

 

しかし、冷戦構造の崩壊、1972年の日中共同声明、1979年の米中国交正常化と中国の改革開放政策の進展の下で、南北の朝鮮半島の分断状況は変わらないものの、我が国を含む北東アジアの安全保障環境は大きく変化した。1997年にはASEAN+3(日中韓)の枠組みが誕生し、1994年にはASEANを主催者としてアジア太平洋地域における政治・安全保障協力を進めるためASEAN地域フォーラム(ARF)も開始された。2003年には北朝鮮核問題を契機に「六者協議」(ロシア、中国、北朝鮮、韓国、日本、アメリカ)の枠組みが誕生し、2005年には東アジア共同体を目標とする東アジア首脳会議(EAS:ASEAN+日中韓ほか)が開催され、東アジア・太平洋地域の平和と安全保障問題を議論する場が生まれた。中国、朝鮮半島をめぐる国際的な安全保障環境は冷戦当時とは大きく変化している。このような北東アジアの安全保障環境は、協調的な手段による安全保障を模索するものであり、その基盤を整備するものである。

 

日本の政治家などの中で、第二次世界大戦における日本の侵略行為や日本軍「慰安婦」の問題について疑念を抱くかのような発言がある状況の下で、東アジア、とりわけ北東アジアにおける我が国の信頼を獲得し増進させるためにも、徹底した恒久平和主義を履行することは、今重要である。

 

3 日本が進むべき道

以上のような世界、特に北東アジアの動きの中で、憲法前文の平和的生存権と憲法第9条は、非軍事の徹底した恒久平和主義として、21世紀の世界平和を作り出す指針として世界の市民から注目を集め、高く評価されている。1999年のハーグ平和アピール世界市民会議で採択された「公正な世界秩序のための基本10原則」の第1には、日本国憲法第9条が掲げられた。「武力紛争予防のためのグローバルパートナーシップ」の活動、「世界平和フォーラム宣言」、9条世界会議での「戦争を廃絶するための9条世界宣言」などが、いずれも憲法第9条の理念や価値を、21世紀において世界平和を実現するための指針として世界各国に広められるべきことを確認したことは、誇るべきことである。

 

日本は、憲法前文の平和的生存権と徹底した恒久平和主義を堅持し、様々な協調的な政策を通じて北東アジアにおける緊張を減少・緩和させ、同地域における協調的・平和的な手段による安全保障を実現する方向を目指すべきであり、この方向を粘り強く追求すべきである。

 

第6 まとめ

1 憲法前文の平和的生存権と憲法第9条を改正して「国防軍」を創設しようとする近時の憲法改正論は、先の戦争の惨禍を教訓として制定された憲法の恒久平和主義、国民主権、基本的人権尊重の基本原理を大きく損なうものである。

 

地球上において武力紛争が依然として絶えない今日、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して国際的な平和を創造することを呼びかけ、平和的生存権を宣言した憲法の前文、そして戦争を永久に放棄し、戦力を保持しないとする憲法第9条の徹底した恒久平和主義の先駆的・今日的意義は、さらに増している。

 

2 日本の政治情勢は、2012年12月の衆議院議員総選挙及び2013年7月の参議院議員選挙において、憲法第96条の定める憲法改正の国会の発議要件を各議院の総議員の「三分の二以上の賛成」から「過半数の賛成」に改正する憲法改正案に賛成を表明する国会議員が大幅に増加し、憲法改正手続の緩和が当面の現実的緊急課題となっている。この憲法改正手続の緩和を求める政治的動向の目標の一つが、我が国の憲法への「国防軍の保持」の明記である。

 

当連合会は、先の大戦で人類史上初めて原子爆弾が投下された広島の地において、戦争の惨禍を改めて思い起こし、日本国憲法の基本原理である徹底した恒久平和主義を堅持する立場から、憲法前文の平和的生存権を削除し、憲法第9条を改正して「国防軍」を創設することに強く反対する。